転生者たちは終末世界で好き勝手したい!(出来ない) 作:NATTOUGOHAN
今回はほぼ全てがモーソー族です。
空には幾つもの巨大な火柱が上がっている。
14基の塔が次々と爆発し、その衝撃波がまだ原型をとどめていた周囲の建物を消し飛ばし、地盤を削り、揺さぶり、後に大地溝帯と呼ばれる大きな裂け目を作り出したのであった。
それの規模はその周囲だけに収まらず、地下オフィスに多大な影響を与えるのだがここで記す内容ではないだろう。
その爆破による地震でパニックになる避難所に一台の高級車と数台のトラックが止まった。
辺りにはまるで避難者達の心情を表しているかの様な爆発により舞い上がった煤の混じった黒い雨が嘗て活気で満ちていた街に打ちつけていた。
黒塗りの高級車のドアが静かに開く。
降り立ったCEOの足元には、砕けたコンクリートと泥、そして黒い雨が混じり合った不浄な水溜まりがあった。だが、彼の磨き抜かれた靴が汚れることはない。杖の先端から展開された不可視のシールドが、雨粒も泥も、そして周囲に漂う絶望の空気さえも弾き飛ばしていたからだ。
CEOはまず受付に向かい、トラックに積まれた支援物資を卸した。
「……支援物資だ。エーテル発電機に保存食、医療キット、それから……人材が足りていないだろうから看護師ロボットだ。好きに使ってくれ。」
避難所の役人は、見たこともない「ディルムン」のロゴが刻まれた段ボールの山に目を見開いた。
この未曾有の混乱期に、これ程までの物資を運んできたこの男に感謝の言葉と共に頭を下げる。
CEOは役人の感謝を背中で受け流しながら、杖を軽く床に突いた。不可視の波動が周囲数メートルの埃を弾き飛ばし、一瞬にして乾いた「完全防音商談スペース」を作り出す。
その空間の端に男がいた。
嘗てスリーゲート社と肩を並べていたミッドサマー社の社長である。
だが今は会社の殆ど資産がホロウに呑まれ、最早そんな大企業では無くなってしまったが。
そんな落ちぶれた男を前にしてCEOは、杖で椅子をプリントして座った。
「カッツェム・カッツテール……。笑いに来たんですか? 私の会社も、工場も、研究所も……すべてあのホロウの中に……」
「笑う? 滅相もない。私は経営者だ、非効率なことはしない。私はあなたに慈悲を与えに来たんだ。」
CEOは一息ついた後、はっきりとした声で言った。
「単刀直入に言おう。御社の軍事部門を完全に買収させて欲しい」
「……買収? 正気なのか。」
ミッドサマー社の社長は、泥のついた顔を上げ、乾いた笑いを漏らした。
「我が社の資産は、殆どがホロウに飲み込まれたんですよ、工場も、研究所も、人も」
それを聞いたCEOは笑みを深めながら答えた。
「我が社にはそれを安全に回収出来る力があるのでね。まあ一番は我が社の新製品を防衛軍に売るのに御社のネームバリューとTOPSに入る為の実績が欲しいからなのだが」
社長の手は震えている。
「まあ正直本来これは別にやらなくても良い手順なんですよ。ホロウに沈んだ物は誰のでも無くなってしまうし、御社はこれらの損害に耐えきれず表舞台から勝手に消えるでしょう。ですからこれは最初にも言った様に慈悲なんですよ。御社は確か少し前からエンターテイメント事業に転換しようとしていましたよね。確か第一弾はミッドサマー・リゾートでしたか。ビーチリゾートって良いですよね。私も出来たら行ってみたい。ですからどうかこの機会に技術やら特許やら全部私に売ってしまって、貴方はそこから得た金で心機一転してエンタメ事業に専念できる。どうでしょうウィンウィンでしょう?」
社長は呆然としたまま、黒い雨に煙る窓の外を見つめた。14基の塔が自爆した際の地響きが、まだ鼓膜の奥で鳴り続けている。世界が壊れたというのに、目の前の猫耳の男だけは、まるでチェス盤を片付けているかのように淡々と「次のゲーム」の話をしている。
「奇跡的に自力で軍事産業を続けられたとしても、断言しますが貴方の会社を継がせようとしてる娘さん、貴方の様な研究の才能が無いですよね?」
社長の顔から、さっと血の気が引いた。
「……な、ぜ、それを……。テレーゼのことは公表していないはず」
「解析は嘘をつかない。彼女は優しい子だ。だが、この泥沼の軍事産業で引き金を引き続ける覚悟も、ライバル企業の喉笛を食い破る冷酷さもそれを打ち破る革新的な技術を生み出す才能を持っていないだろう。……今のままでは、彼女に残るのは負債と、ハイエナたちに切り売りされる会社の残骸だけだ」
CEOは杖の先端でトントンとリズムを刻む。その音だけが、不気味なほど乾燥した商談スペースに響く。
「契約書だ。目を通すといい」
突如として現れた契約書には、ミッドサマー社の軍事部門全株式の譲渡と、引き換えに支払われる莫大な「再起資金」。
社長は震える手で契約書に触れた。黒い雨が叩きつける窓の外では、防衛軍の救助活動が遅々として進まず、絶望の叫びが聞こえてくる。だが、この魔法のような防音壁の内側だけは、冷徹なまでの「救済」が完成しようとしていた。
「……わかった。サインしよう。カッツェム・カッツテール、君は……救世主だな。」
先ほど渡された万年筆でサインする。
それを見たCEOは笑みを一層深めるのであった。
「これで契約成立だ。」
サインがなされた瞬間、CEOは椅子から立ち上がり、シールドを解除した。
途端に、黒い雨の冷気と避難所の喧騒が流れ込んでくる。だが、契約を終えた彼の背中は、既に次の獲物へと向けられている。
「クリン、聞こえるか。ミッドサマー社の旧拠点、第3研究所から第7工場、倉庫までの座標をエーテリアス部隊に送れ。機械から人材から書類まですべて回収しろ。」
その指令は、何処までも騒がしい避難所の喧騒に呑み込まれていった。
正直イベントでしか存在が出ない会社の雑な救済?に此処まで書く必要があったのだろうか。
何故社長が生きてるのかと言うと一言で言えばパレードの影響ですね。
次は新エリー都時代になると思います。