超暴太郎!   作:エアプのハロ

3 / 8
遅れてしまってすいませんでした。
書いてるうちに次々と書きたいことが増えてしまったんですよね。
何が怖いって構想だと4000字くらいの予定だったんですよね。3倍近くなってて笑う。
小説書くためにドンブラザーズを見返してるんですけど、2話で弁当作ってもらって喜ぶタロウ可愛すぎないですか?


ウサギむそう

「ブフォッ!」

――それはヤチヨカップが開催されてしばらくしたある日の昼下がりのことだった。

ようやくチャンネルが軌道に乗り始め、多少肩の力を抜くことができたので、彩葉一人リラックスしていた。そんな彩葉の下に一本の切り抜き動画が流れてきた。そのサムネイルをみて彩葉は思わず飲んでいた紅茶を吹き出す。

切り抜き元のチャンネルはBlack onyX、兄のチャンネルだ。問題はそこではない。

「どうしたの彩葉⁉」

かぐやがドタドタと駆け寄ってくるが彩葉に反応はない。

「彩葉…?」

何があったのかと彩葉を観察するその目は彩葉の持つスマホにも向けられる。

「えぇ!?何でタロウがあいつらと一緒に⁉彩葉、スマホ貸して!」

彩葉の手からスマホを奪い取り再生ボタンを押す。

 

視点はBlack onyXへと移る

ツクヨミに入り配信が立ち上がったことを確認したアキラは挨拶を始める。

「よう、子ウサギども!Black onyXのリーダー、帝アキラだ!」

「同じくBlack onyXの雷。」

「同じくBlack onyXの乃依♪」

いつも通りの挨拶、だが一つだけいつもと違うところがある。一人多いのだ。

当然、コメントは『誰だよ』『誰?』『誰よその男』『乃依くんの眼球欲しい☆』といったコメントであふれている。

「子ウサギどもが気になっているであろうコイツだが…待て誰だ今の。」

「……まぁ良い。コイツは…さっき知り合った配達員だ!」

『どういうことだよ』『草』『ほとんど他人やんけ』

「冗談だ。まぁ知り合ったばかりなのは本当だがな。さぁ自己紹介してもらおうか。」

とカメラの位置を教えながらタロウに自己紹介を促すが、その格好が以前と異なる。

というのも、前回のように脳人レイヤーを介してツクヨミにスタイリッシュ不法侵入したところ、出口でヤチヨがスタンバっていた。これには流石のタロウも驚いた。

なんでも、タロウの服装が浮きすぎている、ということらしく新たな服をもらった結果、現在のタロウは朱と白の鮫小紋の着物の上に艶のある真っ赤なインバネスコート*1を羽織り、桃をあしらった帯、そして黒のブーツという大正ロマンを感じさせる恰好をしていた。

ついでにともらった懐中時計の金色の鎖が懐からキラキラとのぞく。

「いいだろう!俺の名前は桃井タロウだ!よろしく頼む。」

シンプルで当たり障りのない回答にアキラがフォローに回る。

「タロウはマジで強いぞ。なんせうちの乃依に初期配布の刀1本で食らいついたからな。」

その言葉にコメント欄はざわつく。

『嘘乙』『あんなカスみたいな刀でどうするってんだよ』

そんな視聴者を他所にタロウに配信画面について解説する。

「ほら、ここがコメント欄つってこの配信見てる奴のコメントがリアルタイムで見れるんだよ。」

タロウがコメント欄を見ると様々なコメントが寄せられる。

「暇なときに反応してやってくれ。ほら、試しになんか反応してみたらどうだ?」

これはアキラの配信に慣れさせてあげようという善意によるものだった。

「『どこ住み?』だと?東京都おに……」

「ちょっと待てェェェェェ!音声切れ!音声!あと画面も切り替えとけ!」

だが、予想不可能な挙動をするのが桃井タロウである。

『草』『まさかマジで言おうとした?』

「お前何言いだそうとしてんだ!正気か⁉」

「聞かれたから答えようとしただけだ。何がいけない?」

「全部だよ馬鹿!」

数分後、説教が終わり配信が再開する。

その間、音声が切れた状態で乃依のファンサービスタイムになっていた。デキる男である。

「ハァハァ……さて気を取り直して…今回の企画は『タロウ百人切り』だ!ルールは簡単!今からタロウにはうちのリスナー100人とSETSUNAで勝負してもらう。そんでタロウに勝てた奴には⋯俺らがヤチヨカップ優勝した時に一緒に踊る権利をやろう!」

