なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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【信長VS勝頼、新旧英雄激突編】
第147話 長谷川真昼、リーゼントの貴公子と出会う


 長島を殲滅させた私たち織田軍。

 東で武田勝頼が不穏な動きを見せている中、信長様はわずかな手勢を率いて京の都へと上洛を果たしていた。

 表向きは朝廷へのご機嫌伺いだそうだけど、どうやら他にも目的を兼ねているらしい。

 

「やったー! 今度こそ戦争じゃない小旅行ですね。今日は洛中で食べ歩きツアーしよっと」

 

 滞在先の相国寺で、私はるんるん気分で外出の準備を整えていた。

 最近凄惨な戦争ばっかだったし、お土産どっさり買って、お市ちゃんや茶々ちゃんたちにプレゼントしよっと。

 お犬ちゃんも信方さんの葬儀で気丈にしてたけど、裏でこっそり泣いてたからね。

 美味しい物食べて、元気にしなきゃ。

 ……が、そんな私の襟首を無情にも信長様がガシッと掴んでくる。

 

「待て真昼。これから面白い客人が来る。お前も同席しろ」

 

「ええ〜⁉ もしかして私、お茶出し係ですか? 京なら舞妓さんに接待させたほうがよくない?」

 

「うるさい。これは重要な面会だ」

 

 信長様に釘を刺され、私は渋々、客間の隅に正座して待機することになった。

 一体どんな大物武将が来るのやら……。北条の使者? それとも毛利の外交僧? 私はこっそりと身構えた。

 

 やがて、廊下を歩く静かな足音が近づき、襖がスッと開かれる。

 

「……えっ?」

 

 現れた客人の姿を見て、私は思わず目を丸くした。

 服装は公家のように上品で色白で華奢な優男な、いかにも「育ちの良いお坊ちゃん」といった風情だ。

 ……でも頭だけが、なぜか立派なツッパリ不良漫画のような巨大なリーゼントにセットされていたのだ。

 

(えっ、何これ? 清楚系お坊ちゃんが無理してヤンキーデビューしました感が半端ないんだけど⁉ 全然似合ってないよ! ……っていうか、なんでリーゼント? 誰、この人?)

 

 私が盛大な内心ツッコミを入れていると、彼の見事なリーゼントの隙間から、ひょこっと白い球体が顔を出した。

 

『ぬう⁉ そのリーゼントのシルエット……バンチョウやないか!』

 

 私の懐からセンイチが真っ赤に発光して飛び出し、驚愕の声を上げた。

 

「バンチョウ? 番長ってこと?」

 

『おうよ! ドラフト6位という下位指名ながら、入団発表に堂々とリーゼント姿で現れた反骨心の塊! 監督から「髪を切るか、罰金を払うか」と問われ、迷わず罰金を払って自らのスタイルを貫いた男じゃ! だがその実、弱小時代のベイスターズをエースとして支え続け、誰よりもチームとファンを愛した、繊細で優しい漢の中の漢なんじゃ!』

 

 センイチの熱い解説に、リーゼントから飛び出したボールがペコリとお辞儀をするように明滅した。

 

『センイチさん。お久しぶりです。お元気そうで何よりです。常に闘志あふれるセンイチさんは、僕の憧れですから。ヨロシク!』

 

『おう、そうかそうか。……って、ならなんで儂が迷ったら前へ出ろ! って直々にタイガースへ誘った時、迷ったら動かないと残留しおったんじゃああ! ドンデンもがっかりしとったぞ!』

 

 センイチが唐突に頭から煙を噴き始めた。

 

『それは……強いタイガースを倒すことこそ、漢の道だと思ったからです。ヨロシク!』

 

「……感動の再会かと思ったら、また遺恨でバチバチ火花散らしてるよ! プロ野球界、根に持つおじさん多すぎでしょ!」

 

 英霊ボールたちの濃すぎる昔話の口論をよそに、リーゼントの男が信長様の前に進み出て、深々と平伏した。

 

「お初にお目にかかります。僕の名前は今川氏真。本日はお招きいただき、ありがとうございます。以後よろしくお願いします。……じゃなかった、夜露死苦!」

 

「えっ……今川氏真って、あの桶狭間で信長様に討たれた、今川義元の息子さん⁉」

 

 私は驚いて立ち上がりかけ、反射的に傍らの金属バットに手を伸ばした。

 信長様は父の仇。ていうか義元討ち死にの遠因は私! もしかして復讐しに来たの⁉

 

 すると氏真さんは穏やかな笑顔を浮かべて、こう宣言してきた。

 

「はい。義元の嫡子です。今後、家康様の下で信長様を支えることを誓います。夜露死苦!」

 

「ちょっと待って!」

 

 私はたまらず口を挟んだ。

 

「信長様はお父さんの仇だし、家康さんはお父さんの元部下で、今川を裏切った人ですよね? なんでそんな穏やかな顔で言えるんですか? 朝比奈泰朝のような旧臣が、各地でまだ抵抗を続けているというのに」

 

 私の鋭い質問に、氏真さんはホロリと涙をこぼし、自らの情けない過去を語り始めた。

 

「抵抗時代の僕は偉大な父の跡を継ぐプレッシャーに耐えきれず、家臣たちが命懸けで戦ってくれているのに、重圧に耐えかねて逃げてしまったのです」

 

