貞操逆転世界でクールな先輩にオスガキムーブかましてたら普通に押し倒された   作:しゃふ

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1話 センパイとオスガキ

 

「ねー、センパイ。

 いつまで本なんか読んでるんですかぁ?

 僕、つまんないですけどーっ」

 

 文芸部、部室。

 静寂に包まれたこの空間に、実に似合わない猫撫で声を発している存在。

 

 ――それがこの僕。桜井天音である。

 つい数日前に二年生になったばかりの高校生。

 世間一般で言うところの花のDKというやつだ。

 ド○キーコングじゃないよ。

 

「これ読んだら相手してあげる。

 それまでは、膝の上でじっとしてて」

 

「えー、もっと別のことしましょうよ。

 ……ほら、アレなんてどうです。

 細長いお菓子を二人で咥えて、先に離しちゃった方が負けってやつ」

 

「お菓子はゆっくり食べた方が美味しい。

 ……それに、食べたいなら私があげる」

 

 そして、そんな僕に対して餌付けをするかのように頭を撫でる存在。

 

 ――それが彼女。

 センパイこと、夏目千里だ。

 

 センパイと僕の付き合いは大体一年ほどになる。

 特にやりたいこともなく、ひたすらに楽そうな部活を探した結果、行き着いた先。文芸部。

 

 そこにポツリと佇んでいたのがセンパイである。

 

 センパイと一緒にいるのは楽しい。

 端的に言えば気が合うのだ。

 互いに人付き合いというものに大して興味がなく、自由奔放なもの同士。一緒にいて楽なのだろう。

 

 高校生というのは普通に過ごしているだけで浮ついた話に囲まれることになる。

 

 特に、僕の場合は色んな事情があって、そういう話に触れることも多い。

 

 ……好きじゃない話に付き合うのは苦痛だ。

 

 その点、センパイと話すのは楽しい。

 彼女も彼女で恋愛話とかに興味がないようで、そういった面倒くさい話をしてくることはないからだ。

 

 ……まぁ、一つだけ不満はあるんだけど。

 

「ほら、食べなよ。天音」

 

「……むー、子供扱いしないでください」

 

 僕はそうは言ってみるが、口に差しだされたお菓子をふいにする気はない。

 

 もぐもぐと口を動かせば、甘い食感が口中に広がる。

 ん、おいひい。

 

「天音は美味しそうに食べるね。

 今度、お昼ご飯作ってきてあげようか」

 

 そう言って、彼女はまた僕の頭をぐりぐりと撫でだす。

 

「ちょっと、あんま触んないでください」

「……ん、ごめんね。天音」

 

 ……不満とは、これのことだ。

 センパイは僕のことを完全に子供扱いしている。

 

 失礼しちゃうものだ。

 年の差だって、たった一歳分だけなのに。

 

 確かに背はセンパイの方が高いけど……だいぶ高い気もするけど、僕だって成長期だ。

 その内、追い抜いて大っきくなるに違いない。

 

 だけど、背が大きくなるのを待つのは時間がかかる。

 

 ならば、どうすればこの子ども扱いを止められるのか。

 

 ……そこで、僕はある秘策を編み出した。

 それは、子供扱いを逆手に利用したある戦略。

 

 ――オスガキである。

 

 

 ……いや、僕もあんまり知らないんだけど。

 この世界にはそういうものがあるようだ。

 

 生意気そうに、女の子をからかう子供のことをこの世界ではそんな風に呼ぶらしい。

 

 意外と熱狂的なファンも多く、うちの姉もその一人である。

 彼女にはオスガキとして心得はバッチリと叩き込まれた。

 

 ――それも全て、センパイの余裕ぶった牙城を崩すためである。

 

「明日、作ってきてあげるよ。お昼ごはん。

 だから、昼休み、部室に……」

 

 そう彼女が言おうとした瞬間。

 僕は両腕を伸ばして、そっと、彼女の頬に当ててから、

 

「――天音?」

 

 心の中のオスガキを呼び起こした。

 

 

「えーっ?

 センパイ。そこまでして僕に手料理を食べさせたいんですかぁ? あ、もしかして、アレです?

 男を落とすためにはまずは胃袋からとか、そういうことですかぁー?

