ラブライブ! School idol liberty ~ 苺の木の詩 ~ 作:めたんはいどれーと
「このたびスクールアイドル部を結成することにしました! 興味がある方は、よろしくお願いしま~す!」
その日の朝、続々と登校してくる生徒たちで賑わう学校の正門前で、何かのチラシを配布しているはやての姿があった。
そのチラシには『目指せ! ラブライブ!』の文字が躍り、続いて大きく『メンバー募集!』という文言と、学年とクラス、それに氏名を書く欄がプリントされてある。
「よろしくお願いしま~す! あ! ありがとうございます!」
はやてのチラシを快く受け取ってくれる生徒もいた。だが大半は目をそらし、あからさまにはやての立っている場所を避けながら正門を通ろうとする生徒ばかりだ。
「よろしくお願いしま~す!」
それでもめげずに一人の女子生徒にチラシを差し出すはやて。その女子生徒は少し引きつった笑顔でチラシを受け取ってくれたものの、数歩も歩くとチラシをくしゃっと丸めて校舎前のゴミ箱を目がけて投げ入れる。
だが狙いははずれ、空しく地面を転がるチラシ。しかし女子生徒はそれ以上特にチラシに気を配ることなく校舎の中へと消えていった。そんな光景を目の当たりにし、はやては少しだけ顔をうつむかせる。
(いーや、まだまだ!)
だがそう奮起すると、はやてはすぐに顔を上げ、転がったチラシを拾い上げようとゴミ箱に駆け寄る。と、そこに――
「
気がつくといつの間にかそこにはティターニアがいた。
ティターニアは、捨てられたチラシを拾い、くしゃくしゃに丸められたソレを丁寧に広げる。
「決心したのね」
「皇先生! あたし決めたんです。スクールアイドルやってみようって」
はやてのその言葉に、優しい手つきでチラシのシワを伸ばすと、すっとはやてに返すティターニア。そのチラシを受け取りながら、はやては苦笑する。
「たはは…。とはいえ道は険しそうですけど」
「初めは誰だってそんなものよ。だけど――」
笑顔を浮かべるティターニア。
「簡単にあきらめるつもりはないんでしょう?」
「ハイ!」
即答。そんなはやてを少し眩しそうに見つめるとティターニアは言った。
「じゃあ、わたしはもう行かないと。宮永さん、手伝って欲しいことがあったらいつでも言ってね」
「ハイ! ありがとうございます!」
そのあと、はやては学校内を忙しく駆け回った。
休み時間は新しい部活の申請に必要な条件を調べ、昼休みには自分の昼食もそこそこに済ませると、すぐに生徒たちが集う場所を巡りながらメンバー募集のチラシを配る。
もしかしたらその日は、はやてが高校生になってから、一番多忙な日だったかもしれない。
そんな日の放課後。
(歌や踊りをしなきゃならないんだから、練習場所も必要だよねぇ……)
そんなことを思案しながら練習場所を探して校内を歩くはやて。そんな彼女の前に、グラウンドでソフトボール部が練習をしている光景が見える。
「あれは…」
その光景に、はやてが思わず足を止めたそのとき――
「北見里さん、カッコイイ!」
「キャー! 莉曜さま~!」
ソフトボール部の練習を見学に来ていた女子生徒から黄色い声が飛ぶ。そう、そこにあったのは中学時代の相棒である、北見里莉曜の姿。
「りょうちん…」
かつてのパートナーの姿を眩しい目で見つめるはやて。そんなはやてを目ざとく見つけ、ヒソヒソ話をし始めた女子生徒たちがいた。
(ちょっとアレ見て)
(アレって確か、中学の時、莉曜さまとバッテリーを組んでいた…)
(そういえば今朝、何かのチラシを配っていたような…)
(あ、私もそのチラシもらってカバンに入れっぱなしだった。見てみよ)
(お、私にも見せてよ)
(うわ~スクールアイドルだって)
(ちょっと『痛い』って感じぃ)
(里賀のレジェンドも落ちぶれたものね)
そんな容赦の無い会話が耳に届き、思わず硬直してしまうはやて。するとそんなはやての足下に打ち損ねらしき打球が転がってきて、その打球を拾いに来た選手の存在に気づく。
「はやて…」
「りょうちん、久しぶり」
そう、打球を拾いに来たその選手は莉曜であった。
「どうしたの? 見学?」
莉曜は複雑そうな笑みを浮かべながらそう問うてくる。
もちろん、莉曜ははやての事情を知っている。怪我のため入院していたはやてを当時は毎日お見舞いに来てくれていた。だが、はやてがソフトボールを辞めると告げた日を境に、二人の仲は疎遠となっていった。
