モンスターハンター ライズ  ~明けの双星~ Beginning   作:佐藤 磊童

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―明け、光る星二つ― ②

 カムラの里が見えてきた。

 数十年前に猛き炎の英雄が海の向こうのエルガドと交易を結んで以降、

 当時を知る竜人族たちからすれば、だいぶ人が増えたのだという。

 

 里のギルドに続く門をくぐり、赤い橋を渡りきると

一人の竜人族の女性が笑顔で迎えてくれた。

 

「おかえりなさい、ミイさん、ユウさん」

「ただいま帰りました。ヒノエさん」

 

 僕たちは全く同時にヒノエさんに挨拶をした。

 

「お二人とも相変わらず、息ぴったりですね」

「そんな事はないよ」

 

 またしても同じタイミング、同じ音域で言葉を交わす。

 僕とミイはしかめっ面を合わせて、ふんと反対方向を見る。

 

「あらあら」

 

 いつもの優しいヒノエさんの声。

 その声を聞いてようやく帰ってきたのだと実感できた。

 

 門が閉じる瞬間、強い風が周囲に流れ、

ヒノエさんの短い髪を揺らした。

 

 昔は長い髪だったらしいが、そのヒノエさんもいつか見てみたい。

 

「ヒノエさん。ザド……里長はおられますか? 大社跡で少し気になる事がありました」

「……特産キノコのクエスト中に、ですか」

 

 僕が呑気な事を考えている間にミイは、

採取したリオレウスの鱗をヒノエさんに見せる。

 

「……これは」

 

 ヒノエさんは小さくつぶやくと、いつもの笑顔を曇らせた気がした。

 

「かしこりました。それでは里長と、あとルルカさんにも話しを通しておきます」

「よろしくお願いします」

 

 ミイが頭を下げると、僕も釣られて頭を下げた。

 もう一度ヒノエさんの顔を見ると、いつもの笑顔が戻っており、

 僕は少しだけ肩の力が抜けた気がした。

 

「お二人ともお疲れでしょう。ごゆっくりなさってください」

「ありがとうございます。ヒノエさん、あとでうさ団子を作って持っていきますね」

「まぁ!」

 

 ミイの言葉に、まるで笑顔に花が咲くようだった。

 

「……よぅ、ヒノエ」

「あら、ヌコヌコさん」

 

 僕の脇をぬっとアイルーが通り過ぎた。

 

「……先日、話した件だがな、俺はもう引退する事にしたにゃ」

「そう、……ですか」

 

 何となく、僕たちが居ていい空気じゃなかったので、

僕たちはヒノエさんに軽く会釈をしてその場を去る事にした。

 

 帰路の途中、ミイが小声で僕に言った。

 

「あのアイルーさん。前の百竜夜行で旦那さんを失くしたんだって」

 

 その言葉に思い当たる節があり、思わず振り返った。

 百竜夜行で亡くなったハンターの一人。

 当時は、マスターランクでも死ぬのかと、恐怖した記憶がある。

 

「……そっか」

 

 片目のアイルー、ヌコヌコ。

 

 その後ろ姿は、とても寂しそうに感じた。

 

■■

 

 ようやく家に帰れたと安堵する。

 僕たちは軽く風呂に入り、クエストの疲れをお湯に溶かし流した。

 

「ねぇ、ミイ。いつかユクモにも行ってみたいね」

「あんたって本当にお風呂好きだね」

「場所的に近いし、いつか行ってみたいんだー」

 

 噂によるとヒノエさんと双子の妹であるミノトさんも温泉が好きらしい。

 

 僕とミイは、同じ双子というだけあって、

二人には色々とお世話になっている。

 

 だから、日ごろの感謝を込めて、二人のお背中でも流そ……。

 

「あんた、また変な事考えたでしょ?」

 

 くそ、これだから双子ってやつは。

 

 畳の上で二人して大の字で寝転がり、何でもない話をする。

 何となくだけど、幸せを感じる瞬間だった。

 

 瞼が重くなりかけた時、誰かが戸を叩く音がして

ミイがぴょんと飛び起きた。

 

「――はい?」

 

 ミイの余所行きの声に少しだけニヤついてしまう。

 

「あ、こ、こんにちは、ハンターミイ。と、……ハンターユウ」

「ルルカさん。こんにちは。どうされたんですか?」

 

 白い髪の竜人族のルルカさんが、前髪を何度も直しながら

 少しだけキョロキョロしていた。

 

 知らない人からすれば挙動不審になるのだろうけど、

里に居るみんなにはいつもの光景だ。

 