 いやだなーっ? 僕、そんな軽い男じゃないんですけどっ?」

 

 軽薄に、煽るように、品性を捨てて。

 僕は少しトーンを上げた高い声をセンパイの顔に向かって放つ。

 

「……べつに、そんなんじゃないけど」

 

「いやいやぁ? そんなに顔を赤くして言っても、説得力ないですよぉ?

 あ、ちょっとぉ、そんな、お菓子詰め込まれても、はむっ、ぼくは、はむ、なっとくしませんよぉ」

 

 ……もちろん、これは冗談である。

 本気で言っているわけではない。

 放つ言葉も彼女の顔色を少しでも変えるため、調子の良いことを言っているだけだ。

 

 とはいえ、やってみると楽しい。

 

 最初の方は恥ずかしさもあったが、最近はもう立派なオスガキとしての勤めを果たせるようになった。

 

 天国の母さん。

 貴方の息子は立派なオスガキになりましたよ。

 

 ……墓参りのときに殴られそうだな。

 

 そんなことを考えつつも、僕の中のオスガキは止まることを知らない。

 僕は続けて、言葉を紡ぎだす。

 

「ねぇねぇ、センパイ。

 そんなに一緒にご飯食べたいなら? 僕がセンパイの教室に行っちゃいましょうかっ?

 ふふっ、センパイのお友達とも会ってみたいですしぃ?

 ……あ、ごめんなさい。センパイはお友達が僕しかいないんでしたねーっ?」

 

 センパイがいつも教室で寂しそうにしているのは知ってるのだ。

 まったく、恥ずかしがらず僕を呼んだら良いというのに、センパイの意気地なしめ。

 

 ……まぁ、こう言うことを気軽に言えるのは、僕とセンパイの関係性をよく表していると思う。

 互いに遠慮がないというか、距離感が近いというか。

 仲が良い、と言うのは少し違う気もするけど。

 

「……」

 

 ――だけど、あれ?

 

 なんかさっきから反応が悪いな。

 センパイ?

 

 僕は少し不穏な気配を感じつつも、声色は弱めず、話し続ける。

 

「――ちょっとー、無視しないでくださいよっ。

 ……センパイ? なんで黙ってるんですか?」

 

 僕の声を聞いても、センパイは何も言わない。

 それどころか、視線が別の方に向いている。

 さっきから、僕の方を見てくれない。

 

 ……もしかして、怒ってしまったのだろう、か。

 

「え、えっと、怒っちゃいました?

 も、もう、このくらいで怒るなんて、その……センパイ。何か、言ってくださいよ」

 

 いつまでも黙っていられると、少し心に来るものがある。

 

 センパイは、あまり表情を見せない。

 いつもは何も言ってこなかったけど、もしかして、本気でこういうのを、嫌がってたりするのだろうか。

 

「と、友達いないとか、言っちゃったからですか?

 えっと、その、ごめん、なさい。

 センパイのことを、悪く言うつもりは、なかったん、です」

 

 そう、思って、僕がビクビクと手を動かしていると。

 不意にセンパイの口が開く。

 

「――人、来てるから」

「え?」

 

 センパイの言葉を聞いた僕は慌てて、部室の扉に目を向ける。

 すると確かに、扉の前がガヤガヤと騒がしくうごめいているのが見える。

 

「ほ、本当ですね。

 あ、だから黙ってたんですかっ!」

「うん」

「もうっ、それならそうって言ってくださいっ!」

 

 ……良かった。

 センパイに嫌われたわけじゃなくて。

 

「……私が見てこようか?」

 

「いえ、センパイが行ったら絶対怖がられるので駄目です。

 ここは僕が行ってきましょう」

 

 そう言った僕はセンパイの膝から降りて、扉へ向かう。

 

 背中に感じる視線はセンパイのものだろう。

 なんだ、心配でもしてるのか。

 

「大丈夫ですよ。

 僕はセンパイと違って、コミュニケーションがお上手ですので」

 

 僕は一言そう呟いてから、ドアノブに手をかけた。

 

 

 扉を開けると、そこにいたのは制服を纏った少女たちだった。

 えーと、ネームプレートの色からして、新入生か。

 

「……あ」

 

 僕の姿を見た少女たちは、バレたとでも言いたげに身を固めだす。

 何だ、覗きでもしてたのか?

