貞操逆転世界でクールな先輩にオスガキムーブかましてたら普通に押し倒された   作:しゃふ

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8話 M

 

「センパイ、あの。いつまでこうしてるんですか?」

「……さあ」

 

 センパイに更衣室に連れ込まれて数十分。

 僕は相変わらず彼女の身体に埋まっていた。

 だって、離してくれないもん。

 

 首にはジンジンとした感覚が残っている。

 ……人に噛まれるなんて、人生で初めてだった。

 

 触ってみても、痛くはない。

 だけど、センパイの歯の形は僕の身体にくっきりと刻まれている、

そんなことを考えしまうと、次第に呼吸が荒く、溶けていく。

 

 ……あんまり、意識しない方がいい。

 

 そうだ。前にも似たようなことをお腹にされたじゃないか。

 だから、このくらい、普通だ。

 ……普通のことなんだ。

 

 無理やり自分を納得させた僕は、さっきからずっと腰回りを触ってきているセンパイに対して語りかける。

 

「……えっと、そろそろ戻った方がいいんじゃないですか、センパイ。

 一応、仕事中ですよね」

「やだ」

 

 なんとも潔い返事である。

 この人普通にクビにした方がいいんじゃないか。

 

 そんなことを考えながら、僕は尻へと伸びようとするセンパイの手をはたき落とす。

 

 そしてそのままの勢いに、彼女の身体から抜け出そうと足を曲げたとき。

 センパイの手が僕の腕を強引に掴み、引っ張り上げる。

 

「――ちょ、なんのつもりですか、センパイ」

 

「……ん、隠れないといけないなって」

 

 どういうことだ、と思ったが、僕はすぐに彼女の行動の原因に気づく。

 

 足音がしている。

 おそらく、キッチンの方からだ。

 徐々に近づいてくるその音は、間違いなくここ、更衣室を目指している。

 

「おーい、千里ちゃん。

 店長帰ってきたし、戻ってきて」

 

 近づく足音と一緒に、大きな声が放たれる。

 どうやらセンパイを探しているらしい。

 抜け出してきたようだし、そりゃそうか。

 

「じゃあ、一緒に隠れようか」

 

 だが、センパイは少しも悪びれる様子もなく、人差し指であるものを指しながらそう言った。

 

 彼女の指の先にあるのは、脱いだ服を入れるようのロッカー。

 

 ……え、隠れるって、ここに?

 

「むりむりむりっ! ぜったいロッカーは無理てすっ!

 明らかに二人分のスペースないですよこれ!」

「いけるいける。

 ほら、天音ってちっこいし」

「センパイがデッカいじゃないですかっ!」

 

 必死の反論も虚しく、ロッカーは開けられ、僕らの身体はその中へと無理やりに詰め込まれる。

 

 が、しかし、当然のことが起こる。

 

 ……ほら、やっぱデカいから、つっかえてるじゃないか。

 

 どうにか、しゃがんでスペースを確保した僕に対して、センパイは完全に挟まっている。

 主にその胸部のせいで。

 

「……仕方ない、天音の頭を使おう」

 

 揺れ動くソレを下から見ていると、センパイがそんなことを言った。

 彼女の言葉の意味を理解する前に、頭の上にずっしりとした感触が乗ってくる。

 

「……ちょっと、僕を乳置きにしないでください」

「男の子が乳とか言っちゃ駄目だよ。天音」

 

「じゃあなんて言うんですか。脂肪?

 ……あ、ちょ、頭ポカポカするのやめてください、痛いんで」

 

 頭上に感じる重力に不満を言いつつも、僕の心は平穏ではない。

 もちろん、頭の上のこれも原因の一つだけど、それよりも。

 

 さっきから、体勢が良くない。

 ちょうど、腰の辺りにセンパイが跨ってるせいで、擦れる。

 動こうにも、センパイの足が僕の腰をガッチリとホールドして離れない、

 

「あ、あの、センパイ、あんま動いちゃ、駄目です」

 

「……ん、入ってくるから、静かにして」

 

 僕が思わずそんなことを吐き出したとき。

 

 ――更衣室のドアが開く音がした。

 

「……ん、どこいったんだ、あの子。

 サボりは私の専売特許というのに」

 

 どうやら、入ってきたようだ。

 一応、姿自体は隠れている。

 だけど、ロッカーを開けられたら、とんでもない痴態を見られることになってしまう。

 

「可愛い男の子がどうとか言ってたのに。

 ……さてはバックれたか。

 始めて三日で飛ぶとはプロだな、あの子」

 

