語るに落ちる。
彼は、正しくない存在だ。
ーー二階堂ヒロ
まず、私が何を見たかを話すべきだろうとヒロが言い、彼女の話が始まった。
きっかけとなったのは、マーゴによる本の解読だった。
十三人の魔女が集い、儀礼剣に祈りを捧げることで、大魔女が顕現する。その情報が全員に共有された。
大魔女こそが、魔法の力の源。彼女なら自分たちを救う術を知っているかもしれない。
次は当然、儀礼剣を探すこととなる。
地下を探し当てたのは、マーゴの声マネを超音波探査ーーソナー代わりに使った千空のアイデアだった。
手製の聴診器を作り、千空とマーゴは屋敷の建物の床や壁の反響音を聞き、隅々の空間を探していったのである。
地下が見つかってからの展開は早かった。
過去の少女たちの亡骸を悼みながらも、ナノカの幻視の魔法により金庫が暴かれ、儀礼剣は彼女たちの手中に収まった。
「それと同時に、メルル。君の罪が明らかになった」
「あ、うぅ……」
ナノカは、メルルが地下を彷徨う姿も幻視していたのである。
メルルは自分からエマに伝えた通り、この屋敷側の人物ーー魔女だった。
ヒロを含めメルルを糾弾する声は多かったが、エマが必死に庇い、それを千空が取りなすことでメルルの処分は保留となった。
(でも、きっとその時ボクはーー)
メルルを庇い立てしたことで、エマとヒロの関係性は、決定的に別れてしまった。
今のヒロがエマを徹底して冷たくあしらうのも、それが理由だろう。
涙目で申し訳なさそうな視線を送ってくるメルルに、エマは強がって笑った。
これはボクが選択したことだから、と。
それでも、エマの心はずきずきと痛んだ。
「待てよ二階堂。そこまではただ起きたことの羅列じゃねえか。石神がやったことの説明になってねえぞ」
「ああ……すぐにわかるさ」
一気に喋り終えたヒロは一息つき、続きを話し出した。
結論から言うと、大魔女は現れた。
しかし儀式が不完全なためだったのか、彼女の声だけが少女たちに届いた。
大魔女は彼女らの希望や願望を一蹴し、イレギュラーたる千空に一つの問題を出した。
屋敷の周りに広がる壁を壊してみせたら、あなたの言うことを叶えてあげましょう。
ですが、失敗したら、あなたは看守によって殺害されるでしょう。
挑戦してもいい。何もしなくてもいい。
あなたたちは私の力無くして、この屋敷から出ることは不可能なのですから。
「千空……ここまで言えばわかるだろう? 君は壁を壊すのに失敗した。我々の希望を焚べて、より大きな絶望を育ててしまった」
千空は看守に胸を貫かれ、呆気なく殺された。
そこには許容も、慈悲も、容赦もなかった。
最初にその様子を目にしたハンナの心が崩壊し、彼女は魔女化した。
ハンナは魔女化を止めようとしたシェリーを自ら手にかけ、完全な、なれはてになった。
それからは、壊れたドミノ倒しのように、少女たちが次々に死んでいった。
絶望、悲嘆、そんな言葉では生ぬるいような、地獄だったよ。
メルル……君は治癒の力で、私たちの死の連鎖を止めようとしていた。
だが、メルルは死なないのをいいことに、魔女化したアリサに嬲りものにされていた。
死ねない、と言うのも残酷だなと私は思った。
ああ……その時が来るまで、誰も隣人が死ぬことを真剣に考えていなかった。
いや、考えられなかったのさ。
千空、君の甘い考えが皆に伝播していたんだ。
なんとかなる、きっとこの状況でも、救いや助けはあると思い込んでしまっていたんだ。
最後に残されたのは私とレイアだった。
私はレイアに自分の魔法のことを伝え、彼女のレイピアで、私の胸を貫くように依頼した。
どこまで戻れるかはわからない。
だが、こんな結末は必ず回避してみせると、私は涙を流すレイアに誓った。
「レイア、今の君に言っても仕方のないことだけど……君には辛い役割を負わせてしまった。謝罪させてほしい」
「そんな、馬鹿な……」
レイアは大きく目を開き、愕然とした表情を浮かべている。
誰もが、その話を否定しようとした。
