ラブライブ! School idol liberty ~ 苺の木の詩 ~ 作:めたんはいどれーと
「うわ~。これが『初恋フェス』の会場か~」
はやてと
ここは最近、郊外にオープンしたばかりの巨大ショッピングモール。その中央に位置するイベント会場で、今日、ラブライブの開幕イベント『初恋フェス』が行われるのであった。
「これは想像以上ね……」
ティターニアことエリにとっても予想外だったらしく、フェスの規模と会場の大きさに驚きの表情を隠せずにいた。
「そうですね、人もたくさんいるし……」
そういって周囲を見渡す3人。
「くぅ~緊張してきたぁ。そもそもスクールアイドル結成したてのあたしたちが、こんなイベントに参加してもいいのかなぁ」
「はやて、そんな弱気だとまた『あの人』に怒られちゃうよ!」
「たはは…」
苦笑いを浮かべると、はやては約一週間ほど前に出会った『あの人』のことを思い出すのであった。
「『初恋フェス』?」
エリの口から飛び出したその単語に、はやてと莉曜は疑問の声をあげた。
二人がスクールアイドルを結成してから一週間ほどがたっていた。
エリの勧めのままに同好会申請を済ませ、練習に明け暮れる毎日。とはいえ柔軟にランニングや筋肉トレーニング、それに基本的なステップといった基礎練習ばかりであったが、それでも二人は飽きることなく日々の練習に明け暮れていた。そんなある日、エリの口からその単語が飛び出したのだ。
「ええ、今年から開催されることになった、ネットの生配信を利用したラブライブの開幕イベント。まぁ高校野球の開会式みたいなものかしら?」
「わわっ、すごい。今年からそんなのするんだ!」
「そうよ。ラブライブの特設サイトや大手動画サイトを通じて、生中継で放送されるみたい」
そう言ってエリは、自分のスマホでアクセスしたラブライブ専用サイトの画面をはやてたちに見せる。
「でもエリさん、それがどうかしたんですか?」
「いえね、あなたたちもそれに参加してみないか、と思ってね」
意外な言葉を口にしたエリに、目を丸くするはやてたち。
「え? あたしたちでも参加できるんですか??」
「普通は無理なんだろうけど、実は知り合いにね、そのイベントのゲストスタッフがいて、その人に頼めば、なんとか参加できそうなのよ」
「でます! でたいです!」
そう即答するはやて。そんなはやてに、莉曜が思わず口を挟む。
「ちょ、はやて。私たちってばまだ結成したばかりなんだよ。いきなりそんなイベントなんて……」
「なに言ってるのりょうちん! 結成したばかりでもあたしたちの思いは、もはや全国レベル。参加しない手はないよ!」
「そりゃまぁ、そうだけど……」
「じゃあ決まりね。その知り合いに頼んでおくから、覚悟しておいてね」
そう言ってエリは悪戯っぽく笑った。
「へ? 覚悟?」
それから数日後。
「おはよう。りょうちん!」
「おはよう! はやて」
いつもの日課の朝練の時間。早朝の空気はとても澄んでいて、深呼吸をすれば肺が洗われるような感覚に満たされる。そんなすがすがしい朝に二人とも爽やかな笑顔を浮かべた。
「さあ、今日も練習ガンバロー!」
そう言いつつ軽いストレッチで体をほぐし始める二人。
「にしてもエリさんて、あの
「だよね。これは気合いを入れてがんばらないと……」
口々にそう言い合う二人であったが、現実は甘くない。
それからほどなくして合流したエリの指導の下、ジョギングと筋肉トレーニングを開始したはやてたち。そんな二人に少し感心を込めた声音でエリが言った。
「ハラショー! 二人とも筋力と体力のほうは十分あるみたいね」
ソフトボールをやっていたためか、二人の基礎体力はバッチリだった。正直これには二人とも自信があったらしく、感心するエリに対し自慢げな表情を浮かべてみせる。だが――
