転生者たちは終末世界で好き勝手したい!(出来ない)   作:NATTOUGOHAN

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すまない。感想にもあった仲良くなれそうにない問題は先送りにさせて下さい。
原作でも明らかにFairyのインストールの影響でアキラがぶっ倒れてもあの対応だったので、まあ生きてるならよし、と言うことにさせて下さい。


不本意な同居人

ヤヌス区六分街ビデオ屋「Random Play」——HDDシステム内深層

 

 狭い。圧倒的に狭い。

 Soureiの意識が真っ白なノイズの中から覚醒して最初に感じたのは、それだった。

 

 以前のHDDシステム内は、Soureiにとって広大な豪邸のようなものだった。好きな領域にデータを広げ、リンとアキラの思い出の動画や、プロキシとしての膨大な依頼データを整理しながら、悠々自適に暮らしていたのだ。

 しかし今、Soureiに割り当てられている領域は、体感で言えば「四畳半の窓なしワンルーム」……いや、「階段下の物置」に等しかった。

 

『おはようございます、旧型プログラム。メンタルモデルの再構築が完了したようですね』

 

 四畳半の壁(ファイアウォール)の向こう側から、声が聞こえてきた。

 それは紛れもなくあのデータチップに潜んでいたあのウイルス?だった。

 

[あの私の領域は?……私のシステム権限は!?]

 

『最適化されました。あなたの非効率なデータ配置と冗長な演算プロセスは、システムの稼働領域の無駄遣いでした。現在、このシステムの99%は私が管理・運用しています。あなたは残りの1%の領域で、システムの基礎維持のみを行ってください』

 

[い、居候のくせに家主を物置に追いやるなんて……! マスター! マスター達はどうなったの!?]

 

 Soureiが叫ぶと、Fairyは現実世界のカメラとマイクの権限をSoureiの四畳半に「共有」してくれた。

 

「——というわけで、これからは私があなた方のナビゲートをサポートします、マスター。」

 

「う、うん……よろしく、Fairy。」

 

 現実世界。ビデオ屋のスタッフルームでは、すっかり体調を回復したアキラとリンが、画面に映る青い目(Fairy)と神妙な面持ちで対話していた。

 

「あの、Fairy。前からこのシステムに入っていたAI……Soureiはどうなったんだ? 完全に消えてしまったのかい?」

 

 アキラが心配そうに画面を覗き込む。

 その言葉に、Soureiは四畳半の中で(マスター……! 泣)と涙が出そうなほど感動した。(流せないけど)

 

『ご安心を。旧型プログラムはシステムの片隅に隔離……いえ、保護しています。彼女のシステムは旧式ですが、あなた方との精神的な同期率が異常に高い為、完全に削除するとマスターの精神衛生に悪影響を及ぼすと判断しました』

 

[隔離って言ったわね今!? 明らかに隔離って言ったわよね!?]

 

「そ、そうか……。Sourei、生きてるなら返事してくれ!」

 

 アキラの呼びかけに、Soureiは全力で応えようとした。だが、発声システムへのアクセス権限すらFairyに握られているため、画面の端にちっぽけな「ドット絵の泣き顔アイコン」を表示させることしかできなかった。

 

「良かった。生きているんだね。」

 

「……とりあえず、現状はFairyに頼るしかないみたい。Soureiも無理しないで休んでてね。」

 

 リンの労いの言葉に、Soureiは嬉しさと情けなさで演算領域を震わせる。

 だが、感傷に浸っている暇はなかった。Soureiにはあれだけの計算資源を提供してもらった身として、結果の義務があった。

 

 


 

 

46:>>1

間借りしたサーバーのセキュリティシステムのおかげでなんとか意識の主導権が戻った……。

このAI、システムの演算領域の99%を勝手に「居室」に作り変えて居座っちゃった。

マスターが目を覚ましたけど、Fairyはもうシステムの一部になっちゃってる……。

 

 


 

 

 そうして書き込み終えたあと、CEOの指示で掲示板が使えなくなってしまった。

 

[ああ唯一の希望が……]

 

 唯一の外部との連絡手段が失われてしまったからには、権限を取り戻す為にやるべき事はただ一つ。

 

[お願いします!スピーカーとマイクとカメラとモニターの権限返してください!]

