貞操逆転世界でクールな先輩にオスガキムーブかましてたら普通に押し倒された   作:しゃふ

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13話 最後

「天音、ケーキ何が好き?」

「えへ、えへへ、どうしましょう。

 こんなにいっぱいあったら迷っちゃいますね」

 

 家の近くのケーキ屋。

 センパイと二人で訪れたその場所は、前に家族と行ったときよりもずっと大きく見えた。

 

 ——ふふっ、今日は僕の誕生日である。

 

「センパイは何が好きですか?」

「ん、私はなんでも。

 天音が好きなのでいいよ」

 

 そう言って、センパイは僕の頭をわしわしと撫でる。

 いつもは反発してしまう行為だけど、今日は特別だ。僕はセンパイのお腹にくっついて、頭を差し出してあげる。

 

「甘えんぼだね、今日は」

「べつにいいんです。

 たまにはこういう日があっても」

「……そんなたまにでもない気がするけど」

「む、余計なこと言わないでください。

 あんまりうるさいようなら塞いじゃいますよ」

 

 あ、てか、店員さんにすごい見られてるな。

 

 まぁあんまり店内でイチャつくのも良くない。

 僕は仕方なく、センパイから離れてケーキの入ったケースの元へと近寄った。

 ……いや、べつにイチャついてたんじゃないけどね。

 

 んー、でも、どうしよう。

 こうもいっぱいあると悩んでしまう。

 

 甘いのも好きだし、ちょっと苦いのも嫌いじゃない。苺は大好きだけど、チーズのやつも同じくらい大好きである。

 

 ……ど、どど、どうしよう。

 

 そう思って、目を回したときだった。

 

「もう全部買っちゃおうか?」

「……え、まじです?

 まじで言ってますっ?」

 

 センパイが放った言葉。

 僕はそれを聞いて、目を輝かせた。

 

「食べきれなかったら、また明日、一緒に食べればいいよ。ね、天音」

「はいっ!

 うへへ、夢みたいです。

 いつも、ちっこいショートケーキ一つだったから」

 

 いわゆる大人買いというやつか。

 ふふふ、なんていい響きだろう。

 そうだ、誕生日を迎えた僕はもう大人なのである。お酒とかはまだ飲めないけど。

 

 こうして、僕らは山ほど購入したケーキを手に、お店を後にしたのであった。

 

 

 

「センパイ、一つ持ちますよ」

「いいよ。

 今日は天音が主役だもんね」

 

 手いっぱいにケーキの箱を持つセンパイ。

 結構重いだろうに楽々と持ち上げる姿を見ると、やはり力持ちなのだと実感できる。

 

 というかむしろ、ヘトヘトになってきたのは僕の方だ。

 

 ケーキ屋まではそこそこの距離歩かなきゃいけなかったし、運動不足の僕にとっては厳しいものがある。

 

 すると。

 

「一旦休憩しよっか、天音。

 ちょうど、公園あるし」

「……ん、ありがと、センパイ」

 

 僕を気遣ってか、センパイが公園のベンチを指さしてくれた。

 

 ……やっぱ、センパイは優しいな。

 

 そのまま、僕らはしばらく公園のベンチにいた。まだ春だし、暑さもほとんどない。

 ケーキが傷んだりもしないだろう。

 

 センパイの隣にこうやって座れるのは、もう一年もない。そう思うと、自然と僕の肩はセンパイにくっついていた。

 

「天音、こっちむいて」

「ん、なに、センパイ」

 

 そのとき、センパイが僕の肩を叩いた。

 伝わる感触の方へ頭を向けて、どうしたのかを確認する。

 

 見ると、僕の頭の上にはセンパイの腕があった。

 

 ……ん、なんだろ。

 また、撫でたりするのかな。

 

 そんな風に思って、頭を差し出してみるけど。

 どうやら、違うらしい。

 

 その腕は、そのままゆっくりと僕の首元まで落ちてくる。

 

 そして、ピタリと。

 僕の鎖骨の辺りに停止した。

 

「せんぱい、これ、は?」

 

「——ネックレス。

 誕生日プレゼント」

 

 さらさらとした手の感覚、それが離れたとき僕の首には、銀色に光るピカピカの首飾りがかけられていた。

 

「プレゼント、って。

 僕に、です?」

「うん、それ以外誰がいるの」

 

 それもそうだ。

 僕はかけられたネックレスに手を伸ばす。

 

 ……うれしい。

 

 プレゼントだからってだけじゃない。

 センパイが僕のために選んで、用意してくれた。そんな事実で、頭がポカポカしてしまう。

 

「ふふふ、かっこいいですか?

