残虐皇帝はドアマット令嬢に転生しました。平和な理想世界には、ゴミが多すぎて処分が大変です!   作:底辺作家

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第2話 お前らの『教育』をしてやろう

 翌日、私は父の呼び出しを受けて彼の書斎にやってきた。

 

「フィリア! 貴様はなんということをしてくれたのだ!」

「はて、何も身に覚えがありませんが」

「勝手に料理長を追い出したのはお前だろうが!」

 

 反射的に首をかしげてしまったが、おそらく料理人たちが口裏を合わせて追い出されたことにしたのだろう。私に殺されたと言ってしまうと、料理長の肉やダシが彼らの腹の中にあるのがバレてしまうからな。

 

「無能だから追い出したまでですが、何か問題でも?」

 

 あえて食えない料理を出すような無能が料理長など務まるわけがない。当然の沙汰だと思っていたが、父にとっては違うようだ。

 

「あの方は伯爵家の三男なんだぞ! 後継者ではないとはいえ、伯爵家の人間を追い出したなんて知られてみろ、何をされるかわからないんだぞ!」

「なるほど、だから無駄に尊大だったんですね」

 

 伯爵家とはいえ、三男なら家を継ぐ可能性はほとんどない。料理長の私に対する傲慢な態度、そして横領の事実。冷遇されていることをいいことに、私の食事を貧相にして余った金で贅沢をしていたと思うと、死んで正解だったと言える。

 

「くそっ、何とかして探さなければ──」

「無駄だと思いますけどね。骨くらいは拾えるかもしれませんが……」

「縁起でもないこと言うんじゃない!」

 

 見つからない理由を知っている私からすれば無駄なことを、と思うけれど、正直に教えてやる義理もない。しかし、突き放したような言い方が癇に障ったのだろう、ちちは激高して椅子から勢いよく立ち上がった。つかつかと私の方へと歩いて目の前に立つと、私のみぞおち目掛けて拳を振り抜いてきた。

 

 ──だが、遅い。

 

「これは教育だ──なにぃ?!」

 

 しかし、父の拳は止められていた。私の人差し指一本で。覇気によって強化された指をもってすれば、この程度の拳を止めるなど造作もない。

 

 しかし、止められた父の方は、幼い娘──しかも指一本で止められたことに驚愕して目を見開いていた。

 

「ずいぶんと変わった教育をするのだな。ならば私もお前を教育してやるとしよう」

「ごふぅ!」

 

 父が意味を理解するより早く、拳を父のみぞおちにめり込ませる。ただの少女の拳ではない、覇気をまとわせた鉄球のように重い拳だ。

 

 それを受けた父は、短く苦悶の声を出しながら体をくの字に折り、白目をむいて崩れ落ちた。

 

「これは、あんな無能な料理長に高い金をつぎ込んできた愚かさに対する教育だ。聞いているのか?」

 

 徒労感に思わずため息が漏れる。教育の最中に居眠りをするなど言語道断ではあるが、まだまだ教育しなければいけないことはたくさんある。最初から詰めすぎて壊してしまうのもよくないだろう。

 

「今日の授業はここまでだな」

 

 ピクリとも動かない父を放置して、私は部屋へと戻った。部屋ではエリーが心配そうな表情で行きつ戻りつを繰り返しながら、私の帰りを待っていた。

 

 扉を開けて中へ入ると、まるで犬のように顔を綻ばせて駆け寄ってくる。

 

「お、お嬢様。大丈夫ですか?」

「問題ない。少し教育をしてきただけだ」

「そ、それって──」

 

 教育、という名の折檻をエリーも受けてきたのだろう。その言葉を耳にしただけで縮こまって震え出した。

 

 使用人とはいえ、エリーはすでに右腕だと思っている。王の右腕に危害を加えるような愚物にも教育を施してやる必要があるだろう。

 

「エリーよ。誰に教育された?」

 

 問いかけただけにも関わらず、エリーは傍目からも分かるほどに狼狽していた。密告できないように厳しく教育されてきたのだろう。自分がされてきた教育と重なり虫唾が走る。

 

「一つだけ言っておく、私は怒っているのだ」

「も、申し訳ございません」

「エリーにではない。甲斐甲斐しく働いてくれる私の片腕を傷つける輩にな!」

「お嬢様……」

 

 エリーは戸惑い、視線を忙しなくあちこちに動かす。別に言わなかったとしても、遠からず露見して制裁を与えることになるだろう。

 

 しかし、すでにエリーは私のもの。一秒たりとも好き勝手にされるのは許しがたい。

 

