なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第136話 長谷川真昼、またもや長島で大敗する

 私たちが海で足止めを食らっている間、陸路では織田軍の主力部隊が快進撃を続けていた。

 

「行けえええ! 美濃残党どもに織田の野球を叩き込め!」

 

 西から進軍した羽柴秀吉さん、丹羽長秀さん、佐久間信盛さん、蜂屋頼隆さんの機動力部隊は、日根野弘就ら美濃を追われた怨念で戦う残党軍を見事な連携プレーで蹴散らし、西別所城などの諸城を次々と陥落させた。

 北からは柴田勝家さんと滝川一益さんが、圧倒的なパワーと忍者戦法で坂井城を粉砕した。

 

「おのれ織田め! だが、本陣の長島には届かんぞ!」

 

 敵将の下間頼旦が息巻く中、本多正信と『ノビタ』は冷笑していた。

 

「ご安心を、頼旦殿。水路が封鎖されない限り、この輪中地帯の長島は絶対に落ちません。陸で暴れさせ、疲労がピークに達した撤退時に狩る。……それがデータが導き出した必勝法です」

 

 本多正信は、伊勢湾の地図を前に薄く笑っていた。

 地図上の大湊に黒い碁石が置かれている。

 

『織田が長島を攻めるなら、水を押さえに来る。なら先に港を潰す。簡単な話だ』

 

 英霊ボール『ノビタ』が、つまらなそうに明滅する。

 

「簡単なことほど、防がれると痛いものよ。銭は本願寺が出す。信心は坊主が煽る。商人は損を恐れ、民は地獄を恐れる。これで大湊は動かない」

 

「正信殿、一つ訂正を。我ら坊官は煽ってなどいない。御仏の真実を民に伝え、この世を御仏の教えで救うのみ。信長は城を焼く。我らは往生を説く。民がどちらへ集まるか、正信殿にもお分かりであろう」

 

 頼旦の真剣な表情に、正信は「失礼」と頭を下げた。

 

(御仏? この馬鹿は信じているのか? 信じるのは一向門徒の信仰心のみ。この力を利用し、天下に覇を唱えないでどうする?)

 

 そう内心で嘲りながら。

 

「さあ、もっと深入りしろ、信長。地獄を見せてやる。貴様が死ねば、家康はさぞ慌てるだろうよ。その隙に、今度こそ三河を焦土にしてやるわ」

 

『復讐心に燃える人間は周りが見えなくなる。これで織田家は終わる』

 

「ああ、これからは本願寺の時代よ!」

 

 そんな正信とノビタの目論見を、織田軍の天才軍師が見逃すはずがない。

 陸戦の勝利報告と、私たちからの船調達失敗の報告を同時に受けた竹中半兵衛君は、即座に信長様へ進言した。

 

「信長様。船がない以上、これ以上の進軍は泥沼です。北伊勢の支城を平定したことで、今回は引き分けとし、直ちに撤退すべきです」

 

 信長様は弟の仇がいる長島を前にギリリと金属バットを握りしめ、血が滲むほど唇を噛んだ。

 しかし情よりも合理性を優先し、苦渋の決断を下す。

 

「……全軍、岐阜へ撤退せよ」

 

 信長様の指示に、織田軍は来た道を速攻で駆け抜けていく。

 

 織田軍撤退の報告を聞き、正信は舌打ちした。

 

「ちっ。このまま進軍してくれば織田を壊滅できたものを」

 

『相変わらずムカつくぐらい決断が早い男だね、信長って』

 

「あいつ、本当に人か? 勝利し続ける戦場。仇敵本願寺の牙城を崩す好機。弟の復讐戦。この条件で撤退を選ぶうつけがどこにいる?」

 

『人だよ。だから綻びはある』

 

「ああ、そうだな。そこを突く! 徹底的にな!」

 

『僕たちも負けっぱなしだと癪に障る。悪く思うなよ、織田信長』

 

 正信による、織田軍殲滅策が発動する。

 もっと深く潜り込んでくれていれば、実際に信長の首を手中にできたものを、と思いながら。

 

