なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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【武士より手強すぎ、一向一揆殲滅編】
第135話 長谷川真昼、大湊に出向する


 浅井・朝倉という長年の強敵を滅ぼし、織田家はさぞかし祝勝ムードで盛り上がり、慰安旅行からの温泉でゆっくり骨休め……。

 

 ふう、極楽極楽。

 

 ……なーんて、この戦国ブラック球団のオーナー兼監督が許してくれるはずないんだよね。

 

 岐阜城の大広間で信長様は休む間もなく、広間に巨大な伊勢の地図を広げると、バンッ! と金属バットのグリップエンドを叩きつけた。

 

「休んでる暇はない! 次は弟・彦七郎(信興)の仇、伊勢長島の生臭坊主どもをすり潰す!」

 

 即座にリベンジマッチの宣言である。

 ちなみに岐阜へ帰還し、論功行賞終えた翌日の出来事という、長期ロード終えてホームに戻ったらまた長期ロードに出るという頭おかしい発言なのだ。

 私は飲んでいたお茶を吹き出したよ。

 

「また休みなしぃぃ⁉ ブラック企業を通り越して、もはや労働基準法が吸い込まれるブラックホールだよ!」

 

 私が絶叫すると、信長様はニヤリと笑って私を指差した。

 

「長島は川と海に囲まれた輪中地帯だ。水路を封鎖しなければ勝てん。真昼、お前は海から行け。嘉隆と具豊と合流し、伊勢大湊で船を調達してこい!」

 

「えっ、茶筅丸……じゃなくて具豊君に会えるの?」

 

 北畠家に養子入りした信長様の次男・茶筅丸君。

 彼に会えるなら話は別だ。私は現金なもので、伊勢名物のあんこ餅を大量に買い込んで、ルンルン気分で伊勢へと向かった。

 

 ***

 

 待ち合わせの場所伊勢の港町、大湊で私は目を丸くした。

 

「真昼様、お久しぶりにございます。遠路はるばる大儀でした」

 

 そこに立っていたのは、私の記憶にある気弱で甘えん坊だった茶筅丸君ではなかった。

 背が伸び、声変わりもして、すっかり立派な若武者の顔つきになった北畠家当主の具豊君だったのだ。

 

「うわあああん! すっかりお兄ちゃんになっちゃって……! ちゃんとご飯食べてる? 虐められてない? ほら、あんこ餅食べる⁉」

 

 私は感動して具豊君に抱きつき、お餅を口にねじ込んでいく。

 具豊君は「もがっ」となりながらも、嬉しそうに目尻を下げてくれた。

 

「ええ、義父も義祖父も三瀬の館に籠りっぱなしで、虐められる以前に会っていないのが現状ですが」

 

「何それ? それはそれで逆に心配になるよ」

 

 信長様に無理やり養子縁組されたからって、剣聖のおじいちゃんも大人気ないなあ……。

 

「ガハハ! 姉ちゃん、相変わらず騒がしいな!」

 

 具豊君の隣で豪快に笑ってきたのは、九鬼水軍の頭領・九鬼嘉隆さんだ。

 

「いえい! 久し振り! 元気してた? 嘉隆さん! ボビー!」

 

「応よ! 毎日大漁で大忙しよ!」

『織田家の食卓は我ら九鬼水軍が支えてるネ!』

 

 うんうん、岐阜には干物でしか届かないけど、めっちゃありがたいよ。

 いつもありがと、九鬼水軍。

 

『いや、小娘よ。こいつらが軍事用の安宅船開発してれば、こんな船の徴発しなくて済んだんやないか?』

 

「『ワーッハッハッハッハッ!』」

 

 センイチのツッコみに、嘉隆さんとボビーは大笑いしていくのだった。

 ま、まあ、食卓は大事だし。魚採りには小早舟が一番だもんね。

 

「よし、じゃあ早速、大湊の会合衆の爺さんどもから船を借り上げるぜ!」

 

 意気揚々と会合所へ向かった私たちだったが、そこで待っていたのは、暖簾に腕押しのようなのらりくらりとした商人たちの態度というまさかの展開。

 

「いやあ、織田様のお頼みとあらば是非とも協力したいのですが……あいにく船は全て出払っておりまして……」

「そうそう、最近は海が荒れ模様でしてなぁ……」

「うちのところも、つい先刻出て行ってしまって……」

「いやあ、残念です。船があればお貸ししたんですが……」

 

「……船が全部出払っている、ですか。大湊ほどの港で、小舟一隻、荷船一隻も残っていないと?」

 

「ええ、それはもう。我ら大湊の商人、織田様のお陰で商売繁盛していますから」

 

 交渉しても、適当な理由をつけて船を貸そうとしない。

 でも、おかしいよ。

 長島、水路、船の言葉が出るたびに、商人たちは申し訳なさそうな態度するけど、言葉に淀みが全くない。

 まるで聞かれる質問も、返す答えも、最初から決まっていたみたいに。

 