ヒロの話はあまりに真に迫っていて、到底受け入れ難いものだったからだ。
「ヒロさん……あなたは、どこまで戻ったんですか?」
いつになく厳しい表情をしたシェリーが、ヒロに問いかける。シェリーはヒロがどこまでその事実を知っていたか、隠そうとしていたか、それを気にしている。
「……先に言っておくが、私に証明する術はない。舞台公演の日の朝ーーつまり、昨日だ」
ああ、それでーーとシェリーは腑に落ちた顔をした。
「レイアさんが楽しみにしていた舞台を壊すわけにはいかない。だから、あなたは今日になって動いた。そうでしょう?」
「……さあ、どうかな」
ヒロは語尾を濁した。
舞台の最中、ヒロが千空を事故に見せかけて殺そうとしたのは、全くの事実だったからだ。
やるせない雰囲気が、裁判所に広がる。
「で、でもさ! ヒロっちの話がホントかどうかなんてわかんないじゃん!? センクーが嫌いすぎて、出まかせを言ってるんじゃねーの?!」
どうしても嘘だと信じたいココの指摘に、ヒロは目を瞑った。
そのとき、長い沈黙を保ってきた千空が、ようやく口を開いた。
「ヒロ。俺はどうやって壁を壊そうとした?」
全員、意外な心持ちになったのは当然だろう。
いま、なぜそれを聞くのか。
ヒロは千空への死刑宣告のように口を開く。
「千空、君は……爆薬を作った。ニトログリセリン……科学の大発明、ダイナマイトの原料だと」
ヒロの言葉を聞いた千空は、諦めたように両手を挙げて、ため息を吐いた。
「わかったよ、ヒロの話は本当だ。細かいところはわからねえが、少なくとも俺が死ぬところまでは事実だ。でなきゃ、ここまで思考が一致するはずがねえ」
慌てたミリアが、上擦った声を上げる。
「せ、千空!? 認めちゃうの?!」
「認めるも何も……この屋敷でできうる、最強の科学の力を、未来の俺は使ってる。ケチのつけようがねえんだ。今の俺でも、ヒロの話を聞くまでは、ニトロで吹っ飛ばすのがベストだと思ってたからな」
千空は唇を噛んで天井を見上げる。
魔法に負けたんだよ、科学が。
それは完全な敗北宣言だった。
誰も何も言わなかった。
重い沈黙があって、次に話し始めれば、再び裏切られて、絶望が蔓延してしまいそうで。
誰か何かを言ってほしいのに、何も口にできない。
「千空……」
ナノカが気遣わしげな目線を千空に送る。
今ここで千空を弁護しなければ、彼はヒロによって断罪される。
だが……何も出てこない。
失意の科学者に、ナノカはどんな言葉をかければいいのかもわからない。
「千空。君がいなくなっても、必ず私たちは脱出する方法を見つけてみせる。だから君はーーここまで、ここまでなんだ」
「……ああ、あとは頼んだぜ、ヒロ」
きつく口を結んだヒロが儀礼剣を片手に、千空へと歩みを進めていく。
瞳を腫らして泣いている少女もいる。
だが、いま千空を処刑しなければ、待っているのは遅かれ早かれ、破滅しかない。
何より千空が、全員が死ぬ事実を看過しないだろう。
千空が頭を垂れると、ヒロが頭上高く剣を振りかざした。
『それはーー違うよ!』
ガラスが割れるように、場の静寂が破られた。
ヒロに真っ向から反抗したのはエマ。
目の端から涙を流して、ヒロを見据えている。
「ヒロちゃんはいつだって正しいんだ。だから、そんなヒロちゃんが千空くんを殺すなんて、間違いに決まってる!」
「何を……言ってるんだ、エマ」
証明のための証明。
それでは何の根拠にもならない。
大河の流れに小石を投げ込んでも、何も変わらないのと同じことだ。
「ヒロちゃんの話には、ボクたちの話、ボクたちがどうしたいかが出てこないんだ。もっと何があったかをしっかり議論して、一番いい方法を探そうよ!」
けれど、小石の一投が川底の大樹を動かすこともある。
エマが言い放った一言は、沈んでいた少女たち、そして千空を前向かせるには十分な強さがあった。
(メルルちゃん、千空くん、今だけでいい! 今だけでいいから、ボクにヒロちゃんと戦う力を貸してーー!)