 

「えっと、何の用かな?」

 

 訝しげな視線を向けながら、僕は彼女たちに問いかける。

 

「え、あ、こ、この子が。

 桜井先輩の見学に行きたいって言ってて、

 私はその付き添いで、えっと……」

 

「ちょ、ちょっと、裏切らないでよ。

 違うんです、先輩。

 あの、別に覗きとかじゃなくて、部活の見学がしたくて」

 

 慌てて弁明するように手を振る彼女たちを見て、僕の頭にポンと納得の音が響いた。

 

「――あ、君たち新入生か」

 

 たぶん、文芸部の見学に来てくれたのだろう。

 去年は僕以外に見学に来た奴なんていなかったのに、今年は凄いな。

 

「ごめんね、見学はまだしてないんだ。

 えっと、多分来週から始めるのかな?」

 

 ただ、見学の準備はまだ出来てない。

 そういえば、パンフレット的なやつを作ろうと思って忘れていた。

 今度センパイと一緒に作らないといけないな。

 

「そ、そうなんですか。

 わかりました。なら、また来週、来ます」

 

「あ、待って。せっかく来てくれたんだしさ。

 僕が話せることなら話すよ。

 ……部室の中に入るのは、ちょっと駄目だけどね」

 

 せっかく来てくれたのだ。

 追い返すのも忍びない。

 中に入れるのはセンパイがうるさいから駄目だけど、廊下で軽く話すくらいならいいだろう。

 

「そ、それなら、ひとつ、聞いてもいいですか?」

「ん、なに?」

 

 そう言うと、集団のうち一人が手を挙げて、聞いてくる。

 

「――せ、先輩は、お付き合いしている人はいますか?」

「ちょ、ちょっと、なに聞いてるのっ!?」

 

 疑問が発されると同時、甲高い声が廊下に響きわたる。

 ……まぁ、質問が質問なだけに仕方ないか。

 

 やはり高校生というのはこういう話が好きなんだろうか。

 

 回答に一瞬困ったが、下手に嘘をつくのも気悪い。

 なので、僕は素直に答えることにした。

 

「彼女はいないよ。

 ……今のところは、ね」

 

 彼女らにそう告げた後、僕は部室の中に戻る。

 

 背を向けた廊下から聞こえてくる声は止まない。

 ……しばらく、うるさくなりそうだな。

 ドアをガッチリと閉めた後、僕はセンパイの元へと向かった。

 

 

 

「……ほんと。君はネコを被るのが上手いね」

 

「――あれぇ、もしかしてセンパイっ?

 盗み聞きしてましたかぁ?」

 

 部室に戻ってすぐ、センパイに腕を掴まれる。

 なんだなんだ。話を聞いていたのか?

 ほほうほうほう。

 

「……してない」

 

「嘘ですよねっ?

 あ、もしや僕が女の子たちと喋るのを監視してたんですかぁ? もう、そんなことしなくても、後でいくらでも教えてあげるっていうのに」

 

 センパイの顔を見る。

 すると、いつも固まっている彼女の眉がピクリと動いたのが見えた。

 ……お、効いてるぞ、これ。

 

 そう思った僕はオスガキとして本能を呼び起こし、彼女の耳元に近づき、囁く。

 

「――僕とあの子たちがどんなことを話したのか」

 

 

「……ほんとに。

 そうやって人を揶揄うのは君の良くないとこだよ」

「そんなの分かってますよっ?

 だから、センパイに対してだけするんじゃないですか」

 

 僕がこういう態度を取るのはセンパイの前だけだ。

 理由は単純。

 一般人にオスガキなんてやったら、ドン引かれるから。

 

 ただ、理由はもう一つある。

 

 ……センパイだけなのだ。

 僕がこんなに色々やっても、表情を変えてくれないのは。

 

「……本当に。

 私にだけなんだよね」

「ふふっ、さぁ?

