貞操逆転世界でクールな先輩にオスガキムーブかましてたら普通に押し倒された   作:しゃふ

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6話 これが大人の味かぁ

 

「えっと、桜井くんは歌わないの?」

 

「僕は食べるだけでいいって言われてるので。

 ……んっ、はむ、おいひい」

 

 自転車で数分のカラオケ店。

 四人の少女たちとともに大部屋に通された僕は、マイクを彼女たちに押しつけて、お菓子を頬張っていた。

 

 人前に出るのは好きじゃないし、こうして隅っこでスナックを貪ってる方がよっぽど向いている。

 変な視線を感じるのは気になるけど、まぁお菓子代と考えたら悪くないだろう。

 

「桜井、飲み物何にする?」

「あ、そだね、どうしようか」

 

 僕は南原さんから受け取ったタッチパネルに目をやる。

 表示されているのはドリンクの類。

 飲み放題ということなので遠慮をする必要はない。

 元々する気はないが。

 

 ……んー、何にしよう。

 適当なジュースにしようかと思ったが、せっかくだし、いつもは飲まないような物を飲みたい。

 そう思ってスクロールしていると、僕の目にあるものが映る。

 

「あ、これ、頼めるのかな」

「……え、そこにあるのお酒だけど?

 がっつり通報されるよ? 大丈夫?」

 

「いや、そっちじゃなくて、こっちのやつ」

 

 困惑する彼女のために僕が指を指したのは、0%という文字。

 

 流石の僕でも堂々と未成年飲酒をする気はない。

 そう。見つけたのはノンアルコールビール、いわゆるノンアルである。

 

「あぁ、ノンアル? それならいけるんじゃない?

 ……あんまり美味しくないとは思うけど」

「ふっふっふ。

 僕は君たちみたいな子供舌とは違うのだ。はむっ」

「……お菓子咥えながら言われても説得力ないなー」

 

 アルコールが含まれてないとはいえ、ビールはビール。

 つまるところ、大人の飲み物である。

 かっこいいのである。

 

 普段はオスガキに精を出している僕だが、たまには大人っぽくグイッといきたいのだ。

 ……まぁ、飲んだことないから味は知らないけど。

 

 

 そうして、しばらく待っていると、店員がドリンクを持ってくる。

 僕は目の前に置かれたオレンジジュースをそっと退けながら、ビールへと手を伸ばす。

 

 ほうほう、結構本格的だ。

 ノンアルとはいえ、匂いも結構きつい。

 

 つーんとする鼻に目を伏せながら、僕はジョッキを持ち上げ、喉へと流し込む。

 

「……う、にがい」

 

「ほら、言ったでしょ?

 そもそもビールって結構苦いし、桜井にはちょっと早いんじゃないかなーっ?」

 

 思わず苦味に顔をしかめた僕に対して、経験者のように物を言う彼女の口角は上がっている。

 ……絶対飲んだことあるな。本物のお酒。

 

「あ、そうだ。私のと交換してあげようか?

 こっちのは口付けてないしさ」

 

「べ、べつにいいし。

 ふんっ、僕は大人だからこのくらい余裕だし?」

 

 謎の対抗心が沸いた僕はグイッとジョッキを持ち上げ、ビールを飲み込む。

 

 相変わらず、苦い。

 

 だけど、一気に飲んだら、どうしてだろ。

 ちょっと頭が気持ちよくなってくる。

 

 ……というか、なんか、ふわふわしてる。

 ほわぁ、これが大人の味ってやつか。

 

 

「んぅ、うへへ、もう一杯たのもぉ」

 

「えっと、全部飲んでからにしようね?

 あ、ちょっと、頼んじゃ駄目だって」

「うるひゃい、頼んじゃうもーん」

 

 もう一杯を頼んだ後、僕はお菓子へと手を伸ばす。

 菓子を食べて、ビールを飲む。

 簡単なことだけど、なんか楽しい。

 大人になった感じがして心地良い。

 

「――はーい、みんな。写真撮るよー。

 ほら、こっち向いて、桜井くん」

「ん、ぴーす」

 

 それに、頭のふわふわも気持ちいいし。

 うへへ、今なら何でもできる気がする。

 よーし、街まで全裸で走ってこようかな。

 

「……無防備すぎる」

 

「んぅ、なんか言った?」

「いやいや、何も言ってないよ。

 ほら、お菓子あげるから、食べようね」

「あい」

 

 そう思ったが、今はお菓子を食べるのに忙しい。

 僕は彼女に差し出されたポッキーに飛びつく。

 

