ラブライブ! School idol liberty ~ 苺の木の詩 ~ 作:めたんはいどれーと
「ところで、にこさんはもう来てるんですか?」
初恋フェス当日。
巨大ショッピングモールに併設されたフェスの特設会場の規模に圧倒されながらも、3人はなんとか平静を保ちつつ会話を続けていた。
「来てるみたいよ。もうすぐスタッフとミーティングだって」
にことラインでもしているのか、スマホを操作しながらそうつぶやくエリ。
「ミーティング! お~カッコイイ!」
「芸能人みたい!」
「あたしらなら緊張して、ただ聞いてるだけなんだろうけど」
「にこさんならバリバリ自分の意見を言ってそうだね」
スタッフに対してガンガン指図出しをするにこの姿を想像し、苦笑いを浮かべる3人。
「う~、そんな話してたらこっちまでキンチョーしてきた。ちょっとトイレ行ってきま~す!」
「お、私も付き合うー!」
そう言ってそそくさと駆け出す二人。
「あ、二人とも、にこが顔だけ出しにこっちに来るって――ってもう行っちゃったか……」
エリが少し呆れた表情で二人の背中を見送っていると、ちょうどそこへにこがやってくる。
「エリ」
にこの姿を認め、笑顔をこぼすエリ。
「にこ、今日はありがとう」
「ホントに連れてきたのね」
そそくさと走り去って行くはやてたちの後ろ姿を見つめながら、にこはつぶやく。
「当たり前じゃない。せっかくにこが推薦してくれて参加が許されたんだから」
ふん、と鼻を鳴らすと、にこは少し底意地の悪そうな笑みでエリを見やる。
「にしても、まさかエリがスクールアイドルをプロデュースして、この私の『スマイルモバイル』に楯突くとはねぇ」
「ハハ、ゴメンなさい。本当にそんなつもりはなかったのよ。ただ結果的にそうなっちゃっただけで」
「ふん。まあいいわ。スマイルモバイルにもライバルとなる存在のスクールアイドルがいればいいと思ってたし。けど――」
「けど?」
「なんであの子たちなの?」
にこの問いに、ほんの一瞬エリは
「特に理由なんて無いわ。ただ……」
「ただ、何よ?」
「ただ、あの子たちがあまりにも似てたから」
「似てるって誰によ」
おうむ返しに問いかけたにこに対し、エリは真摯な表情を向け、そして言った。
「――
ハッとした表情を浮かべるにこ。
「エリ……」
それから何かを決意したような表情を浮かべると、にこは続ける。
「私はあんなことになって、アレを機にアイドルを封印したわ。それがせめてもの罪滅ぼしになると思ったから」
「そんな! にこ、誰もそんなこと望んでいるわけ…」
「わかってる!」
思わず叫んだにこに、エリは言葉を失う。
「わかってるわよ、そんなことくらい。みんな絶対にそんなことは望まない。そんなことくらいわかってる。でも、私自信が自分を許せなくなったのよ――私はお客さんのすべてを笑顔にさせるアイドルを目指していた。でもお客さん以前に、もっと身近な…そう、仲間たちと互いに笑い合えるようなアイドルを目指さなきゃいけないってことに気づいたの!」
「にこ……」
「そろそろ時間ね。じゃあ私はもうスタッフルームのほうに行かないと」
「ええ。にこ、今日は本当にありがとう」
そう言って微笑んだエリを横目に、にこはそのまま立ち去ろうとする。だが、数歩進んだところで足を止めた。
「エリ、前にも言ったけど――」
「なに?」
「後悔だけは、しないでよね」
「大丈夫よ、にこ」
エリの目をじっと見つめ、その言葉を噛みしめるように無言でたたずむにこ。やがて彼女はきびすを返すと、スタッフルームへと去って行く。
そうしてにこが去った後、一人残されたエリはそっとつぶやいた。
「大丈夫よ――後悔なら、もうずっとしてきたから……」
「にしても『初恋フェス』のこの規模、ホンっと想像以上だね~」
はやてが化粧室の鏡の前で、自分の髪をなおしながら言う。
「にこさんの影響もあるのかもね」
そう言って隣に並んだ
「お~さすが元宇宙No.1アイドル。
「あ、あははー…。はやて、ソレってまったくホメ言葉になってないから……」
はやての言葉に苦笑いを浮かべる莉曜。やがて彼女は「ヨシ!」と声を上げると、鏡の前から離れる。
「さてと、バッチリ。可愛いぞ私! んじゃはやて、私は先に行ってるね~」
「あたしはもうちょっと髪をなおしてから行くよー」
「お! キアイ入っとるな~」
「もう、うるさい!」
莉曜にからかわれ、はやてはそう言って顔を紅くした。
「アハハ、ウソウソ。ごゆっくり~」
そう言って莉曜ははやてを残して化粧室から出て行く。