『正しい話をしよう』
ヒロはエマの決意を切り裂くように、傲然と言い放った。
エマはあの惨劇の様相を間近に見ていないから、甘えたことが言える。
希望はあるのだと、まだ信じている。
それが間違いなのだ。正しくない。
「話を聞いていなかったのかな、私は最悪の選択肢を回避しようとしているんだ。君はそれを邪魔立てしようとしているのに、気付いていないのか」
「ヒロちゃん! おかしいよ! いつも正しいことを選んできたヒロちゃんが、自分から進んで人殺しなんてするはずないよ!」
ヒロの目の前が真っ赤に染まる。
ヒロとエマは、過去の妄執を背負い合った相手だった。
ヒロは敵意を、エマは逃避を。
殺したいほど憎んでいるエマから、大上段から説教されるのは、ヒロにとって屈辱以外の何物でもなかった。
「……そうか」
エマは管理者側のメルルと通じていたことが、死に戻りの記憶でわかっている。
ならばーー彼女はヒロの敵だ。
エマ、私は君を打ち負かすよ。
そして二度と、君が私の目の前に現れることのないよう、全身全霊を持って排除しよう。
それで、私たちの関係は終わりだ。
そして魔法少女たちによる、初めての裁判が始まった。
ぶつかり合うのはエゴとエゴ。
どんな結論が出るのか誰にもわからないまま、裁判はエマが口火を切ってスタートした。
「ヒロちゃんは言ったよね。千空くんがみんなを殺したって……でも、それは間違いなんだ」
「桜羽が主張したいことはわかるけどよ。間違い、じゃねえだろ。石神がきっかけになって、ウチらは全滅したんだ。石神に殺されたんだ」
「違うよ! アリサちゃん。千空くんは看守に殺されていたんだ。千空くんがみんなを殺したわけじゃない。殺したことと、殺したようなもの、それは全然違うことなんだよ」
「あっ……?! それはそう、だな。石神がウチらに手を下したワケじゃねえ。石神だけの責任じゃねえってことか……」
「ヒロちゃん、千空くんはみんなを直接殺したわけじゃない……そうだよね?」
「エマ。私は結果の話をしているんだ。言葉遊びをしていても、千空の行動が起こした悲劇……それが変わるわけじゃないよ」
「で、でも確かに、エマさんの言うことも一理ありますわ……先ほどヒロさんは、魔女化した私がシェリーさんを手にかけたと仰いました。それなら私にも、殺人の罪の一端があるのではありませんか?」
「ハンナ、君はそれでいいのかい。魔女になって友人のシェリーを殺した君は、ずっと涙を流していたよ。最初から千空がいなければ、そうなることもなかったんだ」
「う……確かに、魔女になるのは……絶対、絶対に嫌です……」
『待ってください!』
「ヒロさん。私がハンナさんに殺される時の様子を教えてください」
「……いいだろう。シェリー、ハンナの顔がひび割れ、爪が伸び、異形と化していく中、君はハンナに駆け寄って、彼女のことを抱きしめていた。絶対魔女になんかしません、私がいますと強く励ましていたよ。だが、ハンナには届かなかった。手遅れだったんだ。それでも君は今際の際まで、ハンナのことを諦めなかった……これでいいかな」
「そ、そんな……シェリーさん……!」
「……ありがとうございますヒロさん。千空さんの言った意味がわかりました。私も多分そうするでしょうから、ヒロさんの話はやっぱり真実ですね。嘘であって欲しかったんですが」
「シェリーさん。私は、あなたを殺すような魔女になりたくない……ですが、千空さんを殺すなんてことも考えられません……」
「私は……表面だけ見れば、ヒロさんの言うことが正しいと思います。エマさんとハンナさんの主張は、願望でしかない。困りましたねー」
「し、シェリーちゃん!? ちょっと待ってよ!」
「うーん……でも、千空さんを今殺したからと言って、ここで誰も魔女化しないとは限りませんよね? ヒロさんの言う通り、最悪は避けられるのでしょうが、最も危険性が高いのは、最初に魔女化したハンナさんです。うーん……」
「待てよ橘。そんなの、わかんねえことだろ。ウチは二階堂と石神の言うことなら、二階堂が好きになれねえからな。石神を信じるだろうよ」
