なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第158話 長谷川真昼、越前を平定する

 越前一向一揆衆を内部から切り崩し工作する私と秀吉さん。

 半兵衛君と光秀さんが作成してくれた事前リストは完璧だったよ。

 越前国内の真言宗や天台宗信仰者、商人たち、越前がこんなふうになった元凶の桂田長俊や富田長繁の旧部下や息子たち、さらに古くから本願寺のお寺で有名な小黒西光寺も織田に寝返りを確約してきた。

 

「あれ? リストより多くなってない?」

 

「ああ、降将たちの繋がりを紐解けば、あの者が降るならこの者も降るだろう、と試したからな」

 

 ふと気づいて私が呟くと、秀吉さんはサラッと言ってきた。

 

「ウキッキッキ」

 

 秀長もしたり顔で自分の手柄を主張してやがる。

 

「ま、多ければ多いほど戦がすぐ終わるから助かるけど。でもあれだね。やっぱ絶対寝返らねえ! って人も多いね。勝てる見込みもないし、万が一勝ったとして越前が良くなるわけでもないのに」

 

「仕方あるまい。世の中、頑固な者は多い。現金な者同様に」

 

「うへえ、嫌な世の中だよ」

 

 だから信仰にすがって極楽浄土を夢見るんだろうけど、それはそれで本末転倒なのに。

 

 こうして私たちは急いで近江まで戻り、出陣準備完了している信長様たちと合流。

 

「調略の時間は終わりだ。以降は殲滅を主目的とし、調略に応じなかった者の降伏は認めん。及び応じたのに寝返らなかった者は許さん。行くぞ者共! プレイボールだ!」

 

 信長様の号令一下、権六おじさまを筆頭に織田主力軍が怒涛の進軍を開始していき、府中城、鳥羽城と一揆側の防衛線は文字通り瞬く間に崩壊した。

 今まで数は力とばかりに暴れまわっていた門徒たちも、寝返りと織田の統制された軍事行動の前に、為す術もなく敗れ去っていく。

 

 本願寺から派遣された下間頼照は、味方の陣が次々と織田の旗に染まっていくのを見て完全にパニックに陥ったようだ。

 

「な、なぜだ! なぜ門徒が仏敵・信長に寝返るのだ! 貴様ら、信仰心はないのか!」

 

 頼照は信じられぬと言いたそうに顔面蒼白で喚き散らすも、彼の周りに残っている兵はわずかしかいない。

 過酷な年貢の取り立てと、理不尽な命令の連発の報い。

 信教を盾にした強権支配は、いざという時の信頼関係を全く築けていなかったのだ。

 

「ええい! ここは一旦退くぞ! 海へ出ろ! 船で逃げるのだ!」

 

 頼照は少数の側近と共に、海路での逃亡を図ろうと港へ急いだ。

 けれどそこで彼を待っていたのは――港を埋め尽くし、鍬や鎌を握りしめた無数の地元門徒たちだった。

 

「お、お前たち! 道を開けい! 私は本願寺の……」

 

「うるせえええええ!」

 

 門徒の一人が、血走った目で怒鳴り返した。

 

「お前らのせいで越前はめちゃくちゃだ! 仏の教えだと言って俺たちから全てを奪い、最後は自分だけ逃げる気か!」

「責任取れ! ふざけんな!」

 

 怒り狂った群衆が、波のように頼照たちに襲いかかった。

 

「ひ、ひぃぃぃっ! やめろ! 私はお前たちの指導者だぞ!」

 

 頼照の悲鳴は、瞬く間に暴徒の怒号と暴力の渦に飲み込まれていく。

 味方だった門徒の手によって、頼照は無惨に討ち取られてしまった。

 

 その報告を信長様の本陣がある敦賀で聞いた私は、背筋が凍るのを感じていた。

 

「わーお……。監督解任どころか、暴徒化した門徒に物理的に消されるなんて……。戦国の炎上、怖すぎるでしょ……」

 

 ネットの炎上なんて可愛いレベルだ。物理的な炎上は、命に直結している。

 一番怖いのは怒り狂って手を下したのが根っからの悪人じゃなくて、元々はただの普通の門徒たちだったってことだ。

 信長様という巨大な恐怖よりも、身近な身内の裏切りに対する憎悪のほうが、人の心を狂わせるのかもしれない。

 

「逃げの一手を選ぶ奴の末路よ。本願寺もムカつくぐらい有望な奴はいるが、頼照程度に越前を任せたのが失敗だったな」

 

 信長様が淡々と呟くと、半兵衛君も総括してくる。

 

「越前は朝倉支配の時から一向一揆が多発しています。山崎吉家のような名将がいたからこそ統治可能であり、並大抵の者では制御不能でしょう」

 

「桂田の失敗を繰り返すわけにはいかんな。越前、厄介な国よ」

 

 この2人、もう戦後処理考えてやがるよ。

 

 ***

 

