なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第11話 長谷川真昼、初陣に出る

「殿、籠城策を取るべきかと。敵兵力は我らが10倍……」

 

 そんな意見が蔓延してるけど、信長様はマウンドを下駄でカッカッと抉ってる。

 

「真昼」

 

「は、はい!」

 

 え? 何? ここで私を呼ぶって何用ですか信長様。

 おっかなびっくりする私に、信長様はセンイチをポンと投げた。

 ……そして。

 

「人間50年! 下天の内をくらぶれば夢幻の如くなり! 者共出陣じゃ! 我ら尾張ドラゴンズの力、とくと見せようではないか!」

 

 信長様はそんなことを言って、あっという間に馬上の人となってダッシュするのだった。

 行動力の化身かよ。てか、どこに行ったんだよ。

 

「真昼! 私と一緒に!」

 

「ウキー!」

 

「サンキュー藤吉郎さん! 小一郎! 背中に乗るね!」

 

 パコンパコンと馬が走る。

 他の人たちも決死の表情をして、信長様に追いつけと馬を走らせる。

 

 ……これがリアル戦場に向かう緊張感。

 ヤバい、私、戦力になるのかな? 持ってるのもキャッチャーミットとセンイチだけだし。

 みんなのように剣や槍持ってないし。

 うう~。血飛沫とか首プシャーとか見るの耐えられるかなあ?

 

 ん?

 

「ちょっと待って。なんでみんなの装備、バットとグローブなの⁉」

 

『何を抜かす。戦場に行くのだ。バットとグローブは必需品じゃ!』

 

「ほっ、リアル戦争にならないってことね。良かったあ」

 

 そう安堵の吐息吐いたんだけど、周りの空気、全然違うんですが。

 これ、絶対リアル戦争になる空気じゃん。

 

「ふふふ、剣や槍なんぞ、この金属バットの強度に比べれば赤子同然よ。殴り殺しじゃああああああ!」

 

 あの~、成政さん? 目が血走ってますよ?

 

「このグローブという籠手、センイチ監督の発案で槍の突きにも耐えられます。敵の装備より我らが上!」

 

 あの~、長秀さん? それでいいんですか?

 

「センイチ監督直伝のボール投げ、披露します! 遠投200尺までならいけます!」

 

 あの~、勝三郎さん? 硬球って石じゃないんですよ?

 

「ひと月の期間、信長様と野球の練習に明け暮れた織田家家中の士気は最高潮に達している。さすが信長様、今川の上洛の噂に無策すぎではと懸念していたが、これが狙いであったか」

 

 藤吉郎さん? それは深読みしすぎじゃね?

 

「ああ、なんだ。野球で天下統一するのかと思ってたのに。あはは、戦国はやっぱ戦国なんだね」

 

 私は藤吉郎さんと小一郎の背中を見て嘆息するのだった。

 結局、野球も結束を高めるためのパフォーマンスだったわけか。

 

『信長も、いずれはそうするつもりよ。じゃが、この戦国の世、誰もが信長のように野球チーム結成するわけなかろう。戦争は戦争、野球は野球。とっとと戦国終わらせて、野球リーグ結成しようぞ!』

 

 センイチの気合を入れた声が、私たちの耳に響いていった。

 

 えっと、天下統一するのって、これから何年後だっけ?

 3年後ぐらい?

 

 *** 

 

「儂の監督人生もここで終いよ。センイチ、ドラゴンズを優勝させてやれずすまんな」

 

「オヤジ! くっ……。儂こそ、使ってもらったのに結果出せず、すみませんでした……」

 

「いいかセンイチ。儂はジャイアンツに滅多打ちされた直後に、次もジャイアンツに投げさせてください! って言ってきたお前の熱さが好きだったぞ。その気持ちを忘れるな」

 

「オヤジ……! ええ……きっと、生涯ジャイアンツには負けません! オヤジを追い出し、儂のドラ1指名を翻意したこと、生涯賭けて後悔させたります!」

 

