癖強ヒロインはお好きですか?   作:阿木アミ

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2.天才クライシス

(終わった...)

 

学園生活、ひいては人生が終わってしまうかもしれない。そんな恐怖が頭の中を駆け回っていた。

 

 

──「なら、今日の放課後、この教室に残っておきなさい。話があるわ!」

 

(なんで私なんだよ!!)

 

あの発言の意図が分からない...そもそも私には西屋敷さんの考えてることが分からない!!

 

(もしかして...)

 

『あなた、見るからに陰キャって感じですわね。口数も少ないし内気な感じです?だったら丁度良いわ、私の下僕になりなさい!!』みたいな!?

※静の想像です

 

 

 

そんなこんなで悶々としていたら、あっという間に今日の授業は全て終わり、放課後になってしまった...

 

(さよなら現世、はじめまして地獄...)

 

今の間にこの世界とのお別れを済ませておこう。何されるか分からないのだから。

 

「さて、皆さん空気を読んでくれましたわね。従順でありがたい限りですわ」

 

「...で、えっとなんで私だけを...?」

 

「そんなの決まっていますわ。わたくしの目的のためですわ」

 

(目的!?目的って何!?秘密裏に裏社会から恨みを買っていて今から処理されるの!?)

 

「その綺麗な紺色の髪。少し茶の混じった瞳。そして何より顔立ちとスタイルの良さ。ピッタリですわ!!」

 

「なんで急にそんなこと...?」

 

「まだわたくしの言いたいことが分からないのです?まぁいいです。単刀直入に申し上げます。」

 

 

 

「わたくしと一緒に、お嬢様部を立ち上げましょう!!!!」

 

 

(は?)

 

お嬢様部...?何を言っているんだ、この人は。彼女が発した言葉に理解が追いつかない。お嬢様部...?

 

「な、なんで私なんですか?」

 

「さっきも言ったでしょう。その容姿と立ち振る舞いよ。少し声を発する時に詰まるのを直せば、とても上品になるはずよ。わたくしには及びませんが、お嬢様となるにはもう十分!ほかのモブなんかよりも何千倍もいいのですわ!!」

 

「不安でしたの!わたくしこの学校について調べていた時、『部活動の設立には2名以上の部員がいること』と書いてあったのですから、わたくし1人ではお嬢様部を立ち上げることが出来ないですわ!と」

 

「あの、そもそもお嬢様部って...一体...」

 

「読んで字のごとくお嬢様になれる部活動ですのよ!」

 

「説明になってません...」

 

「とにかく!やってくれますか?」

 

今朝の人と同一人物とは考えられないほどに目を輝かせ、こちらの返答を待っている。

 

「ぐっ...ぐぅ......わ、わかりました。やります...」

 

 

* * *

 

 

(クソゥ!!!!なんでなんでなんでなんであんな選択を...!いや仕方ない、断ったら何されるか分からないから!!…だとしたって、青春の舞台の1つである部活動を、こんなキテレツな部活に!!)

 

押しに弱いというのは昔から常々分かっていたことではあるが、こうも...弱いとは...!

 

(でももう、全部決めたことなんだよなぁ...シクシク)

 

日も昇ってきた教室でそんな事を考えていると、先生が一言。

 

「今日は一時間目に校内探索があります。まぁ目立ったものはそんくらいかな?今日から授業が始まるから張り切ってこー!」

 

大山先生元気だなー。正直言って羨ましい。だって私は...

 

「校内探索楽しみですわね、静」

 

(こいつがいるから!!)

 

朝から妙にベッタリだ!まるで見つけた獲物を逃がさないハンターのように!てかこいつ今日もドレスかよ!!

 

(なんか妙に目立つ...私は平凡でも楽しい青春を送りたかっただけなのに!!)