「アリサ、たとえ自分が魔女になるかもしれなくてもかい?」
「うるっせえな。ウチが今こうやってられんのは、桜羽とか氷上、石神がウチの癇癪に付き合ってくれたおかげなんだ。正直、この屋敷に来た時はクソみたいだと思ったよ。イライラして、人との距離は近くて、最悪の気分だった。ウチが暴れりゃ、お人よしの奴らなんて全員燃え死んじまうんだ。バカみてえだよ。でも、そのバカたちが、傷つくのも構わずに、ずっと隣にいてくれて、ウチを救ったんだ。死にそうになってるのを黙って見過ごせなんて、できねえだろ」
「アリサさん……」
「やめろやめろ氷上、そんな目でウチを見るんじゃねえ! 借りを作ったままなのは嫌だってだけだ!」
「メルル、君は魔女となったアリサに、生きながら身体を焼かれていたんだ。それを許容するのか?」
「う、うぅ……痛いのや苦しいのは、嫌ですが……大魔女様の声だけでも聞けたのなら、きっと私は納得していたと思います……それに、死ぬような目に遭うことは初めてじゃありませんし……」
「メルルちゃん……キミはそんなに、大魔女さんのことが大事なんだね」
「わ、私は……今この瞬間も、大魔女様がおいでになるのではないかと胸を弾ませているんです……だからその、ヒロさんには、感謝しています……」
「おじさんたちも……千空を殺すのはやっぱり反対だよ、ヒロちゃん」
「私とミリアが、その未来で助からなかったのだとしても、いま千空を殺していい理由にはならないわ……ヒロ」
「ナノカ、君はもっと冷静に大局を見れるものだと思ったけれど、それは私の思い違いだったようだね」
「千空は命の恩人だもの、冷静さだけでは説明できないものもある、そうでしょう?」
「うん……おじさんは、千空が助けてくれなければ、とっくの昔にナノカちゃんに撃たれて、死んじゃってたはずだしね。それに、入れ替わりの魔法を使った私だから、わかるんだ。千空は本当に善人だよ。悪ぶってふざけたりしても、命を粗末にすることなんて絶対にない。失敗したなら、何かの理由の果てにそうなっただけだと思うんだよ」
「ミリアちゃん、ナノカちゃん……!」
「そうよ、桜羽エマ。今の私とミリアは、あなたと同じ考え。千空を死なせるわけにはいかないし、ヒロに殺人の咎を負わせるつもりもない。断言してもいいわ」
「正しくない、ナノカ。それは理想論だよ。思考停止して、迫っている事実から目を背けているに過ぎない」
「だとしてもヒロちゃん。あなたの行動もまた、理想を追っているものだわ。あなたは誰かを犠牲にして、最小限の死者でことを済ませようとしているだけ。いま千空ちゃんを殺したところで、追い詰められれば、きっとあなたは新たな生贄を探すでしょうね。それは正しい行動なのかしら?」
「マーゴ……大魔女の召喚に必要なのは十三人の魔女なんだ。千空はその例外に当たる。本を読んだ君なら、それくらいわかるだろう?!」
「ええそうね♡自分で解読する前に、未来の自分に、答えを教えてもらうことになると思っていなかったけれど……千空は私たちみたいに、魔法が使えないものね。余計なものは残さなくてもいい、あなたの言うこともわかるわ」
「ま、マーゴちゃん。千空くんは確かに魔法が使えないけど、殺すなんて……」
「ねえ、エマちゃん。魔法を使えないのはあなたも同じだものね?」
「あ……!?」
「……くっ!」
「ならヒロちゃん、あなたは魔法が使えないままのエマちゃんをいつか殺すのかしら? 余計なものと切り捨てて、全員を守るためと雄弁を並べて、この子を崖から突き落とすの? ねぇ、どうなのかしら?」
「それはーー論点のすり替えだ! 今はエマの話をしていない。ここは千空の処遇について話す場のはずだ」
「ああそうだったわ♡でもヒロちゃん、これって本質的には同じことよ。何かを助けるために、何かを犠牲にする。あなたの考えはそれに尽きるわ。私はそれに賛成しない。それに従えば、私だっていつか、あなたに切り捨てられちゃうもの」
「マーゴちゃん……!」
