投稿が遅れてしまって本当に申し訳ない。
ちなみにこの小説のかぐや(エピローグのすがた)はヤチヨの分岐進化的な解釈で書いてます。
犬DOGE/FUSHIのバックアップデータにヤチヨの記憶を情報の一部として流し込んでできた感じですね。
なので明確にヤチヨとかぐやは別人として書いてます。扱いとしては双子が近いのかな。
かぐやにお姉ちゃん面するヤチヨはいます!!
-つきのみつだん-
ヤチヨが義体にも慣れ、しばらくたったある日の夕暮れ。
ヤチヨは1人で河原を歩いていた、お目当ては10年前に行ったあのおでん屋だ。
しばらく歩いていると一軒の屋台が見えた、間違いないこの店だ。
暖簾を上げると以前と変わらない店主がいた。その事実にどこか嬉しくなる。
「こんばんは~。まだやってますか?」
その声を聞いた店主が挨拶してくれる。
「おや、こりゃまた別嬪さんのご来店だ。いらっしゃい。」
どうも~と言いながら席に座ろうと目を向けると1人、先客がいた。
「どうも、奇遇ですね。それとも…」
「お久しぶり、の方が適切でしょうか?」
以前このおでん屋で会った
「う~ん、どっちもかな。」
そう言いながら少し距離を開けて座る。
「なるほど。随分変わられたと思いましたが存外そうでもないようだ。」
「…いっつも思うんだけどキミも"
「"彼"が何のことを指すのか分かりませんが…ただ見え方が少し違っているだけです。」
「見え方、ねぇ…今の私は君の目にはどう見える?」
「そうですね……雰囲気などが大きく変わっています。世界の見方が変わるような、よほど大きな出来事があったようだ。仙人のような悟った眼差しをしている。ですが、決して悪い変化ではない。むしろ結果的にいい影響を及ぼしたように見えます。よほど良い縁に恵まれたようですね。それに、最も重要な在り方に根幹を成す部分がそこまで変わっていない。良いことです。」
「…そこまで見えるんだ、げにめざましき観察眼。いいもの見せてもらったし、お礼に奢らせて?」
「いえ、大したことをしたわけではありません。それに、報酬を受け取るためにしたわけでもありませんから。そのお気持ちだけ、有難くいただいておきます。」
「じゃあ、あの時のお返しってことで。出世払いってやつ?」
「⋯本当に成長しましたね。ならばお言葉に甘えましょう。ありがとうございます。」
そんな会話をしていると暖簾が捲り新たな客が訪れる。
「ここが例のおでん屋か…ん、先客が―ってヤチヨじゃん。」
駒沢乃依である。
「おっと、奇遇だね乃依くん。ヤオヨロ〜」
「お知り合いですか。」
「そんなとこ。といっても、こっちであったのは数回程度だけどね〜」
「お、そっちのイケメンさんはヤチヨちゃんの知り合い?ひょっとしてお取り込み中だったり?」
「いえ、ちょうど話し終わった所です。お気遣いありがとうございます。それより、ここでお会いしたのも何かの縁。貴方も一緒に飲みませんか?」
「そうそうヤッチョも乃依君の話が聞きたいな~。今ならヤチヨお姉さんが奢ってあげるよ?」
「…まぁ、いっか。大将、日本酒と適当に出して。」
「はいよ。卵と大根、あと白滝ね。」
出された具は先ほどまで煮られていたということもありホカホカと湯気が出ており、その色は完全に出汁の黄金色に染まっていた。
「どうも。…うん、おいしい。味が良く染みてる。」
とりあえずと大根を口にすると口の中でほろりと身が崩れ、中から出汁がジワリと滲み出す。
格段にうまいという訳ではないが、どこか懐かしさを感じる優しい味わいに頬が緩む。
時間がゆったり流れていると感じるような、浮世離れした雰囲気が居心地よく、ヤチヨやアキラが気に入っている理由が分かったような気がする。
「全員にお酒がいきわたったし、それじゃあ…」
「「「乾杯。」」」
「――だから、彩葉は私にとって、太陽のような存在なの。」
「分かります…!」
「分かるわ…!」
「少々眩しすぎて自分が恥ずかしくなりますね。こんな私が彼の近くにいてもいいのかと。」
「分かる…!」
「本当にそう…!」
3人は完全に出来上がっていた。