「ん? あれなんですかそれ? 花押ですか? 紐が真ん中でちょび髭みたいになってますね」

 

 私は商人たちの背後にある、屏風の下に置かれている本に目を向ける。

 本の表紙に、岐阜や清洲で見たことのない墨印が押されているのが見える。

 

 普通なら気づかないし、見えない距離だ。

 でも私を舐めてもらっちゃ困る。視力だけは織田家で誰にも負けないほどよく見えるのだ。

 戦国に来てからスマホ触らなくなって、信長様の剛速球受け取る役目で鍛えられたおかげだね。

 

「いえいえ……あれはただの帳面ですよ……ただの……」

「そろそろお暇頂けませんかね? こちとらも商売がありますので」

 

「どうぞ。船の調達の目処がついたら、僕か嘉隆殿に知らせてください」

 

 具豊君が告げると、商人たちはそそくさと去っていった。

 ちゃっかりと本も回収して。

 

「こりゃあ、不味いなあ」

 

 いつも豪快な嘉隆さんが腕組みして、声を潜めた。

 

「何が……です?」

 

 嫌な予感しつつ、私は訊ねる。

 

「嬢ちゃんが見つけたのは、九条下がり藤ってやつよ」

 

「……本願寺の寺紋、ですね」

 

 嘉隆さんの答えに、具豊君が駄目押しの一言を乗せる。

 

「え……ここって長島じゃなく大湊ですよね? 信長様の楽市楽座で、めっちゃ恩恵得てるって聞いてたんだけど」

 

 それなのに信仰は浄土真宗本願寺なんだ。

 まあ、これは珍しい話でもない。

 織田家家中でも、本願寺は敵だけど浄土真宗は信仰してるって人多いもんね。

 身近な例で言うと、本願寺挙兵で窮地に陥り、浅井・朝倉・比叡山連合軍に殺された三左さん――森可成さんの奥さんの、えいさんも浄土真宗信仰者なのだ。

 

 ……センイチやモリミチによると、幼い頃から特定の球団見まくれば、もう死ぬまでその球団のファンで生きるしかないとかなんとか。

 ちょっと違うかもだけど、私のお母さんとお父さん、出会ったのは15歳ぐらいだったけど、それからずっとお互いのファンみたいな関係だって、パーティーメンバーの人から聞いたことあるもんね。

 だからずっとラブラブなんだと。……たまにお父さんはガクガクしてるけど。

 本当に、信仰ってややこしいなあ。

 

『向こうの事情はわかった。じゃがな、こっちにも事情がある。こんなチンタラした交渉、時間が無駄になるわ! 力ずくで分捕らんかい!』

 

 私が意気消沈してると、センイチが怒声を発し奥座敷のほうから商人たちの「ひっ」という声が聞こえてくるけど、具豊君がスッと手を挙げて制止していく。

 

「駄目です、センイチ殿。大湊は自治都市。ここで暴れて力ずくで奪えば、伊勢全土の民が我らの敵に回ります。……父上も、それは望んでおられません」

 

 冷静な具豊君の判断。……大人になったねぇ。

 

 ムムム、お母さんとお父さんも魔王軍との戦いで一番苦労したのは、こうした地元民の非協力的な態度だったって言ってたっけ。

 具豊君の言う通り、無理やりは悪手でしかない。

 こういうのは地道な活動でしか覆せないのだ。

 

 嘉隆さんの懐から、虹色のボビーボールが飛び出して肩をすくめるように明滅した。

 

『Oh……マジックも種も仕掛けも、ステージがなけりゃ見せられないネ。ソーリー!』

 

 結局、私たちは一隻の船も調達できず、会合所を後にするしかなかった。

 

「……父上の期待に応えられなかった。兄上は美濃で、おごとくは三河で存在感示してるのに……」

 

 港で肩を落とす具豊君。

 ……ちょっと待って? おごとくちゃん、もう三河で何かやってるの?

 早くね? ま、まあ、おごとくちゃんだからと今はスルーしよ。

 それより具豊君のフォローしなきゃ。

 

 と思ってると、私が慰めようとするより早く嘉隆さんが豪快に笑い飛ばし、具豊君の背中をバンッ! と叩いた。

 

「痛っ……」

 

「ガハハ! 若君、こればっかりはしょうがねえ! 銭と信仰で狂った連中に理屈は通じねえさ。……なら、俺の九鬼水軍を、誰の船も借りなくていいくらい投資すればいいさ!」

 

 嘉隆さんは伊勢湾を指差し、不敵に笑った。

 

「商人は利で動く。武士は誇りで動く。漁師は潮の流れで動く。門徒は信念で動く。これを今回の教訓にしなされ、若君!」

 

 嘉隆さんの豪快さに具豊君の目に光が戻る。

 

「そうだよ! 失敗は誰にでもあるんだからクヨクヨしないで」

 

 私も具豊君の背中をパチンと叩く。

 

「ありがとうございます。少し気分が楽になりました……ともあれ、父に報告しなければなりません」

 

 具豊君は前を向いて、大湊の海を眺めた。

 

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