なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第164話 長谷川真昼、安土城建築に乗り出す

 秋山虎繁とおつやさんの心中事件、水野信元さんの自刃など、最近の織田家は重苦しくてドロドロとした空気が漂っていた。

 

 そんな淀んだ雰囲気を一掃するかのように、諸将を呼び寄せた信長様が空高く金属バットを突き上げて高らかに宣言する。

 

「皆の者、聞けい! これより琵琶湖の畔の安土山に、俺たちの新たなホームグラウンドを築く!」

 

 安土山? ホームグラウンド?

 まーた変なことを言い出したよ信長様。

 ほとんどの人、ぽかんとしてるんだけど?

 

「総監督は五郎左(長秀)! 現場監督は又右衛門! 階層は五層七重にし、内部は吹き抜けの大空間。町は誰もが自由に商売できる楽市楽座を併設した、天下のメガスタジアムだ! これより早速建設を開始する! 者共、安土山に向かえ!」

 

 信長様気合の入った号令に、集まった将兵たちが「おおおっ!」とどよめく。

 てか、今日これからかよ。

 

「安土山の由来は平安楽土。我々が目指す世を由来としている意味も理解するように」

 

 半兵衛君の解説に、みんなゴクリと唾を飲む。

 失敗したりトラブル起きたら平安楽土が来ないって脅しでしょ、それ?

 変な緊張感が漂ってきたんだけど。

 

 にしても、又右衛門さんを密談に加えてるからなんかするのはわかってたけど、要は引っ越しかあ。

 しかも一からの町作り込みって、相変わらず信長様はシムシティ脳だよ。

 何はともあれ、私たち集まった織田家一行は全員安土山へと向かったのだった。

 

 ***

 

 こちらはドカン、ガシャン、パリンといたるところで大音量が響く工事現場。

 織田兵だけじゃなく、雇われ人夫も含めて10数万人が働いてるという、まさに国家プロジェクトだ。

 大まかに城作り、町作り、スタジアム作り、蛇石運びの4つのチームに分かれて物凄い勢いで建設が進む。

 私が今いるのは町作りチームだ。 

 ほえ~。清須や小牧山、岐阜の時より規模でかすぎ。その分、甘味屋さんも沢山できそう。

 これは完成が楽しみになってきたぞ~。

 ……てか、蛇石チームってなんだよ。

 

 噂を聞いて、見物人もいっぱい集まってる。 

 ルイス・フロイスさんも京から駆けつけ、羽ペンを走らせながら十字を切っているのが見えた。

 

「Oh、信長様ノ頭ノ中、ドウナッテイルノデスカ。コレハ完全ニ、クレイジーナ、バベルノ塔デスネ……アーメン」

 

 さらに近衛前久様までやって来て、呆れたように上を見上げている。

 

「いやはや、興味があって来てみれば、こりゃまた派手なことしよる。信長はんは発想が我ら凡人と違いますなあ」

 

 この人、この前岩村まで足を運んでおつやさんの死にしょげて帰ってたけど、こんな工事現場まで来るなんて暇なのかな?

 

「やれやれ、信長様の願いを叶えるのは大変ですが、やりがいありますね。安土城を見れば、誰もが天下泰平と思うようにしてみせましょう」

 

 現場では総監督の長秀さんが図面を見ながら汗を垂らしてて、岡部又右衛門さんも怒号飛ばして各地の指示を飛ばしてる。

 

「馬鹿者! 基礎の石垣はスタジアムのマウンドと同じじゃ! 一寸の狂いが選手のパフォーマンス、ひいては城の命を縮める! やり直せい!」

 

「ひぃぃ! も、申し訳ありませぬ、棟梁!」

 

 又右衛門さんは長尺の定規で図面を叩きながら、職人たちを容赦なくしごいている。

 

 うわぁ、気合入りすぎでしょ。

 てかリテイクしてくんのかよ。これは手抜きなんかしたら怒号だけじゃなくて定規で斬り掛かってきそう。

 

「アホンダラァ! バットでドタマかち割るぞ!」

 

 あっ、定規どころじゃない。金属バットだ。金属バット持ってやがる。

 ヤバい。あのバット、信長様の魂入りかも。所持した人の人格乗っ取ってたりして。

 

「真昼様! 手が空いているなら第三ブロックの杭打ちを頼みます! 貴女のスイングスピードなら、計算上、職人20人分の工期を短縮できます!」

 

「あ、口調は又右衛門さんのままだ」

 

「口ではなく、手を動かしなされ!」

 

 いかん。あれは素だ。又右衛門さん、ビッグプロジェクトを任されて気合入りすぎて人相変わっちゃってるよ。

 もう、しょうがないから私も本気でやりますか。

 

「よいしょーっ! そりゃーっ!」

 

 ガゴォォォン!