 どうにか、バレないようにお祈りしながら、僕はセンパイの身体にひっつく。

 

 けど、まぁ、うん。

 

「――? なにこのパンパンなロッカー」

 

 ……普通に考えて、気づかれないわけがないよね。

 

 瞬間、当たり前のように開かれたロッカーへ空気が流れ込む。

 ひんやりとした感触が肌を襲い、久方ぶりの光のせいで、目が眩む。

 

 目の前にいるのは、受付にいたバイトの人。

 彼女は目を点にして、完全に固まっている。

 視線が向かうは、僕の頭の上、そのまま腰回りへと移行し、

 

「……え、あ、ヤってた?」

 

 そんな言葉が生み出されることになった。

 

 ……やっぱこの体勢は駄目って言ったじゃんっ!

 

「ち、ちがいますっ!

 せ、センパイっ、なにか言ってください!」

 

 僕は慌てて彼女の言葉を否定する。

 けど、頭の上の重量物のせいで喉が閉まって上手く声が出ない、

 

 こ、ここは、センパイに上手く言ってもらうしかない。

 僕は彼女へとバトンを渡し、上目遣いでウインクをする。

 

「してた」

「なんで嘘つくんですかぁ!」

 

 が、一瞬で裏切られる。

 なんでだよ。

 

「……さっきの仕返し」

 

 そんな風に微笑む彼女の顔は、頭の上のデカブツのせいでよく見えない。

 

 結局、諦めた僕はそっと自らの目を閉じるのだった。

 

 

 

「天音はここで待っててね。

 私は店長と話してくるから」

 

「いや、クビですよ。ぜったい。

 バ先に男連れ込んでるんですから」

「……やっぱそうかな」

 

 残念だが、当然である。

 バイト中に男を呼んでロッカーの中で対面〇位を始めるやつが働けるほど、世の中は甘くない。

 

 僕のためにバイトをしてくれたのは嬉しかったが、辞める原因も僕となるといささか微妙な気持ちになる。

 

 ……まぁでも、バイト先なんていくらでもある。

 べつにここに拘らなくても、センパイならきっと新しいバイト先を見つけ――

 

 

「店長許してくれた」

「……え、まじで? 聖人すぎない?」

「ね」

 

 ……なんか普通に許されて帰ってきたんだけど。

 まじか、職務放棄と不法侵入のダブルパンチが許されるパターンあるのか。いや、後者は僕にも責任があるかもしれないけど。

 

 そんなことを考えながらも、なんやかんや、彼女がクビにならなかったことに胸を撫で下ろす。

 

 そうだ。

 センパイは僕のために、立派な誕生日パーティを開いてもらわないといけないのだ。

 

 誕生日までは後二週間くらいだし、それまでビシバシと働いて貰おうじゃないか、ふふふっ。

 

「それじゃあ、一件落着ですね。

 ということで僕は帰ります。もう結構遅いですしね」

 

「ん、待って。

 大事な話あるから」

 

 そう言って僕が扉から出ようとしたとき、センパイに肩を叩かれる。

 

 ……待て、今、大事な話と言ったか?

 

「な、なんですかーっ?

 あーっ、えと、そういう話は、また今度の方がいいかな、なんて。

 た、誕生日のときって、約束、でしょう?」

 

「いや、そうじゃなくて」

 

 僕の言葉にセンパイは首を横に振ってから、返答する。

 

「今日から天音もここで働くことになったから」

「……へ?」

「もう店長にも言ってきたから。

 明後日から出勤ね」

 

「――なんでっ!?」

 

「……天音が悪いからね。

 また、私が見てないときにホイホイ女の子に着いて行っちゃうと困るし」

 

「そ、そんなの僕の勝手じゃないですかっ。

 まだ、付き合ったりしてるわけじゃないですし!

 ……て、てか、アレです。

 そういうのは束縛って言うやつですよっ」

 

「――じゃあ、天音は私の側にいるの、嫌なの?」

 

「……いや、べつに、嫌とか言ってませんけど」

「知ってる。

 だから、いいでしょ」

 

「……もう。仕方ないですね」

 

 まったく、僕はぐうたら生きていたいのに。

 

 ……まぁでも、センパイと一緒ならいいか。

 バイトのとき、会えないのは嫌だったし。

 

「ちなみに、僕の仕事ってなんなんです?」

「マスコット」

「カラオケ屋ってそんなのあるの?」

 

 僕の放った疑問はセンパイの微笑みによって掻き消される。

 ……今日二回目の笑みだけど、だんだん表情が緩んできている気がする、

 これはセンパイとの関係が深くなっている、ということなのか。

 

