なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第143話 長谷川真昼、高天神に出陣する

 武田信玄という強大すぎる巨星が堕ち、覆っていた重苦しい暗雲が晴れた東海道。

 三方ヶ原の戦いで武田に粉砕され、浜松城で恐怖のあまりガタガタと震えていた徳川家康は、信玄の死によって息を吹き返して調子に乗っていた。

 

「ハッハッハ! 信玄さえおらんければ、武田なんぞ恐るるに足らず! 今こそ反撃の時じゃ!」

 

 家康は失地を回復すべく、遠江や三河の城を次々と攻撃し始めた。

 懐の英霊ボール『ノムサン』に自慢しながら。

 

「見たかノムサン! これぞ三河武士の底力よ! 旭殿ぉぉぉ! 儂のホームラン、見ていてくだされー!」

 

 家康の旭ラブをガソリンにした猛攻により、徳川軍は長篠城、天方城、飯田城を次々と奪還。

 連勝街道を突き進み、完全に調子に乗った家康は、軍配をブンと振り回した。

 

「よし! このまま遠江の武田勢を一掃じゃ! 次は犬居城の天野景貫を攻めるぞ!」

 

 家康のノリノリの宣言に、ノムサンが青白い光を放って待ったをかけた。

 

『アホか家康! 連勝して気が緩んどるわ! 犬居城は天然の難所。連戦で選手の疲労もピークじゃ。今は兵を休ませて、次のカードに備えるべきや!』

 

「なにを言うかノムサン! 旭殿への愛の大型連勝をここで止めるわけにはいかんのじゃ! 小五郎(忠次)、与七郎(数正)、行けぇぇぇ!」

 

 ノムサンの警告をガン無視し、連戦連勝に気が大きくなった家康さんは犬居城へ突撃。

 

「あのクソ狸! 舐めおって! ……ん? やけに正面の兵が多いな。伏兵? いや、これは徳川の全軍に違いない!」

 

 犬居城主・天野景貫は徳川軍の守備配置を見て、一計を思いつく。

 

「ハッハッハ。天野もこんなもんよ。平八郎(忠勝)、小平太(康政)、このまま追撃せい!」

 

 緒戦の激突で、天野軍は総崩れで敗走。

 家康率いる徳川軍は怒涛の追撃をする。

 ――も。

 

「今ぞ! 襲いかかれ!」

 

 敗走していた天野軍が振り返ると、徳川軍の四方八方から兵が湧いて出てきたのだ。

 

「尾根道から敵兵!」

「矢が……気田川からか⁉ ぐわっ!」

「殿! 犬居からも敵兵が迫ってきてまする! 」

 

「しまった! 退け退けぇぇぇぇ!」

 

 家康は瞬時に大敗を自覚。

 辛くも浜松に逃げ帰ることに成功した。

 

「……はあ。また負けた。しかも大敗」

 

『だから言わんこっちゃない! 勝利してる時こそ気を引き締めなあかんのや!』

 

「ひぃぃぃっ! す、すまぬノムサン! お願いだから、旭殿には負け戦は内緒にしてくだされぇぇぇ!」

 

 ***

 

 家康の所領奪還の動きに、甲斐の武田軍は決して眠ってなどいない。

 若き虎、武田勝頼が家中をまとめ、英雄の萌芽を内外に示していた。

 

「徳川家康、か。俺の土地を荒らすとは命がいらないと見える。全軍、出陣するぞ」

 

「御館様。ですが信玄公の遺言は、3年動くべきではない。ですぞ」

 

 一門衆の重鎮・穴山信君が恭しく確認する。

 

「いや、ここで動かなければ武田は舐められる。父の築いた風林火山の看板が泣く。人が死に、土地を失う。そうなれば3年後は滅亡よ」

  

 勝頼の発言に、爽やかで熱い覇気を放つ英霊ボール『ワカダイショウ』が黄金色に輝く。

 

『その意気だ勝頼! 重圧を跳ね除け、若さのフルスイングを見せるんだ! 行こう! メイク・レジェンドのスタートだ!』

 

 ワカダイショウのフレッシュな気迫と、勝頼という若き正統派の英雄誕生。

 

「行くぞ。皆の者。御館様に、我らが御館様の夢を叶えるに足る存在と見せつける時」

 

 山県昌景の発言に、武田の赤備えはかつてないほどの鋭さで進軍を開始した。

 標的に定めたのは、遠江の最重要拠点・高天神城。

 ここは遠江と隣国駿河の交通を握る心臓部分。

 かつて武田信玄が2万5000の兵を率いて猛攻するも、僅か2000の兵で凌ぎきった、攻めにくく守りやすい山城。

 