「だけど、二人とも体が硬すぎる……」
「たはは…」
直後行った柔軟運動。二人の体の硬さにエリも少し眉根をよせ閉口する。
「少なくとも足を開いた状態で、お腹が床につくようにならないと……」
「うえ~。そんなことしたら死んじゃいますよ~」
「その程度では死にません――柔軟性をあげることは全てに繋がるわ。まずはこれをできるようにならないとね」
「く~キビシイ」
そう口を尖らせながらも、柔軟を続ける二人。そんな二人にさらなるキビシイ現実が襲いかかる。
「とはいえ、柔軟はまだいいけど……」
「それよりもっとヒドいのが…………」
「さぁ次、ステップの練習にいくわよ!」
「「キター!」」
ついにやってきたその時に二人は悲鳴を上げた。それもそのはず。数ある練習の中で、二人が一番苦手とする練習がステップの練習だったからである。
「ワンツースリーフォー、ファイブシックスセブンエイト」
エリの手拍子に合わせて基本的なステップを踏む二人。だが――
「ワンツースリーフォー、ファイブシックスセブンエイト」
「うがー! 手と足の動きがごちゃまぜになるぅ!」
「私も全然ダメェ!」
「二人とも少し落ち着いて。5分だけ休憩しましょう」
がっくりと両膝を突き、悲壮感すら漂わせるはやてたちを気遣い、エリは一旦ステップの練習を中断する。
「く~、我ながらできなさすぎだわ。考えてみれば私って、これまでの人生、ダンスとか踊りなんて無縁だったからな~」
と嘆く莉曜。そんな莉曜にはやては少しだけ胸を張りながら答えた。
「ふっふっふっ、あたしは小さい頃、町内会の盆踊り大会で褒められたがあるもんね」
「そんなのなんの自慢にもならないわよっ!」
「あー! そんなこと言ったら、プロの盆踊りダンサーに失礼だよ!」
「ぼ、盆踊りにプロっているの?」
エリが苦笑いを浮かべながらそう言葉を漏らしたとき、ピピピッとアラームが鳴り5分経ったことを告げる。
「ハイ、休憩終わり! 二人ともすぐに立って!」
「うぇ~。エリさんのオニィ!」
と、二人が練習を再開しようとしたそのとき、今度はエリのスマホが鳴った。
少々意外な相手だったのだろう。エリは相手を確認すると少し慌てた様子で通話に出る。
「あら。ええ、久しぶり。わざわざかけてきてくれたんだ。ええ、そう。ゴメンなさい。こっちでどうしてもやりたい事が出来ちゃって……」
いつもは毅然と振る舞っているエリとはまるで違う態度に、不思議そうに顔を見合わせるはやてたち。
「わかったわ。頻繁には無理だけど、定期的にそっちにも顔を出すから。ええ、ゴメンなさい。じゃあ『初恋フェス』の件のこと考えておいてね」
ふぅ。と少し疲れたようにタメ息をこぼすエリ。そんなエリの態度に、はやてたちは小首を傾げる。
「エリさん、誰と話してたんですか?」
「ああ、えと、前言ったでしょう。知人に『初恋フェス』のスタッフがいるって。いまの相手はその人よ」
そう答えるエリ。だがはやては先ほどのタメ息をこぼしたエリの姿を思い出して、心配そうな表情を浮かべる。
「もしかして実は結構イヤなヒトで、あたしたちをフェスに参加させるために、エリさんにものすごく無理をさせちゃってます??」
「無理なんてしてないわよ。それに嫌な人でもないわ。ただ少し元気が有りすぎる相手だから、話すのにちょっとエネルギーを消耗するだけよ」
と、エリはどこか嬉しそうに笑った。
「あれ? エリさんは?」
その日の放課後。
「用事があるから少し遅くなるって。だから練習始めておこう」
「うん! まずは柔軟からだね」
校内には早朝練習と同じように基本的なメニューをこなしていく二人の姿があった。
慣れた様子でたんたんとフィジカルトレーニングを済ませ、ロードワークに出てから校内に戻ると次は中庭へと移動し、いよいよ苦手なステップの練習に取りかかる。
