なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第150話 長谷川真昼、代走のホームタッチアウトに涙する

 武藤喜兵衛に捕らえられた奥平家臣・鳥居強右衛門は武田の本陣へと引きずり出された。

 強右衛門の姿を見下ろし、勝頼は命じる。

 

「拷問して全て吐かせよ」

 

 強右衛門は縄に縛られたまま、鞭打ちの刑が執行される。

 

「ぎゃあああああ、痛い! 痛い!」

 

 ビシッ! ビシッ!

 容赦なく鞭が強右衛門の背中に直撃する。

 

「なら吐け! 吐けば楽になるぞ!」

「話します! 話しまするううう!」

 

 強右衛門は耐えきれず、悲鳴を上げながら自白した。

 

「信長め。何が3日守れ、だ」

 

 聞き終わった勝頼は忌々しげに吐き捨てた。

 

(長篠を落としていれば茶臼山で迎え撃てた。どうする? このまま長篠城包囲のまま織田と激突は避けたい。が……撤退すれば、東三河の失地回復が難しくなるな)

 

 ここは是が非でも信長到着前に長篠を落とし、明知城や高天神城の時のように敵の軍事目的を喪失させるしかない。

 最善の策は何か? 今すぐ長篠城を開城させる手段はあるか? 目の前にいる密偵を利用できないか?

 

 決意を固めた勝頼が強右衛門に告げていく。

 

「貴様を城門の前で磔にする。だが案ずるな。城に向かって『信長の援軍は来ない、俺たちは見捨てられた。降伏しろ』と伝えろ。そうすれば命を助け、武田の知行地を約束してやろう」

 

 強右衛門は涙だらけの顔を伏せ、しばらく沈黙した後、声を震わせ口を開く。

 

「……承知いたしました。言う通りにします」

 

「フン、所詮は足軽か。あっさりしたもんよ」

 

 武田兵の誰かの呟きに、勝頼は振り返り眼光鋭く睨みつけた。

 

「その所詮は足軽に、長篠城から脱出させたのは誰だ? 相手を侮る言葉は己に返ってくるのを忘れるな」

 

 勝頼の低く呟かれる言葉に、武田兵たちは静まり返った。

 そこへ勝頼の側近、武藤喜兵衛が確認のために訊ねる。

 

「御館様、あの足軽に知行を与えるので?」

 

「当たり前だ。俺は約束は守る。働き次第で、いくらでも知行を得られる武田と喧伝するためにな!」

 

『そうさ。王道は誰でもウエルカム。武田に来たいと思う者を拒んじゃいけないのさ』

 

 ワカダイショウの明るい声に、勝頼は頷いた。

 

「武田に降る者は皆平等に扱う! 喜兵衛、それに皆の者。それが武田勝頼のやり方なのを忘れるな!」

 

「……承知。場所はそれがしにお任せを」

 

「喜兵衛! 言いたいことがあるなら言え」

 

 控えの列に戻った喜兵衛に、勝頼は振り返らずに問うた。

 

「はっ。強右衛門という男、一芸に秀でております。此度の策が上手くいかなくても、処刑は下策かと」

 

「フッ。喜兵衛、知行地を己の所領にしようと考えているな? 抜け目のない男よ。まあよい、許す」

 

「ありがたき御言葉でございます。御館様」

 

 それからすぐ長篠城の門の前、矢の届くか届かないかの距離で強右衛門は十字の木に縛り付けられた。

 鞭打ちで噴出した血が、彼の腰布を黒く変色させている。

 気づいた奥平貞昌や城兵たちが集まるも、城壁の上から絶望の表情で見下ろすことしかできない。

 

「強右衛門が捕まった……」

「もう終わりだ……」

 

 城内が絶望の空気に包まれる中、勝頼が背後から強く命じる。

 

「さあ、言え! 約束通りにな!」

 

 すると強右衛門は顔をガバッと上げ、城壁の仲間たちに向けて満面の笑みを浮かべ、ただ叫んだ。

 

「みんな聞けぇぇぇぇ! 織田の援軍が、すぐそこまで来ているぞォォ!」

 

 それは魂の絶叫。強右衛門の命を乗せた音は、長篠城内全てに届いた。

 

「なっ……⁉」

 

 勝頼の顔から血の気が引く。

 なぜだ? なぜこいつは俺との約束を破る?

 俺を甘く見たか? 俺に降るなら、死んだほうがマシだと思ったのか?

 

「あと3日だ! あと3日だけ、城を死守しろ! 我らの勝利は確実だァァァ!」

 

 ふざけるな。俺の誘いを断った報い、約束通り受けてもらおう。

 

「貴様ァァ! 俺の誘いを無視するかァ! 殺せ! 今すぐ奴を黙らせろォォ!」

 

『勝頼!』

「御館様!」

 

 ワカダイショウと喜兵衛が叫ぶと同時に、勝頼はハッとして「待て!」と口にするが――

 

 ザシュッ! ザシュッ!

 

 すでに無数の槍が、強右衛門を容赦なく貫いていた。

 血を吐きながらも、強右衛門は最後まで城の仲間たちに笑顔を向けたまま、生涯を閉じた。

 

「……強右衛門ンンンンン!」

 

 奥平貞昌が血の涙を流して叫ぶ。

 彼の壮絶な自己犠牲を見た長篠城の兵たちは、絶望を怒りへと変えた。

 

「強右衛門の繋いだタスキ、絶対に無駄にはしねぇ!」

「武田の赤備えがなんぼのもんじゃ! 死んでも長篠は譲らねえぞ!」

「仇討ちじゃ! 我ら奥平の結束見せてくれるわ!」

「強右衛門をホームで刺したつもりか武田ァ! 違うぞ! 断じて違う。強右衛門はもう還ってきた。俺たちの胸に、還ってきたんじゃ!」

 

 強右衛門の死体を一瞥した勝頼の額に、一雫の汗が流れる。

 たった一言の命令が、この戦局を招いたことを痛感し。

 それでも死者は還らない。一度口に出してしまったことをなかったことにできない。

 ならば、挽回するのみ。

 

「落とせ、必ず落とせ! 3日だ! 3日の間に長篠城を何としても落とせ!」

 

 猛攻する武田軍だったが、強右衛門の死に長篠城内の士気は爆発し、狂気的なディフェンスが開始されたのだった。

 

 ***

 

「鳥居強右衛門殿、武田に捕縛され、長篠城前で処刑。……ただし織田の援軍が3日で到着すると叫び、城内の士気は強右衛門殿の死によって爆発。武田もまた、猛攻を強めているでござる」

 

 進軍中の織田軍本隊に、先行して偵察に出ていた滝川一益さんから、強右衛門さんの壮絶な最期が報告された。

 

「……嘘……」

 

 私の手から、強右衛門さんと再会したら渡そうと握っていた塩おにぎりが、ポロリとこぼれ落ちた。

 

「あんなに……あんなに一生懸命走ってたのに……!」

 

 目の奥が熱くなり、視界が滲む。

 

 私の隣で信長様もまた、怒りを静かに燃やしていた。

 センイチが、怒髪天を衝くような赤い光を放っている。

 

「……見事な犠牲だ、強右衛門。お前が命と引き換えに作ったこの好機、俺が確実に勝利に換えてやる」

 

 信長様が長篠の空へ、決意を込めて呟いた。

 

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