こうなったきっかけはヤチヨが
「でもそんな気持ちすら吹っ飛ばしてくれるんだよなぁ。次はどんな景色を見せてくれるのかってワクワクさせてくれるんだよな。それにあの輝く顔も見てて飽きないね。」
「理解る。特にあの目に惹かれたんだよね。初めて会ったあの日、私にはその眼差しが太陽みたいに温かで宝石みたいに輝いて見えたの。」
「太陽、ですか。私も…いえ、私の場合は見るもの全て焦がしてしまう程眩く見えましたね。それこそ目を背けたくなってしまうくらいに。」
「太陽か…それなら俺はどっちかっていうと日食だな。なんていうか、吸い込まれそうな感じっていうかさぁ…」
「お兄さんの言う奴のこともっと教えてよ。」
「勿論です。彼の美点はいくつもありますね。縁を尊び、見ず知らずの他人の為に動き、決して噓をつくことがない。その気になれば世界の頂点に立つことすらできるのに決して私利私欲でその力を振るおうとしない高潔さ。どれをとっても非の打ち所がない。まさに私の理想を体現したかのような人物です。」
(アイツみたいな奴だな)(縁?もしかして…)
2人の脳裏には朱い悪魔*1の姿がよぎる。確かに他人の為に動くし縁を尊ぶ。
だが縁ができるというより半ば当たり屋に近く、見ただけで縁結び認定をしてくる奴を果たして高潔と言えるのだろうか。
「そして何より優しいですね。挫けた者だろうと道を踏み外してしまった者だろうと分け隔てなく接して進むべき道を照らしてくれる。まさしく太陽です。」
『お前の顔を採点すればいいのか?25点だ!』
『お前のアドバイスとやらは自分の言葉に酔うだけで空っぽだ。中身がない。』
『悪くない戦法だった。そうだな、30点だ。』
優しい……?
(優しい?いや、ないな。)(じゃあ違うかぁ。)
「楽しかったですが、もういい時間です。そろそろお開きにしましょう。飲み過ぎはあまり身体に良いとは言えませんから。」
「ほんとだ~。まぁ、ここからだったら終電に間に合うね。大将、お会計お願い。全員分まとめて払うから。」
「毎度あり。いやぁ、皆美味しそうに食べてくれるちゃって…料理人冥利に尽きるねぇ。」
「ん、もうそんな時間か。楽しい時間はあっという間だなー。そうだ、お兄さん良かったら連絡先交換しない?またこの3人で飲みたいし。」
「是非、と言いたいですが生憎スマホを家に置いてきてしまいまして。また今度お会いした時に、ということで。…さて、私も仕込みがあるので早めに帰るとしましょう。」
「え?お兄さん料理人なの?」
「いえ、趣味が高じて私自身もおでんの屋台を本業とは別に始めまして。有難いことに明日は顔なじみお客さんがケータリングの予約を入れてくださったんです。」
「へぇ~今度食べに行こうかな。今度会った時教えてよお店。」
「私も食べてみたいな~」
「えぇ、是非いらして下さい。」
会計を終えて屋台から出るともう日が日が落ちていた。冷えた空気が火照った3人の顔を冷やす。その冷たさで酔いが僅かに冷めていくのが分かる。辺りには風に吹かれて揺れる草木の音が響き、遠くからは電車のガタンゴトンという音が聞こえる。
しばらく歩くと住宅街に入った。人通りの多い昼間とは違って道には人1人おらず閑静な住宅街を電灯が等間隔に照らし、どこからか聞こえる古い自販機のジーッという音がいやに頭に残る。
そのまま他愛もない話をしながら歩いていると曲がり角の一角に着く。
「それじゃ、俺はこっちだから。じゃあねー。」
「えぇ、またお会いしましょう。」
「じゃあまたツクヨミでね~。」
乃依と別れた後無言で歩いていた2人だがしばらくして青年が口を開く。
「…それでハッピーエンドは迎えられましたか。」
「さぁ~どうかな?まだ私たちは生きてるからね。」
それにもうとっくに100点は超えてるから後はもっと高得点を目指すだけだしね~、とそうおどけてみせる。
「そういうそっちは見つかったの?答え。」
「いえ、お恥ずかしながら、まだ……いえ、答えはきっと私の目の前にあったんです。あの日から、ずっと。」
『情けないぞ
そう
「結局、あと一歩を踏み出す勇気が無かったんです。変わるのが怖くて、目を瞑ってしまっていた。」