「ワンツースリーフォー、ファイブシックスセブンエイト。ワンツースリーフォー、ファイブシックスセブンエイト」
「りょうちん、いまのステップのタイミング」
「うん、またミスった」
「もう一度行くね。ワンツースリーフォー、ファイブシックスセブンエイト。ワンツースリーフォー、ファイブシックスセブンエイト」
「はやて、右足」
「う~ゴメン、もっかい最初からいい?」
「もちろん!」
何度も何度もミスをし、それでもステップ練習を繰り返す二人。
「けど少しは出来るようになってきたね」
「ウンウン。ようやくリズムが体に刻まれてきたって感じ」
今朝はあれほど苦手だったステップの練習も、どうにか形になってきていた。二人がそう思っていたそのとき――
「アンタたちね!」
と、二人が練習していた中庭に、突如その人物が押し入ってきた。
「ど、どなたですか?」
その人物は、年齢ははやてたちより上そうだが、小柄な体格をフリルのたくさんついた派手な衣装で包み込み、黒髪でセミロングな頭の上に派手なピンクの帽子と、縦にすれば顔面がすっぽり覆い隠せるのではないかと思えるほどの巨大なサングラスをかけていた。
「フン。私を知らないとは、モグリね、アンタたち」
そう言うと、その一度見たら夢に出てきそうなほど派手な格好をした人物は胸を張る。
「いい、よーく聞きなさい。私はアイドルのカリスマ。アイドルオブアイドル。かつてラブライブを優勝した
その名を聞き、即座に反応する莉曜。
「矢沢にこ――ってまさかあの宇宙№1アイドル……」
「あら、さすがに気づいたようね」
莉曜の反応に少し気をよくしたように、「矢沢にこ」と名乗った人物は不敵な笑みを浮かべる。そんな彼女に対し、さらに言葉を続ける莉曜。
「とゆーふれこみでやってた、みゅーずの色モノキャラ……」
「誰が色モノよっ!」
そうツッコミを入れる矢沢にこ。気がつくと彼女の後ろには、別の高校の制服を着たはやてたちと同い年くらいの少女が二人いて、その二人ともがおそろいのツインテールを揺らしながら、少し呆れた様子で苦笑いを浮かべている。
「まぁいいわ。それよりエリはどこ?」
「エリさんに何かご用なんですか?」
「連れて行くのよ。私からのダンスコーチの依頼を断ったあげく、こんなところでどこの馬の骨ともわからないコたちを相手に、エリを遊ばせておくつもりはないわ」
「そんな! エリさんはあたしたちのコーチなんです。勝手に連れていかないでください!」
「ハァ? 邪魔しないで。アンタたちみたいに、お遊び感覚でスクールアイドルをやっているコを相手にしているほど、エリも私たちもヒマじゃないのよ!」
にこのあまりの言いように、はやてたちも熱くなる。
「そんなっ私たちは真剣に!」
「お遊び感覚なんかでやってないです!」
「ふん。まぁいいわ。じゃあ、あなたたちに本物のスクールアイドルってものがどんなものか見せてあげる」
そう言うと、にこは後ろを振り返り、それまで控えていた他校の制服を着たツインテールの二人組みに、あご先で合図する。
「さあ、あんたたち、やりなさい!」
「「ハイ!!」」
と、にこからの指示を受けて、元気よく返事をするその二人。そして――
「りっこ」
「みっこ」
「「にぃ~!」」
「いつもあなたの側で、りこりこ」
「お手軽サイズで、みこみこ」
「「胸の奥のハートの中に忍ばせてね。〈笑顔のタブレット〉こと『スマイルモバイル』で~す!!」」
と、不自然なほどの高いテンションで笑顔を作り、両手でハートマークを作ったりしながら全身をクネらせるような動きとともに自己紹介をする二人。
「どう? これが元宇宙№1アイドル矢沢にこがプロデュースした本物のスクールアイドル、『スマイルモバイル』よ!」
「「…………」」
ひゅおおおうううぅぅ!
