ラブライブ! School idol liberty ~ 苺の木の詩 ~ 作:めたんはいどれーと
会場は満員だった。
今日のために特設されたライブ会場。
そこで、はやてと
だが――
いま会場を満員に埋め尽くしている観客たちにあるのは、失望の視線と落胆のタメ息。
そんな観客たちの前に立ち、ステージ衣装に身を包んだはやてたちは、その容赦の無い視線を一身に受けていた。
(これが…)
(私たちのファーストライブ!?)
失望と落胆とに満ち満ちた会場満員の観客たちを前に、はやてたちの足はガクガクと震えていた……。
「『ブレイブ・ベリーズ』!?」
エリの口から聞かされたその言葉とともに、瞳を輝かせるはやてと莉曜。
「ええ、気に入ってもらえたかしら?」
と、エリは少し照れ笑いを浮かべる。
「『ブレイブ・ベリーズ』……」
噛みしめるように、言葉にするはやてたち。
「うん! 今日からあたしたちは『ブレイブ・ベリーズ』だ!」
そう言って、ブレイブ・ベリーズの二人は手を取って笑い合う。
「さぁて、グループ名も決まったし、歌もエリさんが知り合いの方に作曲してもらったモノがあるし、あとは……」
「ファーストライブをいつやるか、だね」
エリに自分たちで考えるように言われていた曲の歌詞も、すでにはやてと莉曜の二人でアイデアを出し合い、完成させていた。そのため、昨日などさっそく二人してカラオケボックスに行き、歌の練習をしていたほどなのである。
「ファーストライブ! く~、ついに私らも、そこまで来たか~!」
と感慨深げに言う莉曜に、エリがうなずく。
「そうね。あなたたちはもう、十分ライブをできるパフォーマンスを身につけているとは思うわ。だけど……」
「あとは場所、ですね……」
と、三人は肩を落とした。
そう、実はすでにライブ会場に出来そうな講堂や視聴覚室の使用許可の申請を、前々から学校側に出してはいた。だが、どうも時期が悪かったらしく、中々空きが出来ないのが現状だ。
「もういっそ、どこかでゲリラライブでもやっちゃおっか」
「お~いいね!」
そう意気投合する二人を、エリがたしなめる。
「二人とも、そんなにアセっても仕方ないわ。それにいまは埋まっていても、講堂や視聴覚室の使用予定のキャンセルだってあるかもしれないから、明日にでもライブができるようにいまからしっかりと準備をしておきましょう」
「ハイ!」
それから2週間ほどたったある日。
結局どの場所も使用キャンセルの話はなく、はやてたちブレイブ・ベリーズのファーストライブはお預け状態となったままであった。
「ねえ、はやて、今度の日曜あいてる?」
練習終わりの帰り道、エリとも別れ二人きりとなったとき、突然莉曜がそんなことを言い出した。
「あいてるけど、なに?」
そう言って首を傾げるはやての両肩を、がしっと掴むと莉曜は言う。
「ちょっと私に付き合って!」
「つ、付き合ってって、どこいくの?」
「い・い・ト・コ」
そういうと、莉曜は悪戯っぽく笑った。
「うわ~人が、たくさん…」
日曜当日。
莉曜がはやてを連れてやってきた場所は、東京秋葉原だった。
「ねぇ~ホントにやるのぉ~?」
「ここまで来て何言ってるの! 誰も教えてくれないんだから、自分たちで調べるしかないでしょ!」
今日、莉曜がこの秋葉原まで来た目的は、
エリが自分たちのことを思って、よくしてくれているのは疑いようもない事実だと二人とも思ってはいるのだが、μ'sに何があったかは依然謎のままで、気になっている状態であることには変わりがない。なので、今日それを調べようというのだ。
「もう~、にこさんの親戚の、りこさんとみこさんですら知らないんだから、あたしらが調べたってきっとわかんないよぉ」
そうなのだ。実はスマイルモバイルの二人――りことみこに、それとなくμ'sの過去について探りを入れてみたのだが、はやてたち同様、スマイルモバイルの二人もμ'sに何があったかはよく知らないらしい。
そのため、莉曜は電車で2時間近くもかけて、はやてと一緒にここ秋葉原までやってきたのだった。
「エリさんのことを信じるって決めたのにぃ」
「ちょ、人聞きの悪いこと言わないでよ! エリさんを信じていることは間違いないって。ただそれとμ'sの過去を知りたいっていうのは別のモノ。それにはやてだってμ'sに何があったか知りたいでしょ?」
「そりゃそうだけど……」
両手の指先を合わせながら、はやてはモジモジとうなずいた。
「んじゃ、れっつごー」
「む~。まぁそれはいいとして、にしてもなんで秋葉原?」
「そりゃあ、ここはμ'sのお膝元みたいなモンでしょ。だから秋葉原にいけば、何かわかるんじゃないかと思って」
「いきあたりばったりだな~」
「グチグチ言わない。行動あるのみ! さあそこらのアイドルショップにでも寄って、聞き込み聞き込み~」
そう言って意気揚々と、身近のショップに足を踏み入れる莉曜。
「って、単に遊びたいだけなんじゃないの!?」
親友の行動に呆れた表情を浮かべながら、はやても後に続いた。
それからも「聞き込み」と称して、アイドルショップや、スクールアイドル関連の商品を扱っているCDショップなどを巡る二人。しかしあまり有力な情報を得ることが出来ず、結果的には、二人ともほぼ楽しく遊んでいるだけの状態になりつつあった。
