貞操逆転世界でクールな先輩にオスガキムーブかましてたら普通に押し倒された 作:しゃふ
「天音、ケーキ何が好き?」
「えへ、えへへ、どうしましょう。
こんなにいっぱいあったら迷っちゃいますね」
家の近くのケーキ屋。
センパイと二人で訪れたその場所は、前に家族と行ったときよりもずっと大きく見えた。
——ふふっ、今日は僕の誕生日である。
「センパイは何が好きですか?」
「ん、私はなんでも。
天音が好きなのでいいよ」
そう言って、センパイは僕の頭をわしわしと撫でる。
いつもは反発してしまう行為だけど、今日は特別だ。僕はセンパイのお腹にくっついて、頭を差し出してあげる。
「甘えんぼだね、今日は」
「べつにいいんです。
たまにはこういう日があっても」
「……そんなたまにでもない気がするけど」
「む、余計なこと言わないでください。
あんまりうるさいようなら塞いじゃいますよ」
あ、てか、店員さんにすごい見られてるな。
まぁあんまり店内でイチャつくのも良くない。
僕は仕方なく、センパイから離れてケーキの入ったケースの元へと近寄った。
……いや、べつにイチャついてたんじゃないけどね。
んー、でも、どうしよう。
こうもいっぱいあると悩んでしまう。
甘いのも好きだし、ちょっと苦いのも嫌いじゃない。苺は大好きだけど、チーズのやつも同じくらい大好きである。
……ど、どど、どうしよう。
そう思って、目を回したときだった。
「もう全部買っちゃおうか?」
「……え、まじです?
まじで言ってますっ?」
センパイが放った言葉。
僕はそれを聞いて、目を輝かせた。
「食べきれなかったら、また明日、一緒に食べればいいよ。ね、天音」
「はいっ!
うへへ、夢みたいです。
いつも、ちっこいショートケーキ一つだったから」
いわゆる大人買いというやつか。
ふふふ、なんていい響きだろう。
そうだ、誕生日を迎えた僕はもう大人なのである。お酒とかはまだ飲めないけど。
こうして、僕らは山ほど購入したケーキを手に、お店を後にしたのであった。
「センパイ、一つ持ちますよ」
「いいよ。
今日は天音が主役だもんね」
手いっぱいにケーキの箱を持つセンパイ。
結構重いだろうに楽々と持ち上げる姿を見ると、やはり力持ちなのだと実感できる。
というかむしろ、ヘトヘトになってきたのは僕の方だ。
ケーキ屋まではそこそこの距離歩かなきゃいけなかったし、運動不足の僕にとっては厳しいものがある。
すると。
「一旦休憩しよっか、天音。
ちょうど、公園あるし」
「……ん、ありがと、センパイ」
僕を気遣ってか、センパイが公園のベンチを指さしてくれた。
……やっぱ、センパイは優しいな。
そのまま、僕らはしばらく公園のベンチにいた。まだ春だし、暑さもほとんどない。
ケーキが傷んだりもしないだろう。
センパイの隣にこうやって座れるのは、もう一年もない。そう思うと、自然と僕の肩はセンパイにくっついていた。
「天音、こっちむいて」
「ん、なに、センパイ」
そのとき、センパイが僕の肩を叩いた。
伝わる感触の方へ頭を向けて、どうしたのかを確認する。
見ると、僕の頭の上にはセンパイの腕があった。
……ん、なんだろ。
また、撫でたりするのかな。
そんな風に思って、頭を差し出してみるけど。
どうやら、違うらしい。
その腕は、そのままゆっくりと僕の首元まで落ちてくる。
そして、ピタリと。
僕の鎖骨の辺りに停止した。
「せんぱい、これ、は?」
「——ネックレス。
誕生日プレゼント」
さらさらとした手の感覚、それが離れたとき僕の首には、銀色に光るピカピカの首飾りがかけられていた。
「プレゼント、って。
僕に、です?」
「うん、それ以外誰がいるの」
それもそうだ。
僕はかけられたネックレスに手を伸ばす。
……うれしい。
プレゼントだからってだけじゃない。
センパイが僕のために選んで、用意してくれた。そんな事実で、頭がポカポカしてしまう。
「ふふふ、かっこいいですか?