 センパイ?」

「うん、すっごく可愛い」

「……む、わざと言ってますね?」

 

 撫でられる頭。

 勝手に身体はセンパイの方へと動いていた。

 

「今日の僕は機嫌が良いので許してあげます。

 ふふん、良かったですね、センパイ」

 

 そう言ってから、僕はセンパイの膝の方へ向かって頭を落とした。

 

 いわゆる膝枕というやつだ。

 センパイ、ふとももおっきいし、寝心地いいだろう、たぶん。

 それに、もっと撫でてもらいたいし。

 

 そう思いながら、上を向いたとき。

 ふと、あるものが目に入った。

 

「あれ、センパイ、それは——?」

「ん、これ、ペアになってるから」

 

 そこにあったのは、僕と同じ形、

 だけど、色だけちょっと違うキラキラのネックレスであった。

 さっきまではつけてなかったから、僕がはしゃいでいるうちに、自分でつけたのだろう。

 

「ふふん、お揃いにしたかったんです?

 センパイっ?」

 

 僕は寝転がったまま、センパイのネックレスに触れてみる。

 

「可愛いですよ、せんぱい」

「……ん、そう」

「なに自信なさげなんです。

 センパイほど可愛い人はこの世にいませんよ」

 

 そう言って、僕はニコッと笑ってみせた。

 ふふ、本心である。

 センパイは、あんまり信じてなさそうだけど。

 

 少しいじらしく思いながらも、僕はセンパイのお腹の方へと顔を向ける。

 すると、細い手が、僕の頬に触れて、暖かい感触が脳を揺すりだす。

 

 ん、これ、すきかも。

 

 そんな風に、思っていたときだった。

 

「……ねぇ、天音」

 

 急にセンパイが声をこぼした。

 僕の耳のとこへ、向かって。

 そして。

 

「……約束したの、聞かせてくれる?」

 

 その声が、聞こえた瞬間。

 

 ぽつり、と音がした。

 

「——雨」

 

 直後、雨音は強まりだし、一瞬のうちに僕らを濡らしだした。

 

「天音、走るよ。

 ケーキは私が持つから」

「で、でも、遠いですよ。

 走るにしては、僕の家」

 

 走ったとしても、びしょびしょになるのは避けれない、それにケーキもあるから、あんまり走りたくない。形が崩れたりしたら、いやだし。

 

 僕はどうしたらいいかわかんなくて、センパイの背中にくっつく。

 

「わかってる」

 

 センパイが声をこぼす。

 

「——私の家、すぐそこだから」

 

 

 

「お、お邪魔します」

 

 センパイの家。

 来るのは初めてだ。

 というか、誰かの家に来たのも初めてかもしれない。

 

 そして、今はセンパイの部屋だ。

 

「うへぇ、びしょびしょですね。

 どうしましょう」

「ん、頭拭いてあげるから、待ってて」

 

 タオルで軽く水を拭いた後、僕はそんなことを言われて、センパイの部屋へと案内された。

 すぐに、センパイは部屋から出ていったけど、

 どうやら、お風呂を入れに行ったらしい。

 

「——センパイの部屋、かぁ」

 

 匂いがする。

 センパイの匂いだ。

 少し甘くて、安心する、温かい匂い。

 

 濡れた身体なんて、どうでも良くなるくらい。

 大好きな、センパイの、匂い。

 

 周りには、色んなものが置かれている。

 難しいそうな本だったり、お化粧に使うため鏡だったり、バイトの制服だったり。

 

 ……せんぱい。

 

 僕は少し、落ち着かない気持ちを胸に抱きながら、センパイのベッドへと座った。

 

 ——言わないといけない。

 

 何日か前にした、センパイとの約束。

 ……ぼくの、好きな人を教えるっていう、約束。

 

 センパイと二人きりの今なら、言えるはずだ。

 僕はそう思いながら、ぷらぷらと足を動かす。

 ぷらぷると、ぷらぷらと。

 

 ……あ、でもその前に。

 僕はポケットからスマホを取り出した。

 

 一応、家には連絡しとかないと駄目だろう。

 

 ——だって、いつ帰れるか、わかんないし。

 

 

「うん、うん、ごめんね、お姉ちゃん。

 雨が止んだらお家帰るから。

 あ、もう、変なこと言わないでよ。

 ……ん、じゃあね」

 