莉曜が去ってからも鏡とにらめっこを続けるはやて。だがやがてはやては、いつの間にか微かに漂ってきていたその香りの存在に気づいた。
(なんか、甘い香り……)
確信に至ると、はやては不思議そうに周囲を見渡す。すると一番奥のトイレの個室が閉ざされていて、どうやら甘い香りはそこから漂っているようだ。
「!?」
――と思ったのも束の間、今度は何かが焦げてるような刺激臭が、はやての鼻孔を刺激する。その匂いに、はやてが思わず顔をしかめた瞬間――
「ケホン! ケホン!」
咳き込む声とともに突如開かれる個室の扉。そしてそこから飛び出てきたのは――
(うわぁ~。キレイな外人さんだぁ…)
咳き込みながら飛び出てきたのは異国の少女だった。
その少女の姿に、刺激臭のことも忘れ思わず見惚れてしまうはやて。
まるでモデル雑誌から飛び出てきたようなすらりとしたスタイル。それから輝くようなシルバーブロンドの髪に、空色の瞳。
年齢ははやてより少し上だろうか。なおもむせっている少女を気遣いながら、はやてはそっと声をかける。
「あの…大丈夫ですか?」
だがその異国の少女は、はやてを見て少し驚いた表情を浮かべると、すぐにキッとしたきつい視線で睨み返してきた。
「え、あ、あの…?」
身に全く覚えのない
「ふぃ~ビビったぁ。あたしなんかやったかなぁ…」
ほっと胸をなで下ろすと、はやてはいましがた出て行った異国の少女が出て行った個室のほうを何気なく見やる。するとそこには――
「……?」
そこには自販機でよく売っている甘酒の缶と、フィルター部が焼け焦げたタバコが落ちていた。
「さあ! スクールアイドルたちの祭典、ラブライブ! その開幕イベント『初恋フェス』がついに開催です!」
会場にそんなナレーションが響き渡るとともに、ステージ上の大判のスクリーンに大きく「LoveLive!」の文字が躍る。
わき上がる歓声。その光景に、ショッピングモールに訪れていた一般客も思わず足を止め、会場には人だかりで溢れていた。
「う~本気で緊張する~」
そんな情けない声を上げるはやてたち。
いま二人は、一様に緊張した表情でいる他校のスクールアイドルたちとともに、ステージ横の舞台袖で待機していた。
フェス開始の少し前、参加者であるはやてたちがスタッフに呼ばれ受けた説明は単純なものであった。
フェスのコーナーの中で、この地区のスクールアイドルたちを紹介するコーナーがあるらしい。そのコーナーが始まり呼ばれるまでの間、ステージの舞台袖で待機していること。そしてステージに上がってからも、決して勝手に動いたり話したりするようなことはせず、大人しくアナウンサーの指示に従うこと。ただこれだけだった。
「解説は私、新道寺レイカと、ラブライブ覇者であるあの
「にっこにっこに~! 三年前にラブライブで優勝させてもらった伝説のスーパーアイドル『μ's』の影のリーダーとか呼ばれちゃったりもしていて、現在『にこログ』の管理人をやらせてもらっている、矢沢にこで~す」
ステージ上には進行役の女性と、コメンテーターのにこがあがり、にこの登場に、一部のファンからわっと歓声が上がる。
「『初恋フェス』って、具体的にはなにをするんですか?」
ステージの舞台袖から進行状況を見守りつつ、付き添いで来てくれたエリにそんな質問をするはやて。
「特に何もしないわよ。まぁ顔見せ程度のものかしら。でも自分たちの顔が全国配信されたら、ラブライブ出場に向けて少しくらい有利になるかもよ?」
「うは、私たちってホントに全国放送されちゃうんだ!」
「まぁ、その他大勢としてだろうけどね」
はやてたちがそんなことを話していると、ステージ上ではこれまでのラブライブの歴史を振り返ると共に、第一回の優勝者である
そこからは各地の配信会場とのやりとりを踏まえ、様々な有力スクールアイドルが紹介されていった。
「さて、ではこちらの地区も有力スクールアイドルをキャッチフレーズとともに紹介していきましょう。噂では、にこさんがプロデュースしているスクールアイドルが、今日この会場に来ているとのことですが。とりあえずは去年、この地区の優勝と準優勝のこのグループから!」
そのアナウンスとともに、はやてと反対側の舞台袖から、二組のスクールアイドルたちが現れる。
「まずは去年の優勝グループ。キャッチフレーズは〈極大の愛をあなたに!〉こと、三好学園のスクールアイドル『ギガントラブ!』、そして準優勝の〈不可能は無限の可能性へと進化する〉こと北山付属高校の『トゥモローインポッシブル』。この2校のスクールアイドルの登場です!」
いきなりの優勝校と準優勝校の登場に、歓声が上がる。