「仮の未来で千空ちゃんがうまくいかなかったのなら、きっとそれは私たち全員に責任がある。私たちは、人任せで助かろうとしてはいけないのよ。全員で足掻いて、まず、自分自身を助けなければならない。私はそう思うわ」
「なるほど、マーゴさんの言う通りです!」
「シェリーさん? どうしましたの急に……」
「何か引っ掛かっていたのはそこなんです。私たちは千空さんが爆薬を作るのを、言われるままにしていたんじゃないでしょうか。千空さんの知識はすごいもので、私たちにはわからないことがいっぱいだからと、それを見逃してしまったんです。あの壁が爆薬なんかで壊れるはずがありません。だって私の怪力でも、傷一つつかなかったんですから!」
「……あなた勝手に何してやがりますの?!」
「だって、壁を壊せれば、それが一番早いじゃないですか。千空さんともあろうものが、そんな脳筋の選択肢を選んでしまった……それを信じた私たちがバカだったんですよ!」
「シェリーちゃん、バカって……」
「千空さんは魔法のような科学を使えても、万能の人間ではなかったんです。だから魔法に敗北した……そうやって黙っていじけてるような、白菜男なんです!」
「黙るのはあなたですわよ! このノンデリゴリラ女!」
「シェリー、君はつまり、千空だけに任せた我々にも責任があると言いたいのかい?」
「そうですね! と言うかヒロさんも、失敗しそうだったら止めなきゃダメじゃないですか。一か八かの挑戦だったんですよね。ああ、逆にそれだけ千空さんを、信頼してたってことでしょうか!」
「うるさい! 私だけじゃない。誰も千空を止めなかった! 後付けの批判で何を言おうと……君たちは今もそうだ。決断を先延ばしにして、何か変わると信じていたせいでみんなが死んだ! 繰り返してはいけないんだ!」
「あのさ、ヒロちゃん……」
「ノア。君とアンアンは何も言えないまま殺されてしまったよ。私はそれを見ていることしかできなかった……」
「なんでヒロちゃんが、全部背負い込もうとしてるの?」
[悲劇の英雄気取りか?]
「私が最後まで残ってしまったからだ。人が倒れていく無力感だけを抱いて、ただ逃げ延びてしまったからだ」
「……それは違うと思うな。だって、レイアちゃんも一緒だったんだよ」
「そうだ、ヒロ君! 私を見たまえ!」
「……わざわざ魔法を使わなくても、君のことはよく見えているよ、レイア」
「それは良かった、ヒロ君。君を殺した私に、ヒロ君はなんと言ったんだい?」
「……こんな結末は、必ず回避してみせると」
「だろう? だが、今のヒロ君は、自分のその発言すら信じていないんじゃないかな。千空君を殺したとしよう。しかし、皆からの反対意見が、これほど出てくるとは思っていなかったのではないか? 率直に言えば、私はヒロ君の味方だ。君が決断しにくいことを、後押ししてやりたいと思う。それは信じてほしい」
「信じているよ、レイア。君は最期までそうだったからね」
「だからヒロ君、私から君に言えることは一つだけだ。私たちがここに来たことも、千空君がいることも、みんなが死んでしまうバッドエンドも、『君のせいじゃない』。もちろん君の性格は知っている。私がこんな言い方をしても、納得しないだろう」
[だが、勝手に自分だけの問題に矮小化するなど論外だ。わがはいたちはどうなる]
「のあたちの楽しいことや良かったこと、それを全部、ヒロちゃんだけで抱え込まなくていいんだよ?」
「だが、それでも私はーー」
「つーかさぁ、これっていつまでやんのー? 結論が出ないならさっさとやめにしようよ。誰か殺すなんてダルいだけだし〜」
「ココ……君に言うまいか悩んでいたことがある。君はおそらく、千里眼の魔法で、私に起きた出来事を見られるはずだ」
「はあ……やっぱそーだよねぇ。でもさ、それってどうしても見ないとダメ? 全員がヒロっちのこと、嘘つきだなんて思ってないじゃん。あてぃしだって、こんな話聞かされたら、大変だったなーって思うよ。なら証人なんていらないじゃん」
