魔法少女ノDr.STONE   作:ゴータロー

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あ……あの人は……

私と、大魔女様を再びめぐり合わせてくれました……

それだけじゃ、ないです……

みんなが生き残ったまま過ごせて……

こんなに楽しくて、穏やかな時間は久しぶりで……

で、でも……感謝はきっと……遠慮するんじゃ、ないでしょうか……

きっと、千空さんにとっては……全部、当たり前のことだったんです……


ーー氷上メルル



#8『サイエンスイコールマジック』下

 

翌朝。

少女たちが様子を見にいくと、千空はまだまだ元気だった。

完徹の脳内物質に支配されて、異常なハイテンションになっているのだろう。

「千空くん、おはよう」

「おう、もうそんな時間か?」

「そんな時間も何も、朝食の時間も過ぎていますのよ。あなたの分も取ってきましたから、手を止めて何か食べてくださいまし!」

実験台はちょっとな、と千空はハンナに言って、汚れの少ない石畳の上に食器を置くよう指示した。

実験台から離れた千空は、スプーンを使ってがつがつと皿の中身を貪り始める。

今となってはもう慣れた、旨味エキス爆盛りのキノコ漬けセットだ。

「それで千空さん、何か進捗はありましたか?」

「まあな。酸を三つ試して、一番効果があったのは硝酸だ。だから昨日エマに頼んで、アルコールを探してもらった。それで作ったのがこれだ」

千空は実験台のビーカーを指差す。

「ナイタール……硝酸とエタノールを混ぜた工業用腐食液って言ってな。迂闊に触るなよ、爆発すっからな」

「また爆発かよ……」

アリサに言われるまでもなく、多種多様な危険物のバーゲンセールのようになった実験台には、誰も手を伸ばそうとはしない。

「多分そろそろだ。そこのシャーレの中に入ってる塀のかけらを見てみろ」

少女たちが目をやると、石ころの表面がパキパキとひび割れ、外側に向けて崩れ去っていくところだった。

「す、すごい……! 壊れちゃったよ!」

「これが……千空、あなたの答えなの?」

千空は食事を食べる手を止めて、大きく唸った。

「濃度を変えていろんな組み合わせを試したが、ナイタールが反応すんのは確かだ。どっちかって言うと塀の材料は、鉱石に近いものなんだろうな。だが、これじゃあダメなんだ」

「どうして……?」

ノアの問いかけに千空は首を振った。

「反応が遅すぎる。それに量も問題だ。まだ答えの一歩目にしか辿り着いてねえんだよ」

「それでも大きな進歩だろう! 爆薬では壊せなかった塀を、一部とはいえ壊せているんだ! 自分を卑下することはない」

千空は喉の奥で低く笑って、レイアに感謝を述べた。

「物質的な問題を解決したのがナイタールなら、魔法的な問題を解決しねえとダメってことか……? 魔法、魔法、魔法か……広げる? 浸透させる? 何から始めるか……」

「千空さん、何はなくとも一度休んでくださいまし。あなた目つきがヤバいですわ。人でも殺しそうな顔になってますわよ」

もともときつい目つきで悪人顔の千空に陰が差すと、泣く子も黙ってしまいそうな表情になる。

千空は大人しくハンナの助言に従うことにした。

「そうだな、昼まで寝てくる。それまではマーゴの手伝いをしててくれ。ノア、テメーは少し耳を貸せ」

ノアは千空の手招きに応じて、彼とひそひそ話を始めた。

できるかなー? と彼女は疑問げだ。

「カラースプレーで練習してみろ。フロの時と勝手は同じはずだ」

「うーん……わかった。やってみるね」

 

相談が済むと、千空は大きな欠伸をしてから少女たちに後ろ手を振って、自らの寝床ーー懲罰房へと歩いていった。

 

 

 

 