どうやら『ギガントラブ!』は4人、『トゥモローインポッシブル』は7人グループのようだ。
それぞれが華やかなステージ衣装に身を包み、舞台に上がった2校のスクールアイドルたち。そんな彼女たちに対し、にこがつまらなさそうな表情で評す。
「ふん。さすがに、この2チームは別格ね。だけど全国レベルで言えば、せいぜい平均レベル。これからの伸びしろに期待といったところね」
「おお! さすがにこさん、キビシイ意見ですねぇ」
「当たり前よ。この時期のアドバンテージなんてなんの意味もないわ。すべてはここから。いまこの時点で自分たちの方が有利だ、なんて考えているグループがあれば、間違いなく他校のスクールアイドルに足下をすくわれるだけよ」
「お~さすが優勝経験者の言葉は重みが違うぞー!」
にこの言葉に感心した表情を浮かべるアナウンサー。
「コホン。ではいよいよ登場していただきましょう。ある意味、今日の目玉! こちらにおられるスペシャルゲストの矢沢にこさんがプロデュースしたスクールアイドル。〈笑顔のタブレット〉こと『スマイルモバイル』です!」
アナウンサーのあおり文句とともに、ついに『スマイルモバイル』が舞台に上がる。
すでに固定ファンも多くいるのだろう。三沢りこと三沢みこの双子の姉妹の登場に、観客のボルテージは最高潮だった。そんな観客たちの前で、「りっこ、みっこ、にぃ~!」と、例の「りこみこダンス」を披露する二人。
「ああ! ズルい。スマイルモバイルだけあんなふうに紹介してもらえるなんて!」
「しかもあの寒い…ぢゃなかった、可愛いダンスまで披露しちゃって……」
スマイルモバイルの登場に、舞台袖でややふて腐れた表情で唇を尖らせるはやてたち。
「仕方ないわよ。にこのネームバリューもあって、いまや『スマイルモバイル』の名前は全国レベルだもの。あの司会者さんが言ったように、今日の目玉みたいなものなんだからしょうがないわ」
と、エリは舞台上を眩しそうに見つめながらそう言った。そんな3人をよそに、ステージ上ではアナウンサーとにこのトークが続く。
「やはりこの地区の優勝は、にこさんプロデュースのスマイルモバイルで決定でしょうか?」
「当然よ! でも……」
「でも…? おお! ということはもしかして、にこさんが注目せざるを得ないライバルグループの存在がっ!」
ちらり、と舞台袖を見つめるにこ。
「ライバルってほどでもないわ。ただちょっと気になるって程度のものよ」
「はてさて、その気になる存在というのは『ギガントラブ!』か『トゥモローインポッシブル』か、はたまた全く別のグループか、気になるところです――ではここで他校のスクールアイドルたちにも登場していただきましょう!」
アナウンサーのその言葉とともに、舞台裏のスタッフからはやてたちに向かってgoサインが出された。
「呼ばれた!」
「いくよ、はやて!」
意を決すると、はやてと莉曜はその他大勢のスクールアイドルとともに、舞台袖からステージへと上がる。
(うわぁぁ……)
スポットライトの輝き。ステージ上に漂う熱気。たくさんの観衆の視線に、自分のモノとは思えないほどの高鳴る鼓動。
ステージにあがった瞬間、はやてはソフトボールをやっていたときに、初めての試合でマウンドにあがったときのことを思い出した。
(怖い……)
膝が震える。喉がカラカラに渇き、口からはあえぐような呼吸音しか出せそうにない――はやてがそんな恐怖に体中を支配されつつあった、そのとき――
不意に、はやての手が温かいモノに包まれる。
「大丈夫だよ、はやて」
温かいモノの正体は莉曜の手のひらであった。
怯えるはやての手を、莉曜が優しく、だが力強く握ってくれたのだ。
だがそう言いつつも、莉曜の手もまた震えていた。
「りょうちん……」
数瞬後、笑顔でうなずくと、はやてもその手を握り返した。
「さぁ、この中からラブライブで活躍できるトップアイドルとなる逸材は現れるでしょうか!」
はやてたちを含む多数のスクールアイドルたちの登場に、マイクを握り直すアナウンサー。彼女のその言葉に、にこがつまらなさそうな表情でコメントを返す。
「簡単に言わないでよね。トップアイドルっていうのはね、高い総合力の中に、さらに突出した『何か』が必要なのよ」
「お~さすがににこさんが言うと、言葉の重みが違いますねぇ」
「ふん! 当然よ!」
(そう、でも高い総合力っていうのは、練習次第でなんとかなる。だけど突出した『何か』っていうのは……)
ステージ上に立つ、はやてたちを見つめるにこ。
(エリ、あんたはあの子たちにソレを感じたというの…?)
