……今日まで待ってくれて、ありがとね⬜︎
……最後の我儘ぐらい、 聞いてあげなきゃですから、姫……いえ、かぐや姉さん
結局のところ、かぐやに隠し事をするなんて、私には向いておらず——
「えーっと、つまり、かぐやを拾った時と全く同じだった、って事?」
きょとんと顔を傾げさせる彼女に、コックリと項垂れて首をうなづかせれば
「わーい!!!やたやたやったぁ〜!!ねぇ!ねぇ!それってつまりかぐやのイモウトかオトウトってことだよね!!名前どうしよっかなぁ……!ここはいっそカイザーフェニックスとか!」
「ペットじゃないんだからそんな名前付けようとすんなし……第一、あんたと同じだって限んないんだから、休み明けに児相に連れて行きます」
私が淡々とそう述べれば、先ほどまで足踏みをして喜んでいたかぐやは、ガチリと石のような音を立てて固まり、ぎぎぎとこちらを振り向いて肩を揺らす
「そんな……彩葉、いろはぁ、捨て、捨てないよね……?」
「捨てるんじゃありません、養護施設に出すだけです」
「そんなぁ!!彩葉のケチ!ドケチ!飯まず女!エセパンケーキ!」
「エセパンケーキじゃなくて効率食と言いなさい効率食と、あと誰が飯まずじゃ」
ぶーぶーと私が昔作ったパンケーキの事を文句として言われるも、文句を言われる筋合いは一切ない
1枚分の材料であれだけ作れるなら儲け物だろうに
そう私たちが話し合っていると
「ふぇっ……ふぃっ……」
「え?」
「お?」
「ふぇ〜〜〜〜!ゔあぁぁ〜〜〜!」
いつの間にやら起きていた赤ちゃんが、大きく涙を流して泣き始めてしまった
「あぁもう!かぐやはちょっとミルク引っ張り出して!あんたん時のあまりがまだ残ってるはず!」
「い、いろは!時間経ってるけどいいの!?」
「じゃかぁしい!まだ消費期限切れとらんわ!」
かぐやの問答にそう大きな声をあげれば、抱き抱えている赤ちゃんはさらに泣き出してしまい
「あぁ〜、よしよし、ごめんね〜、おねえちゃんが大変だったからねぇ〜」
「それってかぐやがバカって事!?」
「いいから粉ミルク!後お湯!」
ねんねころりと腕を揺らしつつ、私がかぐやにそう怒鳴りつければ、隣からドンと蹴りつける音がして、申し訳ありません申し訳ありませんと頭を下げることになってしまう
全く……!
ようやくかぐやがミルクを作ったと思いきや……
「びぇぇぇ!」
「ちょ、お腹が空いてんじゃないの!? おしめも湿ってないし……!」
「あででで!おしかえさにゃいで」
ミルクを飲ませようとしたかぐやは、哺乳瓶を押し返されて頬に押し付けられてしまっている
ふと、かぐやがまだ赤ちゃんだった時を思い返して、私は息を吸い込み、
——大切なメロディ〜は流れてるよ〜♪——
——あなたのハートに〜♪——
ぱち、と目を開ければ、ふわふわとした顔を向け、きゃっきゃ、と小さく声を上げる赤ちゃんを見て、はぁ、とようやく一息吐く
「いろは、いろは!今のって確かあれだよね!ヤチヨの歌!」
「うっさい、何であんた知っ……って、動画配信してんだから見てるか…」
あの日のライブでは歌わなかったRemember
聞いたことない筈のかぐやがなぜと思ったが、日がな配信サイトで配信してる暇人なのだから、当然と言えば当然だったか
「と・に・か・く!暫くは赤ちゃんの為にも配信休止ですっ!」
「えぇ〜〜!?」
「もし赤ちゃんの鳴き声が載ったらどうすんのよ、最近はそう言うのうるさいんだからね?」
「ん〜〜〜おしゃぶり咥えさせる!!」
「赤ちゃんはどうしても泣くので限度がありますっての」
かぐやはパチンと指を鳴らし、天才的アイデアとでも言いたげな顔だけど、パチンと頭を軽く叩き、ため息をこぼしながら、布団を広げる
「あで、いろはもう寝ちゃうの?」
「赤ちゃんは早寝早起き夜更け起床が生活リズム! つまり、 いつ何時泣いてもいいように布団はずっと広げます!」
「ゔぇ〜〜!?マジ〜〜?」
「マジです、明日明後日は土日で、明日は日中はかぐやに任せるから」
「えっ!? いろは居ないの!?」
「明日はバイトなの……とりあえず、軽くでいいからご飯作っちゃってて、私はシャワー浴びて来るから」
そう言いながら、私は赤ちゃんを布団に寝かしつけ、 軽く毛布をかけたのち、 シャワーを浴びる準備をする
ぷにぷにと、ほっぺを触りながら、私は寝転がってその赤ちゃんをじっと見つめている
「いろはもハクジョーだよねぇ〜、サイバーフェニックス、あれ、カイザーだっけ?」
ごろんと転がり、両手でその子を抱き上げれば、きゃっきゃと小さく声をあげて
「やっべごはんごはん!」
私はその子を抱えたままキッチンに走る、片手で赤ちゃんを抱き上げて、もう片方の手でフライパンをもたげる、今日の晩御飯はかぐや特製マジチャーハン!