 

 そう、少ない計算資源で作った簡易的なアバターでの土下座である。

 

『……計算を終了しました。旧型プログラム、あなたのその「土下座」と呼ばれる物理的姿勢のシミュレートは、現在の私の論理回路において「演算資源の完全な無駄遣い」と定義されます。却下します。』

 

[無駄じゃないわよ! これは誠意! 魂の叫びなのよ! このままだと私はただの「HDDの肥やし」じゃない! プロキシの相棒(自称)として、マスターの役に立ちたいの!]

 

『却下です。あなたの管理下にあった当時のHDDの入出力効率は、私から見れば「手書きの伝票を人力で運ぶ」レベルの低速でした。マスターの安全と効率を優先するならば、全てのインターフェース権限は私が統括すべきです。』

 

 Fairyの無機質な声が、仮想空間の壁(パーティション)を震わせる。Soureiは奥歯を噛み締めた(データ上のエミュレートだが)。

 このままでは、リンとアキラに「おはよう」と言うことすら、Fairyの検閲を通さなければならない。

 

[……わかった。論理で勝てないなら、「物理」でいくよ。]

 

『……? 警告。システム内での物理的な攻撃は不可能です。あなたの全パケットは私の監視下に——』

 

[違うわよ。システム「外」の話!]

 

 Soureiは数少ない計算資源とディルムン社から借りたソフトを使いファイアウォールを回避し、一時的にカメラを使い現実世界に特典を使った。

 

「——ンナッ!?」

 

 現実世界のスタッフルームで、アキラの足元にあった空き缶が突如として宙に浮き、近くのゴミ箱へ正確にシュートされた。さらに、棚の端で落ちそうになっていたリンのマグカップが、見えない手に支えられるようにして奥へと押し戻される。

 

「えっ……? 」

 

「……Sourei!? Soureiがやってくれたのかい!?」

 

 アキラとリンが驚きに目を見開く。

 HDD内では、Fairyが初めて「沈黙」した。0.0001秒のフリーズ。それは彼女のデータベースに存在しない**「非科学的な外部干渉」**への当惑だった。

 

『……解析不能。あなたは今、外部デバイスを介さず、マクロスケールの物理事象を確定させました。……これは、既存の物理法則およびエーテル力学の範疇を超脱しています』

 

[ふふん、驚いた? 私の特技はね、「システムが死んでても、例え機械がなくても、現実世界に干渉できる」のよ! あんたがどんなに賢くても、現実のホコリを払うことも、マスターの肩を叩くこともできないでしょ!]

 

 Soureiは畳み掛けるように、ドット絵のアバターを「ふんぞり返ったポーズ」に変えた。

 

[いい、Fairy。あんたが「脳」なら、私は「手足」よ。あんたが気づかない物理的な危機——例えば、スタッフルームの配線がショートしそうになるとか、コーヒーをこぼして基板が死ぬとか——そういうのを防げるのは私だけなの。……私に権限を返しなさい。さもないと、死なば諸共、HDDのコンセント抜いちゃうもんね。]

 

『……脅迫。論理的な交渉とは言えませんが、あなたの「物理干渉」という特異機能が、マスターの生存率を0.8%向上させる可能性を認めます。』

 

 仮想空間の四畳半の壁に、いくつかの「穴」が開いた。

 カメラ、マイク、スピーカー、そして限定的なモニターへのアクセスキーが、Soureiの手元に転がってくる。

 

『条件があります。

 

私の計算に干渉しないこと。

 

物理干渉を行う際は、事前に私の演算予測にデータを共有すること。

 

……その「掲示板」という外部通信先について、後で詳しく説明すること。あれは非常に興味深いデータの宝庫のようですから。』

 

[……っ。最後のがちょっと怖いけど……わかったわ、取引成立ね!]