 もう一人の元凶である七里頼周は門徒の怒りをいち早く察知し、辛くも加賀方面へと逃亡することに成功していた。

 

「七里頼周様ですね。ささ、こちらへ」

 

 闇から現れ声をかけてきたのは、若いが聡明にして実直そうな男。

 

「あ、ありがたい。助かったぞ若いの。無事に逃げ延びたら莫大な恩賞与えてやるぞ」

 

「ありがたき御言葉。どうぞ我が手引きで石山までお送りします」

 

 そこで出会った本願寺の信者と名乗る男に保護され、頼周は男の庇護で無事に摂津国の石山本願寺へと逃げ帰った。

 

 石山に到着した彼は本堂の畳に平伏し、涙を流し、震える声で報告をしていく。

 

「も、申し上げます……。越前が……織田の手に落ちました……。民衆が反乱を起こし、頼照様も討ち死にを……。門徒ども、顕如様の教えを忘れ、あろうことか本願寺に弓を引いた始末。拙僧もあらゆる手を講じましたが力及ばず……」

 

 本堂の中は線香の匂いと、それを上回るほどのドス黒い殺気で満ちていた。

 正面の緑色の座布団には、巨大な英霊ボール『ツルオカ』が鎮座し、顕如と共に不気味なほどの沈黙を保っている。

 さらに顕如の腹心、武のトップである下間頼廉と彼が持つ英霊ボール『ポッポ』、智のトップである下間仲孝と彼が持つ英霊ボール『アキヒロ』が控えている。

 

「力及ばず、か」

 

 頼廉が真顔で口にすると、頼周はさらに涙をポタポタと流す。

 

「はい。門徒どもは頼照殿を我が身可愛さで殺し、罪をなすりつけたのです」

 

「ほう。我が身可愛さねぇ」

 

 顕如は呟き、頼周を連れてきた男を見る。

 

「越前崩壊は下間頼照と七里頼周の失政が原因。厳格なルールは統治に必要でしたが、過度な搾取が憎悪を助長させた結果でしょう」

 

 男の発言に、頼周は顔色を変えた。

 

「き、貴様! 俺を売る気か⁉」

 

『……喝だ』

 

 ポッポボールが、低く、地鳴りのような声を上げ、頼周の言葉を遮る。

 さらにポッポは真っ赤に発光し、本堂の天井が震えるほどの怒号を放った。

 

『喝だ、喝ゥゥゥゥ!』

 

 頼周が「ヒッ」と後退る。

 ポッポの怒りに呼応するように、ツルオカもまた絶対的な威圧感を持つ緑色の光を明滅させた。

 

『己の保身で門徒を泣かせ、チームを崩壊させるようなクソ野郎は、万死に値するわい! 門徒を道具としか思わん奴が、神聖なグラウンドの土を汚しやがって!』

 

 頼廉が冷酷な目で頼周を見下ろす。

 

「……仏の顔に泥を塗った大罪。そして何より、我ら本願寺の規律を乱した罪は重い。……七里頼周、生かしてはおけぬ」

 

「お、お待ちくだされ! 頼廉様! 私はまだ本願寺のために……!」

 

 頼周は命乞いをするが、頼廉は無慈悲に右手をスッと上げた。

 

 すると暗がりから屈強な僧兵たちが現れ、泣き叫ぶ頼周の両脇を抱えて本堂の奥へと引きずっていく。

 

「お待ちくだされぇ! どうか、どうか御慈悲をォォォォォォォォ!」

 

 やがて頼周の声は途絶えた。

 

『……信長め。調子に乗りおって。次はこちらの番じゃ』

 

 ツルオカの低い呟きが、石山本願寺の闇に溶けていく。

 顕如は再び、門徒ではない男に視線を向ける。

 

「真田喜兵衛と申したな。頼周を連れてきたこと、感謝する」

 

「いえ、同盟者として当然のことをしたまで」

 

「ありがたい。武田とは変わらぬ友誼を誓うと勝頼殿に伝えてくれ」

 

「御意。……もう一つ、お願いの儀がございます」

 

「……越中か」

 

「さすがは顕如殿。話が早くて助かります。越中を鎮めていただければ、武田・本願寺・北条・上杉の同盟は必中でございます」

 

「わかった。ただし条件がある。毛利も加える」

 

「武田に異存はございませぬ」

 

「怜悧な男よ。わざと俺に言わせたな?」

 

 顕如は苦笑するが、嫌な気分にならない。この真田喜兵衛という男、北条にいる朝比奈泰朝と同様、今後の対織田のキーマンになる予感がしたからだ。

 

「仲孝。喜兵衛殿と春日山に向かってくれ」

 

「ははっ! お任せあれ。越後の龍を説得して見せましょう」

 

 顕如の締めの言葉に、下間仲孝は頭を下げた。

 

 越前を平定し、一息ついたかに見えた織田家。

 けれど戦の火種は、さらに各地へと飛び火していくのだった。

 

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