貞操逆転世界でクールな先輩にオスガキムーブかましてたら普通に押し倒された 作:しゃふ
「――僕、最近彼女できたんですよぉ?」
そう呟いた瞬間、センパイの纏う空気がピクリと震えたのを感じた。
本を捲る手が止まり、彼女の目は僕の顔へと釘付けになる。
……よし、作戦は成功のようだ。
「どうせ、嘘でしょ?」
「いえいえ、そんなことないですよぉ?」
ただ、センパイの表情にはまだまだ疑念が残っている。
当然だ。
今の言葉はあくまで口だけ、証拠なんかはどこにもない。
――だから、見せつけてやるのだ。
確固たる証拠、愛の弾痕を。
「だってほら、見てください」
僕はゆっくりと、制服のベルトを緩めて、シャツを上へ上へと捲っていく。
徐々に現れていく素肌。
そこを食い入るように見つめるセンパイの瞳に、目的のものが映り込んだのを確認した僕はニヤリとした表情を浮かべ、言葉をぶつける。
「じゃじゃーん。キスマークですっ!
ほらほらよく見てくださいよ、センパイ。
顔近づけちゃっても良いですよーっ?」
病弱なまで白い肌、ただしそこには一つの異物が紛れ込んでいる。
赤い口紅の痕。
それが露わになった瞬間、センパイの持っていた本がパタンと机へと倒れた。
「――それ、ほんと、に?」
「はい。嘘なんかついていませんよ?
だって、ほら、綺麗な口紅の跡がついちゃってますよね?」
僕はまるで愛くるしいものを撫でるかのように、口痕へと指を這わせて、微笑みを浮かべる。
「いやーっ、昨日は熱い夜だったなぁ。
僕の彼女、センパイと違ってすっごく積極的なので、何回もしちゃいましたよっー。あ、もちろん、キスの話じゃないですよ?
……本番、です。
ほんと昨日から腰が痛くて、痛くて」
僕は腰に触りながら、背中をぐいっと後ろに逸ら――いたたた。
思わず痛みに息が漏れ出る。
そういや、昨日痕をつけるときに痛めたんだった。
なんか腰曲げた瞬間、ゴリゴリ鳴ってたし、多分三本くらい骨折れてる。
……さて、こんだけ面倒な思いをしたのだ。
センパイのポーカーフェイスも多少は崩れてくれないとわりにあわない。
そう思った僕はセンパイの顔を覗きこもうと目を向ける。
「……あれ? どうしましたー? 黙っちゃって。
あ、もしかして、嫉妬しちゃってます?
センパイ、駄目ですよ?
僕にはもう、立派な彼女がいるんですか――」
そのときだった。
「……なんで、なんで、なんで」
「え?」
耳に入った声は、まるでセンパイのものとは思えない、どす黒さを秘めた低い声。
え? これ、センパイの声?
困惑しながらも、僕は呑気にもそんなことを発しようとした次の瞬間。
――乱暴に掴まれた僕の身体が、本棚へと叩きつけられる。
「いたっ」
ぶつかった衝撃で何個もの本がバタバタと音をたてて床へと落ちる。反射的に落ちた先に目を向けると、そこには何冊もの本が目の前の彼女によって足蹴にされていた。
その様子は、いつも丁寧に本を扱っているセンパイの言動からすると、考えられないものだった。
僕は慌てて状況を確認しようと、顔を上へ上げる。
「ちょ、ちょっと、なんです、か。
急に……あ、あの、力、強いですよ。センパイ?」
目の前にはセンパイの身体があった。
というか、近い。
僕の身体の全てがセンパイに、接触している。
いや接触なんてやわな表現じゃない。文字通り、彼女の身体に埋まっている。
センパイは僕の背中を掴んで離さない。
まるで、逃がさないとでも言ってるかのように、僕の制服は彼女に握られている。
「センパイ、痛いです、引っ張らないでください。
服がっ、破けちゃいます」
そんな状況にビビって抜け出そうとする僕だけど、彼女の力は思っていた何倍も強い。
……お、怒ってるのか?