「そっかぁ、良かったねぇ。気づけて。」
「はい、良き
「その縁に巡り合えたのはキミのこれまでがあったからだよ。もっと誇っていいとヤッチョは思うんだけどな~。」
「それは貴方もでしょう?それでは、私もここで。お互いこの一瞬を楽しみましょう。」
「うん、また会おうね。」
「はい、良い夢を。」
「良い夢を、かぁ…。」
そう言われるがどこかしっくりこない。それはきっと――
「どうかしましたか?」
「いや、まだコレが夢じゃないんだって、たまに実感がないんだよね。まぁ、個人的なアレだけど。うん、気にしないで。」
「えぇ、それでは、…そうですね、良い明日を。」
「うん、キミも良い明日を。」
そう言い残して青年は夜の闇の中へ消えていった。少しの間彼が消えていった暗闇を無言で見つめていたが、ふとポケットの中のスマホが微かに振動するのを感じ、取り出す。
見ると電話がかかってきている。発信元は『かぐや』だ。
「もしもし?どうしたのかな~?お姉ちゃんが聞いてあげる。」
「…その、彩葉が黒鬼の奴とタロウの3人で飲みに行ってて、家に1人で、だから、その…」
珍しく歯切れが悪い。そんな様子に自分のことながら思わず笑みがこぼれる。
「フフッ、まったく、寂しがりやなんだから。いいよ、すぐに帰るから待ってて。2人にお土産もあるの、きっと喜ぶと思うなー。」
そう言うとさっきまでの沈んでいたかぐやの声が一気に弾む。
「ほんと⁉やったー!さっすがお姉ちゃん!いよっ美人!じゃあ待ってるからね!」
「ハイハイ、調子がいいんだから。」
電話が切れるともう一度青年が消えていった闇を一瞥する。
「…いつかキミが自分を許せる日が来ますように。……よし、私たちも帰ろうかお家に。ね、FUSHI?」
そういつの間にか肩に乗っていたウミウシを撫で、彼女もまた帰路へ就く。
-ひだまりをあつめて-
つきのみつだんの裏側で⸺
「どこか影のある子って、良いよね…!」
「いい…!」
「そうか?人は前向きなほうがいいと思うが…」
「その陰りのある子が前を向いて進んでいくっていうのがいいじゃん。」
「分かる…!」
「誰であれ、前に進もうとするのはいいことだ。」
既に2人はそこそこ出来上がっているがタロウにその様子は見られない。
「おいおいお前だけ酔ってなさすぎだろ。飲んでないのか〜?」
「うざ絡みやめなよ。ていうか桃井さん、私達より飲んでるからね。」
「え?マジ?」
そう言われてタロウの手元を見ると確かに自分たちより空き瓶が3、4本多い。
「マジかよ。ウケる。」
「さっきから語彙力死んでない?」
「マジ?ウケる。」
「大分酔ってるな。」
「お前だけ逃れられると思うなよ彩葉ぁ。お前はあいつらのどういうところに惹かれたんだ?」
「うざ絡みがこっちにも…どういうところ惹かれたか?」
「おん。」
「最初から。その気持ちが大きくなったのはヤチヨカップの時で、それに気づいたのはコラボライブの時。それからはずっと押さえ込んでいたんだけど…花火大会に行った後から隠せなくなっちゃった。」
「きっと、私がかぐやを見つけたあの日私もかぐやに見つけてもらったんだ。」
「分かるぞ。俺もあいつらに出会ってから本当に楽しくなったからな。」
「楽しくなったという部分では俺も同じだろう。騒がしいが一緒にいて飽きん奴らだ。」
「へぇ〜、ていうか珍しいな。」
「何がだ?」
「いや、お前がこういうの参加するのもだけど、お前の口からお供達?の話を聞いたのなんて久々でさ。」
「そうか?」
「確かに、初めて詳しい話聞いたかも。」
「珍しいといえばお前もだぞ、彩葉。」
「私?」
「あぁ、まさか 彩葉が飲み会なんて開くとは思わなかったから最初通知見たとき過労を疑ったぞ。てっきり俺達と飲む時間があればあの二人とイチャコラしてると思ってたぜ。」
「…そうだお礼を言うために呼んだんだった。」
「なんだそんなことか。」
思い出したようにポツリと呟く彩葉に思わず呆れてツッコんでしまう。
「おいおい、そんな大事ことを忘れんなよ…。つーか10年前のお礼を今?」