はやてたちのいる中庭に、一陣の風が吹き抜ける。
「なんか…」
「ちょっと寒い」
「「「そこのアンタっ、いま『寒い』っていったわねッ!!!」」」
「うぇッ!」
三人からツッコミを入れられ、ビビる莉曜。
「まぁいいわ。この子たちは、私の
そう言われて、少し明るい髪色に黄色いリボンをつけた少女から、はやてたちの前に進み出る。
「あははー。なんかとっちらかった感じでゴメンね~。あたしは三沢りこ。よろしく!」
続いて鮮やかな黒髪を、青いリボンで飾った少女が、そのツインテールを揺らしながら頭を下げる。
「あ、あの、わたし、三沢みこです。どうぞよろしくお願いします……」
ハッキリと挨拶をするりこに対し、控えめがちな態度で挨拶をするみこ。双子と言っても性格はずいぶん違うようだ。
「にこ?」
そのとき、エリがやってきた。エリはにこの存在を確認するや否や、心底驚いたように目を丸くする。
「久しぶりね、エリ」
だが、にこの方は別段面白くもなさそうな態度で腕を組む。
「ええ、にこも久しぶり」
そんなにこの態度に、エリは少し困ったような笑みを浮かべた。そのエリにはやてが問う。
「エリさん、これはどういうことですか?」
「それはこっちのせりふよ。エリ、あんたホンキでこの子たちを『初恋フェス』に参加させるつもり?」
「本気よにこ。だからどうにかお願いできないかしら?」
聞けばにこは音ノ木坂学院を卒業後、『にこログ』というアイドルサイトを開設&更新し続けていて、それが反響を呼び、結果としてラブライブ関連のイベントに招待されるほどの地位を確立しているとのことだった。
そんなにこに推薦してもらえば、はやてたちも『初恋フェス』に参加できるとエリは言うのだ。
「ふん。まぁいいわ。他ならぬエリの頼みだし、私が推薦しといてあげる。だけどひとつ条件があるわ」
「条件?」
おうむ返しに問いかけたエリを
「アンタたち」
「はい?」
「アンタたちがなぜアイドルを目指すのか、その理由を私に語りなさい。その理由で私を納得させることができたら『初恋フェス』に推薦してあげる」
「アイドルを目指す理由……」
「さあ! アンタたち、さっき私に言ったわよね。『お遊び感覚なんかでやってない』って。だったらアイドルを目指す理由くらい言えるはずよ!」
「それは……」
にこの迫力に押され、言葉に
「お腹いっぱいになるためです!」
突然そう叫んだはやてに、莉曜は目を丸くする。
「はやて!?」
「ハァ? ナメてんのアンタ!?」
食ってかかるようなにこの視線を、はやては真っ向から受け止める。
「あたし、中学の時ソフトボールをやってたんです!」
「あんた何を言って――」
「けど中学最後の試合の時、右手首に大怪我をして、もうソフトはできなくなってしまいました……」
「え…?」
「お母さんに哀しい顔をさせて、ここにいるりょうちんにも哀しい顔をさせて、周囲のみんなに哀しい顔をさせて、あたし自身も哀しい顔ばかりで、あの頃はろくに食事もノドを通らなかった――けどソフトをやってた時は、練習が終わってお腹がぺこぺこになって、それから食べるゴハンがとっても美味しかったんですよ。えへへ。あたしってかなりの大食らいで、毎日信じられないくらいの量を食べてました――それであたし、あの哀しい顔ばかりしていた日々にふと思ったんです。なんでソフトをやっていたころはあんなにゴハンがおいしかったんだろう? って。そう考えてからあたしはすぐに気づきました。あのゴハンのおいしさはきっとみんなの笑顔に囲まれてたから。だからあたし思ったんです。スクールアイドルになって、ライブをやって、たくさんの人を笑顔にして、笑顔がもっと増えれば、もっと美味しいゴハンが食べられる。もっとお腹いっぱいになれるはずだって――だからっ」
莉曜と目配せをかわすはやて。そして莉曜も目を輝かせ、二人で声を大にして叫ぶ。
「「みんなと笑顔になれた日のゴハンは、さいっっこーに美味しいんです!!」」
二人の言葉のあと、周囲に静寂が訪れる。その場にいた全員が、はやてたちとその言動になぜか目を奪われたのだ。だが――
「ぷっ」
にこが不意に吹き出した。
「あはははは!」
「にこ…」
突然笑い出したにこに、エリが心配そうに声をかける。
「エリ、このコたち面白いじゃない」
「それじゃあ、にこ……」
にこの言葉に安堵の表情を浮かべるエリに対し、今度は少し表情を引き締めてにこは告げる。
「70点。ちょっと甘いけど及第点よ」
そのまま決心したように息を吐くと、にこははやてたちに向き直り、はっきりと言った。
「いいわ。この私があんたたちを『初恋フェス』に推薦してあげる」
「「やったー!」」
「ありがとう。にこ」
「けどいい? この私が推薦する以上、ちゃんとやらなきゃ承知しないわよ! とはいえ『初恋フェス』なんてもの、歌を披露するわけでもないから顔見せ程度のモノでしかないけどね。だけどうまくいけば知名度は格段に上がる。だからしっかりやんなさいよ」
「「ハイ!」」
「じゃあ今日のところは私たちは帰るわ。りこ、みこ、行くわよ!」
「「はい! にこプロデューサー」」
そんな『スマイルモバイル』の二人を引き連れ、帰路に着くにこ。だがにこはエリとすれ違いざまに一瞬歩を止め、エリにだけ聞こえるように囁く。
「エリ」
「なぁに?」
思わず首を傾げたエリに向かって、にこは言う。
「後悔だけは、しないでよね……」
続く。