原作を諦めた男、原作が終わった後に原作キャラに絡まれる   作:オワッター

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1 原作が終わった

 俺は自分が前世で好きだったゲームの世界に転生した。

 そのゲームのシステムも、シナリオも、あらゆるものが好きだったんだ。

 だから最初のうちは喜んだ。

 これはもう、原作に介入してシナリオを楽しみつつ、できることならもっとハッピーなエンドを目指すしかない!

 

 しかしそんな夢は、あっという間に崩れ去った。

 

 原因は二つ。

 才能と環境だ。

 俺には才能がなかった。

 ゲームのプレイアブルキャラが持っている加護と呼ばれる特別な才能。

 それがなくては、そもそも原作の重要なイベントに参加する資格すらない。

 そして環境も最悪だ。

 俺が生まれたのは治安最悪のスラム。

 しかも孤児で、世間的に差別とまではいかないものの、偏見の対象になりうる身体的特徴を有していた。

 

 はっきり言って、原作に介入する余裕なんてどこにもなかったんだ。

 毎日が生きるので精一杯。

 明日の食事すらありつけるかわからない。

 そんな状況で、俺は生活を強いられたわけだ。

 

 それでも何とか生き延びて、生活を安定させて。

 しかし、気がついた頃には原作はもう始まっていて、今更介入なんて……そう思ってしまうような状況だった。

 正直、後悔はある。

 原作には一人、シナリオ中盤で死亡してしまうキャラがいた。

 そのシーンは作中屈指の名シーンとして知られていて、俺も大好きだ。

 しかし、だからといってそのキャラを見殺しにしてしまうというのは耐えられない。

 まだ原作への介入を諦められなかった頃は、彼女の死亡シーンを何度も夢に見たくらいだ。

 その事を、迂遠に周りの人間へ話したこともある。

 それで何が変わるというわけでもないのだが。

 

 何にしても、俺はそんな後悔を抱えながら成長し――気がつけば二十歳になっていた。

 この世界の成人は十五歳だが、俺にとって見れば一つの区切りだ。

 生活は……当時と比べれば安定していた。

 今でも、周囲から厳しい目を向けられることはある。

 苦労することだって、山程ある。

 それでも、なんとか今日の食事には困らない程度の生活は送れていて――

 

 そんな時だった。

 風の噂で、原作が終わったと知らされたのは――

 

 

 +

 

 

 魔物を倒す時は、いつだって緊張が伴う。

 他の連中と違って、俺は生まれつき魔力という万能のリソースが極端に少ないからだ。

 この世界ではレベルアップによるステータス上昇は、魔力が増えたことで魔力による身体強化の精度がよくなったからという設定になっている。

 結果、ゲームで格下の魔物の攻撃を受けてもダメージが0とか1にしかならないという状況が現実にも起こり得るのだ。

 ならば、ダメージを受けない魔物とだけ戦っていれば、この世界の人間は安全に戦闘を行えるだろう。

 俺にはその”安全”が存在しない。

 一発でもダメージを受ければ、痛みでまともに動けなくなり、そこを袋叩きにされて死ぬ。

 だから自然と、戦う方法もそれを避けるためのものになっていた。

 

「ぐるぁああ!」

「ふっ!」

 

 意識を集中させ、迫りくるゴブリンへ向かって俺は銃を構える。

 銃は魔力で身体強化ができなくても扱える上に、遠距離から攻撃を受けることなく相手を攻撃できる非常に優秀な武器だ。

 他の人間と違って、一発喰らったらほぼそのまま死が確定する俺にとって、これがなければまともな戦闘なんて殆どできない。

 

「ぐぎゃっ!?」

 

 引き金を引いて、走ってくる相手の頭を撃ち抜く。

 最初のうちは全くうまく行かなかったが、流石に何年もやっていると慣れてくる。

 まぁ、一撃で頭部を吹き飛ばされたゴブリンのグロ映像に慣れる気配はまったくないが。

 