「……空気が変わった。皆のもの! 気を抜くな!」 

 

 叫んだのは織田軍しんがりを志願した将、林新次郎。

 織田家最古参であり、尾張衆筆頭林秀貞の息子だ。

 

 彼が叫んだ瞬間、草むらから鍬を槍に替えた門徒たちが、念仏を低く唱えながら立ち上がった。

 さらに高山からは本願寺に雇われた伊賀・甲賀の忍び働きの者たちが、雨あられと弓矢や鉄砲を撃ち下ろしていく。

 

「ひいいっ! 伏兵だ!」

「退路が塞がれた!」

 

 しんがり軍が通る多度の山裾へ差しかかる道は、左に山、右に川を抱いた細道。

 そして足元には背丈ほどもある深い草が茂っているゆえに細い道で身動きが取れず、みるみるしんがりの陣形が崩壊していく。

 山腹から火縄の閃きが走るたびに、鉛玉が草むらごと兵を薙いでいった。

 

「このままでは全滅する!」

 

 新次郎は血走った目で、迫りくる一揆勢を睨みつけ、叫ぶ。

 

「新参の若造どもや、美濃衆ばかりに良い顔はさせられん! 我ら尾張古参の、林家の意地を見せてくれるわ!」

 

 新次郎は傷だらけの金属バットを固く握りしめ、決死の殿軍として一揆勢の前に立ちはだかった。

 押し寄せる一揆勢と忍者の攻撃を一身に受け止め、彼のバットが何度も空を切り、敵を薙ぎ払う。

 だが、やがて無数の矢が降り、石が転がり、葦の陰から槍が突き出た。

 

「うおおおおおっ!」

 

 数十人を道連れにし、全身に矢を浴びた林新次郎は、立ったまま、壮絶な討死を遂げた。

 

 ***

 

 新次郎さんの尊い犠牲により、織田軍本隊はなんとか難所を抜け、無事に退却を完了した。

 岐阜城へと帰還した私たちは、言葉もなく泥と雨にまみれていた。

 

 大広間で信長様は、しんがり部隊の全滅報告を無言で聞き終える。

 秀貞さんが嗚咽声を出すのを我慢している姿に、私は責任を感じざるを得ない。

 

 新次郎さん……私が大湊で船の調達に失敗したせいで……。

  

「……高くついたな。引き分けどころか、大敗だ」

 

 信長様から立ち昇るオーラは、いつもの熱い怒りを超え、絶対零度の冷徹な闇へと変わっていた。

 

「久助(一益)!」

 

「はっ!」

 

「岡部又右衛門と八郎(佐治信方)を連れ、大湊で嘉隆と合流せよ。そして商人どもにこう言え『資材を言い値で買う』とな」

 

「承知したでござる」

 

 一益さんは返事をすると、スッと消えた。

 

 又右衛門さんと、お犬ちゃんの旦那さんの佐治水軍の頭領の信方さん。

 ということは……大湊に大規模な造船を始めるという意味に他ならない。

 

「失敗の責任……私も一緒に!」

 

 そう言った私へ、半兵衛君が冷ややかに制してくる。

 

「具豊様と嘉隆殿で駄目だった以上、船の調達は誰でも不可能でしょう。……今回は平たく言えば準備不足。僕も詰めが甘かった。大湊がここまで非協力なのを想定していませんでした」

 

 半兵衛君の瞳も、次のリベンジに全神経を注ぐと告げているかのように怖い。

 半兵衛君って、宗教全く信じてなさそうだもんね。

 てか駄目だったところに私の名前入れないのなんでかな?

 

「真昼は行く必要ない。これは準備期間よ。次の戦へのな」

 

 信長様? 目が、私を準備期間じゃない戦場に放り込む気満々に見えるんですけど?

 

「……この借りは、新次郎の無念は……必ず長島を根絶やしにして返す。一匹残らずだ」 

 

 信長様の鬼の決意を横で聞きながら、私もまた、泥に塗れた拳を強く握りしめるのだった。

 

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