 その想いが伝わったのか、しばらく迷っていたエリーがまっすぐ私の目を見る。

 

「侍女長です」

「そうか。ならばすべて取り返してやろう」

 

 予想していた通り、先日まで私の給仕をしていた侍女だった。ろくに仕事もできないくせに他者を虐げることにだけは秀でているようだ。私が反抗し、エリーも囲ってしまった。不満のはけ口がなくなり、さぞかし溜まっていることだろう。

 

 口角を上げてニヤリと笑う。おもむろに椅子から立ち上がり、部屋の外へと向かった。

 

「お嬢様、どちらへ……」

「主人である私のものを、己のものだと勘違いしている愚か者に教育をしにいくだけだ。エリー、お前も付いてくるがよい」

「はい、お嬢様」

 

 侍女の控室、外まで響く頭の悪い会話が聞こえてくる。侍女長の声だ。

 

「エリー、先に行け。私は少し様子を見てから入る」

「か、かしこまりました」

 

 様子を見る、ということは、多少なりとも何かをされるということだ。これまでの記憶が蘇り、エリーは下唇を噛んだ。しかし、すぐにキッと扉をにらみ、中へと入っていく。

 

「なんだ、エリーじゃないか。てっきりクビになったかと思ったわ。キャハハハ!」

「く、クビになんてなってません!」

「そんじゃあ、サボってたのかよ。こっちはクソ忙しかったってのによぉ! こりゃあ、教育してやらねえとな!」

 

 愉悦に顔を歪ませたアンナが足を振り上げる。かつての恐怖が蘇って、エリーはきつく目を閉じて縮こまってしまう。だが、教育のために振り下ろされたアンナの足はエリーには届かない。

 

「なっ?!」

「何をやっている?」

「お嬢様ですか──言っておきますけど、これは使用人の教育ですよ。余計な口は出さないでください」

 

 もっともらしく言っているが、仕事が溜まっているのはアンナがサボっていたせいであり、それをエリーに押し付け正当化しようとしている人間の言葉に説得力などあるはずもない。

 

 なにより、アンナは完全に勘違いをしている。

 

「いったいいつから、使用人がお前のものだと勘違いしていた?」

「ですから、侍女長として教育を──」

「黙れ。使用人はすべからく主人のものだ。そして、エリーは私の専属。つまりは私のものになった。使用人風情がどうこういう立場にはない」

 

 諭すように静かに忠告するが、いまだに勘違いして私を下に見ているアンナは強気の姿勢を崩さず、怒気をはらんだ目でにらみつけてきた。

 

「愚かな、エリーはまだ半人前です。私たちの教育がなければ、まともに仕事などできるはずがありません! そんなこともわからないなんて──」

「黙れと言ったはずだ」

 

 静かに、しかし覇気を乗せた言葉により、侍女長だけではなく、ほくそ笑んでいた取り巻きの侍女たちも恐怖に凍り付いた。

 

「どうやら立場がわかっていないようだな。父たちの扱いがどんなものであっても私は主人。使用人ごときが知った風な口をきくな」

「しかし──」

「言っておくが、エリーは優秀だぞ。自分の仕事も終わらせられないような寄生虫どもよりも、はるかに優秀だ。エリーが半人前なら、貴様らはひとまとめにしてようやく半人前だろうが。まったく、無能な父に感謝するのだな」

 

 なおも反論するアンナたちに正論を突きつけて黙らせる。いかに仕事ができず、家に寄生しているだけの人間か。一人では何もできず、束になってやっとマシになる程度か。そう言ったことを懇切丁寧にあげつらった。

 

 エリー以下と言われたことで、アンナたちの表情が怒りに歪む。しかし先ほどの会話から、手を出して罰せられるのは自分たちだと理解して耐えていた。

 

「でかい口を叩くなら、せめてエリーの半分くらいは仕事ができるようになってからにするんだな。言っておくが、エリーに危害を加えたなら、私に危害を加えたものと同じように対処するから覚えておくといい」

「うぐぐぐ……」

 

 耐え切れなくなったアンナの口から声が漏れる。このまま終わりになるとは思えないと思い、私はここまでで収めることにした。

 

「エリー、行くぞ」

「はい、お嬢様!」

 

 私が立ち上がるのに合わせて立ち上がったエリーの表情は、教育に怯えていた時のようなものではなく、晴れ晴れとしたものだった。

 

一方で、私たちを見送るアンナたちの殺意の籠った視線に、心の中で大きくため息をついた。

 

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