貞操逆転世界でクールな先輩にオスガキムーブかましてたら普通に押し倒された   作:しゃふ

3 / 8
3話 何度も

 

 ……もう、朝か。

 窓に射す日の光に眩しさを感じながら、僕は掛け布団を跳ね除ける。

 

 季節はもう春。

 最近は布団なしで寝ることも多いが、昨日に関しては別だった。

 顔を外に出すと、どうにかなってしまうほどに、頭が疲れていたからだ。

 

 ふと、後ろを見ると、枕が汗で濡れている。

 夜中、変に寝苦しかったのはこれのせいだろう。

 

 汗の原因は暑さのせいではない。

 

 ――僕はパジャマの裾に手を伸ばす。

 そして、少し躊躇しながらも、ゆっくりとその裾を捲りあげた。

 

「……やっぱ、夢じゃない」

 

 くっきりと残る赤い痕。

 自分でつけたときよりも何倍、何十倍も色濃く感じるソレは、内出血もあり、少し黒みも帯びていた。

 

 ……昨日、センパイにつけられた、口痕。

 

「センパイも、口紅してたんだ」

 

 朝の眠気もあった僕は、呑気にもそんなことを口に出す。

 

 ……センパイは、見た目のことを気にする人じゃないのに、なんでなんだろう。ただの、自己満足なのか。

 

 それとも、誰か見せる人がいるのか。

 

 なんとも言えない気持ちに襲われた僕は、口痕に向かって、そっと指を沿わせる。

 

 痕に触れた瞬間、昨日の出来事が鮮明に頭の中へと蘇り始める。

 彼女の身体が、口が、舌が。ドロドロとした感情が脳みそを支配しそうになって、僕は思わず手を退けた。

 

「……あんまり触んない方が良いな。

 おかしく、なりそうだし」

 

 そう呟いた僕は、制服へ着替えるため、ベッドから降りようとする、そのとき。

 

 パタン、という開閉音が部屋中に響いた。

 

「へいっ! 愛すべき我が弟よ!

 今日も元気にオスガキやってるかい?」

 

「……」

 

「お、なんだその顔は。お姉ちゃんに惚れでもしたか?

 ふはは、残念ながらリアル弟は流石にNGだぞ私は。

 ……まぁ、オスガキモードでくるなら考えてもいいけど」

 

 現在午前六時。間違いなく早朝に会いたくない人間No.1であろう彼女は僕の姉、桜井琴音である。

 

 まぁ、見てのとおり。まともな人間ではない。

 僕という人間にオスガキというものを叩き込んだ張本人であり、血縁関係がなかったら間違いなくお縄についているのが彼女だ。

 

「……あれ、どうした?

 なんか浮かない顔してるけど」

 

 ただ、彼女も一応女性である。

 となれば、だ。

 

「お姉ちゃん、一つ質問があるんだけどさ」

 

 昨日のセンパイの言動について、多少の相談相手になってくれる……かもしれない。

 朝のフワフワした頭もあった僕は、特に考えることもせず、彼女に対して切り出す。

 

「女の子にどエロいキス喰らった後ってどう対処すればいいと思う?」

 

「ほうほう、そうかいそうかい。

 どエロいキスね、はぁ、それはもう一つしか……ん?」

「そうそう。どエロいやつ」

 

「え、どエロいの?」

「うん。どエロかった」

 

 朝からなんて会話をしてるんだろうか、僕らは。

 

「……え? どんな風に?」

「だから、口と口を合わせて舌を〇〇した後に、何度も〇〇した〇〇に、〇〇を絡めて、そこに手で〇〇を――」

 

 なんとか説明しようとする僕だけど、あまりにも過激な行為であったため、話すのが難しい、

 ただ、ある程度は伝わったようで、姉の顔が徐々に神妙な面持ちへと変わっていく。

 

 そして、ようやく理解できたのか。彼女が口を開く。

 

「……ごめんね。お姉ちゃんの経験値じゃ分かんないや。

 あ、そうだ。一回やってみてくれたらお姉ちゃん分かるか――」

 

「やりません」

 

 まぁ、予想はしていたから仕方ない。

 彼女は僕の期待に応えてくれるほど、人間関係に長けた人ではなかったのだ。

 

 ガッカリしながら肩を落とした僕は、半分やけになって、頭に浮かんだ罵詈雑言を姉に対して投げ捨て始める。

 

「……まぁ、やっぱ雑魚のお姉ちゃんには分かんないよね。どうせ男となんか一度も話したことがないヘタレ処女だもんね。

 仕方ないよね」

 

「おっ、良いオスガキだね。

 お姉ちゃん朝から感動してるよ。

 でも処女はやめてほしいな。お姉ちゃんほんとに悲しくなるから」

 