そんな二人がふと立ち寄ったCDショップで、店頭で流れているミュージックビデオを眺めているとき、はやてがつぶやく。
「う~ん。場所さえあれば、あたしたちもすぐにでもライブをやりたいんだけどな~」
「だよね~。あ~もう、いっそ今日ここでゲリラライブやろっか?」
莉曜もうなずきながら、そんな言葉を口にする。
「りょうちん、さすがにそれはちょっと……」
本気で言っているようにもとれる莉曜の言葉に、はやてが苦笑いを浮かべた、そのとき――
「ちょっと、あなたたち」
と、突如二人に話しかけてきた人物がいた。
驚いて見てみると、そこには少し広めに見せた額が可愛らしい、サングラスをかけたショートカットの女性が立っている。
「なんですか?」
小柄だが、年齢ははやてたちより少し上だろう。そのサングラスの女性は、ツカツカとしっかりとした足取りではやてたちの前まで来ると言った。
「あなたたち、もしかして『初恋フェス』に出ていなかった?」
「見ていたんですか!?」
女性の言葉に、はやてと莉曜は驚きの声を上げる。
そう、半月ほど前に参加したラブライブ開催イベントの「初恋フェス」。
TVやネットを通じて全国配信されたその番組に参加していたはやてたちを、目の前の女性は、どうやら見ていたらしい。
「やっぱりそうなんだ! 画面で見たとき、あなたたちってどこか目を惹く印象があったから、覚えていたのよ」
「ホントですか!?」
女性の意外な言葉に目を丸くするはやてと莉曜。
「ホントよ。でも確かあなたたちのグループ名って、まだ決まってないんじゃ……」
彼女の言葉に、はやてたちは嬉しそうに顔を見合わす。
「いえ、決まってますよ~」
「――コホン、あたしたちは『ブレイブ・ベリーズ』です!」
と、命名されたばかりのグループ名を、やや勿体つけながら口にするはやて。
「ブレイブ・ベリーズ……」
舌先で転がすようにはやてたちのグループ名を口にすると、そのサングラス女性はニコリと笑ってから軽く両手を合わせる。
「ちょうどよかった。あなたたちにお願いがあるの!」
「へ? お願い?」
「着いてきて」というと、サングラス女性は二人の手を取り、強引に引っ張っていった。
「わぁすごい」
「ここは一体…」
それから小一時間。
その女性がはやてたちを連れてきた場所は、高層ビルの屋上だった。
その屋上にはなんとステージが設置されており、いまはまるで人の気配がない状態ではあったが、やろうと思えばすぐにでもライブができるほど、キチンと整備されている感じであった。
「実はここは私の母校なのよ」
と、サングラス女性ははやてたちに笑いかける。
「へ~。ここ学校なんだ……」
確かにここに来てから同じ制服の生徒を何人か見かけはした。だが、場所的にほぼビジネス街だったため、ここが学校であるなどとまるで気づけずにいたのだ。
「で、私たちをここに連れてきた理由は?」
「ああ、それね」、と軽い口調で言うと、そのサングラス女性ははやてたちに振り返り、笑顔を浮かべた。
「あなたたち、今日、ここでライブをやってくれない?」
「え?」
「え?」
顔を見合わせる二人。
「「ええええーーーーーッッ!!!!!」」
確かに初ライブは考えていた。
だけどそれはもう少し小規模なモノで、クラスメイトや友達も呼んでの、どこかアットホームな雰囲気の中でやるモノとばかり思っていたのだ。
「それがこんな大きな場所で……」
「それも突然……」
あきらかに動揺を隠せずにいる二人に、サングラスの女性は軽やかに笑う。
「あら、私さっきCDショップであなたたちの会話を聞いてたわよ。あなたたち言ってたじゃない。『場所さえあれば、すぐにでもライブをやりたい』とか、『いっそ今日ここでゲリラライブやろっか』とも言っていたわね」
「それは……」
図星を突かれて思わず言葉を失う二人。
「いいじゃない。いずれはあなたたちも大きな会場で歌うことにきっとなる。なら少しでも場数を踏んでおいた方がいいでしょう? それとも――」
少し目を細め、挑戦的な微笑を浮かべる彼女。
「怖い?」
その言葉を聞き、はやてはキッと、サングラスの女性を見やる。
「やります!」
「はやて!?」
「やろうよ、りょうちん! 確かに唐突すぎて少しビックリしたけど、この人の言うとおり、場数を踏むことは大切なことだし、こんなチャンスは滅多にないよ!」
「そりゃそうだけど……」
二人のやりとりを聞き、パンッと嬉しそうに手を合わせると、その女性は言う。
「決まりね。よかった! 断られたらどうしようかと思ってたの。じゃあ、受けてくれたお礼に、ライブ終了後に、あなたたちがいま、一番知りたがっていることを教えてあげるわ」
サングラス女性の謎の言葉に、はやてと莉曜は目を丸くする。
「あたしたちがいま……一番知りたがっていること?」
ええ、と微笑みをたたえると、彼女は言った。
「――μ'sに何があったか、よ」
「なっ……」
「あなたは一体誰なんですか?」
女性の言葉に驚く、はやてと莉曜。
そんな二人の前で、チロリと小さく舌を出すと、彼女はサングラスを外し言った。
「そうだったわね。じゃあまずは自己紹介。私の名前はツバサ――
続く。