 

愉快ではあるが、楽しいかと言われると...というものだ。地雷が真隣にピッタリくっつきながら生きているみたいなものだ。

 

「そうですわ、静。貴方、まだわたくしとJine繋いでないですわ。後で繋ぎましょう?」

 

「お嬢様ってJineとかで連絡するんだ...」

 

「わたくしと静は部員以前にお友達ですもの。Jineで連絡するくらい当然のことでしてよ」

 

「友達なの!?」

 

「えっ、友達じゃないと?」

 

「あっ、いや友達!トモダチ...」

 

「なら繋ぎましょ!」

 

お嬢様から傍若無人だけを抽出したようなやつだ。こいつは。

 

 

 

そんなこんなでやっていると、校内探索が始まった。

この3年間でこーんなにも広い学校で暮らすと考えると、少し持て余してしまいそうな気もするほどだ。

校内を回っている中で大体の構造を理解することはできた。だが一つだけ疑問がある。

 

(研究室ってなんだ...理科室も中棟にあるし、別物なのか...?)

 

そんなことを言っていると件の研究室の前へとたどり着いた。

 

ドアから覗き見てみると、いかにもと言ったように真っ平らなテーブルがいくつかと、その上にフラスコや実験器具が置いてある。ただイメージと違うのは、思っていたより散らかっていることだ。

 

(学校の教室...というより一個人の部屋みたいな...)

 

そうやって覗き見ていると、奥のテーブルから動きが見えた。

 

「あぁどうも〜。入っていいよ〜?」

 

そこに居たのは昨日の朝見た小鳥さんであった。

 

「あー、この前言ってた校内探索だろう?いつもよりは片付けといたからよーく見とくんだよ。あ、あんまり机の上の物はいじんないでね〜。ワンチャン爆発するから」

 

ニヤニヤしながら物騒なことを言うもんだ。てかそんな危ないもん外に放っておくなよ。

 

「そんな危ない物を何故雑多に置いているかって?」

 

(バカな...!心を読まれた...!?)

 

「大体ここは私しか使わない教室だからね。というより誰か来てくれてもいいんだけど誰も近寄って来てくれないから、1人というだけだよ」

 

「ホント、寂しいよ...ということで1年ちゃん、誰かここで私と一緒にどデカ〜い研究をしようじゃないか!!待ってるよ〜」

 

急に宣伝に舵を切られた気がする。

 

(まぁ確かにこんなフランクな先輩とか、爆発するかもしれない〜とか言われたら気になるものではあるが、私には白葉に強制的に誘われたお嬢様部の面倒で手一杯だしな...私から近寄れることはまず無いだろぅ...)

 

「それと、そこのまともちゃん。あ〜〜、矢ノ中静くんだったか〜?こっちの方が伝わるよね〜」

 

「あっ、私!?」

 

一斉に私へと視線が集まる。今回は隣の白葉に...とかではなく、私に集まっている。なんか悪目立ちな気がするが。

 

「あーやっぱり君だった!ちゃんと顔が見えなくてね。こうやって判別するしかなかったんだ。じゃなくて...今日の放課後、君さえ良ければここに来てくれ。まだ部活も始まっていないだろう?うちも認められてはないが科学部みたいなものだからね。まぁ最終的な判断はあくまで君に任せるよ。来るも来ないも君次第〜」

 

とりあえずこの場ですぐ判断できなかったため、ここは一旦会釈を返しておくことにした。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

正直気にならない訳ではない。

爆発する薬とか少々怪しい匂いもするが興味がない訳では無い。だがまぁ、1つ問題がある。

 

「静、先程の方は一体...」

 

このお嬢様の事だ。

 

「あぁ...あれは昨日の朝、廊下でぶつかった人で...その時に少し目をつけられたのかもですね...」

 

嘘を言ったら余計悪い方向に話が進みそうだし、ここは昨日の事を正直に話そう。

 

「...静は行くのですか?」

 

(あれ?)

 

私はてっきり『ニガサナイ...』みたいになる...と思っていたが、随分柄にもない悲しげな表情をしている。意外とそこらへん繊細だったりするのか...?そもそも会ったばかりで白葉という人をあまり分かっていないというのが正しいか。

 

「まだ部活も始まってないし...出来るなら行きたいかなぁって感じ...です」

 

相手の出方を伺う。すると白葉は少し間を空けた後、

 

「そうですね。まだ部活も始まっていませんし、そもそもわたくしに静の行動を強制させることは出来ませんの。」

 

「そ、それもそうですね」

 

「あと敬語はいりませんわ!友達ですもの」

 

「は、はい!分かりました!」

 

