原作を諦めた男、原作が終わった後に原作キャラに絡まれる 作:オワッター
それから俺は、リリと幾つかの話をしてから別れた。
あの場でアレ以上話をするのは、流石に周囲の視線を集めすぎている。
なので話した内容も簡潔に、今後連絡を取りやすくするためのもの。
明日以降、また機会があったら話をしようということで落ち着いた。
俺としては、色々と考えをまとめたかったのだ。
いくらなんでも、情報量が多すぎる時間だった。
リリがリリシェラだった、これから冒険者をする、周囲に目をつけられた、俺のことを師匠と呼ぶ。
最後に関しては、ここ最近ずっと俺のことを師匠と呼びすぎて、逆に名前で呼ぶのが恥ずかしいらしい。
誰に大して俺を師匠と呼称し続けたのかは想像すると色々破裂しそうなので、置いておく。
その後は、うちで唯一俺と普通に話をしてくれる受付嬢のレシタがえらい剣幕で目を輝かせながら突っ込んできた。
「セオドさん、セオドさん!? なんかすっごい美少女でしたけど、あの方は!?」
「えっと……リリシェラって言って、俺の昔の知り合い。俺と別れたあとに加護を覚醒させたらしいんだ。おかげで髪色が変わっててわからなかったよ」
「加護を!? え、じゃあもしかして逆玉の輿ですか!?」
「そういうんじゃないって!」
この世界で加護とは、言ってしまえば神に選ばれた証。
ハーフであろうと、魔力欠乏症だろうと、どのような差別の対象を受ける特徴があろうと、加護さえ目覚めてしまえば特権的な立場を与えられる。
リリもかつてはファントムと呼ばれる種族とのハーフだったのだが、今は見ての通り誰からもそれを指摘されることはない。
「……ところで、そもそも加護ってなんなんです?」
「えーとこの世界には神域と呼ばれる場所に神がいて……」
「?????」
「うわすっげぇ宇宙猫」
「なんです?」
聞こえないように言ったのにちょっと聞き取りやがった。
明るいオレンジのショートヘアと、リリほどではないけれども低めの背丈から俺を見上げつつ、小首をかしげてくる。
「なんでもない。……ようするに神の力を借りれるんだよ。これはただ魔力を使って身体強化や魔術を使ったりするだけじゃなくて……
「巨人に……!? はあー、そりゃすごいですねぇ」
「更に、加護は一柱の神にたいして、一人だけ。だから加護を与えられた人間は数が滅茶苦茶限られる。あと、その人間が死なないと加護は次の人間に移らない」
「はえー、セオドさんってなんか知らないですけど博識ですよね」
「なんかとはなんだ」
そして、加護に対する一般人の認識はこの程度。
自分とは暮らす世界が違う、と思っている感じだ。
「そういえば最近加護を与えられた人たちが、あちこちで人助けをしてるって話、聞いたことありますねぇ」
「たまに噂になってるよな」
「また、詩人さんに吟じてほしいですね!」
原作主人公パーティ――リリシェラたちの話題が、こうして世間話のタネになることがある程度。
英雄たちの活躍を吟遊詩人が詩にして語るのを、時折聞くことがある……って感じ。
「それより、そろそろ仕事に戻ったらどうだ? またギルド長にどやされるぞ?」
「しまった。セオドさんの話を聞いたらバックに戻ってみんなで話をするつもりだったのに! 話がそれた!」
「こいつ……」
そうして、パタパタとレシタは受付の方に戻っていく。
さっきまで受付の仕事をしてたのに、よくこっちに来れると思ったら、別の受付に変わってもらってたのか。
俺の話で世間話をするために。
まぁ、女性なんてのはいつの時代、どの世界でもそんなものなんだろう。
俺は気にせず、宿に戻ることにした。
+
――それを見かけたのは、きっと偶然だった。
俺は自分を特別だと思ったことはない、ゲームみたいにフラグが成立したからイベントが発生するような人生は送っていないのだ。
だから、変える最中に路地裏で先程俺に絡んできたチンピラ冒険者パーティがリリに絡んでいるのを見かけても、それは運が良かったというだけの話。
リリに関わったことで、俺の”物語”が始まった――なんて、そんな都合のいい話はないだろう。
「あの……な、なん……ですか?」
「いやいや、そう警戒しないでくれよ。別に取ってくおうってわけじゃねぇんだからよぉ」
「そうだぜ、ひひひ」
最初のうちは、問題なさそうならそのままスルーしようかとも、思った。
リリは強い。
原作を最後まで駆け抜けたなら、普通の冒険者なんて難なく制圧できるだろう。
だから、問題なんてそうそう起きるはずもないのだ。
「実はさっきよぉ、おめぇの師匠……? だかなんだかと肩がぶつかっちまってよぉ。骨が折れちまったんだ。そのちりょーひをちょっと貰おうかと思ってなぁ」
「あ、はい、わかりました。幾ら必要ですか?」
――とか言ってる場合じゃなさそうだなぁ!?
