なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第141話 長谷川真昼、赤備軍団の恐ろしさを知る

 信長様、私、信忠君、竹中半兵衛君、明智光秀さん、池田恒興さん、蜂屋頼隆さん、河尻秀隆さんという主力級を揃えた織田軍が東美濃の山道をひた走る。

 

 信長様は手にした金属バットをギリリと握りしめ、北東の空を睨みつけていた。

 

「勝頼……。親父の遺産を受け継いだだけの若造か、それとも親父超えの化け物か。この目で見極めてやる」

 

 私は馬を並走させながら、隣の半兵衛君に小声でこぼした。

 

「ねえ半兵衛君、武田と全面衝突になったら、勝三君が真っ先に突っ込んでいって死にそうなんだけど。私が首根っこ掴んでおいた方がいいかな?」

 

 半兵衛君は指先でモリミチボールをクルクルと回しながら、涼しい顔で答えた。

 

「真昼殿、心配は無用ですよ。というか、杞憂どころか無意味です」

 

「無意味?」

 

「ええ。今回は試合成立には至らないでしょうから。遠山一族については申し訳ありませんが」

 

 半兵衛君の言葉の意味が分からず首を傾げた直後だった。

 前方から、伝令が血相を変えて駆け込んできたのだ。

 

「申し上げます! 明知城、すでに落城! 城下焼かれ、討死・逃散の者数知れず!」

 

「……はあ⁉」

 

 私は思わず手綱を引き絞った。

 

「ええええええ⁉ うちら、結構なスピードで駆けつけたよ⁉ まだ出陣して数日しか経ってないのに!」

 

 光秀さんが冷や汗を流しながら、戦況を分析する。

 

「山県昌景の赤備え……凄まじい機動力です。こちらの援軍が到着する前に、城を陥落させてしまったということか……」

 

「赤備えは戦場で未だ不敗。戦場を血の海にする最強の部隊。明知に生き残りがいるかどうか……」

 

 恒興さんも絶句し、東の空を見上げた。

 

 明知城を落とすのが早すぎる。これでは救援のしようがない。

 信長様は落城の報を聞き、怒るどころか不敵な笑みを浮かべて舌打ちをした。

 

「チッ。山県昌景め、さすがは武田四天王の筆頭。信玄が死んでも赤備えの牙は健在か。……見事な先制パンチだ」

 

 ただ、伝令の報告はそれだけではなかった。

 

「さらにご報告! 武田軍、明知城を落とした後、信濃へ全軍撤退を開始いたしました!」

 

「なんで逃げるんじゃあああ! 待てやコラァァァ! 俺のバットのサビになれやあああ!」

 

 勝三君が目を血走らせて馬を走らせようとしたが、左右から鶴千代君と熊千代君が物理的に彼を馬から引きずり下ろし、地面に押さえつけた。

 

「放せええ! 暴れ足りんぞおお!」

「命令違反は切腹ですよ、長可殿」

「力学的に考えて、貴方1人で赤備えに勝てる確率はゼロです」

 

 暴れる狂犬を完璧に封じ込める側近たち。

 信長様が半兵衛君を横目で見ると、半兵衛君は優雅に扇子を開いた。

 

「……越後の上杉謙信殿が、北信濃の川中島へ向けて出陣したという情報を、信濃の国境に流しておきました」

 

「えっ、上杉謙信が動いたの?」

 

「いえ、動いていませんよ。ただの噂です」

 

 半兵衛君がニッコリと笑う。

 

「ですが勝頼は、偉大な父の跡を継いだばかり。重臣たちは勝頼の力量、資質を見極めようとしています」

 

「全国民注目の二世スターだもんね」

 

「ええ。ですので勝頼は汚点を極度に恐れています。東美濃の織田と、北信濃の上杉の二面作戦を是としないでしょう。ゆえに、遠山一族を滅ぼすという最低限の戦果を挙げた時点で、引かざるを得ないのです」

 

 ……このドS軍師、いつの間にそんなオレオレ詐欺を仕込んでいたんだ。

 完全に敵の心理をコントロールしている。

 

「でもさ、それなら明知の人たちを救うこともできたんじゃ……?」

 

「真昼殿、僕は神ではありません。武田が動いた情報が入った時点からでしか動けませんよ」

 

 そりゃそうだけど……さらっと言われると本当にわかんなかったのかと思っちゃうよ。

 すると私と半兵衛君の間に浮かぶ英霊ボールどもが、しみじみと語り出す。

 

『予告先発のない時代のようじゃな。相手がどう来るか予想するの、騙しあいしてて楽しかったのを思い出すわい』

 

『モリミチさんは言う側だけじゃからわからんだろうが、球場に来てから告げられるのも心臓に悪いんじゃぞ! まあ、予告先発なんちゅう神の視点を観客全員に与えるのがつまらんのは同意じゃ』

 

 モリミチ? センイチ? 相変わらず突然変なプロ野球雑学喋りだすなっての。

 

 ***

 

 北信濃より急使。海津城周辺で上杉方の動きありとの報。

 続いて別路の間者も同様の報を持ち帰る。

 昌景はなお進撃を主張するが、勝頼は信濃を空にする危うさを見た。

 

 昌景が勝頼に問う。

 

「御館様、万が一謙信が動いたとしても、昌信に任せておけばよろしいかと。あいつなら全滅しようが謙信の侵攻を阻むでしょう。……このまま我らで美濃を蹂躙するべきかと」

 

『そうだぜ! 昌信のところにはアオタさんもいる。任せて命を散らさせるのも大将の役目だぜ!』

 

 昌景の英霊ボール『アクタロウ』も悪態をつく。

 それに対し、勝頼は威風堂々として返していく。

 

「虚報かもしれない? いいじゃないか。信長と雌雄を決する機会など、これからいつでも作れる。万全を期すことこそ王道のやり方よ!」

 

『そうとも勝頼! 武田は王者でなくちゃいけない。下手な小細工なんて不要!』

 

 勝頼の肩で響く英霊ボール『ワカダイショウ』の明るい声に、勝頼は満面の笑みを浮かべた。

 

「いいか! 俺は味方を見捨てる真似は決してせぬ! 降る者には礼を尽くす! 逆らう者には容赦せぬ! これが武田勝頼の行動指針と心得よ!」

 

 竹中半兵衛の虚報は成功した。

 でも結果として、勝頼の宣言に武田軍全体の士気が爆発的に上がったのだった。

 

 ***

 

「これが……戦の空気」

 

 馬上で、信忠君がゴクリと唾を飲む。

 

「若君、今はこの空気を存分に吸いなされ」

 

 横で利治君が、そっと囁いた。

 

 直接の激突は回避された。

 けれど秋空の下、遠く離れた東美濃の山々の向こうで、2人の将は互いの存在を強烈に意識していた。

 

(織田信長……親父のシゲオを奪った第六天魔王。今回は引くが、いずれ必ずその首とシゲオを取り返す!)

 

 撤退する勝頼の放つ悲憤のオーラ。

 

(武田勝頼。親父の影に怯える若造かと思えば、引き際を弁えた狼か。……いずれ必ず、雌雄を決する!)

 

 見えない敵を見据える信長様の覇気。

 

「勝三郎(恒興)と与四朗(秀隆)、遠山一族の生き残りを探して保護せよ!」

 

「「承知しました!」」

 

 信長様の下知に、恒興さんと秀隆さん部隊が明知城の方角へと走っていく。

 

 こうして戦国最強の武田軍と織田軍の本格的な激突は、少し先の未来へと持ち越されたのだった。

 

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