「いや、単に近くを通りかかっただけ。今度スクールアイドルを始めようと思って、色々準備中なんだ」
「スクールアイドル?」
「うん、ちょっとやってみようかなって。いま一緒にやってくれるメンバー募集中なんだよ」
「そう、なんだ……」
はやての言葉にどう反応していいかわからず、拾った打球をミットの中で弄びながら視線をそらす莉曜。そんな莉曜との間に流れる空気にいたたまれなくなって、はやてはふとその言葉を口にしてしまう。
「アハハ、りょうちんもやらない?」
「え?」
驚きのあまりはやてを見つめる莉曜に、思わず慌てるはやて。
「あわわ。何言ってンだろアタシ。あ、でもホラ、りょうちんって奇麗な黒髪で目立つし、ステージですっごく映えると思うんだ」
「私は…」
再び表情を曇らせた莉曜に、はやては少し寂しげな笑みを浮かべた。
「だよね。りょうちんにはソフトボールがあるもんね」
「はやて……」
かつてのパートナーをじっと見つめる莉曜。はやてとはソフトを通じて知り合い、ソフトを通じて仲良くなった。だけど二人を結びつけたそのソフトが、いまの二人を別ったのだ。
「それは、はやてが本当にやりたいことなの?」
「りょうちん……」
莉曜の言葉に、はやては昨晩作ったチラシに目を落とす。
「正直わからないんだ」
だがすぐに顔を上げると、莉曜の顔を正面から見据え言った。
「けど、いまはこれをやりたいって思った。ソフトボールがやれなくなってから初めてなんだ。こんな気持ちになれたの」
「はやて……」
どこかすがるような表情を浮かべた莉曜に、はやては笑顔で言った。
「だからもしあたしがライブをやるようなことがあったら、そのときはりょうちんにも是非見に来てもらいたいな」
そのとき、グラウンドから莉曜を呼ぶ声が響く。
「あ、りょうちんゴメンね、呼び止めて。じゃ、あたし行くね」
その声が聞こえると共に、はやてはそう言って莉曜を残して去って行った。
「はやて…」
そんなはやての背中を見つめ続ける莉曜。
(けど、いまはこれをやりたいって思った。ソフトがやれなくなってから初めなんだ。こんな気持ちになれたの)
さきほどのはやての言葉が甦る。
中学最後のあの試合の後、はやてが入院している病院へお見舞いに行ったとき、そこで見たはやての表情は見ていられないものだった。
ソフトが出来なくなってしまったはやてになんて声をかけてあげたらいいかわからず、結果、はやてがソフトを辞めると告げた日を境に、お見舞いに行くのをやめてしまった。そう、言ってしまえばはやてから逃げだしたのだ。
「私は……」
中学のときのことを思い出す。はやてと二人でバッテリーを組み、ソフトに明け暮れた日々。辛いことも確かにあった。だけど楽しい思い出のほうがずっとずっと多かったと思う。
確かにきっかけはソフトだった。だけどきっかけは経過を経て目的を変え、目的はいつしか目標すらをも凌駕する存在になっていた。
中学時代、自分は何をしたかったのだろう? 何と向き合っていたのだろう?
「北見里どうしたの? いまのコ知り合い?」
と、そこへいつまでたっても戻ってこない莉曜を心配して、ソフトボール部のキャプテンである浅見が駆け寄ってくる。
「私の、本当にやりたいこと……」
駆け寄ってきた浅見の言葉にも気づかず、莉曜は静かにそんなことをつぶやいた。
「え?」
未来のキャプテン候補とまで認めた後輩が発した言葉が理解できず、怪訝な表情を浮かべる浅見。そんな浅見に莉曜は向き直る。
「キャプテン、少しお話が……」
「中々メンバーが集まらないみたいね」
莉曜と別れてから更衣室に寄り、動きやすい格好に着替えたはやてに、偶然出会ったティターニアが声をかけてくる。
「皇先生…」
「どこにいくの?」
「ランニングにでようかと。ソフトボールをやめてすっかり体がなまっちゃってて。だから基礎体力から鍛え直さないと」
「付き合うわ」
「ええ! 悪いですよ」
「いいのよ、焚きつけたのは私だし、それに最近、私もなまってきているから」
それからすぐ着替えを終えたティターニアと、校外外周のランニングを始める二人。
しばらくは無言で走っていた二人だったが、はやてがふとつぶやく。
「皇先生」
「なに?」
「さっき中学時代の相棒にあったんです」
「へぇ?」
「それでその相棒に言われたんですよ『それは、はやての本当にやりたいことなの?』って…」
「宮永さん……」
