なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第14話 長谷川真昼、不倫旅行疑惑の夜を過ごす

 尾張の街道は賑やかだ。

 商人たちが行き交い、活気に溢れている。

 信長様の経済政策が上手く行っている証拠だよね。

 よくわかんないけど景気がいいのは良いことだ。

 

「ねえ、光秀さん。これから行く浅井家ってどんなとこなんですか?」

 

 馬上の私から隣を並走する長身イケメン、明智十兵衛光秀さんに質問を投げる。

 この人、インテリっぽいし解説役にはぴったりだよ。

 

「そうですね。浅井家は北近江を治める大名ですが、少々事情が複雑でして」

 

 光秀さんは涼しい顔で説明を始める。

 

「元々、浅井家は南近江の六角家に臣従していたのです。しかし最近の戦で六角家を破り、独立を果たしました」

 

「へえ、下克上ってやつですか」

 

「ええ。ですが、ただ勝っただけではありません。六角家寄りの姿勢を崩さなかった当主・久政殿を家臣団が強引に隠居させ、嫡男の賢政殿を新当主に据えたのです。さらに六角家の娘との婚約も破棄したとか」

 

 うわあ、ドロドロしてる。

 お父さんを無理やり隠居させて、婚約破棄までしちゃうなんて。

 

「だからこそ浅井家も味方が欲しいのです。何せ美濃の斎藤家とも仲が悪いですからね。孤立無援になりかねないのです」

 

「ほへえ。家臣たちが無理やり殿様を隠居って、織田家じゃ考えられないですね。信長様絶対主義だし」

 

「あら? 信長お兄様だって、昔は逆らう人たちが多かったんですよ? 今も多いですけど」

 

 私の背中にしがみついているお市ちゃんが、口を挟んでくる。

 

「それをちぎっては投げ、ちぎっては投げて、今の権力があるんです。ねえ、帰蝶お姉様?」

 

 ちぎっては投げてって、相撲取りかよ。

 

「……十兵衛様。その浅井家の六角家離反、まさかとは思いますが……工作しましたね?」

 

 反対側を走る藤吉郎さんが、光秀さんに鋭い視線を向ける。

 

「フフフ、賢政は婚約成就したあかつきには信長様の一字を貰い受け、長政と名乗りたいとまで申してますね」

 

 光秀さんは否定も肯定もせず、ただ爽やかに笑ったのだった。

 こわっ! この笑顔の裏で今まで何やってたの、この人! 名前変えるのも絶対この人が提案したんでしょ!

 

「承禎や義治が定頼並みの器量だったら騙されるかよ。しょせん、その程度ってことよ」

 

 ん? 聞き覚えのある声が後ろから聞こえたぞ?

 

「ほえ⁉ なんで信長様もいるんですか⁉」

 

 私は素っ頓狂な声を上げていた。

 振り向くと、平然と私たちについてくる信長様の姿があったからだ。

 

「当たり前だ。織田家の命運を賭けた妹の見合いぞ? 兄である俺が立ち会わずしてどうする」

 

 さも当然のように言う信長様。

 いやいや、トップが城を空けてどうすんのさ。

 お市ちゃん? 小声で「ちっ。私と真昼が駆け落ちするのを読んだわね、お兄様」って呟いてるけど、そんなこと考えてたの⁉

 

「って! 光秀さんに工作させたのは信長様かい!」

 

「フッフッフ。さあ、なんのことだか? 私にはわかりません」

 

「クックック。俺も知らんぞ」

 

 私の渾身のツッコみに、光秀さんと信長様は邪悪な笑みで笑うのでした。

 絶対性格の悪さで意気投合してるでしょ、この2人。

 

「信長様、国内の守りは……」

 

 藤吉郎さんが心配そうに尋ねる。

 

「案ずるな。権六や秀貞に任せてある。竹千代や信清の対処ぐらいできるだろ」

 

「左様ですか……ならばこれ以上は申しませぬ」

 

 納得して微笑む藤吉郎さんを見て、私の脳内フィルターがピーンと反応した。

 はは~ん、分かったぞ。

 これ、妹の見合いにかこつけた旅行デートだ!

 権六さんたちに留守番させて面倒な政務を全部押し付けて、開放的な旅先で藤吉郎さん(帰蝶様)とイチャイチャする気満々の不倫旅行じゃん!

 

 私は心の中で、清洲城にいる吉乃さんに土下座した。

 

(ごめん吉乃さん! 私の力じゃこの暴走魔王は止められないよ! 見ちゃいけないものを見ないように耳栓とアイマスクして寝なきゃ!)

 

 ***

 

 しばらく街道を進むと、道端に見覚えのある影があった。

 槍を担いだ大柄な男と小さな女の子だ。

 

「藤吉郎様~!」

 

「おっと、ねね」

 

 ねねちゃんが藤吉郎さんに飛びつき、抱っこされる。

 横でニヤリと笑うのは前田又左衛門利家……通称、犬千代さんだ。

 

「又左さん、もしかして?」

 

「おう! 旅の警護がてら武功を立てて、帰参の許しを得るのに丁度いい機会だからな!」

 

 悪びれず親指をピシッと立てる又左さん。

 

「ウキー?」

 

「な~に言ってんの、小一郎。他国に行ける機会なんて滅多にないでしょ? 犬千代を尾行して信長様たちの動きを掴んだのよ」

 

 ねねちゃん? さらりと言ってるけど、とんでもないこと口走ってね?

