なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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【風雲、桶狭間編】
第1話 長谷川真昼、戦国時代に飛ばされる


 目覚めたら戦国時代にタイムスリップしていた。

 あはは、ちょっと何言ってるのかわからないよ自分でも。

 でも頬を抓ったら痛いし、目の前の甲冑鎧姿で繰り広げられている合戦も、リアリティ満載で足がガクガク震えちゃうよ。

 

 私の名前は長谷川真昼。16歳のどこにでもいる女子高生。

 勉強中の下、体育の成績下の下の帰宅部所属!

 え? 帰宅部に所属なんてないでしょって? チッチッチ、甘い甘い、今の御時世マンガやアニメの世界観が現実に逆輸入なんてよくある話。

 私は作ったのだ! 仲間を集めて9人所属の神聖なる帰宅部を!

 頬を引き攣らせた先生の、帰宅部だから部室は要らないよね? って言ってきた微笑みスマイルを見たのがついさっきの記憶。

 なのになんでタイムスリップしちゃったのやら?

 

「うお! あそこに太腿を晒しているおなごがおるぞ!」

 

「なんじゃあの短い服装! 瑞々しい肌! ハアハアハアハア」

 

 あ、なんかヤバい。合戦してる人たちの何人か私に気づいてよだれを垂らしている。

 

 わーお、性的に見られている感じ? とにかく逃げるか。

 彼氏なんてできたことない私に欲情するとは、見境のない連中め。

 

 私は後ろを振り向いて猛ダッシュする。

 逃げ足なら負けないよ? こちとら園児の頃から脱走常習犯だったんだからね!

 

 パコンパコンパコンパコン、ヒヒーン!

 

 んな! 馬はズルい! 卑怯だ犯罪だ!

 私はなんか偉そうな人が馬乗する馬に追いつかれ、逃げ道を塞がれてしまった。

 

「其方、何者よ」

 

 鈍く銀色に光る槍向けて聞くって酷くね?

 私、こう見えてもか弱い女子高生なんですけど?

 

「長谷川真昼って言います。……あの~、今って何年何月何日ですか?」

 

「長谷川? 何処の家中の者よ? 答えよ」

 

 うっわ。質問を質問で返しやがったよ、このビヤ樽みたいなおっさん。

 ムカつくなあ。

 おっ、ポケットに丁度いいのがあるぞ?

 向き的にも時間的にも都合がいい。

 

「ていや!」

 

「ぐわっ!」

 

 私が手にしたコンパクトミラーが太陽の光を反射させ、おっさんの眼に直撃したのだ。

 

 今のうちにダッシュ!

 

「ぐぬう……許さぬ! 許さぬぞ小娘! 我が兵全員で慰み者にしてくれるわ!」

 

 発想がヤバすぎでしょ! まあ、八つ裂きにしてくれるわ! よりマシかもだけどさ。

 これも私が可愛いのがいけないんだね。

 ああ、世の中って理不尽……って、んなことされてたまるかあ! もし捕まったら何人いようが全員の噛み千切ってやるからなああああ!

 

 ハアハア、ハアハア。

 くそう、平野なの初期設定が終わってるよ。逃げ場なくて視界に遮る物がないって逃亡者に不利じゃん。

 数分後、私は再び追いつかれたのだった。

 今度は4人の騎乗のおっさんに。

 

 くっ! こうなったら馬を奪って逃亡するのみ!

 気合を入れろ私! 槍も奪え! そんで躊躇わず相手を始末するんだ!

 

「……ガルルルル」

 

 目を逸らすな私。小学校の林間学校で野犬の群れを追い返した時を思い出せ!

 

「……このおなご、本当におなごか?」

「怯えるのが普通だよな?」

「あ、あやかしなんじゃ?」

 

「ええい! ごちゃごちゃ抜かすな! このおなごの態度、くノ一に相違ない! 生け捕りは諦め、四方から槍で貫くのじゃ!」

 

 四方はズルい! 上に飛ぶしかないじゃん!

 飛んだあとの第二撃を躱せるかが勝負の分かれ道になる。

 私は空中回し蹴りすべく気合を入れ、ポイントチェックすべく上空をチラ見すると……。

 

「ハアッ⁉」

 

 そこに、なんと和服姿の頭のでかいおっさんが浮いていたのだ!

 

「今が好機ぞ!」

 

 槍が4本、前後左右から私を貫くべく伸びてくる!

 しまった、初動が遅れた! こうなったら!

 

 私は前方に猛ダッシュしつつ槍を避け、左右から迫りくる槍を激突させ、後方から伸びる槍をしゃがみ込んで躱す。

 そしてジャンプ!

 前方の馬乗のおっさんへ、渾身のドロップキックをかまして馬を奪ったのだった。

 

「グフッ……このおなご……やはり妖魔……」

 

 失敬な。私はただのどこにでもいるただの女子高生だっつーの。

 

「馬! 走って!」

 

 ペチペチと手綱を掴み、テレビ知識の馬術を試してみる。

 ふう、走ってくれて助かったよ。

 後ろを振り返ると、残るおっさんたちの顎を外してガクガク震える姿が見えた。

 

 フフン♪ いい気味だよ。

 ……あれえ? 上空に浮いているおっさんが私に合わせて動いているように見えるんだけどお?

 

「待て、長谷川真昼」

 

 無視だ無視。人間が浮くなんてあり得ない。

 絶対関わっちゃいけない類の存在に違いない。

 撒くぞ撒くぞ。

 

「待って! 本当に待って! お主、この状況を誰が作ったと思ってるんだ!」

 

 ん? つまり元凶ってことか。始末すれば元の世界に戻れるのかな?