その宣言にコメント欄は色めき立つ。

「参加したい奴はこの部屋に。観戦も歓迎するぜ?ただ、1戦見終わったら退出よろしく♪」

そのアキラの一言を皮切りに無数の参加者が入ってきてすぐに部屋の人数上限に達する。

「おー、やっぱすぐ埋まるなぁ…準備はできたか?タロウ。」

「あぁ、問題ない。」

「おっけ、そんじゃ始めるか。」

 

 

――「魑魅魍魎跋扈するこの地獄変……」

「前置きが長い!」

「実は私には病気の妹が…」

「知らん!」

「夢が眠るとき、世界ga…」

「ポエムで喋るな!」

「次!」

次々と現れる敵を斬って斬って斬りまくる。

ほとんどの敵を一撃で屠り、それ以外の敵も5秒足らずで始末していた。

「待ってくれ、話し合おうじゃないか。私だけでも助けてくれ!」

「お前なんてねぇ!ネギだけで十分ですよ!あっ…」

「SETSUNA上手くてもなぁ!別に就活とかにまったく関係ねぇからな!」

「あっ、ハタハタ(?)」

中には観客の褐色お姉さんや地雷系お姉さんに気を取られてやられるプレイヤーもいた。

気持ちは分かる。

 

そんな中、また新たな参加者が来る。その男をタロウは知っていた。

剥げあがった頭に長く伸びた髭、そして爛々と輝く眼が特徴的な中年男性、大野稔だ。

「久しぶりだな我が宿敵よ!」

「またアンタか。懲りないな。」

諦めの悪さに流石のタロウも顔をしかめる。

というのもこの男、タロウに敗れる度に新たな姿やパワーアップ*2を引っさげてリベンジにくるのである。その数なんと6回。

アキラはその容姿に疑問を抱く。

「珍しいな。大体みんな顔をイケメンにするんだが。」

そう、ツクヨミに来る際キャラメイクで大体の人間は自分の理想の容姿を作る。

というのに大野は現実と変わらない容姿だ。

その疑問に大野本人が応える。

「ゲームの顔が何になる!我が本懐は桃井タロウへのリベンジ、他に現を抜かす暇などない!」

なんとヤチヨに頼み込んで顔を現実そのものにしてもらって乗り込んできたのである。

そこにはタロウに気付いてもらうという狙いもあった。

そんな中、ゲーム開始のカウントダウンが響く。

-3-

「もうあんな力なんぞに頼らん!今度こそ俺は、俺の力だけでお前を超えてみせる!」

-2-

男は確かに成長していた。ヒトツ鬼にならずにタロウを超えてみせるとそう啖呵を切る。

その答えに凪いでいたタロウのボルテージが上がる。

-1-

「面白い!ならばその覚悟、この勝負をもって俺に示してみろ!」

-FIGHT-

忍者のように変幻自在の動きでタロウを翻弄し、呪符を使って魔法のように多彩でトリッキーな技でタロウに迫る、がその全てをタロウは見切り、切り伏せていく。

やり方や動きを変えながらそんなことを何度か繰り返す。

(そうだ!それでこそ俺の宿敵にふさわしい!)

高まる鼓動とは逆に冷静な心で大野は考える

次はどうする?近づいて近接戦をするべきか?いや奴の得意距離でやるのは愚策

ならばこのまま遠くから相手を攻撃?そうすれば、少なくとも引き分けにはできる

だがそれでいいのか?それで本当に勝ったといえるのか?そんなやり方で勝って胸をはれるのか?