「敬語抜けてませんわよ。まぁ無理はするものではないでしょうし静のペースでしてくれたら嬉しいですわ」

 

「分かり...ました」

 

 

* * *

 

 

授業も終わり、今私は研究室の前にいる。件の先輩の件だ。

 

「失礼します!」

 

 

「うーん...」

 

1つそう言いながら入ると、小鳥さんが何やら机に顔を押し当て、悶々としている様が見えた。その前にはパソコンが置かれており、小鳥さんの頭を照らしている。

 

「えっと、言われた通り来ました...?」

 

そう言っても小鳥さんに動きはない。仕方が無いので少しツンツンしてみる事にした。

 

「ん...ん?あ、あぁ!来ていたのか...すまないね、恥ずかしいところを見せてしまって」

 

「いえ、大丈夫です。ところでこれは、今何を...?」

 

「そうだねぇ、せっかく来てくれたんだし教えようか。これはねぇ?記憶を消すペンを作ろうとしているんだよ。メン・イン・ブラックの...」

 

………

 

「マッドサイエンティスト!?あっ」

 

あまりの事に思わず声に出てしまった...!!

 

「マッドサイエンティストか...あながち間違っちゃいないかも〜?まぁ安心したまえまえ、まだまだこれはアイデアの範疇に過ぎないから」

 

「す、すいません!」

 

「何を謝ってるんだい?」

 

「いや、その、失礼な事を、言って...しまって...」

 

「全然全然!失礼なんて思ってないよ。むしろしっくり来るね...しっくり来ていいのか?」

 

「自分でもわかってないじゃないですか!」

 

「まぁいいよ〜。それくらい突っかかってくれる後輩の方が私は好きだぞー」

 

「あー...あと、敬語はいらないよ。ちょっとむず痒いからね〜、私に敬語なんて...」

 

「それはどういう...」

 

「あーいや、こうなんか...癖があるだろ?こんな癖ある先輩に敬語使うなんて意味ないぞー...的な」

 

「そう...ですか」

 

「まぁ、できる範囲で敬語は抜いてくれると気持ち的に助かるな」

 

何か彼女なりの事情があったりするのだろうか...?

 

「そういえば、なんでそんな記憶を消すペンを作ろうと思った...の?」

 

タメ口を使うような関係が今まであまりなかったせいか、敬語を抜く事にもどかしさを感じる。

 

「それは単純だよ。静はアニメを見たことがあるかい?」

 

「えっ?まぁそれなりには...」

 

「例えば、某猫型ロボットのどこでもドアとか、通りぬけフープとか。ああいうものって空想上の存在で”ここ”には存在しえないだろう?」

 

「そうですね?」

 

「でも私は、それをまだ見つけていないだけに過ぎないと思ってるんだ。人類は、数億年。いや数万年の中で宇宙の構成すら予測できるようになった。それなら、いずれその空想の存在も作ることができるんじゃないか?ってね。そういう夢なんだ」

 

「随分と壮大な夢というか...」

 

「呆れたかい?」

 

「そんなことないですよ!ただ、それが叶ったら楽しいだろうなぁって」

 

無垢な少女がプリキュアの存在を信じるように、大体の男児が仮面ライダーに憧れるように。そんな幼稚だと言われるような夢に、この人は希望を見出し、実現させようとしているのだろう。

 

(私だってそうだった。憧れて、諦めた。それを諦めずに続けるなんて、並大抵の覚悟じゃ出来ない)

 

「本当にすごいなって...」

 

その覚悟が少し私の胸に響いたのかもしれない。

 

「な、なんだい?褒めたって出るのはアイデアくらいだよ?」

 

「アイデアは出るんだ」

 

「まぁね」

 

 

 

「じゃあ、そこで座っててくれ」

 

「え?何か手伝うとかしなくてもいいんですか?」

 

「んーまぁ必要になったらその時よ。私は話し相手が欲しいだけだからね。話してたら新しいアイデアも出るかもだし」

 

「あぁもちろん、もうちょっと現実的な研究がしたいとかだったら、勝手にしてくれても構わない。こっちの研究に影響が出なければね」

 

「私はなんか壊しそうなのでやめときます...」

 

…自分から話を作るのはとても難しい。さっきからずっと受け身で話していたぶん、まだ私はこの人に自ら話を振る経験がないままなのだ。

 

(そういえば...)