 ――それなら、再来週の誕生日にはいったいどうなってるんだろう。

 

 そんな想いに心を馳せながら、僕はセンパイと一緒に家まで帰った。

 

 

 

 次の日の学校。

 昨日は色々あったせいで、少々興奮して、寝つきが悪かった。

 

 そんな状態なので、授業は耳に入らない。

 適当に聞き流しながら、のんびりしていると、いつのまにか放課後になっていた。

 

 今日の放課後はセンパイと会える……はずだったんだけど。

 僕はラインで送られてきたメッセージに目をやる。

 

『ごめん、今日も部活行けない』

『むー、ひどいですっ!

 ぜったい今度埋め合わせしてくださいよっ』

 

 昨日の一件のお詫びとして、センパイは今日人手が足りない分のシフトに入るらしい。

 僕も一緒に働けば良いとも思ったが、バイト先に提出する資料とかの関係で働けるのは明日からだ。

 

 ということで、暇である。

 まぁ、昨日センパイに会えたことによって、センパイ成分は補充できている。

 とはいえ、今まで土日以外は毎日会っていたのだ。

 それがなくなるとなると、その、なんというか。

 

 ……ちょっぴり、寂しく感じても、仕方ないだろう。

 

「ね、隣いいかな。桜井」

 

 そんなことを考えてたとき、毎度のことながら、隣に座る影があった。

 

「……駄目っていったら?」

「そのときは代わりに前の席にでも座るかな」

「じゃあ隣でいいよ。南原さん」

 

 南原さんである。

 昨日のことがあったというのに、彼女は堂々と隣に座っている。

 なかなか肝が据わっているものだ。

 

「――言っとくけど、遊びに行ったりはしないからね」

「……分かってるって、もうちょっかいはかけないからさ。

 夏目先輩に殺されたくないし」

 

 ただ、彼女の様子は少し変わっていた。

 前までの積極さは薄れ、なにか反省のようなものが見える。

 ……相当センパイにビビってるんだろうな。

 気持ちは分からないこともないけど。

 

 センパイはちょっと誤解されやすい人なのだ。

 感情を出すのが苦手な人だから、本当は優しい人なのに初対面の人とかには凄く怖がられてしまう。

 

 ……だから、僕だけが知っているのだ。

 センパイが、実はすっごく可愛らしい人ってことを。

 

 そんなことを思っていると、南原が声を続けた。

 

「……にしても、桜井に彼女いたのは意外だなー。

 私、フリーだと思ってたからアタックしたんだよ?」

 

 実際、嘘なので彼女の反応は間違っているとはいえない。

 だけど、特に訂正する必要はないだろう。

 話が拗れるだけだ。

 

「桜井のこと狙ってた子は可哀想だねーっ。

 うちのクラスに何人もいたし」

「……で、その一人が南原さんだったと」

 

 半分冗談のつもりで言った言葉。

 だけど、南原さんからの返答は案外真剣なものだ。

 

「ま、そだね、失恋しちゃった。

 私、結構桜井のこと好きだったんだよ?」

「そっか」

 

 こういうとき、返答に困ってしまう。

 理由は、たぶん。断る理由というものが自分の中ではっきりしてないからだろう。

 

「たぶん、そんな子結構いると思うけどね。

 他の男子と違って距離感近いし、こうやって隣に座っても嫌がらないし、顔も女の子みたいで話しやすいしね」

 

 最後のは少々失礼ではないか。

 

 というか、センパイにもよく言われるけど、そんなに僕は可愛げのある顔をしているのだろうか。

 

 むぎゅっと自分の顔に手を当ててみながら、僕は彼女の言葉に耳をかしげる。

 

「――あと、アレもあるね」

「アレ?」

 

「桜井ってさ、私たちのこと、ちょっと雑な扱いしてくるじゃん。

 んー、扱いがぞんざいって言うのかな。分かんないけど。

 ま、とにかく。

 そういうのは、一部の子には結構受けがいいからね」

 

 ……ん、どういうことだ。

 いや、確かに南原さんとかと話すときは適当に会話してるけど、それは彼女たちとそこまで親交を深める気がないからだ。

 

「女の子ってのは冷たくされると逆に好きになっちゃうものなんだよ」

 

 ――でも、そういう態度の方が好きな奴もいるということか。

 

 つまりは、あれだ、マゾだ。

 そういや、姉も前に似たようなことを言ってた気がする。

 私を罵倒してくれとか、なんとか。アレには引いたな。

 

