【仮題】私の中の響け!ユーフォニアム   作:alc

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なかよし川日記シリーズ。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=24465014
2017年3月31日。
明日から大学生になる中川夏紀は、独り暮らしを始めるために、引っ越し作業をしていた。
その引っ越し先で会った人物とは……


【なかよし川日記】引っ越し_2017/3/31

「あちゃー、やっぱり持ってきすぎたか…」

 

 目の前に広がるのは、1Kの新居に所狭しと並べられた段ボールの数々。こうなってしまったのも仕方がない。1LDKの部屋に引っ越す予定で実家から持ち出す荷物を選定していたのだから。

 

 大学入学を機に独り暮らしをすることになった私は、自分で1LDKの部屋を見つけ出し、不動産屋で契約をするところまで話を進めていた。その時になり始めて、賃貸物件を借りるには保証人が必要ということを知り、保証人になってほしいと両親に話したところ、猛反対を受けてしまったのだ。曰く、「年頃の女の子がオートロックもついていないアパートに住むのは危ない!」とのこと。おかげ様で、荷物もほとんど段ボールに詰め終えた状態で、新しく1Kのオートロック付きマンションに引っ越すことが決まったわけだ。

 正直、オートロックがあろうがなかろうが危ない人が来るときは来てしまうわけだし、そこまでこだわらなくてもいいんじゃないかなとは思う。もともと見つけた部屋も、防犯的にさすがに1階を選ぶということはしていなかった。最低限それさえできていれば、高すぎない家賃で広い部屋が選べればいいと考えていた。

 そのような経緯もあったため、引っ越しの荷物を入れられたのは3月31日になってから。むしろこの年度替わりの忙しい時期によく引っ越し業者の予定を切り替えることができたものだな、と感心もしつつ、一つずつ荷物をほどいていく。

 独り暮らしだし、まずは必要最低限のものさえ出せていればいいだろう。あとは少しずつ、使うときに段ボールから出せばいい。

 

「あ、お隣さんへ挨拶行かなきゃだ」

 

 これも、両親から口酸っぱく言われたことだ。まぁ、最低でも私はここに4年は住むことになるだろう。その間、何かとお隣さんには迷惑をかけるかもしれないし、挨拶はしておくべきだろう。

 3月末とはいえだいぶ暖かくなってきており、その影響か、少し荷解きをしただけでも汗だくになっていた。軽くシャワーを浴び、先ほど段ボールから引っ張り出した服に着替える。

 

「お隣さんだったら…部屋着でもいいかな。どうせ部屋着でコンビニに行くときに会ったりするだろうし…」

 

 手に取ったのは、部活の演奏会衣装として作成したTシャツ。2年生の時の京都駅ビルコンサートの際に着ていた、青色のTシャツだ。卒業した今、もはやこの手のTシャツは部屋着として使う以外に活躍させてあげられる場面はない。さっとTシャツを着て、近くにあったスウェットパンツを履き、出来上がったのは完ぺきな部屋着スタイル。さすがに人に見られて恥ずかしいレベルではない服装だし、問題ないだろう。

 事前に最寄り駅前の和菓子店で買ってきた手土産を持ち、サンダルをひっかけて外へ出る。確か隣の部屋は角部屋で、フロア内に2つしかない1LDKの部屋だったはずだ。もう少し早くこのマンションに決めていたら、この部屋に住めた可能性もあったかもしれない。

 ドアわきに備え付けられたインターホンを鳴らし、反応があったことから住人が在宅中であることもわかった。好印象の挨拶をし、仲良くなれるといいな。

ガチャッと玄関のドアが開いた音がし、ドアが開き切る前に、脳内で考えていたセリフを口に出す。

 

「今日、隣の部屋に引っ越してきた中川夏紀といいます。これからよろしくおね――」

玄関から出てきたお隣さんを見、動いていた口が止まってしまった。

 

「「えっ…?」」

 

 

§

 

 

「さて、これで明日の準備はOKね」

 

