残虐皇帝はドアマット令嬢に転生しました。平和な理想世界には、ゴミが多すぎて処分が大変です!   作:底辺作家

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第6話 別に殺してしまっても構わんのだろう?

「教えてやる。こういう戦いでは一手目が最も重要なのだよ」

 

 この程度の相手、一人ずつ倒していっても問題はない。しかし、そんな面倒なことをする必要はない。

 

 襲ってきた護衛たちの太刀筋を見極める。一番の実力者を見定めると、踏み込んで重心が移動した瞬間を狙い、足を払いつつ背後に回る。

 

「まずは一人目だ」

「「「うわっ!」」」

 

 一斉に攻撃してきたということは、前のめりに倒れれば待つのは仲間の振るった刃の残滓。突如として発生した不測の事態に、残りの護衛たちは焦って武器と一緒に身を引く。

 

 それすなわち、私が護衛を仕留めようとするのを、誰も止められないということだ。

 

 私は無防備になった護衛の首に背後から刃を突き立てる。一瞬で命を刈り取り、護衛は白目をむきながら、うつぶせになって倒れた。

 

「ふん、他愛もない。どうした? 死にたいヤツからかかってくるがいい」

 

 実力は大したことないが、それなりの実力はあるらしい。初手で一番の実力者が瞬殺されたのだから、警戒するのも当然のこと。相手をガキだと侮っていた時の表情はすでにない。

 

 剣を構えながら、距離を取りジリジリと間合いを詰める。だが、そんな小手先の動きが通じるのは実力が拮抗している相手のみ。私と彼らの差は、わずかな間合いで埋まるようなものではない。

 

「何をやっている! 早く殺してしまえ!」

「戦うつもりなら、全力で来い。全力でお前たちを殺してやる」

 

 口角を上げて宣言すると、護衛たちの腰がさらに引けていく。この手の金で雇われた手合いには、徹底的にリスクを上げてやるのが効果的。彼らの頭の中には、戦うか逃げるか、二つの選択肢がひしめきあっているだろう。その迷いが彼らの瞳や構えにはっきりと表れていた。

 

 しばらくにらみ合うも、護衛たちは向かってもこなければ、逃げる様子もない。

 

「私の集中力が切れるのを狙っているつもりだろうが。無駄だ、貴様ら相手に集中する必要などないからな」

「うぐぐ──何をやっている、お前たち! ちゃんと役目を果たせ!」

「やかましい。お前から死ぬか?」

「ひぃぃぃ!」

 

 護衛たちの背後から怒鳴り散らす商会主だが、少し覇気を当てただけで甲高い悲鳴を上げて腰を抜かしてしまった。これまで雇い主が怒鳴り散らしていたおかげで士気を保っていた。それがなくなったことで、護衛たちの腰がさらに引けていく。

 

「逃げるなら今のうちだぞ。私の邪魔をしないなら、別に殺すつもりはないからな。だが──」

 

 護衛たちに向けて覇気を当てると、揃って顔を引きつらせる。

 

「それでも邪魔をするなら容赦はしない」

「「「うわあああああ!」」」

 

 私の言葉が最後の引き金になって、護衛たちは一目散に逃げだした。残された商会主は相変わらず腰を抜かしてへたり込んでいて、従業員たちは身を寄せ合って震えていた。

 

「お前たちも、大人しく帰れば何もするつもりはないが。どうするつもりだ?」

「こ、こんなことをしてサフィア卿が黙っちゃいないぞ!」

「おっと、私のことを誰かに言いふらしてみろ。お前たちは死の恐怖に怯えて生きることになるぞ。それでもいいなら構わんが」

 

 そう言って商会主をにらみつけると、顔面蒼白になって震えあがり、首を横に激しく振った。

 

「わ、わかった。絶対に言わないから、助けてくれ!」

「助かりたかったら、まっすぐ帰れ。だが、二度と来るんじゃないぞ。無事に来れたとしても、無事に帰れるとは思わんことだ」

「お、おい。早く馬車を反転させろ!」

 

 商会主の指示に従って馬車が一斉に反転して帰っていった。彼らが立ち去った頃合いを見計らって、エリーが街道脇の茂みから、ゆっくりと姿を現す。

 