「しょうがないじゃん、桃井さんってば『礼を言うのならばかぐやと再会した後にしろ。』って聞かないんだから。かぐやと再会した後はメンテとか学会とかで忙しくて中々時間が取れなくて…」
「当たり前だろう。過程や努力も大事だが最も大切なのはお前がかぐやと再会できたかだ。」
「ほらね。」
「まぁ、コイツはそういう奴か…。ていうか、今思い出したけどかぐやの卒業ライブの時、来れないって言ってたのに結局来たのはどういう事だ?用事が早く終わったのか?」
「そうだ、それも聞きたかった。何でですか?」
「あぁ、あれか。早く終わったも何も…その用事というのが卒業ライブでお前たちに加勢することだったからな。」
「「……はぁ!?」」
「うおっ!急に大きな声を出すな。」
「何で、誰から!?ていうか何でそれを今!?」
「お前っ、そういうのはもっと早く言うべき事だろ!何」
「ヤチヨからだ。今言ったのは聞かれたからだ。」
世間話をするかのように平然とそう言うタロウに若干イラッとする。
来るのが分かっていたらもう少し余裕が持てていただろし…文句を言うのはお門違いだと分かるがそれはそれとして釈然としない。
「いやまぁ、感謝してますけどあの時言ってくれても良くないですか?」
「何を言う、あれは完全にプライベートな頼みだ。だったら例えヤチヨと親しいお前たちといえどもいう訳にはいかないだろう。」
「そうなんですけど…なんか納得できない…」
「諦めろ、コイツはそういう奴だ。」
「はぁ、でもまさか桃井さんにそんな茶目っ気があったとは…。」
「ヤチヨにもお前たちに聞かれたら『知り合いの用事がある』と答えろと言われていたからな。卒業ライブ終わった後はお前たちに聞かれたら答えていいともな。」
「…へぇ〜。ソウナンダー、ヤチヨが。ふーん。」
「露骨に拗ねんなよ…。」
「拗ねとらんわ。ただ少し…」
「少し、何だ?お兄ちゃんに聞かせてくれよ~。」
「うっざ、何笑ってんの。」
「おいおい、嬉しいんだよ。あの彩葉がこんなに感情を表に出す様になったのがさ。いつか消えちゃいそうでさ、心配してたんだぜ?そのくせ助けようとしてもその手払うし。」
兄として幼いころから全部1人で抱え込む様子を見てきただけあって感慨深さは人一倍強い。
「確かに変わったな。他の奴を頼れるようになったのは良い傾向だ。」
「桃井さんまで…そんなに変わりました?」
「うん、もろにあの二人の影響受けてるぞ、お前。」
「それはなんか複雑…。」
「影響か…」
「そういえばお前もお供達?に影響受けたって言ってたよな。今度お前の言う"お供たち"にも合わせてくれよ。」
「いいだろう。もっとも、許可が下りればの話だが。」
「私も会ってみたいなぁ。あ、そういえば連絡先交換してなかったし、交換しませんか?」
「おいおい、コイツの連絡先を手に入れるのに俺がどんだけ苦労したと…」
ヤレヤレという朝日を横目にスマホをスッと取り出してQRコードを彩葉に見せる。
「良いだろう。ほら。」
「オイィィィィィィ!何で彩葉にはそんなポンと渡すんだよ!ひょっとしてアレか?嫌いか?俺のことが嫌いなのか⁉」
そうタロウの首元を掴んでユッサユッサと揺らす。若干涙目になっているのが見える。
「揺らすな。お前の時は仕事中だっただろう?今はプライベートだからな。何の問題もない。」
「お前ッ…!俺の3時間返せよ~!」
「へー3時間…3時間!?3時間も桃井さんに粘着してたの!?」
「しょうがないだろ〜。コイツ次は会えるか分からないんだから。それにタロウ百人斬りがそこそこバズったし…。」
「ゲス…ていうか、そんな粘着するほど?確かに神出鬼没だけど。」
「ええい、うるさい!1時間超えたあたりからこっちも引くに引けなくなったんだよ!」
「それに10年間まったく姿見せないのは神出鬼没の域を越えてんだろ!L●NEも既読つかないし探しても音沙汰なし。どこにいたんだよお前~!」
「それは…おい揺らすな零れる、おい聞いてるのか。やめ…やめろと言ってるだろ!」
あわや酒がこぼれそうになった寸での所でタロウの張り手が炸裂する。スゴクイタイ!
