貞操逆転世界でクールな先輩にオスガキムーブかましてたら普通に押し倒された   作:しゃふ

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11話 好きな人

 

「天音、お菓子、食べる?」

「んむ、もうたべてまふ」

 

 文芸部部室。

 久しぶりの部活は、センパイと一緒にいれる貴重な時間だ。

 

 机に置いてあるチョコ菓子を貪りながら、僕はセンパイの膝の上を満喫する。

 

 ……いや、べつにいいでしょ座っても。

 センパイの方から言ってきたんだし。

 

「天音は食いしんぼだね。

 そんなに食べると、まん丸になっちゃうよ」

「んぅ、ぼくは太らない体質なのでいいんです」

「そうなんだ、可愛いね」

「どこがです」

 

 お腹の辺りに、センパイの手を感じる。

 今日は服の中に手をいれたりはしてこないけど、相変わらず距離は近い。

 

 あったかいから、退けようとは思わない。

 センパイの手は、嫌いじゃないし。

 

 ただ、こうも近寄られると、やはり。

 ……あのときのことを思い出してしまう。

 

 ――ほんと、色々あったな、最近。

 

 ちゅーされたり、噛まれたり、またちゅーされたり。相変わらずセンパイはヘンタイである。

 まったく、僕じゃなかったらとっくにブタ箱に突っ込まれてるんじゃないだろうか。

 

「なに、天音」

「……なんでもないです。

 センパイがエッチな人なのは当然のことなので」

「……急にどうしたの。

 べつにエッチじゃないし」

「どの口で言ってるんです。

 散々、ヘンタイみたいなことやっておいて」

 

 僕は煽るように声を放つ。

 ふふん、僕はオスガキだし、このくらい言うのは当然である。それにヘンタイなのはほんとだし。

 

「天音は、嫌だった?」

「……そうは言ってないじゃないですか」

「そっか」

 

 すると、僕の声を聞いたセンパイが、モゾモゾと動き出す。

 

 ま、まさか、また、されるのか?

 

「な、なんです、センパイ?

 す、するなら、もっと、隠れたとこじゃないと、また、見られちゃ……」

「なにもしないよ。

 私、ヘンタイじゃないし」

 

 そう言うと、センパイは僕のお腹から手を退けてしまった。どうやら、さっき動いてたのはこのためだったらしい。

 

 ……なんだ、つまらないの。

 

「はい、あーん」

「ひゃ、はむ、ちょっと、せんはい」

 

 まるで餌付けのように、細長いチョコ菓子が口へと運ばれる。

 うー、やられっぱなしである。

 

 反撃しようにも、センパイの身体でぎゅっとホールドされている僕の身体は動きそうにない。

 

 ……仕方ない。

 僕は餌付けを受け入れ、話を変えようとセンパイの方へ顔を向ける。

 

「そういえば、今日、見学が来るんでしたね」

 

 部活の見学期間は今日からだったはずだ。

 まぁ、こんな辺境にわざわざきてくれる子がいるかは怪しいけど。

 

「……私、隠れとく。

 たぶん、怖がられちゃうから」

「それはそれで出てきたときにビビられません?」

 

 僕の言葉を聞いて、センパイは少し難しげな顔をしていた。

 ……まったく、こんなに可愛らしい人なのに、なんでみんな勘違いしてるのだろう。

 

 ま、いいもん。

 センパイの魅力に気づけないような不届者はどっちみち長続きしないだろう。

 

「見学の子は僕が対応するので、センパイは適当なタイミングで出てきてください」

「……ん、そうだね」

 

 にしても、見学か。

 

 新入生には、多少なりともかっこいい姿を見せてやらないとな。後輩が入ってこなかったら、この部活、なくなっちゃうし。

 

 ……センパイとの思い出の詰まったこの場所を、なくすわけにはいかない。

 彼女がいなくなる来年は、僕が部長として頑張らないといけないのだ。

 

 ……センパイが、いなくなる。

 

 チクリと棘を刺す胸の痛み。

 一瞬考えただけなのに、早まる鼓動はドクドクと止まってくれない。

 

「センパイ、いつもみたく、頭、撫ででください」

 

 どうしようもなく心臓を襲った孤独感からか。そんな言葉が自然と、口から出てしまう。

 

「やけに甘えんぼだね、今日は」

「そんなんじゃないです。

 ……あ、ちょっと、何やめてるんですか。

 ちゃんと撫でてください」

 

 まるで猫でも愛でるようなその手は嫌いじゃない。むしろ、ずっと心地良くて、このまま一生続けば良いとか、そんな風にも思ってしまう。

 

 

 だけど、そう思っていたとき。

 

 閉じっぱなしのドアから声が聞こえた。

 

「――け、見学に、きました!

