ラブライブ! School idol liberty ~ 苺の木の詩 ~   作:めたんはいどれーと

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『μ'sの真実』 後編

 

 

 

 

「まずは初ライブおつかれさま、かな」

 

 はやてと莉曜(りよう)を待っていたアリサは、二人とともに西木野(にしきの)病院のすぐ裏手にある公園まで移動すると、そう切り出した。

 そんなアリサの行動に呆気を取られていた二人であったが、彼女の言葉に慌てて頭を下げる。

 

「あわわ…その、ライブのときはありがとうございました。アリサさんの一言がなかったら、みんなに最後まで認めてもらえなかったかもしれなかったです」

「ホント、あの一言がなかったら、私たち完全に自信をなくして、スクールアイドルを続けられなくなっていたかも……」

 

「そんなことないわ。あのとき、観客席のひとたちは、あなたたちから確かに何かを感じたのだと思う。私はそれを素直に認めるきっかけをつくっただけ……」

 そう言って、アリサは優しく微笑んだ。だがすぐに表情を引き締めると、瞳に哀しげな色を灯す。

 

μ's(ミューズ)のこと、聞いたのね」

 

「はい……」

 

 沈痛な表情を浮かべたはやてたちに「そう」とつぶやくと、アリサは遠くを見るような目で、空を見上げる。

 

「あのころのお姉ちゃんね……」

「エリさんのこと…ですか?」

 

「そう、穗乃花(ほのか)さんが入院してから、お姉ちゃんはまた、μ'sに入る前のお姉ちゃんのようになってしまったわ。

バレエをあきらめた、『自分のない』状態。ただ周囲の期待を裏切らないように行動するだけの、まるで『使命感』という糸に操られる人形みたいなヒトに戻ってしまった……」

 

 寂しげにそう語るとアリサは、静かに目を閉じる。

 

「けどそれでもスクールアイドルへの思いは消しきれなかったみたい――穗乃花さんを止めきれなかった後悔と、μ'sとして活動してきた楽しかった思い出との狭間に揺れ動きながら、私に何度も聞いてきたわ『アリサ、アイドルって何なんだろうね』って……」

「……」

「そんなお姉ちゃんを私は見ていられなかった。だから私は決意した。お姉ちゃんをスクールアイドルから解放してあげようって」

 

「それでラブライブを終わらせるなんてことを……」

 

「そう、だから私はドンキーになることを決意した……」

 そう言って、アリサは決意に表情を引き締める。

「私がドンキーになって、お姉ちゃんができなかったことをやってあげれば、お姉ちゃんは傷つかない! そしてその結果、スクールアイドルが出来なくなっても、私は後悔しない!」

 両の拳を固め、アリサは叫んだ。

 

「だって私、ドンキーだから!」

 

 そんなアリサの言葉に、莉曜がたまらず、はやての耳元で囁く。

(さっきからドンキードンキーって言ってるけど、もしかしてアリサさん、DQNって言いたいのかな…?)

(ドンキーだと、どっかの激安ディスカウントショップみたいだね……)

 そんなヒソヒソ話をする二人に気づかず、アリサは言葉を続ける。

 

「未成年がアルコールを飲んだら死刑になるって知りながらも、公園の自動販売機で買った甘酒を飲んでみたし……」

 

(いやいや、飲酒で死刑にはならないでしょ!)

(そもそも公園自販機の甘酒には、アルコールは入ってないし!)

 

「同じようにタバコも吸ってみたけど、アレは無理だった。大人の人たちはどうしてあんな煙たいモノが吸えるんだろう…?」

 

 その言葉に、はやては「初恋フェス」のときに化粧室で見た光景を思いだし、アリサに問いかける。

「そういえばあのとき、タバコのフィルター部分が焼け焦げていたけど、アレはなぜなんですか?」

「? 火をつけたからよ?」

「いや、そうじゃなく、どうしてフィルター部分なのかなぁ、っと……」

 

「コンビニで売っている花火と同じでしょ? 火をつける場所は色紙(いろがみ)の部分に決まっているじゃない」

 

(アリサさ~ん、花火とタバコじゃ全然違いマスヨー!)