 高天神を制する者は遠江を制す。

 

 と言われる難攻不落の城を、勝頼率いる武田軍は怒涛の勢いで猛攻した。

 城主・小笠原信興は死に物狂いで抵抗するが、以前に信玄に攻められた時と違う恐怖を肌で感じる。

 

「信玄は老獪にして油断も隙もなかったが、風林火山の四文字の信念を貫いた御仁。だが……勝頼から感じるのは……」

 

 ゴクリ、と信興は唾を飲む。

 

「……純粋な正義という名の狂気。……家康様はまだか!」

 

 そして、浜松にて高天神城からの悲痛な救援要請を受けた家康は――

 

「あかん! 勝頼の勢いがエグい! このまま高天神が落ちれば、次は間違いなく浜松城が危ない!」

 

 顔面蒼白になって、岐阜の信長へ特急のSOS使者を飛ばしたのだった。

 

 ***

 

 ところ変わって、こちらは岐阜城の大広間。

 私は縁側に座り、暖かいお茶をすすりながら、取り寄せたばかりの極上のお茶菓子を口に運んでいた。

 

「はぁ〜、美味しい。これが私の至福の時間。どうか邪魔が入りませんように」

 

 なんて思っていると、案の定邪魔が入ってくる。

 

「真昼殿、家康殿からの急報です。『信長様ァァァ、助けてくだされぇぇぇ! このままでは旭殿と一緒に討ち死にしてしまいまするぅぅぅぅ!』……だそうです。急ぎ支度を」

 

 半兵衛君がやって来て、冷酷無慈悲な一言を告げてきたのだ。

 私はお茶菓子を喉に詰まらせたよ。

 

「ムグッ! ムグムグムグウ!」

 

「真昼殿、お早くお願いします」

 

 半兵衛君が扇子をパチンと閉じる。

 彼の手元で、モリミチが静かに回転しながら光を放つ。

 

『やれやれ、後継者の育成はじっくり時間をかけてやるべきじゃが、武田家は実戦重視のようじゃの』

 

 センイチも嘆息気味に呟く。

 

『ただ勝頼の側にワカダイショウがおる。奴は大卒1年目から結果を出した。……侮るでないぞ、小娘』 

 

 後継者の育成ねえ。そういえば、お父さんも戦場で新兵たちの教育に苦労したとか言ってたっけ。

 慢心して突進して死ぬ割合が多いのが新兵だとか。

 ……まんま勝三君のことじゃね? これ。

 

 急いで準備して城門へ向かうと、信長様が不敵な笑みを浮かべて全軍に檄を飛ばす。

 

「勝頼め、随分と忙しなく動くじゃねえか。若き牙、この俺自らがへし折ってやる。者共! 遅れるなよ!」

 

 信長様の言葉を合図にしたかのように、勝三君が目を血走らせて叫んできた。

 

「待っておりましたァァァ! 武田の赤備え、全員俺の『人間無骨』バットで血祭りにあげてやるでござるゥゥゥ! ぐおおおおお!」

 

「勝三君、ステイ! 狂犬モードは現地まで取っておいて!」

 

 私は慌てて勝三君の首根っこを掴んでなだめた。

 この子、放っておいたら味方まで殴り飛ばしかねない。

 ここは戦場ベテランの私がきちんと教育しなければ。

 

 さらに元服してすっかり大人の顔つきになった信忠君が、凛々しい顔で進み出た。

 

「父上。この信忠、先鋒の将として必ずや武田を退けてみせます!」

 

「ウキー!」

 

 秀長も進み出て気合を入れる。

 秀吉さんが近江にいるのに、なんで秀長がここにいるのかというと、三河にいる家康さんの息子の信康君に、おごとくちゃんを護衛して送り届ける任務を終えた帰り道だからだ。

 おごとくちゃんと一緒に三河へ行くことになった侍女の旭ちゃんは秀長の実妹、というのも彼が責任者となった理由である。

 

「おうよ! 相手がルーキーなら、俺たち母衣衆が格の違いを教えてやるぜ!」

「信長様の剛速球の前に、若大将とやらを俺の肩で刺してみせよう!」

 

 又左さんと成政さんも気合十分。

 

 信長様が、金属バットのグリップエンドで地面をガンッと叩いた。

 

「よし! 遠江へ向かい、家康を助け、勝頼の勢いをへし折るぞ! プレイボールだ!」

 

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