今日は3月31日。明日、4月1日になれば、私は名実ともに高校生ではなく大学生になる。

いまだにまだ不思議な気分がする。

高校生の3年間――特に後半の2年間の密度が高すぎて、高校生よりも自由度の上がる大学生としての生活がどうしてもイメージがわかない。

いや、でも。それも今だけかもしれない。初めての独り暮らしを始めてはや1週間。高校生のころは全くやる時間のなかった自炊もやり始め、確実に新しいことは始めている。まぁ、まだうまくいっているとはいいがたい出来だったけれども、それはこれからの課題としていこう。

時計を見ると時間はまだお昼過ぎ。部長をやっていた時の癖というか、その時に身に着けた特技というか、どんなものも準備は時間に余裕をもって万全にしておく癖がついている。きれいに片づけたプライベートルームの片隅には、すでに明日着ていく予定の服と荷物がまとめられている。中高とトレードマークとしてつけていたリボンを大学でもつけていくかは悩みどころだが、初日は無難に落ち着いた服装で行くことに決めた。周りの雰囲気を見て、どうするか考えていこう。

 

「さて、出かけるわけにもいかないし何をやろうかしら」

 

夕方まで時間もあるし、まだ慣れきっていない近所を探索してみるのもいいかもしれない。だけれども、先ほどから聞こえてくる音を聞く限り、今日はお隣さんが引っ越しをしてくるみたいだ。きっと引っ越しの挨拶をしに来るだろうし、その時に不在なのは少し申し訳ない。少なくとも、お隣さんに挨拶できるタイミングまでは時間をつぶさなくては。

 

「ピンポーン♪」

 

実家から持ってきたエレキギターを取り出し、アイツから「次はこれやろう!」と押し付けられた楽譜の練習に没頭していたら、家のインターホンが鳴った。いつのまにか、隣から聞こえていた引っ越しの音は静かになっている。もしかしたら、声を賭けに来てくれたのかもしれない。

インターホンのリモコンを確認し、1階のオートロックからの通知ではないことを確認。はーい、と訪問者に対して応答し、玄関に向かう。

――隣に引っ越してきたのはどんな人だろう。仲良くなれるといいな。

鍵を開け、玄関の扉を開ける。その瞬間、耳に入ってきたのは何やら聞き覚えのある声。そして、この1年間でとても見慣れたポニーテール姿だった。

 

「「えっ…?」」

 

目の前にいたのは、アイツ――中川夏紀だった。

 

 

§

 

 

「ねぇ、なんであんたと隣に住まなきゃいけないわけ?」

「何言っているのよ!後から引っ越してきたのはあんたでしょ!?」

 

挨拶に来た部屋に住んでいたのは、1年間一緒に部長副部長をやり切った、吉川優子その人だった。同じ大学なので、近所に住むことになるのは予想していたが、まさか隣の部屋だとは。

 

「まぁまぁ。これであんたも寂しい大学生活を送らなくて済むね、ぶちょーさん?」

「 “元”部長ですー!」

 

優子は今にも嚙みつかんばかりの形相で私のことを威嚇している。なんだか、部長副部長やっていたころはよく見た光景だ。思っていたのとは違う大学生活になりそうな気もするが、これはこれで楽しいかもしれない。

 

「ん」

 

おもむろに右手を、まだ何か言いたいことがありそうな優子に向かって差し出した。

 

「な、なによ?」

「なんのいたずらか、たぶん4年間はお隣さんなわけだし。これからまた、4年間よろしく」

 

一瞬戸惑ったような表情を見せた優子だったが、すぐに冷静な表情に戻り、彼女も右手を差し出す。

 

「引っ越し代ももったいないし、しょうがないからよろしくしてあげる」

 

彼女の差し出した右手を握り返す。腐れ縁の私たち二人の、新しい関係性の始まりだ。

 

 

 

 

 

「ところで優子、私の部屋だと多分荷物入りきらないから、ちょっとこっちに持ってきてもいい?広いんだしさ」

「断る!」

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