「……ごめんなさい。

 男性経験ゼロの陰キャコミュ症クソオタクのお姉ちゃん」

「うん、酷くなってるね」

 

 そう言うと、姉は僕の隣に座ろうとベッドへ向かってくる。

 それを見た僕は立ち上がり、着替えを取りにクローゼットへ向かう。

 やけに背中に視線を感じるのは気のせいだろう。たぶん。

 

「……まったく、末恐ろしいオスガキを育ててしまったものだよ。

 将来はオスガキ界のスターになれるよ」

「いや、成長したらガキではなくない? オスはともかく」

 

 当たり前の突っ込みである。

 常識的に考えて、オスガキが成長したらただのオスになるだろう。

 ……いや、それもおかしい気もするが。

 

 だが、姉は僕の言葉を聞いて、ちっちっちと舌を鳴らし始める。

 

「――いいかい。天音。

 オスガキというものは心に宿るんだ。年齢なんて飾りなんだよ。

 お姉ちゃんが聞いてるオスガキASMRの声優はそろそろ還暦迎えるし」

 

 か○いみかの話してる?

 

「……だからね、我が弟よ。

 例え、どエロいキスを喰らったとしてもオスガキとしての心は捨ててはいけないよ。数々の理解らせに耐え切ったものだけが、真のオスガキになれるんだ」

 

 なんか無理やり良い話にしようとしてるけど、内容は意味が分からない。

 ……そういえば、うちの姉は頭がおかしいんだったな。

 

「で、結局何の話だったのこれ?

 お姉ちゃんの性癖の話?」

「うん、そうだよ」

 

 結局僕は何の成果も得ることなく、世界で最も無駄な時間を過ごす羽目になった。

 今回のことで学んだことは一つ。

 頭がおかしいやつとは話さない方が良いということだ。

 

 

 

 高校生というものは、当たり前だが学校がある。

 学校があれば、授業もある。授業もあれば、昼休みもある。

 

 ということで、今は昼休みである。

 面倒くさい授業を終えての束の間の休息だ。

 朝から変なのに絡まれたのもあって、ようやく休みが取れることに嬉しさが湧いてくる。

 

 ……昼休み、といえば。

 

 確か、昨日センパイが言っていた。

 昼休みに一緒にお弁当を食べようとか、なんとか。

 

 ……部室に行けば、センパイはいるのだろうか。

 

 いや、いるわけないか。

 あんなことがあった次の日になんて。

 

 そんなことを考えながら、僕は鞄から取り出した惣菜パンにかじり付く。相変わらず安っぽい味だが、貧乏舌の自分にとってはこれくらいがちょうどいいのだ。

 

「はむっ」

 

 センパイはどうだろうか。

 ……んー、こういう身体に悪いパンは、あまり好まない気もする。

 意外と食い意地は張ってるけど、でもなんでも無作為に食べるわけではない。

 

 ――聞いてみたいな。

 

 ……こういうとき、いつもならセンパイの様子を見に行ったりするものだが、今日はそんな気にはなれない。

 

 どうしようかなと悩んでいると、そのとき。

 隣の席から声が聞こえた。

 

「……あの、桜井くん。なんかあったの?」

「そうそう。何か顔暗いよ?」

 

 そこにいたのは数名の女子生徒。

 ご飯に夢中で気にしてなかったけど、いつの間にか僕の隣の席で集まっている。

 

「別になんもないけど」

 

 会話を広げる気分になれなかった僕はそっけない返事を返す。

 センパイのこともあるし、今は一人の時間が欲しいからだ。

 

「いや、なんか落ち込んでるみたい、だし?

 えと、ほっとけないというか?」

 

「……ん、ありがとね。

 心配してくれて」

 

 まぁ、心配してくれるのは悪い気はしない。

 僕は一応のお礼を告げてから食事に戻ろうとする。

 

「じゃあさ」

 

 だが、そうはさせないとでも言わんばかりに。

 隣の少し派手な格好をしている少女が話しかけてくる。

 

「今日の放課後、私たちと遊びに行かない? 気分転換も兼ねてさ。

 あ、もちろん、遅くなるまでには帰るんだけど」

 

 そう言うと、彼女は僕の机へと両手を合わせた。

 

 こういった誘いは時々受ける。

 というか、この世界の男なら大抵のやつは受けているだろう。

 

「……ん、ごめん。今日は部活があるから。

 また今度誘ってくれると嬉しいかな」

 

 あいにく、今日は遊びに行く気はない。

 センパイとの問題が解決するまでは、そういった浮ついたことをする気はないのだ。

 

「えー、いつもそう言って断ってんじゃん。

 ……てかさ、桜井って文芸部でしょ?