(このヒト、実は相当な天然キャラなんじゃないの!?)

 

 二人がアリサの意外な一面を垣間見て戸惑っていると、突然アリサが、

 

「でも、それももうやめたわ」

 

 と告げた。

 

「え?」

 

 アリサからにじみ出るその雰囲気に目を見張るはやてと莉曜。

 そんなアリサの姿は、先ほどよりどこか大きく見えた。

 そしてアリサは言葉を継ぐ。

 

「今年のラブライブで私たちは優勝する。でもそれはラブライブを終わらせるためじゃない。私たちはラブライブで優勝して、そしてμ'sを超えてみせる。そうすればお姉ちゃんに、また夢を持ってもらえるはずだから!」

 

「アリサさん……」

 

「あなたたちのライブを見てわかったの。なんでお姉ちゃんがあなたたちのコーチを買って出たか。お姉ちゃんはまだアイドルへの情熱を捨てていない。それがわかったから……」

 

 「それにね」と、一転して嬉しそうな表情を浮かべるアリサ。

 

「今日、ずっと会っていなかった友達から、久しぶりに連絡が来たの。一度会って話さないかって……その友達――雪穂(ゆきほ)に、いまのハラショーな気持ちを伝えたい。二人でμ'sに憧れたときのように、また雪穂と一緒に始めるの!」

 

 明るい表情でそう語るアリサ。そんなアリサにはやては言った。

 

「あたし、今日のライブで熱を感じたんです」

 

「熱…?」

 

 おうむ返しに問い返したアリサに、莉曜も静かにうなずき口を開く。

 

「私も感じました。たくさんの人たちの視線を受け、そりゃあ最初は怖かったけど、気がついたら胸の中でこれまでに感じたことのない、ぐつぐつと煮えたぎるような熱を感じたんです」

 

 莉曜の言葉に、はやても自身の胸に手を当てる。

 

「そう、それはライブを終えたあとでも、消えない炎のように、いまもあたしたちの中でくすぶっている……」

「この熱の正体が何なのか、私たちにはわかりません。でも、いまはこの熱をみんなに伝えたい。だってこの熱は、きっとみんなを笑顔に出来るモノだから」

「もしいまμ'sの皆さんが元気を無くしているのなら、そのμ'sの皆さんだって、あたしたちは笑顔にしたい。だからっ!」

 

 そして二人は声をそろえる。

 

「「私たちも負けません!」」

 

「…………」

 

 3人がそう言いあったあと、長い沈黙が訪れた。だが――

 

「ぷっ」

「あはははは!」

 

 突如吹き出すように笑い出す三人。そうしてひとしきり笑い合ったあと、3人は空を見上げる。

 

「あ~可笑(おか)しい。ナニでっかいこと言っちゃってるんだろ私たち」

 笑いすぎて浮かんできた涙を指先で拭いながらそう言った莉曜に、アリサは唇を尖らせる。

「あ、あら、私は仮にもラブライブ優勝候補なんだから、おかしくなんてないわよ!」

「え~『初恋フェス』のとき、にこさんが言ってましたよ~。『この時期のアドバンテージなんてなんの意味もない』って」

「あ~言ってた言ってた。『いまこの時点で自分たちの方が有利だ、なんて考えているグループがあれば、間違いなく他校のスクールアイドルに足下をすくわれる』とも言ってたよね」

「そんなぁ……」

 少し、しゅんとするアリサを見て二人が笑う。そんな二人の笑顔につられて、やがてアリサも笑い出した。

 そのままひとしきり笑い合う3人。だがやがて爽やかな風が吹き、彼女たちを優しく包み込む。

 

 そんなどこに行くかわからないその風の行き先に、3人は目を向けた。

 

 そして、はやてが言う。

 

「届くかな? あたしたちの気持ち……」

 

 そして、莉曜が言う。

 

「届くかな? 私たちの願い……」

 

 そして、アリサが言う。

 

「届くかな? 私たちの歌……」

 

「全部ひっくるめて、あたしたちの思い、穗乃花さんたちに――」

 

「届けようよ!」

 

「ハラショー!」

 

 うなずきあうと、はやて、莉曜、それにアリサの3人は「せーのっ」と息を大きく吸い込む。

 