「へぶッ⁉お前…ビンタってお前…」
「今のはお兄ちゃんが悪い。」
「メチャクチャ痛い…」
「軽くやったつもりだが。」
「お前の軽くは常人の全力くらいあるんだよ!」
「ただ単にお兄ちゃんが家に閉じこもっているからじゃ…」
「コイツがヤバいだけだ!この才能お化け!暴の化身!」
「ほう、ならば鍛えてやろう。喜べ。」
「調子乗ってスンマセンした。何でもするんで勘弁してください。」
「そうか、なら特訓を受けてもらおう。」
「終わった…」
「でも確かに桃井さんの才能が羨ましいなぁ。」
きっと桃井さんなら自分のように10年も2人を待たせなくて良かったのではないかと、そう思ってしまう。
その言葉を聞いた途端アキラとタロウの動きが止まり、マジかコイツと顔を見合わせる。何かおかしなことを言っただろうか。
「…何?」
「いやいや、お前が言っちゃダメだろ。」
「それは無理がある。自己評価が低いという話ではない。」
「そんなこと――」
無いと言おうとして自分のやってきたことを冷静に振り返る。
AIが入れる肉体を作るためにやってきたこととして
・生体パーツの培養
・食べた食事をエネルギーに変換
・人体と遜色ない運動性能の実現
・人と変わらぬ外装の再現
・味覚の実装
勿論、全てが彩葉の手柄という訳ではないが大体は彩葉本人の手が入っている。
加えて音楽などの芸術方面にも明るく、身体能力も高い。
「…あれ、もしかして私って結構すごい?」
「結構どころじゃないだろ。まさしく超人だよ。」
「えぇ、なんか実感が無い……。」
「俺の身にもなって見ろよ。両隣が超人って凡人には肩身が狭くて仕方ないんだが。」
「いや、登録者200万超えは十分すごいでしょ。」
「そうだけどさ~お前らの前じゃなんか霞むんだよなー。」
「お前たちの欠点は自己評価の低さだ。もう少し胸を張れ。」
「そうは言うけどさー方や世界に名を轟かす天才、方や何でも出来る才能の暴力。こんなのに挟まれる俺の身にもなれよ。ゲームくらいしか取り柄無いのにさ~。」
「お前には人を惹きつける力があるだろう?何故落ち込む。」
「へへっ…」
「うわキッツ。」
「あのタロウが褒めてくれたんだぞ、あのタロウが!」
「アラサーの照れ顔はキツイって…」
そうこう駄弁っていると時間はあっという間に過ぎてゆき――
「もういい時間だ。お開きにするぞ。」
「えー。」
「そうですね。そろそろ帰りましょうか。」
なんとも締まらない空気で飲み会はお開きとなった。
――玄関に着くと中から声が聞こえてくる。
「ちょっと~食べさせてよー!」
「ふっふっふ、『ならばお姉ちゃん大好き』と言いなさい。さぁ、さぁ!」
「ぐぬぬ…」
その騒がしさに思わず笑ってしまう。
鍵を開けるとその音を聞きつけたのかドタドタと足音が扉の前まで移動するのが分かる。
「ただいまー。」
「「おかえり、彩葉!」」
――家までの道のりをゆっくりと進む。
先程までの飲み屋街の騒ぎ声が嘘のように辺りは静まり返っている。
その静かさと夜風が朝日の火照った頭を洗い流してくれる。
しばらく歩くと見知った顔が曲がり角から姿を現す。
「ん、ピッタじゃん。」
「おぉ、どうだった?おでん。」
「良かったよ、そこでヤチヨと出くわしてさ~。」
「マジ?ちょっと詳しく聞かせろよ。」
「そっちもどうせ面白いことあったんだろ?」
――自らの世界に戻り、人のいなくなった道を歩く。
もうとっくに日付は変わっている。
明日も早い、さっさと用意を済ませて寝よう。
そう考えていたタロウに近づく影が二つ。
酔っぱらったサラリーマン、雉野と季節外れのロングコートを着た逃亡犯、犬塚である。
「あれ~、タロウしゃん何でこんなところに~?」
「飲み過ぎだ雉野、しっかりしろ。」
「なんだ、お前らも飲んでいたのか。」
「あぁ、それよりどうだ?この後コイツの酒抜きも兼ねておにぎりを食べに行くんだが。」
………まぁ、少しくらいならいいだろう。
「いいだろう!そうと決まればさっさと行くぞ!」
「待ってくらさいよタロウしゃ~ん。」
-おともだいしっそう-
脳人世界の最高指導者である元老院の2人は恐怖していた。
