なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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【平安楽土の道険し、安土築城編】
第157話 長谷川真昼、再び越前に向かう


 長篠・設楽原での血みどろの決戦を終え、岐阜城へ帰還した私は泥だらけの身体をようやく洗い流し、自室のふかふかの布団に向かって感動のダイブをキメようとしていた。

 極度の緊張と疲労で、私のHPはとっくにマイナスに突入している。

 今日は寝る。誰が何と言おうと、3日は絶対に起きない!

 わ~い。お布団だ~。太陽の光たっぷり吸い込んだ私愛用のお布団だ~。

 お市ちゃんも茶々ちゃんたちも、信忠君に首根っこ掴まれ宴の準備させられてるし、私を邪魔する者は誰もいない!

 いざ行かん! 安眠の世界へ!

 おやすみなさい。ムニャムニャ……。

 

 ――バァァァァァンッ!

 

「びゃっ⁉」

 

 私が布団に触れるコンマ一秒前、部屋の襖が金属バットのフルスイングによって木っ端微塵に粉砕され、私の身体が宙に浮いたのだ!

 

「ちょっ⁉ 布団! 私の布団ンンンンンンンンン」

 

 大粒の涙を零す私に、私を捕まえた悪魔は当然のようにこう言ってきやがる。

 

「おい、真昼。軍議するぞ。標的は越前よ」

 

「はああああああああああ⁉ なんで今から! せめてひと月! いや、かなり妥協してあげる! 1週間! 1週間は岐阜でノンビリするからその後でにして!」 

 

 手足ジタバタさせながら懇願する私だけど、当然のように悪魔――信長様は真顔でこう言ってきやがるのだ。

 

「なに言ってやがる。越前のゴミ溜めに溜まった暴徒どもを一掃する好機が訪れたんだ。この機を逃したら、越前は草木一本生えない死の土地になるぞ」

 

「って、死の土地にするの信長様でしょ!」

 

 信長様……無言で邪悪な笑みを浮かべるの、やめて。

 超怖いから。

 

「んで? そうならないために、今から出陣するの? みんな武田と戦って疲れてるのにご苦労さま。まあ、私だけじゃないなら、まあしゃあないか」

 

 軍議の間に連れて行かれると、血走った目というより寝不足で充血してる権六おじさまたちが待っていた。

 みんな、私と同じ気持ちだね、これ。

 

『武田をコテンパンにしたからと気を抜くな! まだまだマジックも点灯してないんじゃぞ! 本拠地に帰ったからと、ミーティングサボって布団に一直線する奴は千本ノックの刑じゃ!』

 

 センイチめ。上座で偉そうにしおってからに。

 今度、酒に芥子混ぜてやる。

 

 信長様と私が座ると軍議スタートだったようで、まず、こいつだけいつもの通り涼しい顔してて、信長様の共犯確定っていう竹中半兵衛君が地図を広げ、越前の情勢についてのプレゼンを始めた。

 

「富田長繁の乱以降、本願寺は暴徒をまとめるため、新監督として下間頼照を、ヘッドコーチ格として加賀から七里頼周を派遣しました」

 

 半兵衛君は扇子の先で越前をトントンと叩く。

 

「ですが彼らのやったことと言えば、過酷な年貢の取り立てと強権的な恐怖支配。結果、地元門徒たちは本願寺首脳陣のやり方にブチギレ状態です。内ゲバが頻発し、統制はゼロ。……つまり、内部崩壊の真っ最中です」

 

 半兵衛君の説明が終わると、権六おじさまが発言していく。

 

「お館様! 越前のことならば、この権六めにお任せくだされ! 14万の一揆勢だろうが、正面から粉々に叩き潰してご覧に入れまする!」

 

「柴田殿、力押しだけでは無駄な犠牲が出ます。ここは調略が肝かと」

 

 権六おじさまの対面に座る丹羽長秀さんが冷静に釘を刺してくる。

 

「越前は一向宗の狂乱状態。……信長様、門徒でも現状の越前にうんざりしてる者が多いでしょう。織田家家臣にも門徒は多くいますが、今一度宗派差別をしないと宣言するべきかと」

 

「ああ、十兵衛。俺は誰が何を信じていようがどうでもいいさ。いくらでも約束してやる! 織田に逆らわん限り、他宗派の悪口言わん限り、宗教は自由よ」

 

 光秀さんの進言に、信長様はあっさりと宗教の自由を公認していく。

 こういうところは度量広いんだよなあ、信長様。

 だから坊さんもキリシタンも、関係なく織田家に近づいてくるんだよね。

 

「御意。これなら越前を調略で切り崩せるでしょう」

 

「全チーム同じオーナーな野球じゃつまらんだろ。それと同じよ。ま、他宗派を論破しようと、必死に考える坊主どもを見るのも楽しいしな」

 

 深々と頭を下げる光秀さんを見つつ、信長様は相変わらず身も蓋もないことを口に出す。

 

『信長の言う通りよ。アンチを虜にしてこそ優勝に価値がある。ファンしかいないチームなんざ気持ち悪いわ!』

 

 センイチ? 織田家は四方八方アンチばかりだよ?