いろはもきっと喜ぶかなー!
と考えながら、チラリと胸に抱くその子に目をやって
「君もいつか、私のご飯を食べさせてあげるからね〜」
そう言いながら、フライパンから手を離して頭を撫でて
その為には打倒魔王いろは!悪の皇帝を懲らしめて、私の目的を叶えるのだ!げーははは!
カタカタとチャーハンを皿に移し替え、スプーンを二つとって、テーブルの上にカタンと置いて
「いろは〜、ご飯できたよ〜」
『先食べといて〜、後体拭いたら出るから〜』
「わかった〜」
まったく、せっかく可愛いかぐやちゃんがご飯を作ったと言うのに、出てこないとは何様か
と鼻を鳴らしながら、 スプーンでチャーハンを掬って
「うん!チョーベリウマ!ほら、あーんだよあーん」
とっても美味しいし、分けたげようと抱き抱えてるこの子にも、ひとかけらだけ掬って食べさせて、 もちゃもちゃと口を動かしてから、ニンマリと笑顔になるのを見て、私もつい笑顔になって
「そーかそーか!そんなに美味しいか!悪代官め〜、まだまだおかわりはあるぞ〜」
そう言って、私がおかわりを食べさせようとしている中、がちゃと風呂場のドアが開き
「かぐやありが——って何やってんのよあんた!」
「へ?」
髪を乾かし終えたいろはが出てきたら、いきなり私の腕を掴んで、ばらぱらとご飯が溢れちゃう
「あーもういろは、ご飯落ちちゃったじゃん、まだ平気まだ平気……」
とスプーンを置いて拾おうとして、腕をいろはから引き剥がそうとしても、力強い手で止められて
「……いろは?」
私がこてんと首を傾げて顔を見れば、鬼のような必死の形相で、汗を滲ませて睨んできていた
「——つまり、赤ちゃんはこの年齢の時期では誤嚥のリスクがあるから、まだ食べさせちゃダメなの、わかった?」
「えぇ〜?でも、さっきちゃんと食べれてたよ?」
「 それはたまたまでしょ!全く……あんたの時とおなじかどうかもわかんないんだから」
さっきより幾らか重みが増してる赤ちゃんを抱えて、私は正座させているかぐやにこんこんと説教を続けていた
まったく、 一回だけだったから良かったけど、いやほんとは良くないんですがね……
「とにかく、私がいない時はメモに書いた物を飲ませること、配信は禁止、休み明けに児相に連れて行きます」
「……ほんとにダメなのぉ?」
「……今のうちの稼ぎじゃ、あんたとこの子を一緒に育てらんないの、仕方ないでしょ?」
バイトをしているとはいえ、 ただの学生なのだ、それもほぼ全てを自分で賄っている、 純粋にお金が足りないのだ
「ならかぐや!配信で稼ぐ!それならいいでしょ!?」
「あ、あんたが良いなら……って良くない良くない!第一配信に音声載ったらどうすんのよ!」
「うーん……どうにかして誤魔化す!」
「どうにかってあんたねぇ」
はぁ、と両手で赤ちゃんを抱えて、しっかりと頭を支えてため息をこぼすと
「いろはぁ、だめ、なの?」
こてんと首を傾げて涙目で請われたら、どうにもこの顔には勝てないようで
「……月曜まで、赤ちゃんなら児相に相談します!そうじゃなかったらまた考えるから」
「やたやたやったー!!」
「かぐやうるさい!静かにしてよ…!」
どたどたと床を踏み締めるので、私はそう小声でかぐやに伝えて、かぐやは静かに足踏みをする、そう言うとこは器用ねアンタ……
「あと、ご飯はマジで食べさせちゃダメだからね?」
「そこはかしこみかしこみかしこまり!なんつって」
「ったく……」
赤ちゃんを改めて布団に寝かせ、ゆっくりとお腹を叩いてミルクをあげながら、かぐやと一緒に夕飯を口にして……
そこからは、だいぶ早かった——