誓いのフィナーレを初めて見たとき、あの切り替えできるリーダーってすごいなって思ったんです。高校生でアレですよ。
自分も似たような経験を高校の時にしたので(さすがに全国かかってるところで…みたいなのではありませんでしたが)、あの気持ちの切り替えができるのは創作内の人物とはいえ、尊敬しかできません。
そんな気持ちをそれっぽく文章にしようとしたらこうなりました。
初出 https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24608424
「十二番、大阪府代表、大阪東照高等学校。ゴールド金賞」
――よかった。
そう思い、隣に立つ副部長にアイコンタクトを送り、表彰状とトロフィーを受け取った。
いつも通り全国大会出場を目指し、大阪東照が長年磨いてきた練習方法で、無事に関西大会金賞を獲得した。これで、あとは全国大会への代表権を勝ち取るだけ。
「続きまして、来たる十月に名古屋で行われる全国大会に出場する、三団体を発表します」
さぁ、私たちにとってここからが本番だ。
「一校目……三番、大阪府代表、明静工科高等学校」
例年通り、大阪の名門校が名前を呼ばれた。昨年全国大会で金賞を受賞している私たちと同じ実績を持つため、納得の選出だ。
「二校目……八番、大阪府代表、秀塔大学付属高等学校」
これで、三強と呼ばれる高校のうち2校が呼ばれた。残るは私たちだ。今年の大阪東照の演奏は、昨年を超えたと自信を持っている。
「そして、三校目。これが、最後の学校です」
静まり返る会場。司会者の発声前の微かな呼吸音がマイクを通して聞こえ、私は喜ぶ準備をした。
「三校目……二十二番、京都府代表、龍聖学園高等部!」
「…えっ?」
それは、私の口から漏れた声だっただろうか。もしそうなら、爆発のような歓声を上げる龍聖学園に、その声は完全に飲み込まれていた。
§
そのあと、表彰式がどのように終わり、大会が閉会したのかは覚えていない。みんなの視線を意識し、ステージ上では涙をこらえることができた。でも、舞台袖に入り、照明の明るさが消えると同時に涙が溢れ出して止まらなくなったことだけは覚えている。
防音扉の先、ステージ裏の通路に出たところで泣き崩れている生徒がいた。肩を震わせ、周囲の目も気にせず声を上げて泣いている。そんな彼女の肩を、ポニーテールの女子生徒が、トロフィーを持ったのと逆の手で支えていた。茶色のセーラー服――北宇治高校だろうか。大きめのリボンをつけたその姿には見覚えがあった。10年近く京都府大会で銅賞止まりだった彼女たちこそが、昨年突如全国大会に進出したダークホース。今年も関西大会で金賞を獲得したのはすごいことだ。それでも彼女が号泣しているのは、それだけ本気で全国大会を目指していたからなのだろう。
部員たちとホールの外で合流した。自分の代で、長い伝統を誇る全国大会出場を途絶えさせてしまった――そんな思いが胸を締めつける。大阪東照を築き上げてきた先輩方に合わせる顔がないと考えると、涙が止まらなかった。
部長である私だけでなく、一緒に励まし合いながら頑張ってきた3年生も、優秀な奏者で時にプレッシャーをかけてきた2年生も、メンバーになれなくても陰ながら支えてくれた1年生も、みんながそこにいた。部長として話をしなければならないのに、涙で言葉が途切れそうだった。
何を話したのか、正直よく覚えていない。ただ、来年は全国大会へのリベンジを果たしてほしい、もはや関西大会を抜けるのは当然だと思って努力してほしい――そういった思いを泣きながら口にしたような記憶がある。私の言葉のあと、顧問の先生からも言葉をいただき、私たちは帰路についた。
「ちょっとちょっと、何この空気。お通夜じゃないんだから」
バスに向かう道中、失意のどん底にいた私の耳に、快活な声が飛び込んできた。声のする方を見ると、北宇治高校の面々がいた。その中心――半円の中央には、先ほどステージ裏で見かけたリボンをつけた生徒が立っていた。
彼女の目には、さっきまで見えた涙の痕跡はもうない。部員たちの前で泣き顔を見せることなく、明るく、未来を見据えてみんなを鼓舞している。
「すごいな…」
思わず口をついて出た言葉だった。私には、あのようにコンクール敗退直後の仲間たちを励ますことなんてできなかった。ああいう人こそ、本当に強いリーダーなのだろう。私もあんな風になりたい――そう強く思った。
今日、座奏のコンクールは終わった。でもまだ、マーチングコンテストが残っている。マーチングコンテストまでも、全国大会出場の伝統を途絶えさせるわけにはいかない。
「よし、やるぞ」
まずは自分の心を奮い立たせる。そして、みんなで全国大会へと勝ち進もう。
北宇治高校のリボンの部長が放った明るく力強い言葉。それは今日、大きな挫折を経験した私の心に、強烈な印象を残した。
§
翌年4月、私は京都市内の私立大学へ入学した。今日は最初の講義の日だ。学びたいことがたまたま京都の大学にあり、高校時代の友人たちと近い環境を選べなかった。まずは新しい友人を作るところから始めないといけない。
「今日の講義は、確か同じ学科の人しかいないよな……」
心を落ち着かせながら決意する。まずは、学科内で友人を作ろう。勉強で困ったとき、助け合える仲間が必要だ。
講義室に到着し、少し後ろよりの席に座る。講義中、周囲を見渡しながら、話しかけられそうな人を探そうと思ったその時――
「あれ……?」
視界に入ってきたのは、あの日見かけたリボンだった。いや、まさか……。そう思いはしたが、京都の高校出身者が京都の大学に通うのはなにも不思議なことではない。
「……よし」
講義が終わった瞬間、私はさっと荷物をまとめ、急いで彼女の元へ向かった。彼女が席を立つ前に話しかけなければ。急がないと。
「ねぇ」
「?」
「私、田村真紀って言います。友達になってくれますか?北宇治の元部長さん」