 

「さっき入ってきた時、頭抱えて唸ってませんでした?」

 

小鳥先輩について何も知らない分、「何も知らない」ということから話題を振ることが出来る。我ながらナイスアイディアだ。

 

「あ〜、そーうなんだよねぇ...」

 

「今再開しようとは思ったんだけどさぁ?その、構想だけ浮かんでどうしたら実現できるかを後回しにして、やってみたい!って気持ちだけで色々...進行しちゃって」

 

「キャラ設定だけ思いついて肝心の本文書くのが面倒になった〜みたいな?」

 

「大体そう!てかそう!どうしたものか...それを考えるのが私なんだが」

 

「記憶を消す、というのに近いのだと記憶喪失とか健忘症とかありますよね」

 

「そうだな...そうだ!その要因を擬似的に発生させればいいんだ!」

 

そう小鳥先輩が発すると、急にアホ毛がピンと立った。更に光を反射しているかのように光り輝いている。

 

「えっと...つまり?」

 

「2つとも脳への強いショックによって引き起こされるんだ!だからそのショックを起こすことが出来る機構を作ってそれをペンの中に仕込めばいいんだよ」

 

(それが出来るなら苦労はしないと思うんだが...まぁいいか)

 

「少し考えてみるよ!今日中に機構の設計図くらいは出来るはずだから、もう少し付き合ってくれないか?」

 

今まで以上に大きな声で迫られる。断れない...!!綺麗な形の枝を自慢げに見せてくる幼稚園児みたいな、キラッキラな目で迫られてるんだから!!

 

「私も時間はありますし、ここにいますよ」

 

「本当かい!ありがとう静!君に迷惑をかけないためにも、早めに終わらせるとしよう」

 

「自分のペースでいいと思いますよ。失敗したらそっちの方が時間かかっちゃいますし」

 

「そうか。なら...ゆっくりやるとしよう」

 

 

* * *

 

 

そうして私と小鳥先輩とで研究をすすめた...といえどさっきも言ったように私は何も手伝っちゃいない。なんなら趣味とか好きな漫画とか、そういう話で盛り上がってばかりいた。私からすると、漫画研究会にでもいるような気分だった。

 

「よし、設計図はできた。キリもいいし、ここでもう終わろうか」

 

「本当に話聞いてただけで良かったんですか?」

 

「それでいいんだ、いやそれがいいんだ。近くに人がいるってだけで意外と作業の楽しさは変わるものよ〜〜」

 

ほんとにこの人は変な人だ。

 

「じゃあ私は片付けとかもあるし、先帰っときな〜?私は最悪、最終下校間に合わなくても許されるだろうけど〜、新入生の君が初っ端から傷付けちゃいけないからね〜」

 

「分かりました。今日はありがとうございました!!」

 

「あっそうだ、ちょっと待って!」

 

「なんですか?」

 

「そのだな。恐らく3日後くらいには完成するだろうからまたそのタイミングで来てくれ。静のためなら急いで間に合わせて見せるからさ!」

 

「はい!」

 

「じゃ〜、ばーいばーい」

 

 

 

(3日後か...とりあえずはいとは言ったけど、お嬢様部とかいうのに付き合わされなきゃ行けるけど...)

 

部活はさっそく明日から始まるらしい。といっても本来はこの期間は仮入部が出来るようになるというだけで『色んなとこに仮入部して慎重に吟味しましょうね〜』期間なはずだった。まぁ私はそうではなくなってしまったのだが。

 

(はぁ...少なくとも1年はお嬢様部とかいうものに囚われるのか...一応抜けれるとは思うけど、いろいろ気まずいし、それ以前に何起こるか分かんないからしない方がいいな。うん)

 

時間は進む。

それは誰にだって例外なく、ここに生きている限り進んでいくのだ。明日に憂鬱な気分を持っていたとして、はたまた明日をとても楽しみにしていたとして。どちらにも同じように時が進む。そんな分かりきっている常識に頭を抱えつつ、私は家路をまっすぐ辿っていった。

 

 

 

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