なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第145話 長谷川真昼、長島の泥沼に再び挑む

 尾張国の津島。

 ここはかつて、私が球場飯として味噌焼き猪肉を売り込み、商人たちから軍資金をドカンと巻き上げた……もとい、投資してもらった活気ある港町だ。

 でも、今日の津島はいつもと空気が違っていた。

 

 どんよりとした雲の下、織田軍が集結し、むせ返るような異様な殺気を放っているのだ。

 京を守護する光秀さんと、越前の暴動が近江に流れないようにしている秀吉さん以外、織田軍全軍集結だ。

 

 上座には、いつになく無言で愛用の金属バットを布でキュッキュと磨き続ける信長様の姿。

 今回の戦いは長島一向一揆に殺された信長様の弟の信興様や、氏家直元さん、林新次郎さんたちの弔い合戦。

 だからこそ織田信忠君をはじめ、信包様、秀成様、信広様といった織田一族の面々が、目を血走らせてズラリと並んでいる。

 

「長島は、木曽川や長良川が複雑に絡み合う輪中地帯。南は海に面した天然の要害です」

 

 重苦しい空気の中、半兵衛君が扇子で地図を示しながら冷徹な声で解説を始めた。

 

「かつては本願寺の念仏修行の場でしたが、今の願証寺は腐敗しきっています。無知ゆえに朝夕の栄華に溺れ、罪人を引き入れては武力で近隣の所領を奪う無法地帯。……もはや宗教施設ではなく、ルールを無視した悪質極まりない、ただの反社勢力です。この世から永久追放すべきかと」

 

 半兵衛君の言葉に、私の懐でセンイチが真っ赤に発光して飛び出した。

 

『その通りじゃ! 神仏の名を借りて金と暴力で好き勝手するとは、野球の神に対する冒涜じゃ! ルール無視の試合などただの殺し合い! 徹底的にやるぞ!』

 

 センイチの怒声が響く中、信長様がゆっくりと立ち上がった。

 バットを肩に担ぎ、見下ろす瞳は冷徹無慈悲だ。

 

「……今回で決める。本願寺共は越前に苦慮して長島まで手が回らん今が好機よ。奴らの降伏は認めん……プレイボールだ」

 

「「「おおおおおおっ!」」」

 

 地鳴りのような勝鬨が上がり、第三次伊勢長島攻めが開始された。

 

 それを遠くから見つめる人と白球の影が一つずつ。

 

「長島は終わったな。越前出向命令、ありがたい。なければ無断で脱出するところでした」

 

 本多正信が、眼鏡をクイッとして呟く。

 

『正信、越前に行くのか?』

 

 彼の英霊ボール『ノビタ』が確認のために聞く。

 

「まさか。適当な言い訳して時を過ごしますよ。死地に行く気は毛頭ない」

 

 1人と1球は、そのまま闇に消えた。

 

 ***

 

 織田軍の東から進軍するのは、初陣を済ませてすっかり逞しくなった織田信忠君の部隊。

 先陣を切るのは、狂犬・森勝三長可。

 

「オラァァァ! 退けぇぇ! 信長様から拝領した人間無骨バットでミンチにしてやるでござるゥゥ!」

 

 勝三君は泥の川をものともせず、単騎で一揆勢の防作に突っ込み、特注の金属バットで次々と敵を粉砕していく。

 

「勝三! 突出するな、フォーメーションを崩すな!」

 

 信忠君が冷静に手綱を引き、恒興さんがいぶし銀のカバーリングで長可君の死角をフォローする。

 若手とベテランの完璧な連携だ。

 

 西からは権六おじさま、佐久間信盛さん、稲葉良通さんらが進軍。

 

「前回は泥に足を取られたが、今回は力で押し潰すのみ!」

 

 ベテラン勢の豪快なフルスイングが、一揆側の端城を次々と破壊していく。

 

 信長様の本隊からは、半兵衛君、秀長、長秀さん、守就さん、成政さん、又左さんらが中央から進軍。

 弟の敵討ちをしたかった小六さんだけど、彼も秀吉さんの下で越前監視中。そんな小六さんの無念を胸に秘め、近江に帰らず岐阜に残っていた秀長もやる気満々。

 

「ウキーーーーーー!」

 

 本隊の1番バッターとして猛攻撃の口火を切っていく。

 

 半兵衛君の完璧な采配により、小木江村、前ヶ洲、海老江島、加路戸といった一揆勢の拠点が、次々と占領。

 圧倒的大差で、織田軍の勝利が続いていた――んだけど。

 

「……で、なんで私はまた水の上なのよぉぉぉ!」

 

 私は南の海上から長島を封鎖する水軍部隊の船の上で、潮風に吹かれながら絶叫していた。

 九鬼嘉隆さんと岡部又右衛門さんが作り上げた、100隻の巨大な安宅船団に私はいるのだ。

 

「ガハハ、姉ちゃん、どうよ、この船団」

 

「おめでとう、嘉隆さん。これで立派な海賊武将だね!」

 

 私が祝福すると、嘉隆さんは「ありがとうよ」と言いつつ、豪快に笑う。

 

「ガハハ。俺は海賊と名乗ったことないのに、俺のことを織田軍の海賊武将って広めてるの姉ちゃんだろ?」

 

「え⁉ 嫌なの?」

 

「賊じゃないからな。俺のことは漁師武将と広めてくれ!」

 

『Hey嘉隆! 漁師はカッコ悪いね。マリーン武将はどうね?』

 

 嘉隆さんとボビーの、信長様に負けず劣らずの命名センスゼロに、私は海賊のほうがカッコよくね? と思いつつ船外に目を向けていく。

 

「うわぁ、海から見ると長島って完全に孤島だね。逃げ場ゼロじゃん……」

 

 私がドン引きして長島を見つめていると、隣に立つ若武者が爽やかに声をかけてきた。

 

「真昼様、ご安心を。今度こそ私の成長した姿をお見せします」

 

 こちらもすっかり立派な少年に成長した、北畠具豊君だ。

 伊勢でたくましく育ったねえ! お姉ちゃんは嬉しいよ!