 つーか、ねねちゃん、小一郎と喋れるんかい。

 

「護衛が増えるのはいいですね。私の役割を押し付け……分担できます」

 

 光秀さん? 今本音漏れただろ。

 

「天下の公道、誰がどう歩いていようが俺の知らぬことよ」

 

 そんな信長様の言葉に、又左さんとねねちゃんは笑顔でついてくるのだった。 

 

 うんうん、賑やかになるのは良いことだよ。

 

 あっ! でも又左さんも男じゃん。私を襲おうとか思ってたらどうしよう。

 てか、この人、藤吉郎さんが帰蝶様って知ってるのかな? ねねちゃんと随分仲がいいし、藤吉郎さんにタメ口だよね。

 そんなことを私が思ってる横で、光秀さんが又左さんに口を開く。

 

「子供が産まれたそうですね。おめでとうございます」

 

「ああ、ありがとうよ。だから早く帰参しておまつとお幸のとこに戻らねえと。ああ、俺の最愛の妹にして妻のおまつ! 待っててくれ! 光秀さん、頼むから口添えしてくれよ!」

 

 おお! 又左さんが光秀さんに泣きついている。

 奥さんと子供がいるんだ。

 ちょっとよくわからない単語が出てきたけど、愛妻家みたいだから問題ないか。

 

 そう、安堵してたらまた一難。

 

「……あなた、お姉様にベタベタ触りすぎ」

 

 藤吉郎さんに抱きつくねねちゃんを見て、お市ちゃんの眉が吊り上がる。

 こっちはロリっ娘対決勃発かい?

 

「はあ? 藤吉郎様は私の婚約者だもん! もうお市様のお姉様じゃありませーん。はあ~、クンカクンカ」

 

「なっ! 負けません! はあ~、クンカクンカ」

 

「えっ! お市ちゃん⁉」

 

 なんで私の匂い嗅ぐの⁉

 

「……フッ、やるわね。お市様」

 

「あなたこそ、ねね」

 

 シュバッ!

 

 2人は無言で、ビシッと右腕をクロスさせたのだった。

 なんで⁉ どゆこと⁉ 友情成立したの⁉

 

 藤吉郎さんの肩に乗っている小一郎が、「ウキー」と鳴いて楽しんでいる。

 この猿、絶対分かってて楽しんでるだろ。

 

 ***

 

 日が暮れて、私たちは宿場に到着した。

 さて、問題の部屋割りタイムだ。

 

「俺と藤吉郎は奥の間だ」

 

 信長様が即決する。

 

「十兵衛と犬千代は手前の部屋。真昼と市、ねねは隣の部屋を使え」

 

 やっぱそうなるよねー! 夫婦水入らずだよねー!

 てか、なんで私もロリっ娘部屋なの? 保護者枠?

 

「ウキー?」

 

「小一郎殿は前田殿の布団と一緒ですね」

 

「おいこら光秀さん! なんで俺なんだよ。いいけどよ」

 

 いいのかい。又左さん。

 

 女子部屋で布団を並べる私、お市ちゃん、ねねちゃん。

 お市ちゃんとねねちゃんは太腿か尻かで議論してるけど、私の耳に入らない。

 だって壁一枚向こうに信長様と帰蝶様がいるんだぞ。

 

「……聞こえないよね?」

 

「何が?」

 

「いや、その……大人の会話とか……」

 

 私の言葉に、お市ちゃんとねねちゃんもハッとした顔をする。

 私たちは無言で壁に張り付き、聞き耳を立てた。

 

(ドキドキ……もし「ああん」とか聞こえてきたらどうしよう! 子供たちの教育に悪いよ!)

 

 シーン……。

 静かだ。時折、衣擦れの音がするような、しないような。

 それが余計に想像を掻き立てる。

 ああもう! 緊張で全く眠れないよ!

 

 ***

 

 いつの間にかうたた寝していた私は、強引に揺り起こされた。

 

「起きろ真昼。出発だ」

 

 目を開けると薄暗い行灯の光に照らされた信長様の顔。

 

「ほえ⁉ まさか、夜這い⁉」

 

 私は反射的に布団をガードする。

 

「信長様! 帰蝶様だけじゃ飽き足らず、妹の前で私とねねちゃんまで毒牙にかける気ですか! 鬼畜! ハーレム野郎!」

 

「んなわけあるか、うつけが!」

 

 信長様にデコピンされた。痛っ。

 

「国境を越えるんだ。夜陰に乗じるこの時間が好機よ」

 

 信長様はニヤリと不敵に笑う。

 

「準備はできている。行くぞ」

 

「は、はい……」

 

 なんだ、誤解だったか。

 私は安堵して立ち上がる。

 でも、お市ちゃんとねねちゃん起こしながら、信長様の後ろに控えている藤吉郎さんの顔を見て思考が停止した。

 

 ほんのり頬が赤く、艶っぽい表情をしてる?

 目元も潤んでいて、なんというか……色気がダダ漏れしている。

 

(……あ、これ絶対事後じゃん!)

 

 私は確信したけど、見なかったことにしようと決めた。

 私はそっと視線を逸らし、何も気づいていないフリをして部屋を出る準備を始めたのだった。

 

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