ラブライブ! School idol liberty ~ 苺の木の詩 ~ 作:めたんはいどれーと
「もうあなたは、私のお姉ちゃんでもなんでもない!」
はやてたちの参加しているラブライブ開幕イベント『初恋フェス』にシークレットゲストとして突如現れた、音ノ木坂学院スクールアイドルの二人組ユニット
そのうちの一人、アリサはエリの妹、
「ねえ、はやて」
「ん~? 何~りょうちん」
「今日のアレ、なんだったんだろうね」
「わかんない……」
『初恋フェス』からの帰り道、エリと別れてから、はやてと
「アリサさんは、本当にエリさん――お姉さんのことを憎んでいるのかなぁ」
「どうなんだろうね」
「アリサさん、ホンキであんなこと考えているのかな……」
そうつぶやくと、はやてはあのときのことを思い返した。
「もうあなたは、私のお姉ちゃんでもなんでもない!」
そう叫ぶと、アリサはエリを射るような目で見やる。
「
妹からの敵意剥き出しの言葉を受け、愕然とする表情を浮かべるエリ。そんなエリを庇うように、にこが二人の間に割って入る。
「アリサ、あんた…エリに謝りなさい! エリだって色々と悩んで……」
「いいえ、にこさん。これだけはハッキリと言っておきます。亜里沙はお姉ちゃんたちを見て、アイドルに抱いていた夢を捨てました」
「捨てたって、じゃあ、あんたはなんで今もスクールアイドルをやっているの!」
にこの言葉に、アリサは表情をきゅっと引き締める。
「私がスクールアイドルを続けている理由はただひとつ。それは――ラブライブを終わらせるため」
「ラブライブを…終わらせるですって?」
「そうです。私は今年のラブライブで優勝する。そして新しく生まれた今年の優勝者が不祥事を起こせば、ラブライブの名前に傷がつく。そこでお姉ちゃんたちにあったことも公表すれば、きっと騒ぎは大きくなる。そして、ラブライブを終わらせるの!」
「………」
静寂が辺りを支配する。その場にいる全員が、アリサの突拍子もない考えに、言葉を失ったのだ。
「――あんた、そんなこと本気でできると思っているの…?」
ようやく、あえぐような声でにこが言う。
「にこさん、それはお姉ちゃんに聞いてみればいいです。だっていまアリサの言ったことを最初に思いついたのは、お姉ちゃんなんだから」
「なんですって!?」
絶句したにこから興味を無くしたように視線を外すと、アリサはそこで初めて、はやてたちに視線を向けた。
「で、その子たちがお姉ちゃんの選んだ手駒ってわけ?」
「あたしたちが…」
「手駒って…」
アリサの言葉の意味が理解しきれず、思わず立ちつくす、はやてと莉曜。
「聞いてなかった? お姉ちゃんはさっきアリサが話したラブライブを終了させる計画のために、あなたたちを選んだの」
「そんな……」
はやてたちが言葉を失っていたそのとき――
「――その昔、楽園で幸せに暮らしていたイブは、ルールを破り、食べてはいけない知恵の実を食べて、楽園の外へと出なければならなくなってしまったわ……」
それまで沈黙を守っていたエリが突然語り出す。
「だけどイブは楽園を出てから初めて気がついたの。楽園だと思っていたあの場所は本当に楽園だったのかなって――すべては幻で、みんな悪い夢を見させられているだけなんじゃないのかって」
「エリさん……」
「だから私は楽園を壊そうと考えた。もしも楽園が本当に楽園なら、私には壊すことは出来ない。きっとその輝きで、私の思いなんてかき消されるはずだから――昔、確かにそんなことを考えたことがあったわ。それは本当よ。だけど、だけどね聞いてアリサ、それは――」
「聞きたくない!」
エリの言葉を真っ向から否定するように、アリサは声を上げる。
「亜里沙がお姉ちゃんたちを見て、アイドルに抱いていた夢を捨てたのは事実。だから!」
そして言った。
「私はラブライブで優勝する。そしてラブライブを永遠に終わらせてみせる!」
その言葉とともにアリサはその場から去って行く。
唖然とした表情でその背中を見送る一同。誰もが言葉を失っていた。だが――
「させないわ!」
突如にこが声を上げる。
「アリサにラブライブは
「目指すところは間違っていると思うけど、アリサさん、すごい覚悟だったね」
「にこさんもね」
はやての自室で、はやてと莉曜の二人は思い詰めた表情で語り合う。
「それより私たち、本当にエリさんに利用されてるのかな」
「エリさん、帰りのときも、言い訳すらしてくれなかったね」
そう、帰り道のことだ。はやてたちはアリサが語った「エリがはやてたちを利用している」という言葉に対してのエリの弁明を期待していた。だがそれは叶わず、エリは帰り道、終始無言のままだった。
「人気と実力はもちろん、モチベだって、あたしたちはIri'Sにもスマイルモバイルにも敵わないかもしれない」
