ラブライブ! School idol liberty ~ 苺の木の詩 ~ 作:めたんはいどれーと
「では登場していただきましょう!
そんなアナウンサーのあおり文句とともに、ステージを照らす無数のスポットライト。
その光の中心にいたのは『初恋フェス』が始まる前、はやてが化粧室でであった異国の少女だった。
「あの子は…」
意外な少女の登場に息を飲むはやて。それと同時に、アナウンサーの口からさらなる補足が追加される。
「――三年生になり、ますます輝きを増した、音ノ木坂学院スクールアイドル『Iri'S』の二人。ですが諸事情により、現在アイスさんが活動休止中のため、アリサさんのみの登場です」
そう、いましがたアナウンサーに二人組ユニットと紹介された『Iri'S』だったが、登場したのは一人だけだった。
だがそれでも知名度は十分らしく、観客たちからの歓声は高まるばかりだ。
「では、特別に唄っていただきましょう!」
「ちょ、唄うのはズルいんじゃ!?」
予期せぬ出来事にそれまで唖然としていたにこだったが、そのアナウンサーの言葉に、我に返ったようにたまらず口を挟む。
にこがそういうのも無理はなかった。なぜなら「初恋フェス」はあくまで顔見せ程度の開幕イベント。その会場で、ただの一組だけが歌を披露するなど、他のスクールアイドルたちとの印象の差があまりに大きすぎるからだ。だがアナウンサーは、にこに向かってキッパリと反論する。
「いえ、『Iri'S』は別地区のスクールアイドルですので、全国配信をしないことを条件に、ラブライブ運営本部からも許可を得てます」
「なんですってぇ!?」
そう、確かに全国配信はすでに終了しているし、『Iri'S』は別地区のスクールアイドルなのだ。だから、いまここで歌を披露しても、それは完全にファンサービスでしかないのかもしれない。
絶句するにこをよそに、アナウンサーはマイクを手に、これまでとは違い少し落ち着いたトーンで語り出した。
「では改めて、唄っていただきましょう。音ノ木坂学院スクールアイドル
静まりかえった会場の中、ピアノ伴奏オンリーのイントロが流れ出す。
「この曲…まさか!」
ピアノ伴奏のそのイントロに、耳覚えを感じ、目を見張るにこ。
はやてと
「バラード調に編曲されてるけど、これって」
そして、エリが小さくつぶやいた。
「私たちが最終予選で唄った……」
そんなはやてたちをよそに、会場にしっとりと響き渡る『Iri'S』アリサの歌声――
♪
伝わるよ キミの気持ち
せつなく、裂けそうな思い。
出会いと別れの花が、色づきを始めるよ
二人が、出会ったころには
決められていた 別れの今日の日
永遠が、欲しいよ。goodbye my friend
散りゆく 思い出には、
名前があるのかな? "桜 moment"
「サヨナラ」のその日まで、約束。
哀しいけど、笑ってbyebye
笑顔の中 ごまかしてもダメだね
こぼれる涙に smile&cry もう会えないキミ
「thank you dear my friend」
しん、と会場が静まりかえる。
だが、次の瞬間――
《ーーーーーーーーーーッッ!!!!!》
割れんばかりの拍手と津波のような大歓声が会場を包み込む。
皆、『Iri'S』の歌声に、すっかり心を奪われたのだ。
だがそんな大歓声の中、はやてたちはただただ驚きを隠せずにいた。
「いまの曲…」
「スローテンポのバラード調に編曲されてるし、歌詞もまったく違っていたけど……」
「元は冬の恋の歌だったけど、いまのあれは、春の別れの歌……」
はやてと莉曜が口々にそう言い合っている最中も、なおも鳴り止まない拍手と歓声――
だがステージ上にいる少女の表情に笑顔はまったくなく、射るような厳しい視線で、観客席のただ一点を見つめていた。
(あの子、こっちを見てる……)
少女の視線に、はやてはフェスの開始前、化粧室で向けられた
(あの子もしかして――)
そう、少女が射るような目で見つめているのは、はやてではない。少女の視線の先にいる人物。それは――
(間違いない。あの子、エリさんを見てるんだ……)
そう、少女が見つめる先にはエリがいた。
そんな少女の射るような視線を受け、エリの口から、ポツリとその名がこぼれる。
「
「ごめんエリ。私のミスよ」
フェス終了後、はやてたちのもとに駆けつけたにこは、そうエリに謝罪した。
「どういうこと?」
にこの言葉に、エリは特に動揺するでもなく静かに問いただす。
「
「そう……」
囁くようにそう言うと、少し寂しそうに顔をうつむかせるエリ。そんなエリに、にこは言う。
「本当にゴメン!」
「いいのよ、にこ。私がはやてたちのコーチを買って出たのは事実だから、謝らないで」
にこの肩に優しく手を置きながら、エリは小さく笑った。
「――そうやってまた、一人だけ大人ぶるのね」
と、そこに突如響く、
気がつくと、いつの間にかあの少女――
改めてみれば、本当に美しい少女だ、とはやては思う。
すらりとした体型に、長い手足。輝くようなシルバーブロンドの髪と、吸い込まれるような空色の瞳。
先ほどのアナウンサーの説明では、確か彼女はいま三年生。だが、その容姿には日本人離れした大人っぽさの中にも妖精のような可愛らしさがあり、年齢が読めない雰囲気を醸し出していた。
どうして気づかなかったんだろう。少女の姿を再度間近で見て、はやては思う。
少女がまとう雰囲気。それは、エリとどこか似ていた……。
一方、そんなはやての思いをよそに、エリの口から微かに漏れるその名前――
「亜里沙……」
二人を中心に、沈黙が辺りを支配する。
やがて、その息が詰まるような重苦しい雰囲気に耐えかねたかのように、はやてが思わずシンプルな疑問を口にしてしまう。
「あの、エリさん、彼女は一体…」
「――私の、妹よ」
はやての質問に、エリは簡潔に答えた。
「妹…彼女が……」
絶句するはやてと莉曜をよそに、アリサ、と呼ばれた少女は、はやてたちなどまるで眼中にないといった感じで、ただ一点、エリだけを見つめて話し出す。
「いつもいつもそうやって、自分の気持ちを押し殺して……。あのときもそうだった。ううん、それだけじゃない。亜里沙が辛いときだって……」
「聞いてアリサ、あのね」
「聞きたくない!」
懇願するように語りかけてきたエリを拒絶するように叫ぶアリサ。
「いまのあなたは
そして彼女は、さらに厳しい視線をエリに投げかける。
「もうあなたは、私のお姉ちゃんでもなんでもない!」
続く。
い、一応、念のため……
作中、亜里沙が歌った曲は、今作のオリ設定でエリとにこがユニットを組んで出場した、「音ノ木坂商店街のど自慢大会」での最終予選で唄った、オリジナル歌詞&オリジナル曲デス…ということにしておいてクダサイ。