原作を諦めた男、原作が終わった後に原作キャラに絡まれる 作:オワッター
翌日から、俺達は冒険者としてともに活動することとなった。
集合時間は朝の七時、ギルドが開く時間帯で人は少ない。
――そしてリリはその一時間前からギルドの前で待っていたそうだ。
「別に、時間に余裕はあるんだからゆっくり来てもいいんだぞ」
「そ、その……師匠と一緒に冒険できると思うと……そわそわしちゃいまして……」
「慣れていこう、慣れていこうな」
どうやら、ワクワクであまり眠れなかったらしい。
遠足前の小学生かな?
ワクワクされるのは別にいやというわけじゃないんだけど、ハードルが上がって少し胃が痛い。
ただでさえ、リリを一時間もギルドの前で待たせてしまったのに。
ああ、ギルドに入った直後からレシタの視線がなんだか鋭い。
「それじゃあえっと、何か受けてみたい依頼はあるか?」
「えっとじゃあ……や、薬草採取でおねがいしましゅ! あう、カンじゃった……」
「採取に釣られたか? こほん、薬草採取……だいぶ新人向けの依頼だな?」
俺としては原作終了後のリリならどんな魔物にも負けないだろうし、俺がサポートすればこなせない依頼はないと思っていたのだが。
Fランクだから受けれる依頼に限りはあるけれど、それにしたって俺と組んでいたらある程度の制限は撤廃される。
だけど、リリの選んだのは薬草採取。
この世界における新人向けの依頼の一つで――ゲームでは、ギルドのチュートリアルで受けることになっていた依頼。
「えっとその……ラウノスさんから、依頼の定番はやっぱり薬草採取だってよくおっしゃってまして……」
「ああ……」
ラウノス――原作主人公は、何故かゲームでも最初に受けるのは薬草採取だとこだわってたからな。
メタ的にはプレイヤーの認識としてチュートリアル向けな依頼でありつつも、ゲームの中では原作主人公の個人的なこだわりでしかないという、一種のゴリ押しギャグみたいなものだ。
何故執拗に薬草採取にこだわるのかは、最後まで明かされることはなかった。
というか現実だと、チュートリアル終わってからもずっと薬草採取にこだわるのかよ……相変わらず何考えてるかわからん主人公だなぁ。
「まあでも、それならそれでいいか。わかった、薬草採取にしよう」
「は、はひっ!」
というわけで、俺達は薬草採取のために街の外へと向かうことにした。
なお、レシタの視線は最後まで鋭かった。
これ、眠いだけじゃないか?
+
「というわけで、ここは普段俺が狩り場にしている、街の外にある森だ」
「お、おー! 街に来る時ちょっと横を通りました!」
先日ゴブリンを討伐した森にやってきた。
森の中は静寂に包まれていて、人の気配はあまりない。
時折獣の鳴き声がどこかから聞こえて、そのたびにリリは肩を震わせていた。
こんな街の木っ端な獣より、よっぽどやばいやつを相手取ってきただろうに、ビビリなのは変わらないらしい。
そんな俺の視線へ、少し恥ずかしそうにしてからビシッと敬礼するリリ。
「あうあう、それでこの後は……どうするのでしょう、ししょー!」
「そんな構えることもないよ。足元に茂ってる草を適当にむしるだけでいい」
「む、むしるだけでいいんですか!?」
「薬草なんて、マジでどこにでも生えてるからな」
薬草と一言で言っても、その内容は多岐にわたる。
そもそもこのゲームにはクラフト要素があるのだ。
当然、素材も色々と存在していて、道中至るところでそれを確保することができる。
おかげで俺も、その恩恵に与って色々と草を集めているわけ。
このあたりだと主に、三種類の薬草を採取することができるだろう。
「まず草が生い茂ってる場所を見つけて、そこで適当に集める。アイテム袋は持ってるか?」
「は、はい! 大きいの持ってきました!」
いいながら、リリはふんすと腰にある小さな道具袋を広げてみせた。
大きい、というのは容量のことだ。
原作だとゲーム序盤に入手して、その後はそれを拡張して容量を増やしていったけど、それ以外にもアイテム袋は色々な種類がある。
パーティで行動していた時は一つの道具袋で持ち物を管理していたけれど、パーティ解散に当たって新しいものを買ったと見た。
「仕訳は街にもどってからやるから、今はとりあえずめについた薬草を採取してくれ」
