2017年6月23日。
大学入学後一人暮らしを始めた夏紀が迎えた誕生日。
果たしてお隣さんは何かしてくれるんでしょうか。
初出 https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=25133137
「うわ……湿気やば……」
梅雨入りして2週間弱。ちょうど夏至が通りすぎたばかりで、夏に向かってどんどん気温が上がりつつある。とはいえ、最低気温はまだ20℃以下で朝はすごしやすいはず。もちろん冷房を入れずに寝たわけだが……
「梅雨の湿度のこと忘れてたわ」
気温による暑さというよりも、湿度によるじめじめがひどい。とはいえ、実家にいたときは湿気に苦しんだ記憶がない。それだけいい家に住んでいたのだろうか。
「まさかこんなところで、実家を出たことの弊害が生まれるとは……」
梅雨が終わると、この湿気に高温が加わる。その前に対策をやりきらないといけない。
今日は金曜日で大学の講義は午前だけだ。少し面倒ではあるが、講義終わりからサークルまでの間に、サクッと買い物に行ってこよう。
そうと決めたら、早く準備だ。時間は有限。
昨日バイトから帰ってきた時のまま、散らかりっぱなしの荷物をまとめる。今日は珍しく晴れ間が出るようだから、少し溜めがちになっていた洗い物を洗濯機に放りこんで、スイッチを入れた。そしてかろうじて充電するのを忘れていなかったスマートフォンを手にとり、時間を確認する。
「やば……もう時間あんまないじゃん……あれ?」
よく見たら、大量のメッセージの通知が来ている。昨日バイト先に何か忘れ物でもしただろうか。不思議に思いながら折りたたまれた通知をタップし、通知をリストとして画面上に表示させたら、この大量の通知の意味が分かった。
そう、今日は6月23日なのだ。
「今日誕生日か。最近大学にバイトにサークルに忙しすぎて日付忘れてた」
最初に連絡をしてきていたのは、0時0分ちょうどに送ってきていたリボンを付けたかわいい後輩だった。
『夏紀先輩、お誕生日おめでとうございます♪私と会えない日々が寂しくはありませんか?いつでも遊びに来てくださってもいいんですよ?』
それ以降にも、同級生、後輩、両親、たくさんの人からのお祝いメッセージが届いている。
『夏紀先輩、誕生日おめでとうございます。今年も相変わらず低音パートは人気ありませんでしたが、無事に3名入ってくれました。お時間あるときぜひ遊びに来てください』
『中川先輩、誕生日おめでとうございます。指名していただいたときの密命、遂行中です。部長を陰で支える、こんなにも大変だとは思いませんでした。何かあったらまた相談させてください』
『夏紀!誕生日おめでとう!ところで今日の講義代返お願いできない?』
『おめでとう』
まだ途中までしか確認していないけれど、こうお祝いされるのはやっぱり嬉しいものだ。一人ずつにちゃんとお礼の返信はしたいところだけど、今は講義までの時間が迫っているので後回し。いや、『気分いいから今日だけは代返してあげる』とだけ返信しておこう。
「え!?今日23日!?忘れてた!やばいやばい!」
「優子ちゃんはまた大きな声出しちゃって……」
隣の部屋から聞こえてきた大声は、聴き間違えようのない元部長さんの声だった。前に優子の家に4人で集まってご飯を食べたときに、いかにこの部屋の壁が薄いかってわかったのに。気を付けてしいものだ。
でも、今聞えてきた内容からして、期待してもよいのだろうか。いや、今日はなさそうな感じがあったけれども。だとしても、あいつに祝ってもらえるのは少し――いや、とても嬉しい。
とりあえず、大声はやめろ、と文句つけにいこう。そしてついでに、「さっき叫んでた23日って何?」ってからかってやろう。
そう思いながら、隣に住む優子の家のドアをノックする。
去年の今ごろは、今年もこんな関係が続いているとは思ってもみなかった。最初はあの先輩の面白がりから始まった部長副部長のコンビであったが、部活というしがらみがなくなっても関係が続いている。そして多分、これからも続くのだろう。
来年も、再来年も。そして、これからもずっと。