「おれ、は――!」

持っていた呪符を投げ捨て背中に背負った忍者刀を抜き、がむしゃらにタロウへと突っ込む。

タロウも意図を察して立ち止まり、上段の構えで迎え撃つ。

甲高い音と共に刀がぶつかり、火花を散らす中で一進一退の鍔迫り合いをみせる。

「「ハァァァァ……!」」

僅かだが大野の刀が段々とタロウの刀を押しはじめる。

(いける…!勝てる!勝つんだ!勝って、勝って、今度こそ母ちゃんに――)

「フンッ!」

それでも、勝ったのはタロウであった。

タロウの渾身の一撃が大野の忍者刀を砕きその勢いのまま大野の体を裂く。

砕けた忍者刀の破片がキラキラと光を反射して美しく輝く。

 

-winner 桃井 タロウ-

 

「また、届かなかった…」

確かに手応えはあった。今までの経験を活かし、策を弄し、ありとあらゆる方法でタロウを攻めた。考えうる中で最高の動きだった筈だ。それでも届かなかった。

そんな胸中を知らずにタロウは告げる。

「だがここまで俺に迫った奴はアンタが初めてだ。胸を張るといい。…それにアンタは一度俺を倒した筈だ。なぜそこまで俺に拘る?」

「違う!アレは、あんなものが勝利であるわけがない!あんな力に頼って得た勝利に価値などない!俺は俺自身の力でお前を超えた時初めてお前に勝ったと、前に進めたと、そう言えるんだ!」

そう声を上げる大野の姿には、1人自分の世界に閉じこもり執念に動かされるままにヒトツ鬼へと変貌していた頃の面影は無くなっていた。

そして影響を受けたのは大野だけではない、タロウもだ。かつてタロウを超えようとしたした者はいたがそのどれもが道半ばで諦めた。そしてそれは今も変わらない。タロウと並ばんとする者はいても、超えようとする者はいないのだ。――大野を除いて。何度倒しても立ち上がりそのたびにパワーアップして自分に立ち向かってくる。そして今回、とうとうヒトツ鬼の呪縛を断ち切って己の力でタロウを超えんとする大野の存在が嬉しかったのだ。

意図せずタロウの口角が上がる。

「アンタは既に前に進めている。俺に勝てずともな。それでも俺に勝ちたいと、そう言うのであればいつでも相手になってやる。」

そう晴れやかな笑顔でいうタロウの心情を感じ取ったのか大野もまた笑顔で応える。

「ああ!次こそ、必ず勝つ。」

王のように堂々と胸を張りながら大野はそう宣言して、花吹雪になって消えていった。

 

「イヤーッ!」

僅かな静寂を破ってまた新たな挑戦者が現れる。

「グワーッ!」

倒された。

 

結局、タロウに勝てる者は出ないままその日の配信は終わったが話題作りとしては十分だろう。

 

動画を見終わると同時にピンポーン、とドアベルが鳴る。

「ハーイ。」

「お届け物です。サインかハンコをうぉぉ⁉」

「ちょっとタロウどういうつもり⁉何であいつらと一緒に⁉敵?敵なの⁉」

すっ飛んできたかぐやに流石のタロウもタジタジであった。

「分かった、分かったから落ち着け!説明するから!」

簡単な話だ。とタロウは語り出す。

 