「あ、あの、ハンターミイが採取した、リオレウス、の、鱗で、ですが……」

「立ち話ではなんですから、中へどうぞ。ユウ、お茶を淹れてあげて」

「はいよー」

 

 僕もミイ同様にぴょんと飛び起き、お茶の支度をする。

 お茶請けには、うさ団子がいいだろう。

 ごめん、ヒノエさん。

 予定よりも三つ少なくなります。

 

■■

 

「――それで、話というのは?」

 

 お茶を飲み進めた頃合いを見て、ミイが切り出す。

 

「は、はい。あの、の、じじ、実は、こ、この資料を見、……てください」

 

 そういって脇に置いた古い鞄から紐でまとまっただけの

分厚い資料を取り出し、ミイに手渡す。

 更にゴソゴソとして、瓶に入った青い牙獣のものと思わしき殻を机に置いた。

 

「こ、これ、は私がち、調査依頼をした、アオアシラ……の、堅殻……で、です」

「なら、この資料はそれの調査結果というわけですか?」

 

 ルルカさんが喉を詰まらせたように無言で頷く。

 

 ……それにしても。

 あの鞄の造りは一体どうなっているのだろう。

 

 明らかに容量を超えているはずなのに、

ルルカさんもミイもなぜか気にしていない様子だった。

 

「は、ハンターミイ。あなたが採取したう、鱗ときょ、共通点があると思い、ました」

「共通点……?」

「は、ははハンターユウは、ど、どうでしょうか?」

 

 お盆を持っている僕にも話を振られた。

 

「ユウはリオレウスの死骸を見て気絶していたもんね?」

「ちゃんと起きたさ」

「どうだか」

 

 そう言いながら、僕も瓶の中の堅殻を見つめる。

 とは言っても、リオレウスの鱗をはぎ取ったのはミイだし。

 

「は、ハンターミイが持ち込んだ鱗は、全て調査に回してま、ます」

 

 つまり、現場のハンターの意見を早く聞きたいって事か。

 我ながら冴えている。

 

「……そういえば」

 分厚い資料をめくりながらミイがつぶやき、

自然と僕たちは次の言葉を待つ。

 

「普段よりも大きなリオレウス、だったように思いました。朽ちているにも関わらず、剥ぎ取りには、かなりの力を要しましたから」

 

 言われてみればアオアシラの堅殻も通常よりも大きく感じる。

 なるほど。ルルカさんの言いたい事が分かった。

 授業でも何度も習った、モンスターの異常行動。

 ミイの言いたい事は僕にだってわかる。

 それはつまり――。

 

「つまりヌシ化って事ですね!」

「ぜんぜん違います」

 

 えぇー。ちょっと辛辣?

 回答も早かったし、吃音は?

 

「え、でも急にモンスターが大きくなるなんて、他にあるの?」

「は、ハンターミイは、ど、どう思います、か?」

 

 ミイは僕が持つ素材を見つめて、視線をルルカさんへと移す。

 

「肉質変化、ですか」

「ご、ご明察、……です」

「……でもそれって」

「そ、それで、今日、ここに来たのはハンターミイに、レポートの提出をお願い、したいと思います」

「あー……、いつもギルドに出している分とは他にって、意味ですよね……?」

 

 ルルカさんは、再び何かを呑みこむような仕草で頷き、ミイが溜息をした。

 何でもできる=何でも得意という訳ではないのだ。

 

「ユウ。あんたも手伝うんだからね」

 

 まだ感情を顔に出す前に釘を刺された。

 これだから双子ってさ。

 

 それからルルカさんは、レポート作成に必要な資料を

僕たちの家に置いてギルドへと帰っていった。

 

 期日は「本日夜の集会まで」という言葉を残して。

 

「……ねぇミイ。この山のような資料、どうやってあの鞄に入れていたんだろうね」

「さぁ?」

 

 僕は天井にも届きそうな程の量の資料の山の前に

ただただ唖然としていた。

 ミイはというと、既に資料の読み込みを開始しており、

それどころでは無さそうだった。

 

 ハラリと降ってきた資料の一枚を手に取る。

 

 そこには【狂竜ウイルス】についての、詳しい記述があった。

 難しい事はミイに任せて、とりあえず僕はお茶を淹れ直そう。

 これが本当のお茶を濁す、なんてね。

 

 ――その日の夜。

 

 ミイが提出したレポートを基軸に、ルルカさんの発言が物議を醸す。

 

 僕たちは思い知る事になる。

 幸せは長く続かないのだと。

 ザドが言った円環。

 その言葉の重さ、そして意味を――。




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