「これで目標数か……はぁ、疲れた」

 

 まだここは魔物が出る森の中だから、気を抜いては行けない。

 しかし、これで帰れると思うと前世の退勤間際と同じような開放感を感じるのだ。

 社畜精神が染み付いているな。

 

「にしても臭い……これだからゴブリンは嫌なんだ」

 

 ゴブリンの独特な体臭と撒き散らされた血液や臓物の匂いに顔をしかめながら、俺は拳銃のシリンダーを開ける。

 リボルバー式のこの拳銃は、原作でもプレイアブルキャラの一人が使っていたものだ。

 鉛の弾丸の変わりに、魔力を込めることで使うことが出来る。

 周囲の魔力を勝手に吸収してくれる魔道具と合わせて使うことで、魔力のない俺でも安定した火力を用意できるのが強み。

 一般的には広まっておらず、とある職人が俺のような魔力欠乏障害を持っている人間のために開発したもの。

 俺はそれを知っていたから、その職人の元を訪れこの拳銃を譲ってもらったのだ。

 我ながらズルいことをしていると思う。

 

「……お、このゴブリン体内でゴブリン結石を作ってるじゃないか。回収しておこう」

 

 今集めているゴブリン結石も、原作で使い道を知らないとゴミとしか思えないアイテムだ。

 だってゴブリンの尿路結石みたいなものだし。

 それでも、俺はこういったものを原作知識を用いて回収したりして、生活を成り立たせている。

 ――そういう事をしなければ、生き残れない人生を送ってきたのだ。

 

 

 +

 

 

「そういえば聞きましたか、セオドさん」

「ん? なんだ?」

 

 セオド――俺の名を呼びながら、普段から世話になっている受付嬢のレシタは何気ない様子で話を振ってくる。

 ここはギルド。

 異世界モノでよくある設定を取り入れたこのゲームでは、冒険者の概念も存在していた。

 というか、メインシナリオには絡まない稼ぎ用のサブクエストやノーマルクエストの発生場所として用意されているのだ。

 なにせ、ゲームじゃ序盤のチュートリアルで加入した後一切クエストをこなさずにゲームをクリアすることもできるからな。

 ともかく、原作主人公たちにとっては馴染みの薄い場所でも、俺にとっては日々の生活を成り立たせるための重要な場所だ。

 そこで――

 

()()()西()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()そうなんです」

「マジか!?」

「え、そんなに食いつくほどですか? いえ、そういう目撃証言があったってだけなんですが」

「あ、いや……ちょっと気になっただけだ」

 

 

 ――俺は、()()()()()()()ことを知らされた。

 

 

 大陸の西にある湖といえば、ラストダンジョンである”冥府の旅立ち(タナトス)”が存在する場所だ。

 ラストバトルに勝利すると、崩壊するラスダンの中から光を伴って主人公たちが帰還してくる。

 その場面のことを言ってるんだろう。

 俺の住んでる街に噂が流れてくるまでの期間を考えると、もう二ヶ月も前になるだろうか。

 

「はい、鑑定終わりましたよセオドさん」

「おおありがとう……なんか少なくないか?」

「いえそれが……結石が少し破損してまして、減額せざるを得ず……」

「あー……銃弾で吹っ飛ばした時に、ちょっと欠けたのか……」

 

 しかし、そんなことに感慨深くなっている暇はない。

 想定よりも、買取額が低かった。

 別にそれが今日とか明日の食い扶持に響く訳では無いが、こういうのが積み重なるとまずい。

 運がないな、とがっくり肩を落としてしまうというのもある。

 そして、悪いことは重なるものだ。

 

「おい、()()()。買取終わったんならさっさと退けよ」

「うわっ」

 