 ***

 

「ちょっと、センイチ。聞いてるの? ねえってば」

 

『……ここは?』

 

 私の声に、センイチがようやく答えてくる。

 ボールなのに眠るんかい。まったくもう、いつの間にかただのボールになっちゃったのかと思って焦ったぞ。

 

「熱田神宮だって。ここで必勝祈願と、遅れている兵の合流待ってるんだって」

 

 最初、信長様って信心深いんだって思ってたけど、兵集めと聞いて抜け目がない性格してるなあって逆に感心するよ。

 目を瞑って両手合わせて、神様に勝利を俺に寄越せって背中にオーラ発している信長様に、みんな感動して涙浮かべてるし。

 んでもって本心が兵が足らぬ。だもんね。藤吉郎さんの解説がなかったら私も騙されていたよ。

 

「鷲津砦陥落! 丸根砦陥落! 佐久間盛重様討ち死に!」

 

 ポツンポツンと雨が降ってくる中、背中に矢が何本も刺さってる兵がやってきて叫んだ。

 

 討ち死……。やっぱり戦争なんだ……これ。

 河原で他校の不良30人ぐらい壊滅させたことあるけど、今川軍は2万5千人でこっちは2千人、未経験な数の差に手が震えてくる。

 これが武者震い。1人で2千人守って、2万5千人相手にできるだろうか? 心音が鳴り止まない。

 

「であるか」

 

 信長様は振り返らない。背中を見つめている私たちの緊張状態も加速する。

 

『信長、殿(しんがり)は儂と小娘に任せよ。お主は義元に集中せえ』

 

 ちょっとセンイチ、勝手に決めないでよ。てか、ボールでしょ? どうやって戦うの? 私1人になるじゃん。

 ん? ……この感じ。嫌な予感がする。人の命を平然と奪う、殺気だ。

 鷲津砦を陥落させた敵兵たちが、熱田神宮に進軍している? 

 

『ふむ……この気配……まさかミズハラ監督……』

 

 センイチが暗い声を出して囁いてきた。

 

「え? まさか英霊ボール? センイチ」

 

「そうじゃ、儂が現役の頃にお世話になった方よ。チームプレーを重視する野球でジャイアンツとフライヤーズを優勝させておる」

 

 センイチの現役時代の監督か。

 めっちゃ年寄りなんだろうな。

 まあ、英霊だから年齢は気にしちゃいけないのかな。

 そもそもボール体だもんね。

 

「申し上げます! 今川の本陣、田楽狭間に進軍中!」

 

 新たに駆けつけた兵が告げると、信長様が振り返った。

 

「皆の者聞けい! これより、今川本陣に突入するぞ! 狙うは義元の首ただ一つ! この雨こそ我が祈りが天に届いた証拠ぞ!」

 

 おおっ! という歓声が沸き上がり、全員が馬に跨ったり走り出していく。

 その中に、追放されたと言っていた又左さんもいた。

 追放されてるんだし、普通、兵数10分の1側に味方しようなんて思わないでしょ。変わった人だな。

 でも、それだけ信長様が大好きってことだよね。

 うん! そう考えたら、気合入ってきた!

 

「藤吉郎さんは田楽狭間に行っていてください! 私とセンイチは迫っている敵と対峙します!」

 

「わかった。死ぬなよ、真昼」

 

「ウキー」

 

「藤吉郎さんも小一郎も!」

 

 馬上に乗るみんなに手を振って、私はセンイチと共に熱田神宮に残った。

 

「さてと……出てきなさい。着いたんでしょ? 今川兵さんたち」

 

『ミズハラ監督! 海道一の弓取りの陣中で何をしておるか知らぬが、織田をまとめた儂と勝負よ!』

 

 ガサガサと周囲の木々が揺れる。

 現れたのは甲冑姿の、織田家じゃない者たち。

 一軍を率いている大男の顔は硬そうなマスクで覆われていて、手には白球が握られている。

 