 

「降りてきなさい! 話はそれから!」

 

 私は馬を止めて、浮いているおっさんに叫んだ。

 

「なんで殺る気満々なのよ! コホン……わしは正岡(のぼる)。君を戦国時代に呼んだのは訳あってのこと。困ってるのだから助けてくれんかね?」

 

「困ってる? 私も困ってるんだけど? しかも勝手に戦国時代に呼ばれちゃって」

 

 私にだって私の人生がある。

 無論、人助けはできるだけするべく今まで生きてきた。

 中学の時、クラスに乱入したテロリストを1人の犠牲者も出さずに解決したし、信号が赤から変わらず困っているおばあちゃんを見かけて、背負ってジャンプしたこともある。

 まあ……謎の覆面女子、テロリストを制圧⁉ なんてニュースになったり、着地の衝撃でおばあちゃんが気絶しちゃったりしたけど。

 けれど、それは私の生きている世界での話。

 戦国時代に行ってまで、困っている人を助ける義理も義務もない。

 

「実はな……」

 

 おっさんが私の前方に降りてきて、土下座してくる。

 

「ほら、令和ってメジャー流出が続いてるじゃん?」

 

「は?」

 

「それでな、日本のリーグのほうが魅力的にするにはどうすればいいか考えたのだ」

 

「ちょっとちょっと」

 

「そこでわしは、戦国時代から日本に野球を広めたら令和凄いことになるんじゃね? って思ったんじゃ」

 

「あの~?」

 

「わしは昭和平成令和の名監督108人の御霊を宿したボールと共に、戦国時代に降り立った」

 

「108人⁉」

 

「すると……108のボールが流れ星のように飛んでっちゃったのだ! 水滸伝のように!」

 

「水滸伝って何?」

 

「里見八犬伝みたいなもん!」

 

 それも知らないんだけど?

 

 ん? なんか、奇妙な恰好したおなごのあやかしが出たぞーって聞こえたような?

 

 このまま立ち話もなんだし、私たちは追っ手を撒きつつ移動することにした。

 毎年恒例、長谷川家元旦富士山全力疾走登り、今年ついに2位になった実力を思う存分に見せつけてやるとしますか。

 

 ***

 

 私は木曽川とかいうところを馬を飛ばして岩場を利用して突破し、街道にある茶屋を見つけて団子を注文しまくっている。

 川超えの時、なんか後ろでヤクザっぽいのが暴れ川を馬で⁉ って騒いでいたけど、フフン♪ 岩を利用すれば簡単じゃん。

 

 ぷはあ! 美味しいじゃん! あんこしょっぱいけど疲れた身体にお塩は必須品だよね~。ふう、満足満足♪

 

「コホン。それでな、わしは困った。108人の同志たちを探したいが戦国時代は危険極まりない。そこでわしは戦国でも対応できる人材を求め、祈ったのだ。『戦国の世でも図太く生き残れる、令和最強を我が元へ!』と」

 

 財布をひっくり返して、ため息ついてる正岡のおっさんの話の続きが始まった。

 団子、ゴチになりました。

 

「……えっと? 話がついていけないんだけど。私、体育の成績下の下だよ?」

 

「筆記テストで寝てたオチじゃろ」

 

 ぐうの音も出ないよ。ストーカーか? 私をストーカーしてたんか?

 

「打ち揚ぐるボールは高く雲に入りて又落ち来る人の手の中に! 頼んだぞ長谷川真昼。わしの代わりに108つの英霊の宿ったボールを集めるのじゃ!」

 

 無茶振り酷くね? ドラゴ◯ボールだって7つだよ?

 このおっさんの首絞めたほうが早くね?

 

「当然、ドラゴンボー◯のように願いは叶う!」

 

「それを聞いて安心した! 仕方がないなあ。他に令和に戻れる方法見つけたらそっち優先するけど。とりあえず、おっさんボコってみていい?」

 

「よくない! わしを殴ったって変わらないよ! もう君は、108の英霊回収するまで戻れない契約成立しちゃったし!」

 

 は? クーリングオフは? ていうか、無断で契約って拒否権もないんか私。

 

「はーあ。ショーヘイが良かったのに、現役とドラフト候補は駄目って、縛りルール酷すぎ。しかも来たのが女子高生って」

 

「ん? 私を見込んで選ばれたわけじゃないんかい」

 

 私はパキポキと指を鳴らす。

 

「ちょ、ちょっと待って! 君が図太い性格で最強なのはわかったから! ただね、手元の資料だと君は野球経験なしなのがなあ。それに家族構成も、東京に住むごく普通のサラリーマンとパート主婦の間に生まれて、2つ上の姉がいるだけのガチで平凡な……ん?」

 

 おっさんが重なってた2枚目を捲って、表情筋を引き攣らせている。

 なんて書かれてるんだろ?

 

「父親は伝説の傭兵で、母親は魔王を倒した勇者? 姉は特殊急襲部隊のアルバイト中⁉ なんでJKがSATでバイトしてんの⁉ しかもドラフト候補⁉ 意味わからん!」

 

 ああ、なんかそんな話聞いたことあるかも。

 お姉ちゃんがバイトしてるのは金のためだぞ?

 あの人、世界は自分のためにあるって豪語する普通じゃないJKだし。 

 でも、今その話関係なくね?

 

「あっ、一つ問題があるんだけど?」

 

「ななな、なんじゃ? 長谷川真昼」

 

 なんで腰を引かせて逃げようとしてるんだよ。

 

「私、野球の知識皆無なんだけど。ボールってどんなの?」

 

 私がそう呟いた瞬間、一陣の風が私とおっさんの間を吹き抜けていった。

 

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