 あそこって顧問もいないし、抜けても文句言われないんじゃない?」

 

「そんなことない」と、否定しようと思ったが実際そうなので反論が難しい。

 緩さを求めて入った部活故に、遊びを断る免罪符としての役割は段々と剥がれてきている。

 

 少し困って、返事を考えていたそのとき。

 

 不意に背中の方から別の声が聞こえた。

 

「――そこの三人。

 男子生徒への過剰な声掛けは校則で禁止されてますよ」

 

 目の前にいるのは一人の少女。

 隣の席の三人と違って、きっちりと制服を着込んだ彼女の声は空気を切り裂くように澄んだ声であった。

 

「……委員長。

 別に過剰な声掛けとかしてないから」

「ですが、困っていましたよ。桜井さんが。

 あのですね、そういうのは受け取る側の問題なんです。

 だいたい貴方たちはいつも――」

 

「わかった、わかったって。

 もう……桜井くん、別に暇になったらいつでも来ていいからね?」

「ん、そうするよ。ありがとね、誘ってくれて」

 そう言うと、彼女たちは別の席へと去っていった。

 

 ようやく一人になったと思った僕だが、隣の席の人影は姿を変えて残っている。

 

「……あのですね、桜井さん。

 ああいった輩は一度ビシッと言っておかないと駄目です。

 どっちつかずの態度と言いますか、そういうのは変な勘違いをされ兼ねません」

 

「まぁまぁ、速水ちゃん。

 上手いこと引いてくれたんだし、いいじゃん。

 それに僕も、遊びに行きたくないってわけじゃないし」

 

「だ、だめですよっ。

 知ってますか? 桜井さん。女性が男性を誘うということはですね、えっと、その、なんといいますか……」

「どエロいこと?」

「そう、どエロ……へっ!?」

 

 

「冗談だよ。速水ちゃん」

「……そ、そう、ですよね。

 少しびっくりしちゃいました。桜井さんがそのようなことを言うなんて」

 

 ……僕ってそんな清楚キャラでやってたっけな。

 あー、そうか。センパイと絡むとき以外は大抵猫被ってるし、気づいてないのか、僕の本性を。

 

「それと、いつも言っていますが、速水ちゃんはやめてください。そういう可愛い言い方は似合わないので」

 

「似合わないことはないと思うけど。

 まぁ、気をつけるよ。速水ちゃん」

「わざとやってますよね?」

 

 だって、速水さん笑ってるし。

 

 一見凛とした顔つきに見える彼女だが、口元は微かに緩んでいる。いや、微かにどころか大きく緩んでいる。

 端的に言えばニヤニヤしている。

 

 ……なんだろう、マゾなのかな、この人。

 だとしたら、ウチの姉と気が合いそうだ。

 

 関わるのやめようかな。

 

 そんな馬鹿なことを考えていると、不意に彼女が咳払いをしてから、何かに気づいたかのように喋りだした。

 

「……ごほん。その、桜井さん。

 シャツがズボンから出ちゃってます。

「ん、あぁ、ほんとだ」

 

 見てみると確かに、緩んだベルトからシャツがポロリと飛び出している。

 そういえばさっき、キツく締めすぎたのもあって緩めたんだったな。

 

「気をつけてくださいよ。

 あまり風紀を乱す服装をすると、そのうち指導が――」

 

 

「……え?」

 

「ん? どうかした?」

 

 急になんだ。

 変なものでも見たような顔をして。

 

「い、いえ。何でもありません。

 ……見間違い、でしょう。流石に」

 

 彼女はそう言ったものの、視線はある一点に固定されていて離れない。

 不思議に思った僕は彼女の視線の先を追って、指先をそっと置く。

 

 瞬間、気づく。

 

 

 ……あ、やべ。今見えてたな。

 キスマーク。

 

「そ、それじゃあ、僕はこの辺で」

 

 気づいた僕はこれ以上ボロを出さないようにと、席を立った。

 

 ……見られこそしたが、一瞬だし、バレてはないと思う。

 

 というか、センパイのせいだし、これ、普通に。

 あんなことしなければ、速水さんに気づかれることもなかったし。

 

 そう考えると、徐々にセンパイへ文句を言いたい気持ちが強まってくる。

 

 彼女のしたことは、羞恥心とかを抜きに考えると、ただの悪戯である。例えば、小さな子供がママが寝ている隙にこっそり顔に落書きするとか、そういう話である。

 

 ……ならば、何を恥ずかしがる必要があるのだ。

 

 よし、放課後に会いに行こう。

 それで、散々文句を言ってやるのだ。

 

 ……あと、昨日のことを、謝らないといけないし。

 

 僕はパンのゴミを捨ててから、教室へ戻って席につく。

 

 いつもは長く感じる授業が今日はあっという間に終わった。

 

 ……それじゃあ、行くとしよう。

 センパイの、もとへ。




お気に入りと評価入れてくれたらすっごく嬉しいよっ!
モチベになるのだ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。