その日、タロウは仕事の最中だった。いつも通り指定された家に荷物を届ける、それだけである。

マンションの階段を上り指定された部屋のインターホンを鳴らすと家主が出てくる。

「酒寄朝日さんですね、お届け物です。サインかハンコをお願いします。」

家主の男はタロウを見るとしばらく固まり、ゆっくりと口を開く。

「……お前、もしかしてタロウか?」

「そうだが、アンタのその声…まさか帝アキラか?なぜ分かった?」

これにはタロウも驚きを隠せない。

「いや、なんでもなにも…お前、顔も服装も何も変えてないじゃん。」

「そうか……どうやら、アンタとは縁があるようだな。」

「いや、まぁ、うん…とりあえず連絡先交換しない?」

「断る。今は仕事中だからな」

「だったら…ほれ、俺の連絡先だ。」

「要らん!仕事中にお客様からものをもらってはいけないと言われている。」

「あ~じゃあ、仕事が終わったらまた来い」

「無理だ。仕事中に得た情報をプライベートで利用することは禁止されている。」

「本ッ当に融通利かないなお前!もういい。だったらお前の営業所教えろ。仕事が終わるくらいにそっちに行ってやる。」

「ダメだ。客とプライベートで会うことは禁止されている。」

「お前、ぶっ殺すぞ⁉」

などという問答を経て最終的に仕事終わりにおでん屋に行くという情報を手に入れ、タロウの仕事が終わるであろう時間帯にその行きつけのおでん屋で待つという、何とも回りくどいやり方で連絡先を手に入れたのだった。

連絡先を手に入れた後も客と遊ぶことは禁止されているなどとほざくタロウに悪戦苦闘の末、ようやく一緒に遊ぶ約束を取り付けたのだった。

「――という訳でアキラの配信に出たわけだ。」

(め、めんどくせー…)

彩葉はドン引きした。タロウのめんどくささと兄の執念、その両方に引いていた。あわよくばかぐやの動画にも出てもらおう、などという甘い考えが完全に消し飛んだ。

それに不用意に配信に出すと何をしでかすか分からない。

(ウチはすでにかぐやで手一杯だし、無いな。うん、無い。)

思考は固まった。となると次にすべきは――

「えーじゃあさ、私たちのモガっ」

もう一つの爆弾の処理である。

「ん?どうかしたか?」

「いえ何もッ!はい、サインです!」

「んー!んー!」

「確かに。どうも、ありがとうございました。」

「ハイッ!ありがとうございました!」

扉が閉まりタロウの足音が完全に聞こえなるのを確認したことでようやく彩葉は肩の力を抜く。

「ふー、危なかったぁ…」

「何すんのさ彩葉!」

「あんな爆弾ウチで扱えるわけないじゃん!」

「えー」

「えー、じゃないから。ほら買い物行くよ。」

他愛もない会話をしながら時間は刻一刻と過ぎていく。

 

ちなみにチート疑惑が上がっていたが、後日VR適性検査の結果とBlack onyXのチャンネルでタロウ本人がその動きを現実で完全に再現するという力技をもってその疑いを晴らした。

 

 

 

――彩葉たちはその日、海水浴を楽しんでいた。

ビーチスポーツをあらかた楽しんだかぐやはお腹がすいてしまった。

「彩葉~、お腹すいたー」

スマホを見ると時刻は1時過ぎであった。

「そろそろお昼にしようか。2人もそれでいい?」

真実と芦花にも聞く。

「いいよー。」

「そっかもうそんな時間か。」

2人の同意も得たところでかぐやは疑問を口にする。

「どこ行くの?レストラン?」

「水着でいけるわけないじゃん。海の家だよ。」

「海の家?」

「あー、色々ご飯売ってるトコ。ほら早く行くよ。」

かぐやは手を引かれながら、初めていく海の家なるものへの想像を膨らませていた。

海の家どんな見た目なのだろうか。海ってついてるし海の中にあるのかな。もしかして店員さんがさかなだったり!?などと色々と考えていると急に彩葉が立ち止まる。

「イデッ、どうしたの彩葉。もう着いたの?」

まだ砂浜なんだけどなー、と彩葉の背からひょっこりと顔を出すとハワイアンな雰囲気の開放的な店が姿を現す。店先には人だかりが出来ているのが見える。それほど人気な店なのだろうか。予想とは少し違うがこういうのも悪くはない、などと吞気なことを考えるかぐや。

だが重要なのは、問題はそこではない。

問題はその人だかりの中心、店先で焼きそばを焼いている青年である。

その青年は真夏の海だというのに長袖長ズボンの真っ白な制服というミスマッチな格好で高笑いを上げながら*3、鉄板の上の食材を華麗に操っていた。

「はーはっはっはっはっは!」

この高笑いをしながら焼きそばを焼く"彼"のことを我々は知っている!