マーゴは、大事な話があると言って千空を図書室に呼び出した。

室内には、半分くらいの少女たちが揃っている。

その中にはメルルもいた。

「千空ちゃん、これを見てくれるかしら」

マーゴとヒロが示したのは、机の中央に置かれた、アラビア数字で13と書いてある小さなガラス瓶だった。

「魔女を殺す薬……トレデキムよ。効果は本にも書いてあったわ。地下から、ヒロちゃんが持ち出していたの」

「あの裁判で君を処刑した後、大魔女ーーユキとは知らなかったが、対抗する手段が必要だった……黙っていたのは、すまないと思っているけどね」

千空はヒロの言葉に黙って頷いた。

「ヒロ、在処を知ってたテメーの判断なんだから、俺から何も言う気はねえ。そのトレデキムをどうして、全員に見せびらかすことになったんだ?」

「そ、それは私から……説明します」

メルルがおずおずと前に出た。

彼女が屋敷の巡回で地下を訪れると、金庫の中身が減っているのに気付いた。

儀礼剣、そしてトレデキム。

何者かが持ち出したに違いなく、タイミングとしてはヒロか千空しか考えられない。

「どうしても……これを大魔女様に使われたくはなかったんです……もしお二人なら……可能かもしれないと思って……」

メルルはマーゴにトレデキムの情報を伝え、千空よりも先に、二人でヒロを問いただした。

その結果、隠し持っていたヒロが関与を認めたということだった。

「魔女を殺す薬、か……なあメルル。確認なんだが、テメーやユキは本当に死なねえのか?」

「大魔女様と私は治癒の魔法がありますので、肉体の損壊が意味をなさない、と言うことです。不意打ちされれば分かりませんが、通常の手段で死ぬことはありません……」

それでも、痛覚は止められません。

痛くて苦しいのは本当です、とメルルが続ける。

「私たちに限らず……魔女や、なれはてとなった皆さんも不死となります。ですから、看守さんや、地下で氷漬けになっている方々はまだ……生きています」

「なるほどな……魔女に対する人間の悪意、敵意、その集大成が、このトレデキムってワケだ。殺すためだけの科学、か」

メルルは悲しそうに目を伏せた。

「千空ちゃん、つまり私たちには二つの道ができたと思うの。一つは今のまま、一か八かで壁を破る方法よ。そしてもう一つは……」

千空は、マーゴのその先の言葉を遮った。

「ああ、この薬で魔女たちを殺して、自由の身になるってことだろ。ユキやメルルがそれを簡単に見逃すとは思えねえが、可能性としては存在する……そうだな、マーゴ?」

「……ええ、そうよ。私は、成功の確率だけで言えば、後者の方が高いと思っているわ」

「ま、マーゴさん……!」

ここで決めなければならないのは、トレデキムをどうするかと言うことだった。

この毒薬の扱い次第で、屋敷のパワーバランスは一気に変わってしまう。

千空は即答した。

「却下だ。壁を壊す」

「あなたのそう言うところ好きよ……ただ、活路はあるのかしら」

口を一文字に結んで難しい顔を変えないマーゴと対照的に、千空は口の端を歪めてニヤリと笑った。

「ついに出てきたファンタジー薬品、このトレデキムを使ってみようじゃねえか」

「ちょっ、ちょっと待て千空君! これで一体どうしようと言うんだ?!」

メルルの瞳に、疑問と僅かな敵意が浮かんだのをレイアは見逃さなかった。

千空の返答の内容次第では、今ここが修羅場になってしまう。

「その薬を扱うには相応の責任が伴うはずだ。メルル君が納得できるような……君は彼女を納得させられるのか?」

「レイアの言う通りだ、千空。トレデキムを使えば、魔女だけでなく、魔女になろうとしてゆく、私たちにだって害が及ぶかもしれない」

ヒロとレイアはあくまで慎重だ。

好奇心で持ち出すには、リスクが大きすぎる。

千空は二人の懸念を察して、それを打ち消すように笑った。

 

「まあ落ち着け。考えはある。こいつで殺すんだよ、塀の魔法をな」

「ーーあっ?!」

 

居合わせた少女全員が、千空の企みに気付いた。

塀の魔法は、はるか昔に魔女が行使したもの。それなら、魔女を殺す薬を何らかの方法で作用させればーーその魔法を解除し、塀を破壊できるのではないか。

荒唐無稽な思いつきではあった。

「できる、かもしれません」

しかし、初めにそう言ったのは誰でもないメルルだった。

「誰も試したことはありませんが……人じゃなく魔法そのものにトレデキムを使うだなんて、そんなこと、今まで誰も思いつきもしなかったからです……で、ですが……こんな小さな瓶だけで、足りるものでしょうか……?」

千空はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに、楽しそうに笑った。

 

「そんなの足りるワケがねえ、だから足りるように何とかすんだよ。科学と魔法の全力でな! 唆るぜ、これはーー!!」

 

 

 

 