 チョコの部分をポキっと折ってモグモグすると、僕はビールで流し込む。ん、おいひい。

 続いて持ち手のとこを食べようとしたけど、いつの間にかなくなっている。

 

「あー、食べちゃったの、持つとこ。

 ずるい、欲しかったのに」

「……ん、ごめんねー、もう一個あげるからねー」

 

 南原さんは餌付けのように、ポッキーを僕に差し出す。

 僕は彼女の手に向かって、口を近づけて、食べようとする。

 

 ……だけど。

 

「……ん、やっぱ、いらない。

 センパイのくれたやつの方が、おいしいし」

 

 そう言って、僕は顔を横に向ける。

 

 ……べつにチョコ味は好きじゃないのだ。

 それより、センパイがいつもくれる苺味の方が好みである。

 

 そのとき。

 

「――ねぇ、桜井ってさ。

 あの文芸部の先輩とどういう関係なの?」

 

 隣の南原さんがさっきまでよりずっと低い声で僕に問いかけてきた。

 なんだ? 知ってるのか、センパイのこと。

 

 ……んー、センパイと僕の関係、かぁ。

 

「んぁ、付き合ってる」

「え?」

 

 自然と嘘が出た。

 

 別に大した意味はない。

 でも、なんでだろう。

 こう言うのが一番良いって思ってしまった。

 

「……まじで?」

「まじまじ、もう滅茶苦茶ラブラブ。

 毎日イチャイチャしてるし、週末は泊まりでどぴゅどぴゅしてる」

「なにそれ、エッロ。

 ……てか、桜井ってそんな話するんだ?」

「んー、するする。

 そだねー、はむっ、今ちょっと忙しいからまた後でね」

「えー、もうちょっと話そうよ、ね?」

 

 僕はお菓子に手を伸ばしながら、彼女の言葉に答える。

 

 南原さんは僕の言葉を完全に信じきってしまっていた。もしかすると僕は嘘が上手いのかもしれない。

 センパイも引っかかってたし。

 

 だけど、この話はもういいだろう。

 僕は菓子をひたすらに頬張って、話を終わらそうとする。

 

 でも、そのとき、僕の肩に手が置かれた。

 

「……いいでしょ、どうせ暇なんだし」

 

 背中へ腕が回されて、身体がグイッと彼女の方に引き寄せられる。抵抗しようと思ったけど、お酒のせいか、あんまり力が入らない。

 

「――ちょっとぉ、あんま触んないでよ」

 

 僕に触っていいのはセンパイだけだ。

 それ以外の人に触られるのは、好きじゃない。

 

「いいじゃんいいじゃん。どうせ誰も見てないしさ」

「……いや、三人ともガン見してるんだけど。

 おーい、助けてぇ」

 

 僕は気まずそうにしている他三人へと目を向ける。

 だけど、南原さんには強く言えないのか、彼女らはモゾモゾしているだけだ。

 

「……ね、私結構上手だよ?

 経験豊富だし」

「いや、ぜったいうそでしょ。

 ――てかぁ、別に上手とか関係ないけどぉ?

 ふふっ、そういうのはね、上手い下手じゃないんだよ。

 何とかちゃん」

 

 僕は煽るように彼女に言葉をぶつける。

 そうそう、経験者の僕は分かるのだ。

 ど下手くそでも、心を奪われてしまうことは、ある。

 

 ……あー、でもどうだろうか。

 最近、キスされるたびに、上手くなっている気がする。

 口の中が、センパイに食べられて、おかしくなりそうになるのだ。

 

 やっぱり、へんたいだな、あの人。

 

「……やっぱ、上手い方がいいかもねぇ」

 

「――じゃ、じゃあさ、一回試してみようよ。

 彼女さんには黙っとくからさ」

 

 南原さんが少し顔を赤くしながらも、僕に向かって呟く。

 彼女の声はずいぶんとたどたどしく聞こえた。

 

 多分、意外にこういうこと言い慣れてないんだろうな。

 

「んー、誘い文句としては30点かなぁ。

 及第点未満の不合格ですねー」

 

 僕はそう言って、彼女に顔の前で手を振る。

 ふふん、僕を安い男だと思ったら大間違いだ。

 

 最低でも背が大きくて、無表情で、優しくて、でも時々強引に、僕のことをぎゅって抱きしめてくれる女の子でもないと、僕をモノにすることはできないのである。

 

「……そっか」

 

「ちょ、ちょっと、ナンちゃん。流石にまずいって。

 ここ、店の中だし。無理やりとか良くないって」

 