 どうでしょうねぇ、センパイ?」

 

 この世界に来てから、色んな人と出会ったというのに。

 センパイだけは、僕のことをただの後輩としか見てくれない。

 

「なんせ、僕はモテモテですからねぇ」

 

 言い放ったセリフは一見自慢にも聞こえる言葉。

 だけど、それこそが僕がセンパイに抱いている、この何ともいえないこの感情の原因だろう。

 

 そう。僕はモテるのだ。

 

 ……あ、別にナルシストとかそういうんじゃないからね。

 ただ、世界の構造がそうなってるってだけの話である。

 

 

 ――中学の頃、目を覚ますと世界が綺麗さっぱり変わっていた。

 

 何が変わったのか。

 

 端的に言うと、世界から男が80%消えた。

 そのせいで男女比がバグった。

 それで、男女の関係性もおかしくなった。

 

 クラスで馬鹿な話をするのは女の子の方だし、体育のときに人目を気にせず着替えるのも女の子。僕が寝ていると変な視線を向けてくるのも女の子である。

 

 そして、男が少ないとなれば、必然的に男というだけで価値が出てくる。

 

 だから、類い稀なる美少年でも、運動や勉強に長けているわけでもない僕ですら、そこそこの歓声を浴びることになるのだ。

 

 とんでもない現実だが、僕以外のみんなはそれを当たり前のように受け入れている。

 

 変な世界だ。

 だけど、もう来てから何年も経っている。

 正直慣れたし、なんなら飽き飽きしてきている。

 

 つまらないのだ。

 誰と話しても似たような反応されるし、面倒くさい痴話喧嘩は起こるし、まともな友達も全然できないしで。

 

 ――まぁ、センパイと話しているときは、例外だけど。

 

「ねっ、センパイっ」

 

 そう言って、僕はセンパイの肩に手を置く。

 

 椅子に座っているというのに、僕とセンパイの身長はほとんど差がない。

 僕がちっさいのか、センパイがおっきいのか。

 それかその両方か。

 

 ……まぁ、センパイがおっきいのだろう。

 たぶん。

 

 頭の上にあるずっしりとした感触に、えも言われぬ気持ちになりながら僕は彼女に視線を向ける。

 

「……もういい。私は本読むのに戻るから。

 天音は好きにしたら」

 

「えー、つれないなぁ。

 もっとお話ししましょうよ」

 

 彼女に向かって手を振ってみるけど、センパイは本に夢中なのか、反応してくれない。

 

 ……いつもこうだ。

 センパイは自分から僕を近づけるくせに、いざ僕が寄っていくと離れてしまう。

 

 いつもの僕なら、こういうとき、しゃーなしでセンパイの本を覗くか、無視してウザ絡みを続けるかのどちらかである。

 

 でも、今日の僕は違う。

 ふふふ、こんなこともあろうと、今日の僕は対抗策を持ってきたのだ。

 

「――あ、そうだぁ。

 今日はセンパイに、とっても大切なお知らせがあるんでした」

 

 それは、センパイに僕の方を振り向かせるための魔法。

 昨日の夜。運動不足でガチガチに固まった身体を無理やり動かして作り出した、

 

 ――キスマークである。

 

 そう、僕のお腹に下の方にソレはある。

 真っ当な恋人関係ならまず付けないであろう位置に刻まれた赤い愛情は、さっき確認したときもくっきりと残っていた。

 

 ……いや、もちろん。誰かにつけてもらったわけではない。

 そこまで破廉恥な奴ではないぞ、僕は。

 

 昨日の夜に姉から口紅を借りて、自分でつけたのだ。

 とびっきり派手なやつを借りて。

 

 ……あー、思い出しても痛くなる。

 お腹にキスするのはきつかった。

 身体が柔らかい方ではないし、口紅の羞恥心とかより、そっちの方がよっぽど痛かった。

 

 てか、ほぼセルフ○○だし。経験者なら分かると思うが、一般人がアレをやるのはかなりきついのだ。

 ……あ、そういう趣味はないよ? 勘違いしないでね?

 

 変なことが頭によぎった僕は、気晴らしのため、ゆっくりとセンパイの耳元に顔を近づけていく。

 

「……知ってますかぁ? センパイ」

 

 少し、息を混ぜた囁き声。

 軽薄さの中に、少しの妖艶さを含んだ声はセンパイの耳に溶けるように入っていく。

 

 相変わらず動かない彼女の表情。

 それを確認した僕は、勝負開始だと言わんばかりに、彼女に対して宣言を行う。

 

「――僕、最近彼女できたんですよぉ?」

 

「……は?」

 

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