「お嬢様、さすがです。でも──まさか最初から殺すなんて意外でした」

「あれは最初にこそ戦意を挫くことに意味がある。初手で徹底的にやらなければ、もっと死人が増えていただろうな」

「そういうことでしたか。でも、彼らは約束を守りますかね?」

「さあな。だが、私にとってはどちらでも構わんよ。どうせ伯爵は潰さねばならんからな。早いか遅いかの違いだけだ」

 

 エリーは私の言葉にゆっくりとうなずいた。私の片腕として十分なほど優秀さを発揮しているエリーも、すでに私とほぼ同じ目線で状況をとらえている。

 

「いずれにせよ、ひとまずは安心だろう」

「そうですね」

「ふむ、鉱山の方も早めに見ておきたいところだが──さすがに距離があるからな」

 

 馬で駆けても半日はかかる距離。気軽に出向けるところではない。さすがに誰にも気付かれずに対処するのは難しいだろう。不審に思われないようにするためにも、先に父であるワイリーに話を通しておくべきだろう。

 

「いったん戻って、父に話をするとしよう。私が資料を整理するから、エリーは断罪の資料の作成を頼む」

「はい、お嬢様!」

 

 屋敷に戻ると、玄関先ではグローザとハイネがそわそわとホールの中を行ったり来たりしていた。

 

「遅い! まったく、何をやっているの?!」

「ま、間もなく到着するかと──」

「全然、来る気配がないじゃない! ちゃんと連絡したんでしょうね!」

 

 使用人に、来るはずのない商人の状況をヒステリックに問い詰める。状況を知らない使用人に答えられるはずもなく、冷や汗をかきながらなだめようとするも、グローザの火に油を注ぐようなものだった。

 

「まったく、こんな地味な服じゃ外にも出られないじゃない!」

「お母様、私はこれでも──」

「あなたは黙ってなさい!」

 

 使用人に当たり散らす母親の姿に耐え切れなくなったのか、ハイネがグローザを止めようと試みた。しかし、その程度で止められるほど彼女の怒りは生易しいものではなかった。

 

「はあ、私には関係ないから放っておくか」

「これで浪費が止まるとは思いませんがね」

 

 関係ないとスルーして自室へと向かう私に、エリーは半眼で彼女たちをにらみつける。次に浪費するまで家が残っていればいいが、おそらく無理だろう。こうして馬鹿みたいに喚いていられるのも今のうちだ。

 

 彼女たちを無視して、私とエリーは自室へと向かう。押収した資料を整理しつつ、エリーに交渉内容をまとめてもらう。全てを奪い取るつもりなら容易いことだが、まだ私が矢面に立つのは避けたい。

 

「いやはや、なかなか難しいな」

「いいところが全くありませんからね」

 

 ワイリーが矢面に立ちたいと思うように、プライドを上手く刺激してやる必要がある。少しでもいいところがあれば、そこを中心に据えればいい。だが、書類を精査しても彼に良いところが全くない。

 

 子爵家に入り婿として入り、母の死と共に先代から莫大な資産と活発な領地を受け継いだ。その後、平民のグローザと再婚し、連れ子のハイネと共に籍に入れた。二人の浪費を許容して資産を食いつぶし、寄親の伯爵家に金を無心した結果、鉱山はほぼ奪われ、無能な三男を料理長にして好き勝手に振舞わせ、とうとう領地まで丸ごと奪われようとしている。

 

「思い返しても、いいところがまるでない」

 

 さらに言えば、血筋的に正当な後継者である私を虐待して、貴族の血筋ですらないハイネを溺愛してきた。さすがのエリーも、ワイリーの実績が何もないことに唖然としている。

 

「これは、どうしようもないクズですね。正直、どうしましょうか……」

「やむを得ん。私を追放させよう」

「えっ、お嬢様を追放?!」

 

 できれば取りたくなかった手ではあるが、ワイリーを立てつつ、鉱山の問題を対処するのが厳しい以上、対立を演出させ、当主権限で鉱山送りにしたということにするしかないだろう。そうすれば、私が屋敷ではなく鉱山にずっといても問題にはならない。

 

 それに――私の行動によって伯爵が文句を言ってきたとしても、追放されている私には無関係。ここまでお膳立てしてやれば、さすがのワイリーでも持ちこたえられるだろう。

 

「私の領地だというのに、少しくらいは踏ん張ってもらうぞ。それじゃあ、まずは対立を演出するため、徹底的に叩き潰すか」

「はい、お嬢様!」

 

 エリーは私の作戦に沿って、ワイリーを徹底的に追い詰め、こき下ろす断罪の資料を書き始めた。

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