また、僕が余計なことを言ったから。
だけど、これはないだろう。
あまりにも解決策が現代的ではないっ。
「あ、あの、センパイ、暴力に訴えるのはいけませ――
……ひっ、や、やめて」
僕は抗議の声をあげようとするけども、その声はセンパイがドンと壁を叩く音で掻き消される。
まずい、駄目だ。
これは早急に謝罪をするしかない。
そうでもしないと何が起こるか分からない。
僕は抵抗を諦め、即座に命乞いへと移行を始める。
「……あ、謝ります、その、ごめんなさい。
ただの冗談のつもりだったんです、だから、センパ――」
だけど、僕の言葉はセンパイにまるで伝わらない。
頬を果実のように片手で掴んで離そうとしない彼女の肌は、いつにもなく冷たく感じる。
そのとき、くいっと挙げられた顔が、強引に彼女と目を合わされる。
――そこにあるのは、捕食者の目。
本能的に分かる。彼女が僕に対して、何か、まずい感情を抱いてしまっていることは。
「目、瞑りなよ」
そのとき、センパイが言った。
目を、瞑れって。
も、もしや殴られるのか。
センパイがそんなことするなんて、想像がつかないけど。でも、彼女の目は、どうみても本気だ。
「あ、あの、痛く、しないでください」
「――それ、誘ってんの?」
僕は少しでも彼女に許してもらえるように、拙い言葉を床に向かって漏らす。
センパイの声は、変わらない。
いや、むしろ。余計に暗黒に染まっている気がする。
「なんの、話ですか?」
「……いいよ。
そこまで言うなら、やってあげるから」
彼女はそう言って、僕に顔を近づけてくる。
怖い、けど。でも、怒らせちゃったのは、僕だ。
多少の痛いのは、我慢しないと。
そう思って、僕が目を閉じた、そのとき。
「――えっ?」
暴力的な悦楽が、口元を襲った。
……正直、自分が何をされてるのか、分からなかった。
こういうことはしたことないし。
まして、センパイとだなんて、考えたことがなかった。
でも、何秒、何十秒、何分、もそんなことを続けられたら、自ずと理解してしまう。
貪るように、唇を食み続けるこの背徳の正体が分かってしまう
「せん、はい、ちょっほ」
ファースト、キス、なんですけど。
ちょっと、センパイ。
え、あ、え?
「なんで、なの。天音」
言いたいのはこちらのセリフだ。
だってセンパイは、こういうことには興味がないって、言っていたじゃないか。
頭がドロドロになりながらも、僕は本能的にセンパイから離れようとする。
でも、彼女の手は僕を完全に捉えており、動くことはできない。
センパイの舌が、僕の中に、入ってくる。
めちゃくちゃに暴れて、口の中が、全部、センパイで染まってしまう。
まるで、僕という人間を飲み込んでしまうかのような、苛烈な接吻が僕を食す。
「――ん――んっ」
「こんな可愛い顔もできるんだね、天音」
センパイが何を言ってるのかは、よくわからない。
でも、頬に触れる彼女の手の感触はあり得ないほどによく分かる。
熱い。身体の全部が熱い。
目も口も、何もかもがとろけてなくなってしまいそうだ。
今の僕は、相当ひどい顔をしてるに違いない。
駄目、駄目だ。
これ以上は、変になる。
僕は最後の力を振り絞って、暴れる彼女の舌を口から追い出した。
「閉じないでよ」
「――んっ、むっ」
でも、拒絶する僕に対して、センパイは止まらない。
唇が何度も舐められて、強引に、口がこじ開けられそうになる。
そんな状況の中、僕は彼女を止めようと咄嗟に言葉を放つ。
「……じょ、冗談に、しては、過激すぎ、です。
セン、パイ」
「……黙って」
「――んっ、ちょ、まっ」
僕の言葉は、彼女には届かない。
むしろ、声を聞いたセンパイの顔は余計に紅潮している。
……な、なんでだ。
「天音が悪いんだからね。
私の気持ちも、知らないで」
彼女の言葉は相変わらず、分からない。
徐々にこじ開けられていく口は限界を迎える。
その瞬間、僕の身体は、腰を抜かして、お尻を床へと着けてしまう。