今日は仕事が早めに終わりそうだから午後はアフタヌーンティーと洒落込もうか、などと2人で話し合っていた。そんな、本来何の変哲もない1日に過ぎない筈だった。
今、そんな彼らの目の前に4つの銃口と一つの槍先が突きつけられている。
なぜこんなことになったのかというと――
その日、タロウはアキラたちと交わしたいつかの約束を果たさんとマスターに相談するためにどんぶらを訪れていた。
マスター曰く異世界から人を連れてくる場合、元老院からの許可がいると教えてもらい、早速書類を提出した、のだが⸺
「「「「却下ァ!?」」」」
そう、却下されたのである。返却された書類には確かに『不可』と元老院の判子が大きく押されていた。
「…そうか、迷惑をかけたなマスター。そろそろ仕事だ。俺はこれで失礼する。」
それだけ言ってタロウは去っていった。
返された書類を見てもタロウは動じることはなかった…ように見えたがそこそこ付き合いの長い彼らはその表情の中の落胆を見抜く。
「マスター、これってどうなんですか?」
はるかがそう聞くと読んでいた小説から目を離し、返された書類チラッと一瞥する。
「…理由としては理解できる、けど却下にするにしては少し弱い。間違いなく私怨が入ってる。」
その言葉に5人が殺気立つ。無理もない、普段他人の為にばっかり動いているあのタロウが珍しく自分の願いを口にしたのだ。しかも初めてできた人間の友達を招きたいという。
「ふざけた真似しやがって。」
「ふむ、どうする?」
「とりあえず処刑します?」
「いつもお世話になってますし、何とかしてあげたいですよね…」
「…だったら直に許可を貰いに行けばいいじゃん。マスター、この元老院?ってどこ?」
そう聞いてもマスターは何も言わない。もう情報は与えてやったのだから後は自分で何とかしろと、そう言うように視線を小説から離さない。
その態度にイラッときた犬塚が何か閃いたのか、ニヒルな笑みを浮かべはるかに話しかける。
「お前、前に一緒にドライブしてくれる人がいないって言ってなかったか?」
「確かに言ったけど、それがどうかした?」
「いや、普段マスターには世話になってるだろ?今度乗せてやったらどうかと思ってな。」
そう告げるとはるかの目がキラキラと輝く。ずっと欲しかったけど買ってもらえなかったおもちゃがクリスマスに枕元に置いてあったような、そんな純粋な喜びに満ちた表情だ。
「そっか!マスター今度ドライb「これが元老院への扉だ。ここを通ればすぐに元老院の前まで行ける。すぐ向かった方がいい。今すぐ。急いで。早く!」
一瞬で手のひらを返し、出したワープドアへ彼らを押す。その顔は普段のクールさをかなぐり捨てた必死の形相であった。
場所は移って元老院の拠点。
もともと脳人世界『イデオン』の指導者である2人だが、最後の刺客であるソノナ、ソノヤの処刑人コンビが撃破されて以降これといった大きな動きを見せていない。
今日も仕事が終わったと大きく背伸びをした瞬間、拠点の壁消し飛んだ。
その音に驚き、勢い余ったせいか背骨から嫌な音が鳴る。ギックリ腰だ。
「グッ!カッ、アァァ…!」
「のわッ⁉何者だ!」
「どうもー。」
砂煙の中から鬼に猿、雉に犬そして龍を模ったカラフルな戦士たちが姿を現す。
堂々と姿を現した彼らに元老院の2人は嘲笑混じりにここに来た用を問う。部下である脳人三人衆と仲の良い彼らなら自分たちに危害を加えることはないだろうと、そう高を括って。
「フン、驚かせおって。今更何のつもりでここに来た?」
「僕、思ったんですよ。お二方を処刑しようって☆」
そう爽やかな声で龍の戦士、ジロウが告げる。
「アァ、フゥ…処刑、だと?貴様らがか?」
そう嘲笑うものの、ギックリ腰のせいで地べたに這いつくばっており、無様を晒している。
そんな状態でも余裕を崩さず、自分たちが圧倒的に高い位置にいることを疑わない。それもその筈、ここで自分達を倒すということは脳人世界全体を敵に回すということだ。まともな人間ならそこまでのリスクを背負ってまでそんなことをするメリットはない。
「今度書く漫画でグロい描写が必要でさー、参考になるものを探してるんだよね。」