センパイ?」
「うん、すっごく可愛い」
「……む、わざと言ってますね?」
撫でられる頭。
勝手に身体はセンパイの方へと動いていた。
「今日の僕は機嫌が良いので許してあげます。
ふふん、良かったですね、センパイ」
そう言ってから、僕はセンパイの膝の方へ向かって頭を落とした。
いわゆる膝枕というやつだ。
センパイ、ふとももおっきいし、寝心地いいだろう、たぶん。
それに、もっと撫でてもらいたいし。
そう思いながら、上を向いたとき。
ふと、あるものが目に入った。
「あれ、センパイ、それは——?」
「ん、これ、ペアになってるから」
そこにあったのは、僕と同じ形、
だけど、色だけちょっと違うキラキラのネックレスであった。
さっきまではつけてなかったから、僕がはしゃいでいるうちに、自分でつけたのだろう。
「ふふん、お揃いにしたかったんです?
センパイっ?」
僕は寝転がったまま、センパイのネックレスに触れてみる。
「可愛いですよ、せんぱい」
「……ん、そう」
「なに自信なさげなんです。
センパイほど可愛い人はこの世にいませんよ」
そう言って、僕はニコッと笑ってみせた。
ふふ、本心である。
センパイは、あんまり信じてなさそうだけど。
少しいじらしく思いながらも、僕はセンパイのお腹の方へと顔を向ける。
すると、細い手が、僕の頬に触れて、暖かい感触が脳を揺すりだす。
ん、これ、すきかも。
そんな風に、思っていたときだった。
「……ねぇ、天音」
急にセンパイが声をこぼした。
僕の耳のとこへ、向かって。
そして。
「……約束したの、聞かせてくれる?」
その声が、聞こえた瞬間。
ぽつり、と音がした。
「——雨」
直後、雨音は強まりだし、一瞬のうちに僕らを濡らしだした。
「天音、走るよ。
ケーキは私が持つから」
「で、でも、遠いですよ。
走るにしては、僕の家」
走ったとしても、びしょびしょになるのは避けれない、それにケーキもあるから、あんまり走りたくない。形が崩れたりしたら、いやだし。
僕はどうしたらいいかわかんなくて、センパイの背中にくっつく。
「わかってる」
センパイが声をこぼす。
「——私の家、すぐそこだから」
「お、お邪魔します」
センパイの家。
来るのは初めてだ。
というか、誰かの家に来たのも初めてかもしれない。
そして、今はセンパイの部屋だ。
「うへぇ、びしょびしょですね。
どうしましょう」
「ん、頭拭いてあげるから、待ってて」
タオルで軽く水を拭いた後、僕はそんなことを言われて、センパイの部屋へと案内された。
すぐに、センパイは部屋から出ていったけど、
どうやら、お風呂を入れに行ったらしい。
「——センパイの部屋、かぁ」
匂いがする。
センパイの匂いだ。
少し甘くて、安心する、温かい匂い。
濡れた身体なんて、どうでも良くなるくらい。
大好きな、センパイの、匂い。
周りには、色んなものが置かれている。
難しいそうな本だったり、お化粧に使うため鏡だったり、バイトの制服だったり。
……せんぱい。
僕は少し、落ち着かない気持ちを胸に抱きながら、センパイのベッドへと座った。
——言わないといけない。
何日か前にした、センパイとの約束。
……ぼくの、好きな人を教えるっていう、約束。
センパイと二人きりの今なら、言えるはずだ。
僕はそう思いながら、ぷらぷらと足を動かす。
ぷらぷると、ぷらぷらと。
……あ、でもその前に。
僕はポケットからスマホを取り出した。
一応、家には連絡しとかないと駄目だろう。
——だって、いつ帰れるか、わかんないし。
「うん、うん、ごめんね、お姉ちゃん。
雨が止んだらお家帰るから。
あ、もう、変なこと言わないでよ。
……ん、じゃあね」
電話越しでも狼狽えてるのが分かる姉の声。
いつもならうざったく思うけど、おかげで少し、気が緩んだ気がする。
まったく、心配しちゃって。
そう思いながら僕はスマホをポケットに入れた。
その、次の瞬間だった。
ドアを引く音とともに、センパイが部屋に入ってきた。
「天音、お風呂、もうすぐではいるから」
「あ、はい、わかり、まし——」
僕は、すぐにセンパイの方へと顔を向ける。
すると、そこには、センパイがいた。
——濡れた服を脱ぎ捨てて、白い肌をほとんど見せている、センパイが。
……へ?