いつしか、空には分厚い雲が広がっていた。
怪しげな空模様に、ソフトボール部キャプテンの浅見は、雨でグラウンドでの練習を中断した場合の練習メニューを考えていた。そんな浅見に、後輩の一人が声をかけてくる。
「キャプテン~。さっきの北見里さんの話ってなんだったんですか?」
後輩の言葉に、浅見はどこか満足げな表情で答える。
「ん~。ま、いわば青春ってやつだねぇ」
あっけらかんとした口調でそういった浅見に、話しかけてきた後輩は呆れたような表情を浮かべる。
「キャ、キャプテン?」
「あ~あ。こりゃ当分、あたしもキャプテンを辞められそうにないわ」
そう嘆きながらも浅見の顔には、爽やかな笑顔が浮かんでいた。
ランニング中、突如降り出してきた雨に、はやてとティターニアの二人は雨宿りをすることを余儀なくされた。
すぐ近くにあった公園に駆け込む二人。その公園の中央には藤棚があり、多少の雨はしのげそうだ。
「いきなりの雨だったわねぇ」
ティターニアが空を見上げながらつぶやく。はやては無言のまま、地面を見つめていた。
「先生……」
「なぁに?」
「あたし、本当にスクールアイドルになれるでしょうか?」
突然のはやての質問に、ティターニアは変わらず雨空を見上げながら言う。
「私にはわからないわ」
「え…?」
「だってそれを決めるのは、あなた自身ですもの」
「皇先生……」
そう、ティターニアの言う通りだ。きっかけはどうあれ、いまの自分を突き動かしているのは他ならぬ自分自身の意思。
そしてその意思は、冷たい雨に打たれたいまでも、はやての中で確かにくすぶっている。
「ですよね! アハハ~。ゴメンなさい先生。ちょっと自信をなくしちゃって、気が弱くなってました」
「そんなの最初は誰だって当たり前よ。だけど、その壁を乗り越えてみんな何かをやり遂げていくんでしょう?」
「ですね!」
明るくそう答えながらも、すぐに唇を尖らせるはやて。
「でもホントにメンバー集まるのかな」
「こればっかりはアセってもしょうがないわよ」
「やっぱり『ラブライブ』を目指すなんて、無茶なのかなぁ……」
と、はやてが遠くを見つめるような表情を浮かべたそのとき。
「はやてっ!」
はやてたちが雨宿りしている藤棚に駆け込んでくる人物がいた。その人物は――
「りょうちん…?」
そう、その人物は北見里莉曜だった。莉曜は息を切らしながら、それでもはやてを見据え、はっきりと言う。
「わたしわかったの! わたしはソフトボールがしたかったんじゃない。わたしの本当にやりたかったことは、はやてと一緒に何かをやり遂げたかったんだって! だからっ」
はやての作ったチラシを突き出す莉曜。『メンバー募集!』とプリントされたそのチラシの氏名記入欄には「北見里莉曜」という名前がしっかりと書かれてあった。
「また二人でコンビを組もう! そして今度こそ行くんだ! 全国へ!」
「スクールアイドルで全国へ……」
驚いた表情のままそうつぶやくはやての言葉に、静かに、だが力強くうなずく莉曜。そんな莉曜の表情に、はやても瞳を輝かせる。
「よし行こう! 全国へ! あたしたちで『ラブライブ』に出場するんだ!」
そう言って手を取り合う二人。
その光景を見て、二人を知るものはこう思うだろう。まるで中学時代のソフトボールでバッテリーを組んでいたときの二人のようだ、と。
いつしか雨はあがっていた。
ほんの少し顔を覗かせた青空の下で、莉曜はテレ臭そうな表情を浮かべる。
「って言っても、わたしは全然自信ないんだけどね。歌とかダンスとかできるかなぁ……」
「じゃあコーチが必要ね」
莉曜の言葉に、頼もしげな言葉を返すティターニア。そんなティターニアの存在に莉曜は少し驚いたような表情を浮かべる。
「もしかして皇先生がコーチをしてくれるんですか…って、ああ!?」
そう莉曜が話しかけたとき、ティターニアが雨に濡れた髪をきゅっとポニーテールのように結んだその姿が……
「まさかっ!」
莉曜に何かを連想させた。
「あら、もうバレちゃったかしら?」
雨水を弾くためティターニアは軽く頭を振りその鮮やかな金髪を揺らすと、少し恥ずかしそうにはにかみながら口を開く。
「ティターニア…じゃなかった。皇先生の名前って、もしかして…?」
「ええそう、私の名前はエリ。
そう言って小さくうなずくと、彼女は続ける。
「だけど両親が離婚する一昨年までの名字は『絢瀬』で、フルネームは
続く。