 彼女は僕の言葉に刺激されたのか、腕の力を強めだす。

 センパイのときよりは弱いけど、でも簡単に抜け出すことはできなそうだ。

 

 ……そろそろ言わないと駄目か。

 

「ね、南原さん。あそこにあるの何だと思う?」

「え?」

 

「……監視カメラだよ」

 

 僕は天井に取り付けられたカメラを指差す。

それは、僕らの席を真っ直ぐ見つめていた。

 

 ――ふふん、このくらいの自衛は僕でも出来る。

 部屋に入ったとき、カメラが見える位置をわざと選んだのだ。

 

 僕は勝ち誇ったように目の前の少女へ笑いかける。

 店員に見られている以上、彼女も手荒なことはできない。

 

 そう、できないのであ……

 

「――いや、見られたとして、人なんかこないでしょ」

「え?」

 

「カメラ見てるのって、どうせバイトだし。

 わざわざ止めに入るのも面倒……というか、やらないでしょ」

「え、あ? そうなの?」

「むしろ、喜んでカメラ見てるんじゃない?

 そういう話、ときどき聞くよ。私の友達も前言ってたし」

 

 ……そうか。

 意外と治安が悪いんだな。カラオケって。

 

「――じゃあ、続けよっか」

「……ほう」

 

 あ、これまずいやつだ。

 

 本能的に察した僕は、無理やり身体を動かそうとするが、ピクリともしてくれない。

 

「おっと、逃さないよ」

 

 ふ、服、掴まれてる。

 やばい、目がやばい。あのときのセンパイとおんなじ目してる。

 周りの子たちもビビって止めてくれないし。

 このままだと、酷いことになる、絶対なる。

 

「た、たすけて」

 

 僕は細い声を絞り出す。

 彼女の腕がかかっていることもあって、声が出しづらい。

 でも、この状況で出来ることはこれしかない。

 ……あ、あぁ、調子に乗りすぎた、のか?

 

「だから、人なんか来な……」

 

 

 ――そう、思ったときだった。

 

 急に、僕の頬に冷たい風が当たった。

 

 見ると、部屋の扉が開いている。

 開けたのは中からじゃない。外からだ。

 

 そこに誰かが立っている。

 

「――お客様」

「……え?」

 

「当店はそのような行為を許しておりません」

 

 ……そこにいたのは、僕が誰よりも頼りにしている人。

 

「――セ、センパイっ!」

 

「……天音」

 

 夏目千里。

 エプロンを身に付けた彼女は堂々と僕らの部屋に入ってくる。

 た、助けにきてくれたのだ、センパイがっ!

 

 

 ……あれ、でもなんでセンパイがいるの?

 

「バイト。ここでやってるから」

「あ、そうだったんですか」

 

 凄い偶然である。

 けど、よくよく考えたら学校からも近いし、おかしなことではないか。

 カラオケってなると、センパイのイメージからはちょっと遠いけど。

 

 ――いや、今はそんなことはどうでもいいっ!

 とにかくセンパイは僕を助けに来たのだ!

 

 隣を見ると、南原さんはブルブル震えている。

 ふふんっ、そりゃあそうだろう。

 センパイはデカい。

 南原さんの貧相な身体では太刀打ちできるはずがない。

 

「いけっ、やっちゃえっ! センパイ!」

「……」

 

 ふはははっ、これで僕の勝……

 

「え、ちょ、なんで僕の方に来るんですか」

 

「……ずっと、見てた」

「へ?」

 

 あれ、なんかセンパイが怖い顔してる。

 南原さんにじゃなくて、僕に。

 

「――随分と楽しそうにしてたね、天音」

「……ご、誤解です。

 僕は食べ物に釣られただ――いたっ!? あ、首掴むのやめてぇ」

 

 ぼ、暴力反対っ!

 だ、駄目っ、あ、ちょ、死ぬぅ!?

 

「帰るよ。天音」

 

 僕はセンパイに首根っこを持たれながら、引きずられる。

 い、痛いっ、たすけてっ、南原さんっ!

 

「……君たち。

 この子は私のだから、手出したら駄目」

「は、はい、姐さん」

「分かったなら良い」

 

 駄目だ、なんか普通に従えてる。

 圧が強すぎて南原さんが一生ビビってるし。

 

 ……え、ちょ、これ僕だけしばかれるパターンなのっ!?

 

「さっさと歩いて」

「は、はいっ!」

 

 こうして、僕はセンパイによってレジ裏へと連行される。

 引きずられながらも、前を向いたとき、ふと机に置いた飲みかけのグラスが目に入る。

 

 ……あぁ、最期に一杯、飲みたかったなぁ。

 

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