「へあっ!? な、なんて格好してるんですっ!
センパイ!??」
「どうしたの? 天音」
「し、下着、じゃないですか、それ!
な、なにほっつき歩いてるんです!!?」
「すぐお風呂入っちゃうし。
それに、いつも、部屋だとこうだから。
ん、ごめん、見たくなかった、よね」
「そ、そんなこと、ないです。
けど、その」
み、みれない、だって、こんな姿見たの、初めてだし。センパイの、すごいし。
僕は慌てるようにベッドへと飛び込む。
瞬間、センパイの匂いが、顔中に広がる。
あ、これ、センパイの、ベッド。
飛び上がるように、僕はベッドから立ち上がった。
「天音、大丈夫?」
「へ、へいき、ですから。
ひゃ、ちかい、です、センパイ」
センパイの肌が、僕の身体に触れる。
濡れている。雨のせいだ。
そのせいで、よけいに意識して、頭の中がセンパイで埋め尽くされてしまう。
でも、離れることは、しない。
だって。今、逃げたら。
ちゃんと話ができなくなるって、思うから。
そのまま、数分が経った。
いや、わからない。
もしかしたら、数秒も経ってないかもしれない。それくらい、僕の頭は熱くなっている。
おーばーひーと寸前である。
そう思っていたときセンパイが声を放つ。
「今、誰と話してたの?」
「お、お姉ちゃんです。
あ、ちょ、スマホ見ないでよ」
「……ほんとだ」
ポケットに突っ込まれたセンパイの手。
通話履歴を見たのか、すぐにその手は元の位置に戻る。
……相変わらずだな、センパイは。
「天音も、風邪引いちゃうから、着替えないと」
「え、えぇ、そうですね。
タオルで拭きはしたけど、びしょびしょなので」
なんとか、冷静に答えることはできている。
顔は見れないけど、でも話はできるはずだ。
けど、そう思っていたとき。
「私は先にお風呂行ってくるから。
……これ、お古のパジャマ。
あんまり可愛くないけど、とりあえず着てて」
いつのまにか、僕の手にはおっきなパジャマが乗っていた。
なんかでっかいネコが印刷されてる、変なセンスのやつである。ぜったい僕が着ても、ブカブカで服にならない気がする。
いや、そんなことよりも。
「じゃあ、待ってるね。
シャワーで済ませるから、お湯が貯まる頃にはでてくる」
あ、ぁ、センパイが、行っちゃう。
どう、しよ。
今、話しとかないと、駄目な気がする。
お風呂とか入ったら、なんか、余計に頭が沸騰して何も話せなくなる。間違いない、絶対だ。
引き止めないと、センパイを。
でもどうすれば、いいんだ。
センパイはもうドアの前まで着いてる。
ネックレスを握る。
自然と、センパイのことを考えてたら、握っていた。
そして、僕は気づく。
——あ。
そうだ、僕には、とっておきの秘策があるじゃないか。
「まって、センパイ」
「あまね?」
きっと、これが最後だ。
センパイにこの気持ちを伝えたら、もう、気を引く必要なんてないんだから。
「ねぇ、センパイ」
少し、息を混ぜた甘い声。
軽薄さの中に、妖艶さを含んだ声はセンパイの耳に溶けるように入っていく。
「——服、脱がすの、手伝ってください」
これが、僕の。
——最後のオスガキだ。