「さて、千空。見せてもらいましょうか。あなた方が何を用意したかを」

約束の時刻はやってきた。

屋敷の正面にそびえる壁の前で、白衣を着た少年、千空と、白帽を深く被ったユキは堂々と向かい合っていた。

千空の白衣は、ハンナが繕ったまっさらの下ろしたてだ。

当然、千空自身に死装束となる気構えはない。

この場には、十三人の少女たちも全員揃っている。

ココだけが瞼を擦って眠そうにしていた。

「ユキ、確認しておくぜ。テメーとの約束は、テメーが消える前に、この屋敷の周りの塀を全て打ち砕く。これで間違いねえな?」

「ええ、魔女たちが築き上げた、あの巨大な壁……それを壊すことが、あなたが助かる唯一の条件です」

「そして俺が勝てば、俺の脱出に加えて、もう一つ俺の願いを聞く。これも間違いねえか?」

「もちろんです。魔女に二言はありません」

周囲には重い緊張感が漂っていた。

千空は頷く。策は用意した。検証もした。

だが、どんなに周到な準備を重ねても、不慮の事故は起こりうる。

これは、最初にして最後、そして運命をかけた一度きりの勝負なのだ。

 

「オーケーだ。じゃあ、始めるとすっか。人類史上初の、魔法と科学の融合が織りなす超絶解体ショーをな!」

 

千空は少女たちに合図する。

ハンナが精神を集中させると、彼女の体がふわふわと高く浮遊していく。

彼女は全体の観測者だ。スマートフォンで配信を開始して、画面に屋敷の周囲の塀を映し出す。

千空たちの手元でも、その様子が映し出された。

塀の下部には、細いガラスの配管がレールのように敷かれている。屋敷中からガラスをかき集め、ノアが液体操作の魔法で作ったものだ。

アリサが配管の手前で精製水を加熱する。蒸気でガラス配管にかかる圧力を上げて、ナイタールとトレデキムの混合液ーー言うなれば『奇跡の水』を、配管の中へ中へと押し流していくためだ。

最も細かい魔法が要求されるのはノアだ。何人かの魔法で試した結果、やはりトレデキムそのものには、魔法が作用しないことがわかっていた。

ノア一人では、絵を描くように緻密なガラスの配管を作り、圧力から守るイメージを作ることは不可能だっただろう。

それを可能にしたのは千空とヒロが共同で書き上げた、塀と配管図の精巧なスケッチだった。

スマートフォンを持った少女たちが、塀に向かって等間隔に並んでいる。

彼女たちは、配管に奇跡の水が満たされたのを確認すると手を上げ、上空のハンナを通して千空に合図を送る。

一人、二人……やがて全員分の合図が終わる。

塀をめぐる配管に、奇跡の水が満遍なく満たされたのだ。

資材が限られていたことを思えば、これだけでも成果だったと言えるだろう。

「ノア、ここからはテメーの大仕事だ。頼んだぜ」

「うん……がんばる!」

千空は全員を塀の近くから避難させた。

ハンナも、この瞬間だけは地上に降りてくる。上空では、襲い来る衝撃から身を守る術がないからだ。

千空がこの着火方法を説明した時、全員の理解が追いつかなかった。

なぜそれで破裂が起きるのか、答えを見出せるものはいなかった。

実際に千空が試すと、少女たちは驚愕した。

それはまるで、科学が生み出した新しい魔法のようだったから。

ノアが強く念じる。

頭に思い浮かべるのは、押し潰すイメージ。

ガラスの配管が全て、中心に向かって小さくなるようにーー!

 

刹那、蒸気と混和された奇跡の水が、ガラス配管の内で科学の力を超えて高まった圧力により、気泡の多数同時発生ーー超高圧のキャビテーションを起こした。キャビテーションで生じた無数の気泡は即座に崩壊し、断熱圧縮により、瞬時に燃料となる周囲の奇跡の水を沸騰させ、瞬く間に気化させる。

液体が相転移により気体に変じたことで、幾何級数的に膨張した体積が、音速を超えて脆弱なガラス容器を容易く破裂させ、鋭い轟音とともに直上に向かって紅蓮の大爆発を起こした。

爆風により、微細な粒子となった奇跡の水が壁面に付着していく。

屋敷を閉ざしていた塀の魔法が、円環状に解かれていく。

 

 

 

 

「ノア! まだ終わってねえ! 残りのナイタールを壁内に浸透させろ!」

「うう、ん……」

ノアの足元がふらつき、倒れそうになるのを千空が支えた。

他の少女が駆け寄ってくる。

塀はまだ倒れていない。

爆発の衝撃もあるのだろうが、過酷な集中状態で魔法を使ったノアの消耗は特に激しい。

この爆破は第一段階。ここから続きがある。

千空は咄嗟に考える、他の手が必要だ。

誰かーーノアを任せられそうなヤツは。

 

「【諦めるな】!!!」

 

