だから私は、君のために———
改めて、背を正しながら私は前に向き直り、長い髪を揺らして笑顔を作る
そうすると、すぐ側の観客の波から、バタバタと倒れるような音が聞こえて、いささか心配にはなるけれど、表情を作り続けて、話を始めなければならない……
時間は幾許か押してしまっているらしい
「改めまして、神仙組局長兼、日本堂和傘下の配信グループ所属ライバー、桃園イサミと申します……この場の皆様には聞き馴染みある言葉でしょうが、どうぞ本日はよろしくお願いします」
小さく頭を下げれば、コメントや現地のファンの声が、今までの比にならない程度の大歓声を作り上げてゆく
「おー、っぱイサミさん人気ですねぇ、配信始めたのは何年前でしたっけ?」
「そうですね、配信を始めたのは早10年ほど前……あぁいえ、それはツクヨミに来た頃ですね、正確に言えば、配信は6年ほど前でしょうか」
「そうだねぇ、KASSENが始まったのも〜……私が覚えてる限り、今から6〜7年ぐらい前だから、本当、時間が過ぎてくねぇ」
進行役のオタ公の質問に答えたところで、合間でヤチヨが口を挟む
その顔はどこか楽しげで、まぁ、確かに彼女からすれば待ち望んでいた時だろう
「とまぁ、アイスブレイクはここまでとして!話題はこちら!」
オタ公が腕を振り上げれば、画面には
ツクヨミの今後の発展、
起こり得る問題について
と表示されている、それと同時に、オタ公は一歩身を引いて、話し合いがスタートする形となった、
話題の口火を切ることになったのは……神仙組のトシだった
「んまぁ、今まで散々口酸っぱく言われてたけど、やっぱ発展は頭打ちじゃ無い?」
「えー?ヤッチョはまだまーだ、発展していきたいなー?って思ってるよー?風のまたまた三郎と言うか〜?明日は明日の風がFLOWと言うかー?」
「一介のライバーの視点だと、ゲームに音楽、ライブに配信活動、後はクリエイターサポート、ここまでやってる時点で凄いですし、これ以上は流石に運営側も厳しいんじゃ無いかなと……希望を出すなら味覚再現は……」
トシとヤチヨが会話を広げている中で、ソウジはこちらに顔を向け、カンペを流し見しながらも、話を広げるように口を切る
「味覚って言えば、最近日本堂和と、ツクヨミの協力を受けて、擬似的な再現プログラムが作られてなかったっけ〜?」
「そうだね、現在は試作段階で、テスターの募集を受けている筈だよ、多くの人の味覚認識を参考に、電子データに変化させるプログラムを開発中だったね、希望者は……今表示したサイトのURLを確認して、是非応募してみてほしいかな」
ソウジから受けたパスを、少し砕けた口調で話しつつ、事前にヤチヨが用意していたURLのポップアップを表示させる
この事は以前から決まっていたのだ、グループのスポンサー兼、ツクヨミの参加グループだ、大人同士の決議の中で、
「味覚が再現されたら〜、ヤッチョはねぇ〜、パンケーキ!ふわっふわのパンケーキを食べたいんだ〜」
「僕は現実じゃぁ食べられないクソ辛い麻婆豆腐とかかなぁ、後はクッソでかいプリン!」
「お二人とも食い意地張ってますねぇ〜、あたしはそうだなぁ……いっそ身近なジャンクフードかなぁ」
やんややんやと話が広がり、皆一様に食の話へと移り変わってゆく
甘いものから辛いもの、手軽なご飯などに変わっていく………
「おっと、だいぶん時間が過ぎてしまいましたが、そろそろ配信はここまで!最後に皆さんから一言ずついただきましょうか!」
時刻を見れば、既に3時間ほど経過しており、コメントもなだらかになっていた
「では私から、みなさま、本日はありがとうございました、1時間後にKASSENのSETSUNA*1にて、視聴者参加型の配信を行う予定ですので、ぜひご参加くださいませ」
「僕は明日〜、ツクヨミで大規模な射撃大会を行うから〜、みんな参加申請を忘れないでねー?」
「私はここ一週間の配信予定は、配信アーカイブでお伝えしてるんで、ファンの皆さんは確認してくださいね」
私の挨拶を契機に、ソウジやトシも、各々の予定を伝えて、軽く笑みを作っている
一拍置いて、皆の視線がヤチヨへと流れて、おほんと咳き込み、白い髪をたなびかせながら、彼女は笑みを見せながら
「ヤッチョにかんしては、 この後配信はお休み!期待してくれたみんなごめんね〜!また明日、夕方ごろに配信をするから、期待して待っててくれるとヤッチョは嬉しいな!」
彼女がパチンとウィンクをして見せると、ファンの多くは湧き上がって声が上がり、オタ公はため息がちに呆れたように顔を引き攣らせ
「はいはい!んじゃぁ今日はここまで!私はこの後はNEWS TSUKUYOMI!!に出る予定なんで、そっちも要チェック!それじゃぁ、またの配信を〜!」
そう言いながら、配信画面はパチンと閉じられ、私達の周囲も、多くの魚が取り囲む、トシとソウジは、互いに予定があるのか、青く瞬き青い花びらとなってログアウトしてゆく
私もログアウトしようとすると———
「あ!まってまって!ちょい待——ぶべっ」
と彼女が目の前に割り込もうとし、バタンとその場に倒れ込んでしまう
「大丈夫ですか?月見さ——」
「ヤッチョは大丈夫!それより!」
手を差し伸べた途端、がしりと強く掴まれると同時に、彼女が顔を上げる
「イサミくん、ちょっと、付き合ってほしいことがあって———」