「わ、わかりましたーっ! ずびしっ!」
再び敬礼、今度は自分で小さく効果音を入れていた。
多分独り言のつもりなんだろうけど、残念ながら聞こえている。
指摘したら茹でダコになって動けなくなりそうなので、ここは黙っておくことにした。
そうして俺達はしばらく歩くと、薬草の採集ポイントにたどり着く。
「わぁ……お花さんもいっぱいありますぅ!」
「いい場所だろ、俺のお気に入りなんだ。あんまり摘み過ぎないようにしながら、集めていこう」
「はいです! えへへ」
そうして、二人でのんびりと薬草を採取していく。
薬草の種類についてもリリには色々レクチャーは必要かと思ったが、どうやらそうでもなさそうだった。
なぜなら――
「あ、これ知ってます。パーティのアイテム袋ですごい数が肥やしになってました!」
「多分冒険を初めて最初のうちだけ、しっかり集めてたんだろうなぁ……」
ここで集まる薬草は、ゲーム序盤で手に入る薬草と種類はほとんど変わらない。
最初のウチはマップの探索も楽しくて色々集めてたけど、途中から飽きてきたって感じだろう。
気持ちはわかるぞ、すごくわかる。
後まぁ、クラフトが重要なのってゲーム序盤とクリア後だからな。
シナリオ中盤以降は、お金に余裕が出てくるから店売りの回復アイテムかっておけばいいし。
「あ、そこにある花もついでに摘んでおこう。薬草の素材としては使わないけど、魔術の媒介として使うんだ。結構高く売れる」
「そうなんですね!」
「貴重だし、根こそぎ摘みたくなるけど、全部摘むともう二度とここに群生しない。ちょっとだけ定期的に摘んでおくのがおすすめだ」
「はわぁ……」
それから時折、こんな風にリリへアドバイスしながら採取を進める。
なんだかそのたびにリリは目を輝かせているけれど、なんなんだ?
「師匠はやっぱりすごいです!」
「急にどうした!?」
「いろんなことを知ってます! 私、ぜんぜん知らないことばっかりで……」
「別にいいんじゃないか? リリってまだ十四とかそのくらいだろ、人生は長いんだ。ゆっくり学んでいけばいい」
「あ――」
いいながら、俺は自分のアイテム袋に薬草を詰める。
この作業も慣れたもので、その手際は我が事ながら結構いい。
慣れなければ、生きてこれなかったことの証みたいなものだから。
「俺は、学ばないと生きていけなかったんだよ。スラムでのこともそうだ。俺は人より知識があったけど、対人交渉は苦手だった。でも、そこを身に着けないとリリ達を守れないから……」
「師匠……」
「……あんまり湿っぽい話をするもんでもないな。ほら、このまま作業を続けよう」
それから、二人は自然と黙々と採取を続けていく。
なんとなく色々と話したいことはあるけれど、具体的にどう言葉にするべきかわからない。
そんな曖昧な距離感は、俺達の間にまだまだ壁がある証だ。
とはいえ、あんまりベタベタされても、少し困る。
俺はあくまでリリに、冒険者としての生き方を教えたいだけなんだ。
そんな時である、さっきからリリは何やら俺に隠れて、こそこそと作業をしていた。
別に指摘するつもりはなかった、好きにすればいい。
けれど、リリがやっていたのは――
「あ、あの、ししょー!」
「どうしたんだ?」
そうして、作業が終わったのかもじもじとしながら後ろ手に何かを隠しているリリ。
俺がリリの方を振り向くと、リリは両目><って感じにしながら、俺の頭にあるものを乗せた。
「うおっ……花冠?」
「し、師匠が頑張ってて偉いと思ったので……つ、つくってみました! ど、どうでしょう!」
「なんか……えっと……」
乗せられたのは花冠、なんとも気恥ずかしい気持ちが沸き上がってくる。
でも、リリは本気だ。
何より、そんなリリを見ていると――俺がどうにも、”急ぎすぎ”なんじゃないかと思えてくる。
きがつけば、ふと笑みが漏れていて――
「……休憩にしようか。ありがとうな、リリ」
「は、はひっ!」
「それにしても、すごいな。よく出来てる」
「て、手先が器用だって……みんな褒めてくれまして……」
なんて話をしながら、俺達は腰を落ち着ける。
昼飯にはまだ早いけど、ちょっとくらいの休憩は、悪くないのかも知れないな。
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