ノアのスマートフォンから、アンアンの声が響いた。その声は、ハンナの配信に乗って、少女たち全員が耳にした。

 

「ノア!! 【お前ならできる】!!」

 

スピーカーから大音声で響き渡ったアンアンの魔法により意識を繋ぎ止めたノアは、力を振り絞って千空が用意したナイタール液を、まるでウォールアートのように、壁に滑らせていく。

それはスケール感さえ別にすれば、広い浴槽を、柿渋で塗装するのと、よく似ていた。その経験が、千空とノアの可能性をこの瞬間まで繋いだのだ。

油膜のように広がったナイタール液が塀を覆い尽くすと、ノアは力尽き、その場にがくりと倒れ込んだ。

慌てて駆け寄ったメルルが、ノアを介抱している。意識はないが、呼吸は落ち着いている。

『千空さん! 塀にヒビが!』

再び上空に飛び上がり、塀の様子を観測していたハンナが叫ぶ。

奇跡の水の爆発に耐えた塀も、トレデキムの魔法を殺す力と、亀裂から壁面に浸透したナイタールの腐食作用で、表面が大きくひび割れていた。

それはもはや巨大な蜘蛛の巣のようになって、塀の全面に広がりつつある。

 

「シェリー!」

 

「はいっ!!」

 

シェリーは力を込めて、地面から十数メートルはあろうかと言う立ち木を引き抜いた。

太々とした木の根を軽々と引きちぎり、大地との接続が絶たれた樹木を、歯を食いしばったシェリーは天高く掲げる。

力押しの方法だけでは、大した傷も付かなかったはずの、俗世と隔世を隔てる魔法の障壁。

しかしそれは今、科学と魔法の合わせ技により、傷だらけになって崩れかけている。

 

「やあああああっ!!!」

 

シェリーは低く沈み込むような体勢を取ると、槍投げのように、怪力の魔法を込めた全力で、巨木を勢いよく投擲した。

投擲。それは、地球上でも人類だけが持つ、腕を振った遠心力を速度に変え、自らより何倍も大きな獣たちを打ち倒してきた原初の手業である。

 

最後は力押し。

 

だが、それこそ原始から続いてきた科学のうち、最も重要で、時を選ばず確実な方法なのだ。

放たれた重さ、加速度の違いーー岩を放った時とは比較にならないほどの衝撃力が、魔法と科学の乗算となって、塀の一点に伝わる。

 

「千空ーー」

 

風を切り、大樹が穿ち、突き刺さった塀の中心から、ばき、ばき、と空間が軋む音が響き出す。

大木に押されて穴の空いた塀は、自重に耐えきれず、がらがらと音を立てて崩れていく。

ヒビが広がり、連鎖的ーーカスケードに隣の石が崩れ、奇跡の水を浴びて脆くなっていた地上部では不安定になった上部の重量を支持しきれず、また崩れーーそれが、永遠の出来事のように繰り返されていく。

 

千空は高く腕を振り上げ、島中に轟く勝鬨を上げた。

シェリーが、ハンナが、メルルが、他の少女たちも歓喜の輪となって、彼を囲んでいく。

 

 

「ーーあなたの、勝ちです」

 

 

今や壁は、崩壊するのを待つばかりだった。

千空はユキとの賭けに勝ったのだ。

 

 

 

 

「千空、約束を果たすとしましょう。あなたの願いを言いなさい」

 

少女少年は屋敷の裁判所に集まっていた。

歓喜が落ち着くと、千空たちは輪の外で静かに微笑んでいるユキに気付いた。

それはまるで、最初から千空が成功することを望んでいたかのようだった。

「俺の願い、そうだな……せっかくだから、とんでもねえくらいの無茶振りをさせてもらってもいいんだよなぁ?」

ユキはたじろいだ。

この男に常識的な話が通じるとは思えない。

「ええ。できる限りの、となりますけれど」

大魔女にでも不可能なことはある。

本当に全知全能の存在なら、そもそも人間に囚われることもなかったのだから。

 

千空は深呼吸した。

 

「ならユキ、俺の願いは一つ。テメーはエマ、ヒロ、メルルに、きっちり自分のしたことを謝って、生きろ。簡単に死のうとすんじゃねえ」

 

ああ? これじゃ二つか、と千空は自嘲した。

 

「どう、して……」

この合理的な少年が、自らの命をかけた願いを取引相手のために使う理由を、ユキは理解ができなかった。

「事情はエマとヒロ、メルルに聞いたんだよ。エマたちとは中学からの仲良しだったんだろ。メルルにとっては、唯一の家族とも言える存在だった。確かに、テメーにはテメーの大事な事情があったんだろうよ。それが気に食わねえってだけだ」