「事実を知る人が増えれば……それだけ多くの、違う可能性を選べるかもしれない」
「あてぃしは残されたヒロっちの気持ち、ちょっとわかるよ。むしゃくしゃして、あがきたくて、自分が全部悪いんだって思うような気持ち、そーいうの、心当たりあるから。やり直せるならって思うよね。ぜーんぶわかる。わかるんだよ」
「それならココ、君だってもしも違う道を選べるならーー」
「わかることと動けることは違うんだよ!」
「ヒロっちは自分が正しいと思ったことを全部できるから、なんでも自分で決めて、次に向かって進んでけるワケじゃん。あてぃしみたいに、そうじゃない奴はいるんだよ! あてぃし、推しに会うまで絶対に死にたくない、けどセンクーは死んでほしくないし、ヒロっちの言うことも正しいと思う。何が正しくて間違ってるかなんてわからないから、決められない。それにまだ、劇の編集終わってない。みんなで頑張ったんだから、全員に見せたいんだよ。それくらいで生きてる、あてぃしみたいな人間もいるの!」
「ココちゃん……」
「エマっちだって、ソイツが魔女だと知ってたのに、黙ってたのはエマっちなりの理由があるんだろ。それと同じだよ。あてぃしは自分のことで精一杯だから、何が正しいかなんて、わかんないよ……」
全てのバトンは千空に繋がる。
「千空くん、キミはどうなの……? 殺されるのは仕方ないと受け入れてしまうの……?」
「ああ……そう思ってたよ。テメーらと過ごすうちに、魔法をなんとか制御できると思ってたのは確かだ。だが現実にはそんなことはねえ。俺の認識が最初から間違ってたってことだ」
「で、でも千空くんは、魔法をみんなの役に立ててくれたよ。もしそれがなければ、もっと早くボクたちはバラバラになってたんじゃないかな?」
「そうだな。全員の話を聞いて、少し考え直した。わからねえもんに法則を見つけるのが科学だ。どうやらそんな単純なことまで、俺は忘れちまってたらしい」
「じゃあーー」
「ああ、もう一度戦ってやる! 科学と魔法の力で、俺たち全員が助かる道を探し出す! それが俺の役割だ!」
「千空ーー君は二度も敗北するんだぞ。次に上手くいく確証もないはずだ。なのに、なぜそこまで強気になれる? 怖くないのか?」
「バーカ、怖えに決まってんだろ。だがな、爆薬で壁を吹っ飛ばそうとした俺なら、チャンスさえあれば、別の仮説を立ててまたチャレンジするはずだ。俺が俺を信じねえでどうするよ」
「それがーー君たちの結論なのか。本当に全員、揃ってこの男に命を賭けるつもりなのか」
ヒロは苦い顔をしていた。
このままでは失敗は必然。しかし、自分の力では何も変わらなかった。
「まあヒロっちは魔法で戻ってこれるじゃん。失敗してもセーブ&ロードでいけるんじゃね?」
「ココ、そんな簡単な話じゃねえ。ヒロの魔法は消耗が激しすぎる。たぶん、無限じゃねえはずだ。先にヒロの限界が来る」
「私も千空ちゃんの意見に賛成ね。ヒロちゃんは魔女化が進行している……もし次に同じようなことがあれば、彼女は本当の魔女になってしまうかもしれないわ」
「……マーゴ。やはり君には気付かれていたか」
ヒロは自分の両手を全員にかざす。
その爪は長く、猛禽類の鉤爪を思わせる。
ハンナが口を押さえて震えていた。
「ヒロさん……あなた……」
「議論の敗者は私だ。どんな処罰も受け入れよう。ただちに排斥してもらっても構わないよ」
エマ、君のやぶれかぶれに負けるとはね。
ヒロは自嘲気味に笑った。
「ヒロちゃん……」
エマはヒロに何か言葉を伝えようとしたが、何も口に出せなかった。
とにかくも、これで処刑される人物はいない。そのことに全員が胸を撫で下ろそうとしたとき、
『なかなか、面白い見世物でしたよ』
それ は、顕現した。
ヒロが持っていた儀礼剣が輝き、赤い蝶を纏いながら渦を巻いていく。
屋敷が振動し、裁判所ごと、轟音を立てて揺らしていく。
あまりの揺れに少女たちはその場に立っていられず、証言台に掴まった。
『ヒロ。あなたらしくもない。すぐに殺してしまえば良かったのです』