「いや待て待て、騙されてる。それは騙されてるぞリリ!」
「師匠!?」
「チッ」
慌てて割って入るとリリは顔を輝かせ、チンピラどもは露骨に面倒そうな顔をした。
俺は懐から取り出したグローブを身に着けながら、リリの方に視線を向けて呼びかける。
「リリ、今のは典型的なカツアゲだ。そういうの、冒険の最中に経験しなかったか?」
「え、これがカツアゲ……なんですか? いえ、その……普段は常に周りに人がいましたので……こういう経験はあまり……そ、それに……骨が折れてしまったのですよね!?」
聞けば、リリはお金には困っていないという。
理由は明白。
「エリュシオン」は後半――お金が余るのだ。
前半はあんなにかつかつだったのに、気がつけば天文学的な金額になっている――
そして、この世界は結構現代的な単語が普通に飛び出してくる、その辺は緩い。
「それも嘘だから、リリから金を巻き上げたりするための方便。まともに相手しちゃダメだ」
「そ、そんな……」
「おいてめぇら、こっち無視して話進めてんじゃねぇぞ」
そこで、チンピラどもが場の空気を支配し直そうと割り込んできた。
俺も視線を男たちの方に向け直して、睨む。
「悪いがあんたらの相手をしてる暇はないんだ」
「ああ? 雑種犬が吠えてんじゃねぇぞ。女に好かれて、人になったつもりか? 魔力もねぇゴミが、いっちょ前に人間サマと会話しようとしてんじゃねぇよ!」
「言えてるな、ドブ犬がよ!」
ギャハハと、男たちの罵倒が響く。
リリは――怯えた様子を見せながらも、心配そうにこっちを見ていた。
怒っていないのか、リリは。
昔は言い返せず、怯えるしかなかっただけだった。
だけど今は、いくらでも言い返せる力と度胸があるだろう。
それでも、リリは俺を心配してくれている。
「――そうだな」
「ああ?」
なら、俺のやるべきことは、とても単純だ。
「お前らと、会話してる暇は俺にもないよ!」
「ひゃっ!?」
「あ、おい待て――っ!」
――こんな連中のあいてなんてせずに、さっさと退散する!
俺は、自分が男たちの言葉を肯定したことで、男たちの意識がそれた隙にリリの手を取って走り出す。
驚いた様子のリリだったが、直ぐに俺と一緒に裏路地を脱出するべく足に力を込めてくれた。
もともと、表通りからそこまで離れているわけではない。
直ぐに人通りのある場所まで出ると、男たちもそれ以上追ってくることはなかった。
「はぁ、大丈夫か?」
「い、いえ……師匠こそ、大丈夫ですか?」
「魔力は使えないけど、この程度で疲れるほど軟じゃないよ」
流石に息は大きく吐くけどな。
ともあれ、どうにかチンピラは撒いた。
別に撃退するくらいなら分けないんだが、リリをみていたらそれも野暮な気がしてな。
結果的に撃退用のグローブは使われなかったわけだが、まぁ使わないならそれに越したことはない。
「ああいう連中って、一度ボコってもまた声をかけてきたりするんだよな。面倒くさい」
「そう……なんですね。子供の頃はずっと逃げてばかりでしたから……反撃なんて選択肢、考えても見ませんでした」
「そういえばそうか。あの頃は大変だったな……まぁでも、今なら別にそんな気にすることもないだろ」
なんて話をしてから、俺はふと思う。
最初に別れた時、俺はリリも世界を救う冒険を繰り広げてきたんだから、こういうトラブルにも慣れていると思っていた。
でも、今の様子をみている限り、そういう感じは全然ない。
というか、原作でそういうトラブルって……リリが加入する前、最初のうちしかなかったな。
サブクエストをやってないなら、なおのこと。
だから、リリに一つ問いかけていた。
「リリは……ああいう奴らにこれまで絡まれたことはなかったのか?」
「え、えと……なかった……ですね。旅の最中は基本常に仲間と一緒に行動していましたし……パーティをまとめているシェスティナ様が、うまく対応していたと……思います」
シェスティナ……女神アテナの加護を受けた女騎士で、パーティ随一のしっかりもの。
確かにそういう感じの描写あったなぁ。
「じゃあえっと……俺達といっしょにスラムで暮らしたあと……今の家庭に拾われて……それからそのパーティに加わって……」
「……えと、だいたいそんな感じ……です、えへへ」
「そのパーティって、結構な人数いたんだよな」
「最終的には十三……十四人ですね」
原作で最後までスポット参戦だったハデスの人まで仲間にしてる――――
リリと入れ替わりになるはずだったデュオニュソスの人も当然のように仲間に加わり、相当原作より楽な旅路になっていたのだろう。
そしてだからこそ、彼らは気付かなかった。
リリが、旅の最後まで純粋培養の世間知らずなお嬢様のままだったことに――
むしろ、お金がいっぱいあって人もいっぱいいて。
普通の冒険と比べたら圧倒的に道中は楽だったはず。
リリが冒険者的な意味での”世間”を知る機会は、もしかしたらなかったのかもしれない。
ギルドにほぼ関わらないルートで原作を進行したのもよくなかった。
原作では単にイベントをこなすための舞台でしかなかったが、現実となったこの世界ならまた違っただろう。
だけど、結果として原作は終わり、何も知らないまま社会に出たリリだけが残された。
これは……さすがに、アレだな……うん。
「なぁ、リリ。……俺のことは、師匠と呼んでもらっても構わないよ」
「え、あ、ほ、本当ですか!?」
「うん、そのかわり……ちゃんと、冒険者としての生活を俺が教えるから、よろしく頼む」
「は、はい!」
――結果として、俺はリリの師匠であることを受け入れた。
だって、さぁ。
流石に放っておけないじゃん、これは。
結果として、それが俺の運命を大きく左右することに成るわけだが。
このときの俺は――まぁ、なんとなーく察してはいるのだった。