なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第161話 長谷川真昼、岩村に進軍中

 長篠・設楽原の決戦で武田が壊滅的な打撃を受けたことにより、武田方に寝返っていた東美濃の岩村城は孤立していた。

 

「俺の命はどうでもいい。しかし、おつやだけは助けたい」

 

 織田信忠を総大将とする織田軍に包囲された岩村城主・秋山虎繁は覚悟を決めていた。

 けれど脳裏によぎるのは妻のおつや。彼女を道連れにするつもりはない。

 戦の責任を取るのは俺一人で十分だ。

 虎繁の英霊ボール「ウルフ」も、主と散る意思を固めている。

 

「信長は妹の市を赦している。ならば叔母のおつやも赦す可能性が高い」

 

『市とは状況が違う。信長は岩村城ごと織田を裏切ったおつやを許さんだろう』

 

「そう言うなウルフ。どうにか……何か策は……」

 

 城壁を掴む両手から血が滴り落ちる。

 武田の救援部隊は信忠軍の森長可や斎藤利治、河尻秀隆、竹中重矩によってことごとく葬られ、今や信忠は岩村城側から降伏の使者が来るのを待っている状況である。

 おつやの無事さえ確約できたら、今すぐにでも降伏したい。

 なのに風聞で伝わる情報は、信長は赦す気はないという一点しかない。

 虎繁の瞳に覚悟が宿る。愛する妻のためなら俺は何にだってなってやろう。

 

「ウルフよ。約束してくれないか」

 

『何をだ?』

 

「俺はこれから単身で信忠の許へ行く。ウルフはおつやを護ってくれ」

 

 ウルフは虎繁の顔をチラッと見て、説得は諦めた。

 

『わかった。貴様の最期の願い。俺が必ず守ろう』

 

 こうして虎繁は一縷の望みを持ち、信忠の本陣へと丸腰で赴いた。

 

 岩村城の周囲に何重とある柵と砦。

 両手を上げながら近づく男が敵将・秋山虎繁だと、信忠陣営はすぐに気づいた。

 

「うおおおお! 信忠様! 秋山虎繁とタイマンならそれがしにお任せをォォォォォ!」

 

 長可はバットを2本持っている。1本を虎繁に渡すつもりだろう。

 

「待て勝三(長可)、奴は決闘に来たんじゃない」

 

 信忠は立ち上がり、利治と重矩に指示していく。

 

「虎繁殿を礼をもって出迎えよ」

 

「承知。ですが虎繁は猛将、素手とはいえ、至近距離は危のうございます」

「勝三、若君様をお守りせよ」

 

「任されたでござる!」

 

 案内され、信忠のいる本陣に到着した虎繁が即座に平伏する。

 織田諸将たちは驚きつつも、警戒を緩めない。

 

「お願い申し上げます。我が命を持って、それ以外の岩村の民すべてをお許しくださいませ」

 

 全身から鬼気迫る虎繁の声に、信忠たちは悟る。

 この男は本気だと。

 

「了解した。ただし条件がある。そなたが命を散らす前に、英霊ボール『ウルフ』を無条件でこちらに譲渡せよ」

 

「ありがたき御言葉、感謝いたします。ですがウルフは妻を護る最期の我が希望。どうか、確約してくださいませ。おつやの命を奪わず、織田家で保護してくださることを!」

 

「……わかった。約束しよう。あと数刻後に父上と真昼様が来る。その時にウルフごとおつや殿を保護しよう」

 

 淀みなく告げる信忠に、虎繁は満足した。

 そうか、信長が来るのか。その前に、誠実で約束を必ず守ると評判高い信忠に会いに行く決断をした俺の選択は正しかった、と。

 

 降伏準備を進めるために城内に戻る虎繁の後ろ姿を見て、長可はガッカリしたようにため息をつく。

 

「秋山虎繁といえば武田で名うての猛将。そんな奴の最期なら、それがしが一騎討ちしたかったでござる」

 

「そう言うな勝三。自害を決意した男と真剣勝負もつまらんだろう」

 

「たしかにそうでござりまする! 信忠様! 次の戦場でも、もっと危険な場所にそれがしを放り込んでくだされ!」

 

 謎に闘志を燃やす長可を尻目に、利治がそっと信忠に耳打ちしていく。

 

「大丈夫ですか、若君。おつや様に関しては近衛前久様がさる公家の方へとご所望していること。この件が虎繁の耳に入れば……」

 

「織田が保護することに変わりはない。秀隆、重矩」

 

「「はっ」」

 

「2人は岩村に不穏な動きがないかを見張れ。このまま情報を遮断させ、虎繁自害に持っていくのだ」

 

「承知。しかし虎繁は、なにゆえこの時点で英霊ボールを譲渡しなかったのか。まだ策を残しているかもしれませぬ。若君様も油断なさらぬよう」

 

 秀隆が不審を口にすると、重矩が「いえ」と口を挟む。

 

「おつや殿が大事なだけでしょう。しかしこの情が吉と出るか、凶と出るか」

 

 重矩の言葉に信忠は頷き、もう一つ命令を付け足す。

 

「少しでも異変を察知したら、全軍岩村に突入せよ」 

 

 こうして信忠は、岩村城開城の時を待つ。

 

(情報は遮断している。だがおつやは織田の血が流れるおなご。何事も起こらず事が成就すればよいが……)

 

 胸中に、一抹の不安を抱えながら。

 

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