「お前らには散々迷惑をかけられたからな。お返しをするのも悪くない。」
「キミたちは少々やりすぎていたからねぇ⋯お灸を据えにきたというわけさ。」
「よ、4人とも落ち着いて下さい。僕達話し合いに来たんであって喧嘩を売りにきた訳では⋯それにこの場合、外交問題とかそういうのに発展しちゃうかも⋯」
「けどこのまま生かしておいても何の得にもならないですよ。」
まともな人間ならば。
だが彼らはドンブラザーズだ。言ってしまえば彼らはアクというアクを煮詰めてできたアクの煮凝りのような存在なのだ。そんな奴らがまともなワケがなく――。
躊躇いなど一切見せることなく各々言いたいことを言っていく。
雉野以外は既に臨戦態勢に入っている中、彼はできれば言葉による解決はできないかと足掻く。
が、
「脅しには屈さん!それに我々に手を出すということはすなわち脳人全体を敵に回すということだ。貴様らだけでなく、貴様らの身の回りにいる者がどうなってもいいということだな?」
「「「「あ」」」」
彼らはそう虚勢を張る。
張ってしまう。
次の瞬間、彼らの足元を光弾が掠める。外した?否、足を傷つけないように意図的に撃ったのだ。平凡を自称する彼とは思えないほど正確な射撃で。
「ははは、やだなぁ…僕、耳が遠くなっちゃったのかな。今なんて言いました?傷つけるって言ったんですか?夏美ちゃんを?」
その声にさっきまでの温厚な面影はなく、いつ爆発するか分からない爆弾のような雰囲気を纏う。
流石に焦った元老院は立て直そうとする。それが雉野の地雷を更に踏む事になると知らず。
「ヒィィィィィィ!?だ、だったら今すぐドンブラザーズをやめろ!もともとそんな活動に価値などないだろう⁉今回の暴挙にも目を瞑ってやる。だから⋯」
言い終わる前に今度は光弾がこめかみの辺りを掠める。
「五月蝿いなぁ、今僕が喋ってるじゃないですか。それにね、ドンブラザーズは僕の誇りなんですよ。こんな何も無かった僕にも誰かを救えたって、そう胸を張れるようにしてくれたんですよ。それだけじゃない、色々な人と縁を繋げてくれたんです。こんな僕には勿体無いくらい素晴らしい人たちとの縁を。それを今なんて言いました?価値がない?今まで散々好き勝手して『目を瞑ってやる』?許せないなぁ…」
いつもと変わらない口調だがその目には一切の容赦を感じない。ヒトツ鬼化による意思暴走ではなく自分の意志でこの2人を消すと、そう決める。
「夏美ちゃんを傷つける奴もこの活動を否定する奴もみんなこの世にいちゃいけないんですよ。」
そう言いドンブラスターをチャージし始める雉野に話しかける者が1人。
「雉野。」
「何ですか?犬塚さん。ひょっとして止めたり⋯」
「逆だ。俺にもやらせろ。お前達がせっかく手に入れた幸せを邪魔されるくらいならここで消してしまった方がいい。」
「犬塚さん⋯!」
「視界の端をウロチョロされても目障りですしね!」
「桃谷さん⋯!」
「些かやりすぎとは思うが私も反対はしない。」
「猿原さん⋯!」
「いやいや、流石にこの年で殺人は⋯⋯って、もしかして脳人って人間じゃないから殺人にはならない⋯?…⋯よし、殺ろう。」
「鬼頭さん⋯!」
その言葉が雉野の僅かに残っていたストッパーを消し飛ばした。
「皆さん⋯そうですね!一緒にやりましょう!」
なんとも心温まる光景である。これが処刑でなければだが。
一斉に放たれた光弾が元老院を穿たんと迫り⸺
「ハイ、そこまで。」
止められる。
軽々と光弾をいなして喫茶『ドンブラ』のマスターにしてトゥルーヒーローでありフォーエバーヒーロー、五色田界人/ゼンカイザーブラックが姿を現す。
「ト、トゥルーヒーロー!我らを助けて下さったのですね!なんとお礼を申したらいいか⸺」
「いいよ。」
変身を解除しながら縋りつく勢いの元老院にそう涼しげに答える。
「別にキミたちを助けるためじゃないから。」
「何で止めるんですかマスター。そいつらは生かしてたらいけない人たちなんです。はやく処理しないと。」
「別に処理するのは止めないけど、代わりの元老院見つけてからにして。それに⋯」
「"コレ"を認可して貰わないと。」