(ええ……。それは人としてダメでしょ……)

 

 私の冷ややかな内心をよそに、氏真さんの語りは続く。

 

「武田と北条に攻められ、掛川城で抵抗を続けましたが力及ばず開城。北条家に身を寄せ、幽閉同然の日々の中でメソメソ泣いていた時に、このバンチョウ殿に出会ったのです」

 

『ナメられちゃいけねえ! 男なら見た目から変えろ! 気合を形にするんじゃあああ! ヨロシク!』

 

「その熱い言葉に感化され、僕は一念発起してこの髪型にしました。夜露死苦!」

 

(リーゼントの謎が解けた。……でも、髪型変えればそれでいいの? という根本的な疑問は残るんだけど)

 

 つっぱることがこの人の勲章にされてない?

 

「……ですが北条家には、『テツハル』殿をはじめとする強力な英霊ボールが牛耳っており、反骨心の強いバンチョウ殿がいずれ粛清されると危惧したのです。バンチョウ殿を守るため、僕は命がけで北条を脱出し、家康様の元へ亡命しました。信長様、どうかこのバンチョウ殿を、最強の英霊が揃う織田家の元で穏やかに暮らさせてください! 夜露死苦!」

 

 氏真さんは涙ながらに、バンチョウボールを信長様に献上した。

 

『氏真ァ! お前ってやつは……!』

『バンチョウ! よかったなあ、おい!』

 

 バンチョウとセンイチが空中でぶつかり合い、男泣きして共鳴している。

 

(なんかいい話風に着地しようとしてるけど、髪型変えただけで中身は蹴鞠好きのヘタレのままだよね? ……いや、命がけで脱出はしたか。でも夜露死苦って語尾、無理して言ってるよね? うーん)

 

 氏真さんの判断を保留している私をよそに、一部始終を見ていた信長様は、フッと口角を上げて裁定を下した。

 

「であるか。氏真よ、貴様の覚悟、そしてバンチョウ、ありがたく貰い受けよう」

 

「ハハッ! ありがたき幸せ……! じゃなかった、夜露死苦!」

 

 安堵して涙を拭う氏真さんに対し、信長様が立ち上がり、愛用の金属バットを構えてニヤリと笑った。

 

「ところで氏真よ。蹴鞠で現実逃避していたと言ったな。……俺と真昼を相手に、その足腰を活かして一打席勝負せぬか?」

 

 氏真さんは一瞬驚いたように目を丸くしたが、やがて憑き物が落ちたような晴れやかな顔になり、力強く立ち上がった。

 

「……喜んで。蹴鞠で鍛えた足腰と、バンチョウ殿から教わったピッチャー術、存分にお見せしましょう! 夜露死苦!」

 

 ***

 

 かくして相国寺の美しい庭園が、急遽グラウンドへと変貌した。

 隅では公家たちが袖で口元を隠し、「また織田の野蛮な神事が始まったぞ……」と顔を見合わせながらヒソヒソ言ってると、もう一人公家の人がコホンと咳をした。

 

「信長様のやり方に反対なら、朝廷から去りなされ。あの方のおかげで我らが飯を食えてるのを忘れんように」

 

 従一位というとてつもなく偉い人、近衛前久様だ。

 他の公家の皆さん大人しくなったよ。

 サンキュー、前久様。

 

 氏真さんがマウンド代わりの築山に立つ。

 信長様がバッターボックスに入り、私がキャッチャーとしてミットを構える。

 

「行くぞ、信長様! 真昼殿! 夜露死苦!」

 

 氏真さんが投球モーションに入る。

 それは蹴鞠の優雅な足上げを取り入れた、とんでもなくタメの長い「超・二段モーション」だった!

 高く上がった足が静止し、そこからバンチョウ直伝の、落差の激しいスローカーブがふわりと放たれる!

 

「わっ、すごい落差! でも……」

 

「甘い!」

 

 ――カキィィィィィン!

 

 結果は言わずもがな。

 信長様の容赦ないフルスイングが、氏真さんの球を相国寺の空高く、彼方へと弾き返した。特大ホームランだ。

 

 打たれた氏真さんはマウンドに膝をついたが、表情には後悔も憎悪もなく、全力を出し切った清々しい笑顔が浮かんでいた。

 

「……見事な一撃です。僕の負けだ。夜露死苦!」

 

 信長様もバットを下ろし、「悪くない球だったぞ」と満足げに笑いかけた。

 

 私はミットを下ろし、その光景を眩しそうに見つめた。

 親の仇と、全てを失った息子。

 復讐や陰謀、裏切りが渦巻くこの戦国の世だけど……こうしてグラウンドで白球を交わし、過去の因縁を爽やかな汗と共に洗い流せるのなら。

 それもまた、野球がもたらした戦国の世の新しい一面なのかもしれない。

 

「よしっ、いい運動したし!」

 

 私は泥を払いながら、空に向かってガッツポーズを決めた。

 

「これからみんなで京で食べ歩きツアーしない? いいお店をみんなで見つけましょう!」

 

 私の元気な宣言に信長様も氏真さんも、そして英霊ボールたちも笑って顔を見合わせた。

 その笑い声は相国寺の庭に明るく響き渡り、やがて静かな秋空に溶けていった。

 

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