 

 電話越しでも狼狽えてるのが分かる姉の声。

 いつもならうざったく思うけど、おかげで少し、気が緩んだ気がする。

 

 まったく、心配しちゃって。

 

 そう思いながら僕はスマホをポケットに入れた。

 

 その、次の瞬間だった。

 

 ドアを引く音とともに、センパイが部屋に入ってきた。

 

「天音、お風呂、もうすぐではいるから」

「あ、はい、わかり、まし——」

 

 僕は、すぐにセンパイの方へと顔を向ける。

 

 すると、そこには、センパイがいた。

 

 ——濡れた服を脱ぎ捨てて、白い肌をほとんど見せている、センパイが。

 

 ……へ?

 

「へあっ!? な、なんて格好してるんですっ!

 センパイ!??」

「どうしたの? 天音」

「し、下着、じゃないですか、それ!

 な、なにほっつき歩いてるんです!!?」

「すぐお風呂入っちゃうし。

 それに、いつも、部屋だとこうだから。

 ん、ごめん、見たくなかった、よね」

 

「そ、そんなこと、ないです。

 けど、その」

 

 み、みれない、だって、こんな姿見たの、初めてだし。センパイの、すごいし。

 僕は慌てるようにベッドへと飛び込む。

 

 瞬間、センパイの匂いが、顔中に広がる。

 あ、これ、センパイの、ベッド。

 

 飛び上がるように、僕はベッドから立ち上がった。

 

「天音、大丈夫?」

「へ、へいき、ですから。

 ひゃ、ちかい、です、センパイ」

 

 センパイの肌が、僕の身体に触れる。

 濡れている。雨のせいだ。

 そのせいで、よけいに意識して、頭の中がセンパイで埋め尽くされてしまう。

 

 でも、離れることは、しない。

 だって。今、逃げたら。

 ちゃんと話ができなくなるって、思うから。

 

 そのまま、数分が経った。

 

 いや、わからない。

 もしかしたら、数秒も経ってないかもしれない。それくらい、僕の頭は熱くなっている。

 おーばーひーと寸前である。

 

 そう思っていたときセンパイが声を放つ。

 

「今、誰と話してたの?」

「お、お姉ちゃんです。

 あ、ちょ、スマホ見ないでよ」

「……ほんとだ」

 

 ポケットに突っ込まれたセンパイの手。

 通話履歴を見たのか、すぐにその手は元の位置に戻る。

 ……相変わらずだな、センパイは。

 

「天音も、風邪引いちゃうから、着替えないと」

「え、えぇ、そうですね。

 タオルで拭きはしたけど、びしょびしょなので」

 

 なんとか、冷静に答えることはできている。

 顔は見れないけど、でも話はできるはずだ。

 

 けど、そう思っていたとき。

 

「私は先にお風呂行ってくるから。

 ……これ、お古のパジャマ。

 あんまり可愛くないけど、とりあえず着てて」

 

 いつのまにか、僕の手にはおっきなパジャマが乗っていた。

 

 なんかでっかいネコが印刷されてる、変なセンスのやつである。ぜったい僕が着ても、ブカブカで服にならない気がする。

 

 いや、そんなことよりも。

 

「じゃあ、待ってるね。

 シャワーで済ませるから、お湯が貯まる頃にはでてくる」

 

 あ、ぁ、センパイが、行っちゃう。

 どう、しよ。

 今、話しとかないと、駄目な気がする。

 お風呂とか入ったら、なんか、余計に頭が沸騰して何も話せなくなる。間違いない、絶対だ。

 

 引き止めないと、センパイを。

 でもどうすれば、いいんだ。

 センパイはもうドアの前まで着いてる。

 

 ネックレスを握る。

 自然と、センパイのことを考えてたら、握っていた。

 

 

 そして、僕は気づく。

 

 ——あ。

 

 そうだ、僕には、とっておきの秘策があるじゃないか。

 

「まって、センパイ」

「あまね?」

 

 きっと、これが最後だ。

 センパイにこの気持ちを伝えたら、もう、気を引く必要なんてないんだから。

 

「ねぇ、センパイ」

 

 少し、息を混ぜた甘い声。

 軽薄さの中に、妖艶さを含んだ声はセンパイの耳に溶けるように入っていく。

 

「——服、脱がすの、手伝ってください」

 

 これが、僕の。

 

 ——最後のオスガキだ。

 

 

 

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