変身を解除して懐から取り出したのは新たに書き直された申請書類だった。その書類を倒れっぱなしの元老院の目の前に突きつける。
「と、いうわけで認可して。」
「いくらトゥルーヒーローの頼みとはいえその願いには頷けません。以前はこの世界の者を出し入れするだけの一方的なやり取りであったから認可できたのです。向こうの世界のものをこちらの世界に連れてきてはどんな問題が起きるか⋯」
「問題ないよ。」
「⋯今なんと?」
「問題ないよ、聞いてきたから。問題ないってさ。」
その会話に鬼頭が割り込む。
「あのー、聞くって誰に?」
「かみさま。」
そう言って微笑むマスターの底知れぬ様子に誰も追及することができないまま元老院は書類にサインをし、認可の判子を押す。マスターは認可の押された書類を満足気に見つめるともう用はないと言わんばかりに無言で背を向けワープドアを通り帰っていった。
「行っちゃった。」
「さて、もう目的は達成したわけだが、どうする?」
「まぁ、許可さえ降りればこんなトコに用なんか無いですし、帰りましょう。」
マスターが帰ったあとの5人にはもう先程までの勢いは無くなっていた。
「いやいや、まだですよ。」
この男を除いて。雉野は元老院のこめかみに銃口を突きつけたまま口を動かす。
「書類に許可が与えられようとこの2人が夏美ちゃんたちを傷つけようとしたことも、僕らを侮辱したこともまだ全然解決してませんから。」
「まぁまぁ、彼らは完全に敵というわけではないのだし、今回は書類に認可を貰ったということでここは手打ちに⸺「敵ですよ。」
猿原の仲介を遮って雉野は続ける。
「重要なのは危害を加えようとしたってことですよ。実際に危害を加えたかどうかなんて重要じゃない。コイツらは夏美ちゃんたちに危害を加えようという姿勢を見せた。その時点で僕が放っておくわけないじゃないですか。ここで生かしておいたらいつ夏美ちゃんたちに危害が及ぶか分からない。」
「それもそうですね!殺りましょう!」
「って、言ってるけどどうする?私たちとしては止める理由がないけど。」
「⋯今後諸君らに危害を加えないと約束しよう。少なくとも諸君ら身の回りの者には絶対に。もし信用できないのであれば書面でお渡ししよう。だからどうかこの場は矛を収めて頂けないだろうか。」
「⋯分かりました。」
高まっていた緊張が一気に解ける。ようやく冷静さを取り戻した元老院に1つの疑問が浮かぶ。本来、元老院に危険が迫った時、真っ先に駆けつけなければならない彼らの姿がどこにもないのだ。
「そういえば脳人三人衆は何をしているのだ。まさか我々に翻意があるのでは⋯」
「3人にはパリまでおでんを食いに行ってもらったよ。何でも豆腐のおでんが名物の店があるらしいって教えたら速攻で半休を取って向かって行ったけど。」
「⋯⋯そうか。」
ドンブラ御一行が帰ったあと、2人は荒れた拠点でアフタヌーンティーのテーブルを無言で用意し、紅茶を淹れる。周囲には瓦礫が散らかり埃が中に舞うがそんなことを気にする余裕はない。
しばらくして一息ついた頃1人が口を開く。
「⋯なぁ。」
「如何した?」
「今代の奴らに手出しするのはやめておこう。とても火傷では済みそうにない。」
「⋯そうしよう。あ、カツサンド食べるか?」
「⋯貰っておこう。」
予約リスト:
*月/r日 ・バグナラク御一行
・コーサス・ハスティー様他4名
・グローディ・ロイコディウム様
*月/n日・キョウリュウジャー御一行
タロウ…最近入ってきたバイトの指導をしてる。業務中に指輪をするのはやめてほしい。今度おでんを奢る予定。
月の飲み会…3回目辺りから芦花も参加している。
アキラ…タロウとの動画出演交渉の末、見事約束を取り付けた。
お供's…タロウがどんな人を連れてくるのかワクワクしてる
脳人三人衆…上司が命の危機に瀕している一方その頃、パリの和食屋で料理人の青年と白熱したおでんバトルを繰り広げていた。勝敗はダンプが店先に突っ込んできたことでドローとなった。
バイト…愛想はないわバイト中に指輪をつけて先輩に怒られるわでホントにどうしようもない愚図で可愛いね♡ツケの返済は完済しないギリギリを保っている。このバイトで50ヵ所目。