わずか二回ながらその圧倒的存在感と傍若無人な振る舞いから関わったもの全てに猛烈な印象を刻み込んだその男の名は――!

「桃井…タロウ……」

「タロウだぁ!」

桃井タロウである

「よし、かぐや。ファミレス連れっててあげる。だから絶対に桃井さんに話しかけ「タロウじゃーん!ひっさしぶりぃ!」

彩葉の顔面がムンクのムンクのように歪む。

その様子を見てタロウのことを知らない二人は当然、困惑する。

「大丈夫?」

「彩葉どうしたの?お腹冷やしちゃったならあそこにトイレあるよ?」

「いや、大丈夫。アリガト…」

そうだ、この人だかりの中じゃいくら桃井さんといえど私たちを見つけるのは簡単じゃあない。ならば2人には申し訳ないが、かぐやと一緒に引き返して2人にご飯を買ってきてもらおう。そうしよう。

完璧な作戦である。

(そうと決まれば早速……)

「なんだお前たちか。縁があるな!」

不可能ということに目を瞑れば。

飛んでくる無数の矢の動きを見切れるタロウがこんな目立つ少女たちを見逃すわけがない。

「彩葉とかぐや、あの人と知り合いなの?」

まだだ。まだ負けてない。ここでしらを切り通せば…

「い、イヤー、ナンノコトカナー。キットダレカトマチガエテルンジャ「そうだよ!タロウっていってすっごく面白いんだよね。」

負けである。

「ところでタロウはなんでここに?転職?」

「この店に荷物を届けに来たら店主がギックリ腰で倒れていてな。代わりにこうして働いているというわけだ。後ろの奴らは知り合いか?」

「うん!友達の芦花と真実。」

かぐやの紹介に2人が

「はじめまして。綾紬芦花っていいます。よろしくお願いします。」

「諌山真美でーす。」

「そうか。俺は桃井タロウだ。よろしく頼む。ちょうどいい。食っていけ、俺の奢りだ。」

「タロウの焼きそば⁉食べる!」

「ラッキー。」

「ありがとうございます。ほら突っ立てないで彩葉も行こう?…彩葉?うそ、気絶してる…。」

彩葉が目を覚ましたのは20分程してからだった。

「なんか…釈然としない。」

もらった焼きそばは絶品だった。

 

 