「……はぁ、まぁいいや。

 用が済んだら帰ってよ。僕もう帰るし」

「そう、それがいいって話」

 

 変態の考えていることは分からない。

 少なくとも姉の同種の奴がいるとしたら、僕は一目散にそいつから逃げ出すだろう。

 

 ――そんなことを考えていたときだった。

 

「……またやってるんですか。

 南原さん」

「げ、委員長」

 

 僕らの会話に紛れ込んできたのはクラスの委員長、速水さんである。

 彼女の姿を見た南原さんはばつが悪そうに頭を掻いた後、立ち上がって僕に告げる。

 

「あー、そろそろ私は帰ろっかな。

 じゃあね、桜井。

 ……あ、それと昨日のはほんとごめん、私がどうかしてたわ」

「ん、いいよ別に。結局なんともなかったし」

 

 そう言って、彼女は教室を出ていった。

 昨日の様子で勘違いしてたけど、意外とちゃんとしている子なんだな。

 

「……大丈夫ですか。桜井さん。

 また南原さんに変なこと言われたんじゃ」

「なんもないなんもない。

 そんな心配しなくても大丈夫だよ」

 

 まぁ、実際彼女に何かされたわけでもない。

 てか、お菓子やらなんやら一杯奢ってもらったし、むしろ感謝しているくらいだ。

 

 僕は速水さんにそのことを伝えた後、ふと気になることがあったのを思い出す。

 

「あ、そういえばさ。

 この前、文芸部に来てたよね。

 アレって結局なんだったの?」

 

 そう、つい先日。彼女は文芸部の部室に来ていた。

 ……少々、まずい光景見られたせいで保健室送りとなったが。

 

 というか、彼女はあのときのことを覚えているのだろうか。

 特に触れてこないことを考えれば、倒れたときに記憶ごと飛んでそうだが。

 ……下手にこっちから触れるのはよそう。

 思い出されても困る。

 

「……あぁ、別に大したことじゃないんです。

 読んでみたい本があったんですが、図書室を見てもなかったので文芸部の方を伺ったんです」

「そうなんだ。

 んー、たぶん、センパイが持っていったのかな」

 

 一応文芸部ということもあって、僕らは図書室とのコネがある。

 置いてある本を勝手にパクっても、紛失さえしなければ大抵は許してくれる。そのため、センパイは定期的に図書室から大量の本を仕入れてくるのだ。

 

「今度、センパイに言っとくよ。

 ……えっと、用はそれで全部?」

 

「……いえ、まだあります」

「ん、なに?」

 

 そう、僕が告げたときだった。

 

 机に置いていた、僕の右手が彼女の両手で包み込まれる。

 

「……桜井さんに、お話があるんです」

 

 ――いつの間にか、教室の人気は失せている。

 閑散とした静寂に、冷たい風が吹く。

 窓から射す光は僕ら二人を祝福するかのように照らしていた。

 

 ……待て、なんだこの雰囲気。

 嫌な予感がする。

 速水さん、何かモゾモゾしてるし。

 

 まさか、これはアレか。

 間違いない、アレだ。

 

 ……告白的なサムシングに違いない。

 

 な、なんて言って断ろう。

 うぅ、南原さんみたいなチャラチャラした子相手なら遠慮なく振れるけど、速水さん相手だとちょっと怖い。

 落ち込ませたりはさせたくないし。

 

 僕は彼女の言葉を待つ。

 

 速水さんは少し言い淀むような素振りを見せるも、僕と目を合わせ、ゆっくりと口を開いて。

 

 言葉を告げた。

 

「――私を、罵ってくれませんかっ!

 桜井さんっ!」

 

「ごめん、君とは友達で――――え?」

 

 ん、今何て言ったこの人?

 罵るとか聞こえたんだけど気のせいだよね?

 

「あの部室で、桜井さんの声を聞いてから、私、おかしくなっちゃったんです。

 こんな綺麗な桜井さんがあんな汚い言葉を吐いて、叫んで、喘いで。ぐちゃぐちゃになるとこを、見て、もう、私、駄目になったんです」

 

 あ、これ気のせいじゃない。

 普通にやべえこと言ってる、この人。

 

「……い、一度だけでいいんです。

 私を、滅茶苦茶になるまで、壊してくれませんか」

 

 僕は冗談であることに賭けて、彼女の顔色を窺う。

 

 どうみても、真剣だった。

 そう、つまり、これが何を示しているかというと。

 

 ――逃げろっ、マゾだっ!

 

 




いつも誤字報告ほんとにありがとうございます
一応読み返してるんだけどなぁ……
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