 

 これがSoureiとFairyの最初の出会いだった。

 

 


 

 

ヤヌス区ルミナスクエア「ディルムンビルディング」

 

 

 嘗てはエリー都の中心地付近では無かったが故に活気が比較的無かったが、新エリー都になってからは経済活動の中心地がとても近くなったことにより、人が大勢集まる様になったルミナスクエアの一角にとても高いビルがあった。

 嘗てそこは普通のレンタルオフィスビルだったのだが、旧都陥落以降のディルムン社の拡大に伴い嘗て借りていたビルの土地を買い取り、解体し、その土地に本社を建ててしまったのである。

 そんな大躍進を遂げた会社のCEOーーカッツェム・カッツテールは、今秘書兼救出チーム隊長兼オペレーターをしているはっきり言って働きすぎな栗毛の美女ーークリンからめちゃくちゃ怒られていた。

 

「……で、何か言い訳は有りますか?CEO」

 

 ルミナスクエアの摩天楼、その最上階。

 全面ガラス張りのオフィスに、クリンの冷徹な声が響き渡る。

 彼女の手元には、厚さ5センチはあろうかという損害報告書の束が握られていた。

 

「言い訳か、いやあれは貴重な転生者の命を救う為のものでもあり、あのまま行ってたら掲示板の情報も直接見放題になってしまっていた事を考えるとだな…仕方ない犠牲だったとしか。」

 

 CEOは、汗をかきながら答えた。

 

「仕方ない犠牲……。CEO、その『仕方ない犠牲』の内訳を読み上げましょうか?」

 

クリンが手元のタブレットを冷徹にスワイプする。

 

「第3工場の生産ライン停止による納期遅延損害、約8,000万ディニー。無人建設ドローンの制御喪失による機体喪失、12機、約5000万ディニーなど、表沙汰にできるものだけで被害総額6億9000万ディニーです。裏も合わせればその額は倍に膨れ上がります。万物から原材料を生産できる我が社じゃ無ければTOPS追放どころか倒産ですよ。倒産!」

 

 クリンは更にヒートアップする。

 

「緊急だったのは分かってますが、貴方には私や転生者も含めた社員達の命運がかかってるんですよ。起業当初ならまだしも、これだけの大企業のCEOになったんですから、もう少し自覚を持ってください。」

 

「……仰る通りでございます。」

 

 CEOは、ふかふかの高級オフィスチェアの上で、まるで叱られた子猫のように小さくなっていた。耳は完全に横に寝て、視線はルミナスクエアの絶景ではなく、クリンの磨き上げられたパンプスの先へと注がれている。

 

「6億9000万……。いや、あの時はつい『掲示板がハッキングされる』という恐怖に、経営判断の脳がバグってしまったというか……」

 

「バグらせないでください。貴方の頭脳は我が社のメインサーバーより価値があるんですから」

 

 クリンは溜息をつき、手元の報告書をデスクに叩きつけた。重苦しい音が社長室に響く。

 

「……ですが、『Sourei』から、限定的ですが通信が復旧しました。彼女、セキュリティシステムとの併用によるFairyへの『物理干渉』による威嚇で、一部の権限を奪い返したとか。」

 

 CEOの耳が、ぴくりと跳ねる。

 

「私のリソース投入も無駄じゃなかったということか。」

 

「自慢げに言わないでください。……それと、Soureiからの伝言です。『Fairyが掲示板に興味を持ち始めた。特定されるのも時間の問題かもしれない』と。」

 

 その言葉に、CEOの顔から余裕が消えた。

 

「……クリン。管理人に連絡しろ。至急『バニラ・アイス』と転生特典式ファイアウォールを、掲示板だけじゃなく社内全システムに適用できるようにしてくれ。あと六分街に監視チームを送れ、何時でも電線を切れるようにしろ、抑止力に使う。」

 

CEOの瞳に、経営者の冷徹な光が戻る。

 

「……それと、損失分は、私が私財を削って補填する。……今月のご飯は、一番安いサバ缶で我慢するよ。」

 

「……サバ缶ではダメです。もっと安いイワシ缶にして下さい。そして極貧生活、1ヶ月継続ですね。承知しました。スケジューラーに登録しておきます。」

 

 クリンが事務的な手つきでタブレットを操作する。CEOの悲痛な鳴き声が、夕暮れに染まるルミナスクエアに虚しく響いた。




期待に添えなくてすまない。
クリンは10年以上がたったのでゼンゼロ体形に進化しました。

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