 面倒な連中が、俺を押しのけて受付に顔を出す。

 視線を向ければ、こちらをバカにした悪辣な笑み浮かべた、全員が粗野なチンピラ冒険者で構成されたパーティがそこにいる。

 雑種犬、というのは俺みたいな人間と狼人族との間に生まれたハーフに対する罵倒。

 この世界において、ハーフというのは偏見の対象だ。

 何の理由もなくバカにしていい、と思っているやつは多く、こいつらは前から何度も俺にそういうことを言ってくる相手。

 まぁ、無視でいい、こんな連中。

 

「おい待てよ雑種犬。てめぇみてぇな愚図はいい加減ギルドからでていけや、恥ってもんをしらねぇのか?」

「……チッ」

 

 だが、今日に限って連中はわざわざ俺に絡んできた。

 普段ならちょっとちょっかいをかければ直ぐに引くっていうのに。

 ギルドで面倒事を起こせば、こっちが被害者でも若干冒険者としての評価が差し引かれてしまう。

 これが普通の冒険者ならギルドからの数値としての評価は引かれても、周囲の評価は上がるんだが、俺の場合はそれがない。

 理不尽な当たり屋に絡まれた気分だ。

 かと言ってそのまま一方的に殴られて、こいつらが満足するのを待つのも悪手。

 こいつらをつけ上がらせる上に周囲から舐められて、今後さらに被害が増える。

 強気で交渉してなんとか退かせられないか試し、ダメならマイナス評価を覚悟するしかない。

 舌打ち混じりに口を開こうとした、その時だった。

 

 

「あ、あの、失礼しましゅ!」

 

 

 なんて、大声でギルドに入ってくる少女がいたからだ。

 自然と俺たちの視線はそちらに向けられ、そして見開かれる。

 

「…………は?」

 

 俺は、自分の口から間の抜けた言葉が溢れていることに気づかなかった。

 だって、いや、嘘だろ?

 ()()()()()()()()()()()()()

 

「おい、なんだ?」

「わからん、ガキが使いっ走りにでも来たか?」

 

 周囲がざわつく中、少女はオドオドした様子で中に入ってくる。

 少しクセのある青みがかった銀髪と、全体的に小柄な体型。

 ゆったりとした豪奢なローブとクソでかい帽子から、魔術師であることは一発で把握できる。

 どこか小動物を思わせる所作と、人目を惹きつける容姿。

 それに冒険者達は、どこか下卑た視線を向けていた。

 

「……チッ」

 

 乱入者に視線が向けられたことで、俺に絡んでいた冒険者パーティは俺から視線を外す。

 その隙に絡んできた連中から距離をとりつつも、俺はどこか現実味がない感覚を覚えていた。

 だって、間違いない。

 現実になったことでゲームのそれとはだいぶ印象も変わる。

 それでも、その顔を忘れるはずもない。

 だって、彼女は、

 

「…………!!」

 

 その時だった。

 少女の顔が、パッと花やいだ。

 まるで、ずっと探していた大切なものを見つけたかのような表情。

 愛おしくて愛おしくてたまらない、そんな誰もが思わず息を呑んでしまうような顔を、した。

 きっと、この場にいる誰もがそれに息を呑んだことだろう。

 ただ一人、俺と言う例外を除いては。

 なぜかって? 答えはとても単純。

 

 

「師匠!!」

 

 

 その表情が、明らかに俺に対して向けられたものだったからだ。

 そして、一瞬理解できなかった呼びかけと共に、俺の元へ駆け寄ってくる少女。

 俺は、その少女をよく知っている。

 かつて俺が好きだったRPG。

 「エリュシオン・サーガ」に登場するキャラの一人だからだ。

 名をリリシェラ。

 かつて俺が好きだったキャラで、そして

 

 

 原作で、唯一死亡する味方キャラ。

 

 

 それが、どうして。

 俺を師匠なんて呼んで、こんなところにいる?

 

 そんな俺の疑問をよそに。

 この時、俺の人生は……原作に関われず続いてきた人生は、()()()()()()()()と交差した。

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