 そして叫んだ。

 

 

 

 

 

「「「届けぇぇぇええええええええええええッッ!!!!」」」

 

 

 

 

 

 3人が大声でそう叫んだその先には、どこまでも果てしなく続く、無限の青空が広がっていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 

「いま彼女たちに、すべてを話してきたわ」

 

 はやてたちと別れてから、ツバサはスマホを手に、誰かと通話していた。

 ツバサにとって、これまでその相手との会話は、いつも心苦しい雰囲気が付きまとっていた。

 だが今日は違う。これまでにはなかった、どこか清々しい気持ち。まるでずっと雨模様だった空に、わずかに広がった晴れ間を垣間見たような、そんな気持ちだった。

 

 しかしそんな彼女とは対照的に、通話の相手は少々不信感をあらわにしながら、ツバサを(とが)めるように言う。

 

『一体何を(たくら)んでいるの?』

 

「あら、企むなんて人聞きの悪いこと言わないでよ――エリ」

 

 そう、通話の相手はエリだった。

 エリはいつもと違う雰囲気のツバサに少々戸惑いながらも、言葉を続ける。

 

『私はもうμ's(ミューズ)絢瀬絵里(あやせ えり)じゃない。ただの大学生の(すめらぎ)エリ。だから、あなたが何を期待しているか知らないけど、私には何の力もないのよ』

 

「自分を過小評価しないで。そんなことないわ……」

『ツバサ、どういうつもり…?』

 眉を潜めたエリに、ツバサは告げる。

 

「私たちは3年前、ラブライブ最終予選であなたたちに敗れた。それ以来ずっと、もう一度あなたたちと競い合いたいと思ってきたの。だけどあの子たちのおかげで、その夢がようやく実現できそうだわ」

 

『どういうこと? はやてたちは――』

 

 エリの言葉を最後まで聞くことなく、一方的に通話を終了するツバサ。

 

 そして言う。

 

 3年前、彼女がμ'sのメンバー全員と初めて対面したあの日のように、微笑みを讃えながら。

 

 

 

「始まる……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                           第一部 完。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その黒髪の少女は、もはや日課となっている、いつもの花瓶の花の手入れを行っていた。

 

 丁寧に丁寧に水切りを行い、それが終われば、丹精に丹精にまた花を生ける。

 すべてはこの部屋の主。もう2年以上も眠り続けている親友のために……。

 

 あとは霧吹きで水を吹きかけてやれば、花の手入れは完了である。だが、あいにく今日は霧吹きを忘れてしまったため、それは後回しだ。

 

穗乃花(ほのか)……」

 

 花の手入れに一段落をつけると、黒髪の少女は部屋の主である少女の名をつぶやく。

 同時に、黒髪の少女の瞳からは涙がこぼれ落ちそうになり、その涙をこらえようと、彼女が顔を伏せたそのとき――

 

 

 

「「「………けぇぇぇええええええッッ!!!」」」

 

 

 

 窓の外から声が聞こえてきた。

 どうやら数人の女の子たちが、大声で何かを叫んでいるようだ。

 

「何か、外が騒がしいですね……」

 

 指先で軽く目元を拭うと、少し迷惑そうに眉を潜めながら、黒髪の少女はそれまで空気の入れ換えのために開けていた窓を閉める。

 それと同時にガラリと病室の扉が開かれ、看護師が顔を出した。

 

「園田さーん」

「はーい」

 

 きっと頼んでいた霧吹きを持ってきてくれたのだろう、看護師に名を呼ばれ、黒髪の少女は返事とともに席を立つ。

 

 そのとき――

 

 ピクリ、と、眠り続けているはずの少女の指先が動いたことに気づいた者は、

 

 

 

 

 黒髪の少女――園田海未(そのだ うみ)を始め、誰一人としていなかった……。

 

 

 

 

 

                              続く。

 

 

 




これにて第1部完結となります! 2部は春用作品を仕上げてから再開予定です。
ちなみに第2部1話(15話)のタイトルは、

『降臨!? ダークギャラクシーエンプレス!』

となる予定。(超展開ではアリマセン)

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