「たった1人、それもおなごの身で殿(しんがり)を引き受けるとは愚かな。だが、その心意気や良し。どうだ? 降伏するなら命は助けてやる」

 

『おい、泰朝、全軍で信長の背後を襲う手筈ぞ。小娘に構うな……と、言いたいが、まさかのセンイチ持ちか』

 

 しゃがれたお爺さんの声が向こうの白球から聞こえてくる。

 あのボールがミズハラ。そんでもってボールの持ち主は今川義元ではなく、この泰朝って人か。

 

『オヤジ……』

 

『久しぶりじゃのうセンイチ。じゃが、センチメンタルは不要ぞ。儂は此奴と共に宿敵ミハラを倒さねばならんのだからな』

 

 空気が重いのは私が囲まれてるだけじゃない。センイチが気後れしてる⁉

 宿敵ミハラって、ミズハラからズを抜いただけじゃん。

 

『こっちに来いセンイチ。儂の元でミハラやツルオカ、テツハルらを倒して天下統一の手助けをするのじゃ』

 

 白球のボールなのに、手が伸びてくる錯覚が見える。

 幻覚? いや、違う。このボール、センイチよりプレッシャーをかけてくる。

 

「センイチ、裏切らないでよ。ちょっとミズハラってボール! あんたがこっちに来なさいよ! おっさんに使われるより、私に使われなさい!」

 

 ビシッと右手を向けて宣言する。

 こういう勝負は気合負けしたほうが殺られる。

 小6の時に、ヤクザの事務所を突撃した日を思い出せ私。

 

『クックック、威勢のいい小娘よ。じゃが、儂は通算1586勝、対するセンイチは通算1181勝。この重みがそのまま、英霊となった我らの戦闘能力となっておるのだ!』

 

 ぶおおおおおおおお!

 強烈な風が雨と共に私に叩きつけられる!

 くっ! ボールのくせに生意気な!

 

「信長様以外に、野球を受け入れてる人がいたなんてね。でも信長様は織田家家中に広めたよ? でも、あんたは1人だけでやってるみたいね。部下にやらせてもいないし。あっ! 今川義元は野球を理解できなかったんでしょ? 古そうな名前だし、頭固そうだもんね」

 

「小娘……義元様を愚弄するか!」

 

『落ち着け泰朝。小娘の戯言なぞ聞き流せ。……儂はお主に巡り会えてよかったぞ。お主は義元のために力を欲し、儂は勝利を欲す。これこそ、我らが英霊が存在する証明よ』

 

 もしかして英霊ボールたち、野球そっちのけで戦国の世を楽しんでるのか?

 はた迷惑な! 元々この時代の存在じゃないのに、誰かに力を与えて戦わせようとしてるなんて!

 そんなの、許せるわけないじゃん。

 

「1打席勝負といこうじゃないか。俺が勝ったらセンイチとやらを貰う。小娘が勝ったらミズハラを渡そうぞ」

 

 この泰朝って人も強い。

 権六のおっさん並みのパワーがありそうだ。

 

「わかった。どっちが先攻?」

 

「フッ、俺が先にバッターをやろう」

 

 豪雨が降りしきる中、敵兵たちが守備位置につく。

 ふうん、眼光鋭く私を睨んでるけど、私はそんなの気にしないからね。

 

『おい小娘、お前ピッチャーの練習なんて全然しとらんだろ! いいか? 儂ら英霊ボールは現役時代の成績、監督時代の勝利数が、そのまま格となって使用する人間の能力に加算される。今のお前では405勝差は埋められん!』

 

「ごちゃごちゃうっさいよ、センイチ。まあ見てて。たった405勝差ぐらいなんとかするから!」

 

 振り被って第1球、私、投げました。

 

 ガキーン!

 

 ほえ?

 

「ふっ。ボールが止まって見えたぜ」

 

 嘘? センイチ? どこまで飛ばされた? まさかまた見つけるところからスタートしないといけないの?

 

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