 

「真昼殿のことは妻からよく聞いております。信長様の憂いは、我ら水軍が海へ沈めましょう」

 

 さらに合流した知多水軍を率いる佐治信方さんが、潮風の似合う爽やか海の男スマイルでウィンクしてきた。

 信方さんは信長様の妹、お犬ちゃんの旦那様だ。

 

(お犬ちゃん、こんな爽やかイケメンと結婚してたの⁉ 織田家一の勝ち組じゃん! いいなぁ……私の王子様はどこにいるのさ!)

 

 私が内心でこっそり嫉妬している横で、前回の長島戦で煮え湯を飲まされた九鬼嘉隆さんと滝川一益さんが、殺気立っていた。

 

「ヘッ、漁師と忍者を怒らせた代償、高くつくぜ!」

「うむ、3度目の正直でござる。この戦、いや、もはや戦と呼ぶ代物ではござらん」

 

 ボビーボールの攪乱戦術と一益さんの火器攻撃が合わさり、長島から逃げ出そうとする一揆勢の小舟を容赦なく沈めていく。

 海上の逃げ道も完全に封鎖された。

 

 ***

 

 摂津国・石山本願寺。

 

「長島の下間頼旦から、救援依頼が届いてます」

 

 苦渋の表情で顕如に告げるのは、本願寺きっての切れ者・下間仲孝。

 彼はわかっている。顕如が長島を見捨てることを。

 手に持つ英霊ボール『アキヒロ』が悲しげに明滅する。

 

「仲孝、この世に御仏はいない。……いないんだ」

 

 顕如は、ただそれだけを呟いた。

 

「……は。承知しております。御仏がいて、この世があるならば、私は御仏を憎悪します」

 

「わかっている坊官がどれだけいるというのだ。俺たちが御仏を説くのは、民の苦しみに救いを与えたい一心だと。仲孝と頼廉ぐらいだ。頼旦はまるで理解していない。奴は長島で何をした? 願証寺の欲望を増長させただけではないか!」

 

 顕如の声は怒りと憎悪に震え、握り締めていた数珠が粉々に砕け散っていく。

 怒りを抑え込むように息を吐き、続ける。

 

「……教如も駄目だ。あいつは御仏を信じすぎている」

 

 教如――顕如の息子であり、次期法主とされている人物。

 それを顕如は、苛立ちとともに吐き捨てた。

 

『グラウンドに銭を落とすのは神でも御仏でもない。人よ。そんな道理もわからん宗教家なんざ、宗教名乗るな』

 

 顕如の英霊ボール『ツルオカ』も憎悪の声を灯らせる。

 

 仲孝は目を瞑り、脳裏に信長と半兵衛の顔を浮かべた。

 顕如の思考と近いのは、宿敵である織田家の2人、だろうと。

 

「アキヒロ、そろそろ講和の予祝をするべきですな」

 

『そうですね。……でも仲孝さん。下手な講和は門徒の悪意が全土に拡大するだけ。色紙を出すタイミングを間違えてはいけません』

 

「ですね。教如様のこともございます。水面下で話を進めるしかありますまい」

 

 本願寺側、織田側、双方にこれからも多くの血が流れるのを予感しながら、仲孝は阿弥陀如来像を見つめた。

 

 ***

 

 長島本陣に追い詰められた本願寺の将・下間頼旦は、血走った目で西の空――石山本願寺のある大坂方面を睨みつけていた。

 

「なぜだ……! なぜ石山からの援軍が来ない! 本多正信とノビタの情報支援があれば、織田軍の渡河など防げたはずなのに!」

 

 そこへ泥だらけの伝令が駆け込み、絶望的な報告をもたらした。

 

「申し上げます! 顕如様と頼廉様は越前で暴走した14万の門徒を鎮めるため、主力を越前へ回しました! さらに雑賀衆の孫一殿も『割に合わん』と参戦を拒否! ……我らへの援軍は、来ません!」

 

「……な、なんだと?」

 

 頼旦の手から、パラリと数珠が滑り落ちた。

 本願寺上層部にとって、もはや統制の取れない願証寺と長島は、織田軍の体力を削るためのトカゲのしっぽにされたのだと悟る。

 

「……仏の慈悲など、初めからなかったというわけか」

 

 仏に見捨てられ、味方に見捨てられた。

 ならば、もはや守るべき教えなど何もない。

 

「かくなる上は……極楽浄土など知らん。一匹でも多くの織田の犬どもを、この泥沼の地獄へ引きずり込んでやる」

 

 頼旦の瞳が、狂気に満ちた。

 

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