――歓声がステージに反響する。

タロウはツクヨミにてライブを見にきていた。

ヤチヨカップの優勝者であり、このライブの主役1人であるかぐや直々にチケットが送られてきたのだ。他者の感情に疎いタロウだが、好意を無下にするほど鈍くはない。

途中、サプライズはあったがライブは大きなトラブルもなく終わり、かぐやたちから送られた場所に向かうと主役の三人に加え芦花や真実もいた。

タロウが来たことに気付くとかぐやが近寄ってくる。

「どうだった、タロウ!私たちのライブ」

かぐやが期待のこもった目でタロウを見つめる。

「中々良かったぞ。55点だ!*4

「う~ん微妙!」

「まぁ、高得点ってことかな?」

「あぁ、滅多に出ない高得点だ。もっと喜ぶといい。」

「なら良かったー。いと嬉し♪」

タロウは時間を確認する。

「もういい時間だ。俺はこれで失礼する。誘ってくれて感謝する。楽しかったぞ。」

去ろうとするタロウをヤチヨが引き留める。

「あ、少々お待ちを。実はタロウ君に頼みたいことがあるのです。というわけでスケジュール調整をばァァァ―⁉」

足を引っかけたのか転びそうになったところをタロウが受け止める。

「大丈夫か。」

「ありがとう。いやー恥ずかしきこと限りなし…」

そのまま支えてくれているタロウの耳元で「キミも聞きたいこと、あるでしょ?」と囁く。

「…いいだろう。」

「やったー。じゃあねぇ…9月1日は?」

「ダメだその日は仕事がある。夕方から別の用事もある。」

「ありゃりゃ、そうだった。」

うっかりうっかりとその翌日を提示するとタロウも応える。

「それじゃあ、今度こそ失礼する。」

「うん、引き留めちゃってごめんね。」

「気にするな。」

「えー、もう帰っちゃうのー?」

ブーブーと不平を口にするかぐやを彩葉がなだめる。

「さようなら、桃井さん。」

「あぁ。」

近くの壁にあったワープドアを使ってタロウは帰った。

「げに広き器の持ち主よ…」

などとヤチヨが言っているのを他所に芦花や真実は別の部分に着目する。

「ていうか、何あの落ち方。」

「ねー。あんな落ち方見たことなーい。」

そう、普通落ちるときは体が花吹雪となって消えるのだ。

間違ってもあんなどこで〇ドアみたいな落ち方ではない。

「いい着眼点だねぇ。ログインとログアウトの時の演出を追加しようと思ってるんだ。」

ほら今は1つだけでしょ?と誤魔化す。

「へーじゃあ私はなんかこう、すっごい光を出したい!」

「いやそれ目が痛くなるからやめな?」

そんなやり取りを月はやさしく見守っていた。

 

 

 

ー別れと言うのは誰しも訪れるものである。

例えどんなに通じ合っていても、どんなに離れたくないと思っていても、無慈悲に訪れてしまうものだ。

 

花火大会の帰り道の途中だった。

空気は沈み、拭いきれない気まずさが二人の間に積もる。

そこには残された時間が少ないと知り、それを受け入れるしかない者と受け入れられぬ者の差があった。

沈黙に耐え切れなくなったのかかぐやが口を開く。

「そうだ!ここら辺にタロウイチオシのおでん屋があるんだって。行ってみようよ!」

「…いいよ。行こっか。」

食べ物が喉を通るような状態ではないが断ることができなかった。それに、今日は帰ったところでどうすればいいか分からない。

かぐやに手を引かれるがまま夜の河原沿いを歩いていると橋の下に一軒の屋台が見えた。暖簾に提灯が掛かっており、そこには『おでん』と書いてある。

「ここかな?」

「いらっしゃい。あぁかわいいお嬢さんたちだ。嬉しいねぇ。」

かぐやが暖簾を捲ると老齢の店主が出迎えてくれた。そのまま中を見ると、先客が1人いた。

茶髪に青い瞳の端正な顔立ち。屋台には似合わぬ青緑の服装に身を包んだ青年だが、何故かボトムはスラックスとハーフパンツの重ね履きをしており、首元には謎のヒラヒラとした羽が付いているというなんとも奇抜な恰好であり、左手には盾のような意匠の青銀のブレスレットをつけていた。

「お客さんですか。」

青年がこちらを向くとかぐやを凝視する。

「おや、貴方人間ではありませんね。」

「……何で、分かったの?」

「ちょっと、かぐや!」

「ご心配なく。私も彼も人の秘密を言いふらすような真似はしません。それより、そこでは寒いでしょう?どうぞ中へ。」

そういうと暖簾をあげて屋台の中へ誘う。2人は顔を見合わせると恐る恐る中へと入っていく。

中へ入っていくと明るいライトの光を浴びてグツグツと煮られているおでんが金色に輝き、出汁の香りが腹を刺激する。

2人が座ったのを確認すると青年は座っていた席に戻る。

「大将、適当に何か出してあげてください。お代は私が払います。」

「えっ、いや……」

「あいよ。ノイちゃん。はい、大根とたまごね。…あっ、食べられないものとか無かったかな?」

「2人ともないです、けど…あの、ありがとうございます。」

「いえ。ここで出会ったのも何かの縁。どうです、私に貴方たちの悩みを話してみませんか?」

「縁…。」

話す気などなかった。けれでもその言葉に口が動いてしまいそうになる。

かぐやに目をやる。

「彩葉が良いなら私もいいよ。」

「……実は…」

 

