残虐皇帝はドアマット令嬢に転生しました。平和な理想世界には、ゴミが多すぎて処分が大変です! 作:底辺作家
まだ、こいつらが残っていたか──。
「悠長にお茶を楽しむなど、自分の立場がわかっているの!」
「そうよ、無駄なお金を使ってんじゃないわよ!」
ようやく落ち着いたと思って、庭にあるあずまやにやってきてエリーとティータイムを楽しんでいたところに、継母のグローザと継子のハイネが怒鳴り込んできた。
仮にも父の後妻となった女性と、その血を継いでいる少女だけあって、見た目は二人とも悪くはない。しかし、その体に身に付けられた数えきれないほどの宝飾品の数々が格を落としていた。
宝飾品を身に着けることによって、ここまで下品に仕上げられるのは一種の才能ともいえる。そんな才能、私なら御免こうむるが。
「大した金額ではないでしょう。その下品な指輪一つの百分の一の価値もありませんわ」
「なっ、私を馬鹿にしているの?!」
「いいえ、すでに馬鹿なのを馬鹿にはしようがありませんから」
指輪というより宝石の付いた輪にしか見えないものを、五本の指全てに付けるなんて下品以外の何ものでもない。高価なカイザーナックルと言った方が、よほど実用的だろう。
「もう許せません! 鞭を寄越しなさい!」
普通のことを言っただけなのに、二人は青筋を浮かべ、甲高い声を上げて文句を言い立てる。涼しい顔で聞き流しているのが気に障ったのか、グローザは後ろに控えていたアンナから鞭をひったくるように受け取った。
一方、後ろに控えていたエリーはハラハラしながら様子を見ていたが、グローザが鞭を取ると顔を真っ青にして慌てふためく。
アンナはといえば、いつものように鞭で打たれる私の姿を想像したのか、顔を醜く歪ませて笑っていた。昨日の仕返しということで、二人を焚きつけたに違いない。
使用人の言葉に踊らされるとは、さすがに呆れてしまう。もっとも、矜持のない二人は踊らされていることすら気づいていないのだろう。
彼我の実力差すらわからないのに強者ぶるなど、戦場では殺してくださいと言っているようなものだ。
「やれやれ、それは──人に向けるものではないと思ったが?」
「アンタのような躾のなっていない獣を調教するためのものだからね!」
「たしかに、それは一理あるな」
「余裕ぶってんじゃないわよ! ほら、泣き喚け!」
グローザは私に向けて鞭を振り下ろす。しかし、前世で数多の修羅場をかいくぐってきた私にしてみれば、恐れるどころか退屈であくびが出る。しなる鞭の先端を覇気をまとった指先でつまむとピクリとも動かなくなった。
「え、な、何?!」
「これは貴様ごときには過ぎた代物のようだな。ろくに使いこなせていないではないか」
「えっ、きゃああああ!」
つまんだ鞭の先端を左右に振ると、それに合わせてグローザの体が左右に激しく揺れる。徐々に勢いをつけて振ると、耐え切れなくなったグローザの右手が鞭から離れ、その勢いのまま地面に倒れ込んだ。
「やれやれ、鞭もろくに使えんとは。こういう風に使うのだよ」
手首のスナップを利かせ、先端を大きくしならせた鞭をグローザの太ももに振り下ろした。
「ぎゃあああ! な、何をするんだ!」
「自分で言ったではないか。躾のなっていない獣を調教するためだと」
「お、お前と違って! 私に躾の必要はない! ぎゃああ!」
寝ぼけたことを言いだしたグローザをもう一度、鞭で強く打ち付ける。
「浪費をしているじゃないか。金の使い方を躾ける必要があると思うのだがな」
「わ、私は貴族だぞ! ぎゃああ!」
「貴族は浪費するためにいるのではない。民を統治するためにいるのだ。勘違いするな!」
「そんなこと必要な──ぎゃああ!」
ぎゃあぎゃあと叫び声がうるさいし、口も減らないグローザに呆れを通り越して思わず感心してしまう。もっとも、鞭を振るう手を緩めることはないが。