「ではピックアップアイドル以外でここに来ているスクールアイドルにもお話を聞いてみましょう。ハイ! ではそこのあなた!」
とアナウンサーに指名されたのは他ならぬはやてだった。はやてはドギマギしながら、差し伸べられたマイクに向かって声を張る。
「え、あ、あたし!? ええと、里賀高校のスクールアイドルです。半月ほど前に結成したばかりで名前はまだありませんし、歌も唄えません。けどこれから精一杯やっていくつもりなので、皆さん応援お願いします!」
「お~これは初々しい! けどこの時期にまだ名前が決まってないのは、不利じゃないのかぁ!」
「たはは…」
アナウンサーの言葉に、苦笑いを浮かべるはやて。そんなはやてたちを、にこは呆れた表情で見つめる。
(ったく、あのこたち、名前くらい決めておきなさいよ。けど――)
「まぁでもグループ名無しっていうのは、今日来ている中ではあの子たちだけっぽいから、逆に多少は目立つかもね」
と、変わらずつまらなさそうな表情を浮かべながらも、はやてに助け船を出してくるにこ。
「お~そうかもしれませんねぇ」
にこの言葉に、アナウンサーもそう呼応した。
その後も、にことアナウンサーのトークを中心に、ラブライブ本戦までの流れが紹介されていき、やがてはやてたちの出番は終わりを告げた。
「う~! なんとか終わったぁ!」
ステージから降りたはやてたちを、優しく出迎えるエリ。
「二人ともお疲れ様。でもすごいじゃない。ほんの少しだけど、専用サイトを通じて全国に生配信されたわよ」
「あ! エリさん、本当ですか?」
「ええ、十分な成果じゃないかしら」
「あとで、にこさんにお礼を言わないと!」
「そうね。じゃああとは観客席から見ましょうか」
「最後まで見ていかないと、にこさんに怒られそうだしね」
そう言って笑い合うと、3人は観客席へと移動する。
とはいえ、すでにフェスは終盤を迎えていた。
その空気を感じ取ってか、帰り支度を始める観客たちもちらほらといるようだ。
「さて、スクールアイドルたちの祭典『LoveLive!』。今日行われたその開幕イベント『初恋フェス』ですが、そろそろこのフェスの放送も終了の時刻が近づいてまいりました」
そう響き渡るアナウンサーの声に、一部からは「えぇー!」と不満げな声があがる。
「ああ、本当にもう終わりみたいね。専用サイトの配信も終了しちゃったみたい」
と、エリがスマホを手にしながら言う。
「う~ん。もう終わりか~」
はやてと莉曜も口を尖らせながら、残念そうな表情を浮かべる。
「にしても、去年の優勝や準優勝グループも驚異だけど、やっぱり今年のこの地区の最大のライバルは――」
「スマイルモバイルになるでしょうね」
ゴクリ、と生唾を飲み込みながら互いの顔を見合わせる、はやてと莉曜。そんな二人の気をほぐすように、エリは笑顔で語りかけた。
「じゃあいまから帰って、早速これからのことについてのミーティングを始めましょうか」
「ハイ!」
と、3人が会場をあとにしようとしたそのとき――
突如、ステージ上を照らしていたライトが全て消えた。
突然の舞台暗転に、ざわめく会場。
「え? なになに?」
はやてたちも、その異様な雰囲気に、不安げに周囲を見渡した。
「だがしかーし!」
そんな会場の雰囲気の中、唯一照明で照らされたコメンター席のアナウンサーだけが、変わらず元気な声で叫ぶ。
「生配信は終了しましたが、ここでなんと本会場にはスーパースペシャルゲストが駆けつけてくれました!」
「スーパースペシャルゲストぉ?」
と、にこが初めて聞かされたとばかりに、身を乗り出す。
「ふっふっふっ。驚けお前ら! 本日のスーパースペシャルゲストぉ!」
アナウンサーの合図とともに、再びたくさんのスポットライトがステージを照らす。
「あれは……」
そしてその光の中心にいる人物の姿を目にした瞬間、はやては思わず息を飲む。なぜなら、その人物に、はやては見覚えがあったから……。
その人物とは――
「ラブライブ黎明期に突如現れ、そしてたったの1年あまりで解散したスーパースクールアイドル――
観客の一部には、その人物の正体を知っている者もいるのだろう。飛び跳ね、喜ぶ観客たち。そんな今日一番の盛り上がりを見せる会場を、さらなるあおり文句で盛り上げるアナウンサー。
「では登場していただきましょう!
そんなスピーチとともに、ステージの上でたくさんのスポットライトに包まれていたのは、はやてが先ほど化粧室で出会った異国の少女だった。
続く。