 

「まずは調略で瓦解させるぞ。秀吉! 真昼!」

 

「はっ!」

「はいはい」

 

「今すぐ越前に行き、可能な限り調略してこい!」

 

 無茶振りすぎる! 可能な限りって範囲どこまで⁉

 なんて思ってる私の横で。

 

「真昼、半兵衛殿と十兵衛殿が調略可能リストを作成してくれている。すでに秀長が着手しているから気楽に任務に当たってくれ」

 

 さすが秀吉さん、マジ女神。

 ふう、気を楽にした任務かあ。

 毎回こんなんなら良かったのに。

 半兵衛君と光秀さんもサンキュー。

 調略可能リスト作成済みって、さすが仕事が早い。

 

「さてと、俺たちは出陣準備か」

 

 ん? 軍議が終わって又左さんが伸びしながら呟いてるけど、それってしばらく時間に余裕あるってことじゃ?

 

「真昼も秀吉も気をつけろよ。越前で織田の人間ってバレたら瞬く間に血祭りになるぜ」

 

「ああ、気をつけるさ」

 

 軽口で言ってくる又左さんに、秀吉さんも軽く流す。

 

 前言撤回。

 これって私、一番危険な任務に放り込まれたってことじゃん。

 

「ああ、休暇……休暇どこ?」

 

「さあ出立するぞ真昼。案ずるな。真昼と一緒なら心強い」

 

「秀吉さん? もしかして私、用心棒扱いされてね?」

 

 こうして私のささやかな、ふかふか布団で安眠の夢が一瞬にして消え去り、地獄絵図広がる敵地での過酷なミッションがスタートしたのであった。

 

 ***

 

 私は秀吉さんと共に、越前で不満を抱えている国衆や地元坊官たちの元へ向かう。

 

「農地荒れて井戸もグチャグチャ。生きてる人より遺体に白骨に人魂だらけ。いや、まあ、襲撃されまくると思ってたから、それよりはマシだけど、さ」

 

「真昼も随分と逞しくなったな。普通のおなごなら恐怖で震えるのに、な」

 

「いや、まあ。戦国来て長いから適応しただけだよ。秀吉さんだって、元お姫様の帰蝶様なのに顔色一つ変えないで凄いと思うよ」

 

「ふふっ。お互い様だったか」

 

「だね~。あ、人魂が合体してキングス○イムになろうとしてる」

 

 とりあえず金属バットで粉砕しとくか。

 

「ウキッ⁉」

 

 私と秀吉さんの会話に、合流した秀長がキョロキョロする。

 どうやら人魂が怖いらしいけど見えてないようだ。

 こいつ猿なのに、案外鈍いな。

 

「ウキー、ウキー」

 

「そんな怯えないで、秀長。大丈夫、人魂ぐらいは祓えるから」

 

 お母さんのパーティーメンバーに聖女様がいたからね。

 私もお姉ちゃんも、簡単なお祓いぐらいできるのだ。

 

「あっ、天空から一直線に秀長に向かう暗黒人魂が」

 

「ウキーーーーーー!」

 

 ビュン!

 秀吉さんが刀を一閃。

 おお~、暗黒人魂、霧散したよ。

 今の技、聖女様より凄いね。さすが秀吉さんで帰蝶様だよ。

 

「問題ない。秀長、それよりも堀江殿の許へ急ぐぞ」 

 

 秀長は青ざめながらも秀吉さんに背中を押され、自身が整えた完璧な接待の舞台へと向かう。

 まず最初のターゲットは越前の有力国衆・堀江景忠さんだ。

 

「堀江さん、ぶっちゃけ今の指導者、最悪でしょ?」

 

 私は愛想笑いを浮かべながら、現代のJKスマイルで語りかけた。

 

「現場の意見は無視するし、罰金ばっかりで給料も出ない! そんなところにいつまでしがみついてるんですか? 織田家に力を貸せば、所領は保証します!」

 

「し、しかし……我らは仏徒。信長は仏敵では……」

 

 堀江さんが躊躇していると、秀吉さんがスッと前に出て、彼の手を優しく握りしめた。

 男装していても隠しきれない、天女のような美貌と気品に加え、秀吉さんの話術が炸裂する。

 

「仏の教えとは民を苦しめることですか? 違いますよね。今の越前は一部の権力者が私腹を肥やすための地獄です。信長様は厳しいお方ですが、約束は必ず守ります。……争いばかりの今より、平和でルールのある織田家の方が、ずっとマシだと思いませんか?」

 

 秀吉さんの慈愛に満ちた微笑み、秀長が絶妙なタイミングで差し出す美味しいお茶、そして私の事実ベースによる営業トーク。

 この羽柴流・完璧な調略フォーメーションが見事に堀江さんの心にクリティカルヒットした。

 

「信長様は宗教の自由も認めます! 一向宗の教えを捨てるんじゃなく、命を拾う気持ちで来てください!」

 

 私も思いっきり本音をぶつけていく。

 

「……わかりました。下間や七里の横暴には、我らも限界でした。織田家にお味方いたしましょう!」

 

 よっしゃ、最初の調略大成功!

 

 こうして堀江景忠をはじめとして、越前の一揆側から雪崩を打つように寝返りが続出したのである。

 

 さすが私と秀吉さんだ。

 

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