身体に力が入らない。
だらんと垂れた手足は動かそうにもピクリともしない。
そんな僕の姿を見て、センパイがしゃがみ込む。
また、さっきみたいなことをされると思った僕は反射的に顔を横に向ける。
しかし、センパイの目的は別にあった。
――先ほど外したベルトのせいで、僕のお腹はすっかり空気に触れて露出している。
そこに対して、センパイの腕が伸びてくる。
「……ひゃっ、どこ、触ってるんですか」
服の内側。彼女の手が、僕の肌に向かって潜り込む。
ひんやりとした感触がお腹に伝わって、ぶるぶると身体が震える。
どんどんと下まで降りてくる手。
人差し指で肌をなぞられる度、こそばゆさが僕の感覚を目覚めさせる。
「見つけた」
でも、その手はある一点で止まる。
そこに、刻まれているのは赤く染まった口痕。
僕が見せつけた、キスマークだ。
「――こんなの、いらないでしょ」
瞬間、センパイの顔が僕のお腹へと接近する。
「ちょっと、センパイっ」
僕が抵抗する間もなく、温かい感触が、お腹いっぱいに広がった。
分かる。
昨日、自分でやったから分かる。
センパイがやっていることは、僕がやっていたことと同じだ。
そう。つまりは、痕をつける、ために……
「だ、駄目ですっ。
そ、そんなとこに、痕なんかつけちゃ――」
だけど、自分でやったときとは、まるで違う。
不快感とか、そういうのはない、けど。
でも、頭がおかしくなりそうだ。
まるで、上書きをするかのようにセンパイの顔は僕のお腹に吸い付いて離れない。
異常事態ってことは、分かっている。
だけど、身体は動かない。
彼女のしている行為を見守るかのように、身体中の細胞が動こうとしないのだ。
そのまま、何分か経った。
「も、もう、無理です、センパイ。
これ以上は、おかしくなっちゃいます」
僕は無理やり、腰を浮かして彼女の顔を引き剥がす。
それでも離れようとしないセンパイだけど、後ろへと振り返ることによって、お腹を守ることには成功した。
センパイは、何も言ってこない。
さっきから、僕の背中を見つめているだけだ。
……空気が、重い。
当然だ。だって、あんなこと、恋人同士ですらしないことだろう。
「セ、セ、センパイ。
え、えと、その、あのですねっ!」
それでも、僕はセンパイのことを避けようとかは、思わなかった。
だって、大切な友達なのだ。
……僕の一人だけの、友達。
「……天音」
センパイは少し驚いたように僕を見ている。
瞬きが多い。
彼女も、動揺してるのだろうか。
あぁ、どうしよう。
言葉が出ない。さっきまで、後ろを向いてるときは、話せると思ったのに。
辺りは、橙色に染まっている。
もう夕方なのだ。どれだけ長く、センパイとくっついていたのだろうか。
帰らないといけない。
学校も閉まってしまうし、家の門限だってある。
でも、最後に、センパイに一言だけ伝えないと。
え、えっと、なんで言おう。
『べつに気にしてないですよ? これくらいいつもやってるのでぇ?』
『ふ、ふん。センパイも少しはやるじゃないですか?』
『勘違いしないでくださいよっ! 別に気持ち良かったわけではないんですからねっ!』
全部違うっ! 特に最後のは絶対っ!
あぁ、もう、いい。
とにかく、なんか言わないとっ!
僕は彼女に向かって、頭を占める一番の感情をぶつけようと、声を放つ。
「……セ、センパイのえっちっ!」
そう呟いた僕は、床に転がっている鞄を手に取って、部室のドアへと走り出す。
腰がヘナヘナになって、上手く動けないけど、でも、センパイとこれ以上一緒にいるのはもっと無理だ。
こうして、僕は部室から逃亡した。
置いていったセンパイがどうなったのかは分からない。
ちゃんと、家まで帰れたのだろうか。
というか、明日の部活のとき、普通に会うよな。
……どうしよう。まともに話せる気がしない。
「ぜったい、ぜったい。センパイが悪いんですからね」
でも、今日はもう疲れた。
僕はそう呟いた後、ベッドへと足を踏み入れた。