 

「⋯成程。そちらのお嬢さんが元いた場所に帰らないといけない。けれど帰らせたくない、と。」

「はい。きっと別れは避けられない。だけど私はまだまだかぐやと離れたくない。」

「…私はそんな経験をしたことがありません。だから、その気持ちを完全に理解することはきっと出来ません。意味のあるアドバイスもできないでしょう。」

「だからせめて、私は己の罪を告白します。浅ましい罪を。貴方たちならきっと、私の話を糧にハッピーエンドを掴めると、同じような後悔をしないと、そう信じて。」

震える声で罪人は己の懺悔する。救いを求めることなく。

「私には友人がいます。私の理想を体現したかのように心の清らかで、噓をつくことのない太陽のような…彼は私の希望そのものでした。きっと私たちは彼のような人を助けるためにいるのだと、そう信じていました。

 ですがある日知ってしまった。彼の正体を、彼が目的達成の最大の障害であり、憎んでやまない存在だと。

 だから私は彼を倒しました、…自身が最も忌み嫌っていた相手の弱みにつけ込むという、卑怯で薄汚い方法で。自らの美学も彼の誠実さも踏み潰して残ったのは愚かな罪と意味のない後悔だけでした。声が聞こえました。己の声です。お前はお前が見下していた人間よりも浅ましく、みっともない奴だと、彼は最期まで己に従い散っていったのになぜお前がのうのう生きているのだと。彼を慕っていた人々を見る度、心が締め付けられました。その瞳に己の罪が写るようで。そんな資格などある筈がないのに、心が締め付けられる度、自分の罪を裁いてくれているようで嬉しかった。

 そして自分が何のために戦っているのか分からなくなって、迷って、迷って、迷って、自分が分からなくなって、必死に空っぽな自分を正当化しました。これしか方法がなかったと、最善の方法だったと、大義のためには必要経費だったと、吹けば飛ぶような理論武装で己を取り繕って。

 だからこそ、彼が蘇り今度こそ正々堂々と勝負したとき、私は己の敗北が嬉しかった。欲に負け、道を踏み外した私の方が間違っていたと証明してくれたんです。彼は愚かな私諸共その罪を裁いてくれたんです。

 紆余曲折あって彼らと肩を並べて戦うことができた時、私は本当に嬉しくて、本当に恥ずかしかった。どの面を下げて清廉潔白を名乗っているのだろうと。出来ることならば何もかも放り出して消えてしまいたかった。そしてそう考える度、無責任に開放されたがっている自分に嫌気がさすのです。

 彼らは決して私を責めないでしょう。それが何より辛いのです。その後悔が今でも私を蝕むのです。きっと、裁かれないことが私の罪なのでしょう。この罪はきっと、生涯私が背負うべき罪なのです。

 短いですがこれで私の(懺悔)はおしまいです。……貴方たちにはまだ時間がある。どうか話し合ってください。紡いだ縁を無下にしないでください。そして願わくば後悔のない選択を。」

「アナタは、どうしたいんですか?」

「どうしたい、ですか。……分かりません。ずっと分からないんです。あの日から私はずっと迷っているんです。進むべき道をずっと。私にできるのはこの奈落の底からこっちに来てはいけないと叫ぶことだけです。…貴方たちはどうしたいですか?」