ユキの行動は、長い過程を経て世界に魔法をばら撒いた。

それが呪いとなって、この島で死んだ少女たちや、今ここに集まった面々を巡り合わせた。

「ユキ、俺は願いを言ったぞ。どうだ? 叶えられんのか?」

「……それ、は……」

 

自己犠牲なんて全然カッコよくないよと、あの時のミリアは千空に言った。

この願いの内容は、事前に少女たちにも伝えてある。自分たちの命が助かる可能性を、ここで捨てさせるのだから、彼女たちは千空の願いを知る権利があった。

しかし、驚くほど反対の声は少なかった。

ココすらも、言葉を飲み込んで耐えていた。

反対したのは誰でもない、ヒロだった。

 

ーー千空。君が私たちのことに口を出す筋合いはない。全員が助かるために、一度きりの願いを使うべきだ。正しくない。

 

だから全員を助けるためだ、と千空はヒロに答えた。

千空は最初からユキを敵だと考えていなかった。自分たちが助かるなら、ユキとメルル、看守を含めたなれはてたち、死んだ少女たちも、人らしく扱われて然るべきだ。

そのためには、ユキとメルルが、もうこの私刑から手を引くしかないと考えたのだった。

エマ、メルルはユキと同じように、千空に理由を尋ねた。

 

千空は、自らの過去を話した。

 

ーー俺には、中学からの幼馴染が二人いる。片方はもっと前からの腐れ縁だがな。血は繋がってねえが、宇宙飛行士の親父もいる。友人と家族、結局それに繋ぎ止められて、今ここで生きてる。どこかの誰かさんと俺は、同じ境遇なんだ。放っとけねえだろ、そりゃよ。

 

 

 

 

「千空、わかりました」

ユキは一歩前に進み出て、エマとヒロを呼んだ。

二人は一瞬顔を見合わせて、ユキの前に立つ。

「エマ、そしてヒロ。ごめんなさい。私の勝手に、友人たるあなた方を付き合わせてしまった」

ユキは深々と頭を下げた。

エマとヒロは何も言えず、ユキの謝罪に耳を傾けている。

「ヒロ……これは私からのお願いですが、エマを責めないでください。私がそうなるように仕向けたのです。悪いのは私……だからあなたも、できるならエマと仲直りしてくださいね」

「っ……ユキ……!」

ヒロは悔恨の表情を浮かべた。

ヒロがエマにしてきた行いが、自らを罪悪感の刃で責め苛む。ユキの懺悔によって、彼女も同時に罰を受けていた。

「メルル、おいでなさい」

「は、はい……大魔女様……」

メルルがしずしずとユキの前に歩いていく。

ユキは背伸びをして、メルルの頭を撫でた。

「メルル、あなたも私のわがままに付き合わせてしまいました。本当は知っていました。他の魔女たちを喪っていても、残された家族のあなたと、ただ穏やかに過ごす時間が愛おしかったのだと。私がもっと早く気付くべきだったのです。ごめんなさい、メルル」

「大魔女、様ぁ……」

メルルはユキに縋りつき、大粒の涙をぽろぽろと溢れさせていた。ユキはメルルを優しく抱きしめ続けた。

「千空……ありがとう。私は、最後で道を違えずに済んだようです」

 

ーーあなたを呼んで、本当に良かった。

 

千空はそれを一笑に付した。

「だろうな、それしか考えられねえ」

「ちょっ……ええっ?!! どういうこと!!? おじさんにわかるように説明して??!」

ミリアが驚愕の声を上げる。

「千空……あなた、ユキを知っていたの?!」

「石神、テメー最初から全部気付いてたのか?!」

少女たちは口々に騒ぎ出した。

まあ待て、と千空は手で彼女たちを抑える。

「ユキを知らなかったのはマジだ。屋敷のことも、何も知らねえよ。だが、そもそも管理者側のメルルすら知らない人間を放り込むなんて、普通できることじゃねえだろ。そう、俺がいるのは普通じゃなかったんだよ。それがヒントだ」

そうだろ、ユキ。千空は大魔女に問いかける。

 

「私は……心のどこかで、全てを変えてくれる存在を求めていたのでしょう。千空、私はあなたの名前も顔も知らなかった。予感はありましたが、確信に変わったのはついさっき、あなたの願いを聞いた時です。本当に、あなたは……」

 

面白い、人でしたね。

ユキが初めて、花が綻ぶような笑顔を見せた。

 

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