チラリとハイネの方を見る。怯えているように見えるも、同時にどこか他人事のようだった。グローザへの鞭打ちを止め、ハイネに鞭を打つ。
「きゃっ!」
こと浪費という点においては、こいつもまた同罪。同じように躾けるべきだろう。先ほどまで不安に押し潰されそうだったエリーも、二人が鞭打たれる姿をうっとりと見つめていた。
「貴様らが浪費したものを私の前に置くがいい。そうすれば今日のところは見逃してやる」
「そんなの横暴よ! これは私が買ってもらった──きゃあああ!」
どうやら民の苦労がどれほど無駄に使われてしまったか理解していないらしい。ふたたび分からせるためにグローザとハイネに鞭を打つ。
「なんで、こんな酷いことを!」
「酷いのは貴様らだろう。どれほどの民が貴様らの見栄のために節約していると思っている?」
何度も鞭で打たれ、耐え切れなくなったグローザとハイネは身に着けていた指輪やティアラ、ネックレス、ブレスレットなどの宝飾品を私の前に置いていく。
「こ、これでいいでしょ!」
二人の顔に、ここまでやったのだから十分だろう、という浅はかな思考が透けて見える。物分かりの悪さに思わずため息が漏れてしまう。
「そんなわけないだろう。その無駄に派手なドレスも浪費したものだろうが」
「なっ、私にここで脱げって言うの!?」
「そんな横暴なこと、許されません!」
「クハハハハ、何を言っているのだ。自分で言ったではないか『躾のなっていない獣』だと。獣に服など不要だろうが」
あまりにも傲慢な物言いに加え、自分で吐いた言葉がそのまま返ってきたせいで、二人は押し黙ったまま顔を怒りで真っ赤に染めていく。これにはエリーも少しばかり引いていた。
「ほら、早くしろ。それとも、もっと躾けられたいのか?」
「──覚えてなさいよ!」
グローザが醜く顔を歪めながら、ドレスの紐をほどいていく。バサリと地面に落ちたドレスを拾うと、私の前に叩きつけた。
「これで満足でしょ!」
「ああ、ハイネ。お前もだ」
「ママ……」
普段の傲慢な態度とは裏腹に、人前で服を脱がされることに抵抗があるのだろう。涙目になってグローザに訴えかける。しかし、グローザも目を閉じて首を横に振ることしかできない。
梯子を外されたハイネは、涙を流しながらドレスを脱いでいく。同じように地面に落ちたドレスを私の目の前に置いて、下着姿のままグローザに抱き着いて泣き出した。
「はい、よくできました。それじゃあ、アンナ。これを全て売り払ってきて」
「なんでアタシが!」
「使用人だからに決まってるだろう。主人の命令なんだから、さっさと行ってくるがいい。もちろん、売った証拠も受け取るのだぞ。言っておくが、横領したら同じように躾けるからな」
アンナは忌々しげに私をにらみつけると、ドレスと宝飾品を抱えて売りにいった。
「お前たちも帰っていいぞ。これで少しは人間らしくなっただろう」
「くそっ、覚えてなさいよ! この家はアンタのものじゃないんだからね!」
「お前のものでもないがな」
下着姿のまま、ハイネを抱えてグローザは走り去っていった。ようやく落ち着いたのでエリーに声をかけてティータイムの続きを楽しむ。
「エリーも座って一緒に紅茶とお菓子を楽しみましょう」
「お嬢様。それは──」
「私がいいと言っているのだから構わない。それにエリーは私の右腕、こういったことにも慣れていく必要があるだろう」
「は、はい。お嬢様!」
ビシッと立ってお辞儀をすると、私の向かいの席に座る。緊張していたのか、震える手で紅茶に口をつけると、ほぅ、と息を吐いた。
「売って、きました、よ!」
「ずいぶん遅かったな」
日が傾きかけた頃、息を切らせたアンナが戻ってきて、金貨の入った袋と取引明細の紙をテーブルに叩きつけるように置いた。
「ご苦労様。下がっていいぞ」
「ちっ……」
アンナに下がるように言うと、私とエリーをにらんで舌打ちをしてから踵を返して屋敷に戻っていった。