 桜井先輩」

 

 センパイの手が止まる。

 どうやら、もう来てしまったらしい。

 

「もうちょっとしたい? 天音」

「……いえ、待たせるわけにはいかないので」

 

 名残惜しさを残しつつ、僕はセンパイの膝から降りて、ドアの方へと向かう。

 

 同時、センパイは部屋の奥へと消えてった。

 ……怖がられるのもそうだけど、あんまり人と話すのが得意じゃないんだろうな。

 

 あ、でもちょっと顔が見えてる。

 やっぱり気になるのか。

 

 そんなことを考えながら、僕は扉を開く。

 すると、目の前には一人の少女が立っていた。

 

「や、後輩ちゃん……あ、まだ後輩じゃないか。

 ま、いいや。ありがとね、見学に来てくれて」

「は、はい、こちらも、ありがとうございます」

 

 随分と礼儀正しい子だな。

 そんなことを思いながら、僕は彼女の顔に目をやる。

 

「――あ」

 

 同時、気づいた。

 ……この子、あれか。

 

 初めてセンパイに、されたとき。

 部室に来てくれてた子だ。

 

 あれから一回も見てなかったけど、ちゃんと興味持ってくれてたんだな。少しの感慨深さに頬を緩ませた僕は、彼女へと笑みを向ける。

 

 あれでも。

 あのときは二人いたのに、今日は一人か。

 

「もう一人の子は?

 あ、べつに強制とかじゃないからいいんだけど」

「きょ、今日は、私一人です。

 そっちの方が、いいので」

 

 疑問をぶつけた僕だが、帰ってきたのは要領得ない答え。なんだ? 一人の方がいいって。

 

「今日は、桜井先輩に、伝えたいことがあってきたんです」

「ん、なに?」

 

 首を傾げた僕に対して、目の前の少女はひどく緊張した面持ちを崩さない。

 

 ……そして、次の瞬間だった。

 

 

「――好きですっ!桜井先輩!」

 

 そんな言葉が、部室中へ響いた。

 

 

 

「……へ?」

 

 部室中に響いた、大きな声。

 その内容を聞いて、僕は思わず顔を固まらせる。

 

「先輩に一目惚れしたんですっ!

 だから、付き合ってください!」

 

 ……これ、告白、だよね?

 

 少なくとも自分の性癖をカミングアウトするようなことではない。

 というか、間違いないだろう。

 付き合ってくれとか、言ってるし。

 

「……ほんとに言ってるの?

 罰ゲームとかじゃなくて?」

「そんなわけないです!

 私は本気です、桜井先輩」

 

 ……そっか、本気か、マジなのか。

 

 ん、困ったな、どうしよう。

 

 いや、答えはほぼ決まってるんだけど、でも言いづらい。見たところ、悪い子じゃなさそうだし。

 

「ち、ちなみに、なんで、好きになったの?」

「お顔がかっこいいところです!

 それと、優しくて、とにかく、全部です!」

「そ、そっか、うへへ、ありがとね」

 

 なんか、変な笑いが出てしまった。

 

 いやだって、かっこいいとか初めて言われたし、センパイはそういうこと言ってくれないし。

 というか、実際に告白されたのは、初めてだし。

 

 そう思いながら、キョロキョロと周りを見渡したとき、僕は気づく。

 

 ——やばい、めちゃくちゃ見てる、センパイ。

 

「……ど、どうかしました? 先輩?」

「あー、えと、うん。そうだね、ごほん。

 返事、しないとね」

 

 隠れた机の裏、そこにいるセンパイは僕たちをじっと見つめている。

 ……てか、ほぼ隠れてないし。

 完全にガン見である。

 

 ……それに、若干危ない目をしてる。

 

 ——ん、仕方ないか。

 

 僕は腹を括って、目の前の少女へ向き合う。

 そして。

 

「今はさ、彼女とか作る気分じゃないんだ。

 だから、諦めて欲しい」

 

 そう、真っ直ぐに言葉を放った。

 

「……そう、ですか」

 

 少女の瞳が揺れる。

 ……当然だけど、胸が痛い。

 自分へ向けられる好意を避けるというのは、こう、辛いものがある。

 

「……で、でも!

 私なら、絶対、桜井先輩を幸せにできます!

 いっぱい遊びにも連れてきますし、美味しいものだって食べさせてあげます!」

 

 ……あ、でも、意外と引き下がってくれない。

 結構タフだな、この子。

 

 流石の僕でも、こういう状況で物に釣られたりはしない。センパイも、見てるしな。

 

「そ、それでも、駄目ですか?」

「……君、名前は?」

「は、花藤です」

「そっか」

 

 ……そうだな。

 やっぱ、ちゃんと話さないと駄目か。

 あんな、一時凌ぎの言葉じゃなくて。

 

「……ごめんね、花藤ちゃん。

 君の気持ちには、応えられない」

 

 僕は彼女の頭に、そっと手を伸ばして、

 そして、呟く。

 

「好きな人、いるから」

 

 

 

「……あーあ、せっかくの新入部員候補だったのになぁ」

 

 部室から去っていく少女の姿を見ながら、僕は静かに言葉を溢す。

 ……てか、完全に告白目的だったのか。

 部活は入ってくれても良かったのに。

 

 ま、いいや。

 部員はまた別の機会に確保するとしよう。

 見学期間はまだまだある、一人くらいなら引っ張ってくることができるはずだ。

 

 そんなことを思いながら、僕は部室に戻ろうと足を踏み出す。

 

 そのときだった。

 

 部室に、大きな音が響いた。

 

「——天音、好きな子いるの?」

 

 声と同時、僕の身体は壁際にドンと押し付けられる。見ると、目の前にはセンパイがいた。

 近い。

 互いの身体は、もう完全に密着している。

 

 ……既視感、そんな言葉が頭に浮かんだ。

 

「せ、せんぱい?」

 

 ……あぁ、何日ぶりだろ、これ。

 僕は呑気にもそんなことを考えながら、彼女の顔を見つめた。

 

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