「まだグループ名さえ決まっていない私たちが、『ラブライブで優勝を目指す』なんて、言っちゃいけなかったのかな……」
「……」
二人は互いにそう言い合い、力なく表情を沈ませるだけであった。
翌日。
「ワンツースリーフォー、ファイブシックスセブンエイト。ワンツースリーフォー、ファイブシックスセブンエイト」
校内の中庭で、エリのかけ声と手拍子が響く。
だが肝心のはやてと莉曜の二人にはいつもの精細さがなく、単純なミスを繰り返してばかりだった。
「ホラ! 二人とも集中力が足りてないわよ!」
そんな叱咤の声を飛ばしながらも、エリは二人の指導にいつもと同じように熱を込める。だが――
「いいわ。少し休憩にしましょう」
はやての何度目かのステップの失敗を機に、エリがそう宣言した。
だが休憩に入っても、どこか心あらずといった感じで、タオルで同じ箇所の汗を何度も拭いたり、スポーツドリンクの入ったペットボトルにただ口をつけているだけのはやてと莉曜。そんな二人をみて、エリは小さく溜息をついた。
「いいわよ。昨日のことで、聞きたいことがあるんでしょう?」
「……」
そんなエリの許しの言葉を受けて、二人はおずおずと話しかける。
「どうしてアリサさんは、あんなふうにエリさんのことを……」
「それにあのとき言っていた『お姉ちゃんたちを見て』っていうのは一体…」
二人の疑問に小さくタメ息を吐くと、エリは意を決したように語り出す。
「
ペットボトルに口をつけ、一口喉を鳴らすと、エリは続けた。
「そんなとき父がちょうど仕事でロシアに行くことになった。ウチの両親ってね、仕事が忙しくてずっとすれ違ってばかりいたの。ケンカとかしたわけじゃないのだけれど、二人の夫婦としての気持ちは完全に離れてしまっていた。それで今度の父の長期転勤を機に、離婚しようってことになったみたい」
遠くを見るような目でエリは空を仰ぐ。
「私はすぐに受け入れることができたわ。だけど、亜里沙は…」
最初は素直に聞き入れたと思っていた。だけどそれは違った。アリサはただ、自分が素直に聞き入れれば、いい子でいさえすれば、両親は離婚なんてしないのだと信じていただけなのだ。
「両親が離婚する際ね、私は留学の準備に忙しくて、あの子の気持ちに気づいてやれなかったの……」
そう言ってエリは、きゅっとペットボトルのキャップを閉める。
「だからこれは私への罰。受け入れなくちゃいけないのよ」
「……」
はやてと莉曜に言葉はなかった。だがはやてたちの中にはまだ大きな疑問があった。その疑問を口にしていいのかわからず、だが気がつくと、はやてはもごもごと口を動かしていた。
「それで、えと、あとその」
「なに?」
エリに問い返され、意を決してはやては言う。
「その、μ'sに、なにがあったん…ですか?」
その問いに、エリは少し顔色を曇らせうつむく。
「ゴメンなさい。それは私の口からは言えない。いや、言いたくないの」
だがそれでは、はやてたちが納得しないと思ったのだろう。そのため「でも、これだけは言える」と、エリは言葉を継いだ。
「私たち9人は気づいてしまったの」
そして少しだけ自嘲気味に笑うエリ。
「私たちは所詮『偶像』なのだと知ってしまった。『偶像』でしかないという知恵の実を口にしてしまったの――結果、私たちはステージという名の輝かしい楽園に疑問を持ち、そこから離れることになってしまった」
そう言ってエリは静かに目を閉じる。
いまエリの脳裏には、かつての親友との会話を思い出されていた。
(だからみんなで知恵を出し合って!)
(エリチ、ウチらに必要なんは、本当に知恵なんかな?)
(どういうこと?)
(ゴメン。ウチにもよくわからへんのよ。でも、いまのウチらに必要なんは知恵やない気がするんよ……)
もう遠い日の思い出のような気もする、親友との会話。そのときのことをふと思いだし、エリはいつもよりも高く、遠くに感じられる空を見上げながら思う。
(――のぞみ、あのとき私たちに必要なものは、一体何だったの?)
エリの表情に不安を覚え、ついにはやてはその質問をしてしまう。
「エリさん、エリさんは本当にあたしたちを――利用しているんですか?」
思い詰めた表情で問いかけたはやてのその言葉に、エリは何も答えなかった。代わりにゆっくりと立ち上がると、エリは少し力のない声で二人に告げる。
「……少し、長話しになっちゃったわね。暗くなってきたし、今日の練習はお終いにしましょう」
一様に心配げな表情を浮かべつつ去って行くはやてと莉曜。そんな二人と別れたあと、エリはふと自分のポーチからあるものを取り出す。
「私は、あの子たちを……」
そうつぶやきながらエリはポーチから取りだしたソレを見つめる。それは――
小さなUSBメモリだった。
続く。