「分かりません。ただ後悔だけはしたくない。そう思います。」

「終わりが決まっていても終わり方は選べるでしょ。なら最高のハッピーエンドにしてみせる!」

その答えに彼は嬉しそうに、そして眩しそうに目を細める。

「そう思えているなら貴方たちはきっと大丈夫です。」

「……そろそろ行こっか。あの、アナタは…」

「あぁ、私はここ人を待っているのでお構いなく。お気遣いありがとうございます。」

「あの、本当にありがとうございました。」

「お兄さんもハッピーエンドに向けて頑張ってね!あ、でも頑張りすぎは良くないから適度にね!」

「えぇ、良いゆめを。」

再び暗い道を2人で歩く。だが来た時とは違って重い空気は無くなっていた。

「……かぐや」

「なぁに、彩葉。」

「いっぱい遊ぼう。全力で」

「うん。いっぱい遊んで、いろんなとこに行こう。芦花や真実も一緒に。配信も全力全開で頑張っちゃうよ~!」

「フフッ、全力全開って。なにそれ。」

「細かいことはいいじゃん。ほら、はやく帰ろう!」

彼女らの帰り道は優しい月明かりに照らされていた。

 

 

「――マスター、コレは?」

「サービスだよ、いっつも頑張ってるノイちゃんに。」

ジワリ、と大根の優しい味が口いっぱいに広がる。

「ノイちゃんはさ、真面目過ぎるんだよ。」

「真面目過ぎる、ですか。」

「そうさ!人ってのは間違っても戻してくれる人がきっといるんだよ。例えいなくとも、縁を手放さない限りお天道様がまた新たな縁を持ってきてくれんのさ。でも後悔ってのはそう簡単にいかない。自分を許してあげなきゃいけないんだよ。」

「自分を…許す……?」

「そう。簡単なようで案外難しいことなんだな、コレが。」

「そうですね。きっと自分には出来ないことでしょう。」

「だから少しずつでいいんだよ。自分を許してあげられるいつかを目指してゆっくり慣らしていけばいい。」

「……私にもそんな日がきますかね。」

「くるさ。こんな煩悩まみれの老いぼれにもきたんだ。ノイちゃんにこないわけがない。」

「……そうですか。」

 

 

 

 

 

 

「いらっしゃい。」

1人の男が屋台の暖簾をめくり、彼の隣に座る。

「すまない。仕事が長引いてな。待ったか?」

「確かに少し待った…だが美しいものを見れた。友情というものを。結果オーライ、というやつだ。それより、今日は飲むんだろう?だったら、飲みながら話そう。タロウ

男は己の葛藤を心の奥底にしまい笑顔を作る。タロウもそれを知りながら何も言わない。本人が折り合いをつけない以上、その葛藤を晴らすことなど誰にもできないと出来ないと知っているから。

「そうさせてもらおう。しかし、友情か。確かに美しいものだな。詳しく聞かせてくれソノイ

だから太陽(タロウ)(ソノイ)に寄り添う。また心の底から笑いあえるいつかを願いながら。

互いにおちょこの縁を軽くぶつける。

「「乾杯。」」

月明かりの下、2つの友情はその色を濃く、より鮮やかにしていく。

*1
ホームズが背中にかけてる上着みたいなやつ

*2
手裏剣鬼、魔法鬼、轟轟鬼、王様鬼

*3
暑さで若干ドンモモスイッチが入っている

*4
タロウ基準で滅多に出ないかなりの高得点




多分ソノイは自分がしたことを今でも後悔してると思うんですよね。
光が強ければ強いほど影も濃くなるんだなぁ!!
ソノイ出したいけど何を話させようかな。後悔とか?でもなんかあったかな。

思ってたより重い話できたな……まぁこういう落差はドンブラにもあるしええかぁ!
って感じでできました。

海の家も、時系列確認するか→そういえば海水浴行っとたな。すっかり忘れとったわ
…高笑いしながら海の家でやきそばを焼く桃井タロウ……!?(存在しない記憶)
という感じで完全に無から生えてきました。
ちなみに花火大会の時も、画面外でタロウが花火の打ち上げ係をやっています。
どこにでもいるなこの妖怪縁結び。
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