 

 私も金属バットをハンマー代わりにして、巨大な木の杭をどんどん地面に打ち込んでいく。

 

「ふあー……重労働すぎる! でも、これができたら平安楽土が訪れるんだー!」

 

 いや、わかってるよ? そんな簡単な話じゃないって。

 でも長秀さんの言う通り、安土城見た誰もが平和な世の到来だと思ってくれたら素敵だよね。

 

「素晴らしい。真昼様の打撃エネルギーを杭打ちに転換する効率は、実に理にかなっています」

「ええ。通常の人夫の20人分に相当しますね」

「変数を修正しておきましょう」

 

 少し離れた安全圏から、堀久太郎君、蒲生鶴千代君、長岡熊千代君の近習トリオが、何やら板に数式を書き込みながら長秀さんと又右衛門さんにデータを渡している。

 

 君たち? か弱い乙女が肉体労働で、男が頭脳担当に心傷まないのかね?

 てか、いつものことだけど、信長様も上半身裸でスタジアムチームで怒声飛ばしてるの聞こえてくる。

 信長様は城作りチームにいるべきじゃないのかな?

 

 そんなドタバタな建設現場に、突如として又右衛門さんじゃない怒号が響き渡った。

 

「十兵衛! 貴様、どこに隠れておる! 出てこんかい!」

 

 顔を真っ赤にして怒鳴り込んできたのは、西美濃三人衆の重鎮にして頑固一徹の代名詞、稲葉良通さんだ。

 最近みんなから一徹すぎると言われまくってるからって、稲葉一鉄に改名までした頑固すぎるおっさんである。

 

「何? どったの?」

 

 私だけじゃなく、他の人夫たちも一鉄さんの声のでかさに作業を中断してキョトンとしていく。

 

 同じく西美濃三人衆の安藤守就さんが「まあまあ稲葉殿、落ち着かれよ。めでたい建築に揉め事を持ち込んでは信長様の不興を買いますぞ」と宥めているが、一鉄さんは顔を真っ赤にして怒鳴り返すのだった。

 

「落ち着いておれるか! 十兵衛、この付近担当だとは調べはついておるぞ! 貴様、勝手に儂の家臣の斎藤利三を引き抜きおって! 武士の筋を通さんかい!」

 

 あー、あれね。

 斎藤利三さんって元は稲葉家の家臣だったんだけど、一鉄さんのガンコすぎる采配や待遇に不満を持ち、光秀さんの元へ出奔してしまったのだ。

 普段京にいる光秀さんに、直接文句言う絶好の機会と思ってそう。

 

 そんな怒り狂う一鉄さんの前に、騒ぎを聞いて光秀さんが駆けつけてきた。

 

「稲葉殿、お言葉ですが不当な引き抜きではありません。利三は私を慕って我が陣営にやって来たのです。彼は我が明智家の要となる男。彼自身の意志による移籍であり、何ら筋に反することはしておりませぬ」

 

 光秀さんの理詰めの反論に、一鉄さんの額に青筋が浮かぶ。

 

「屁理屈を抜かすな! 儂が手塩にかけて育てた部下を、銭と甘い言葉で強奪しおって!」

 

 うーわ、こわっ。一鉄さんの迫力に、他の人たちも固まっちゃったし。

 

 この一触即発の最悪の空気に、半兵衛君と重矩君が仲裁するべく駆けつけてくれた。

 守就さんの親戚でもある2人は、一鉄さんが守就さんの忠告を聞かなかったことと、安土築城に揉め事するなと釘を差していたのに、この騒ぎを起こされたことで険しい表情だ。

 

「稲葉殿、諦められよ。利三殿の知略と武勇は、光秀殿の下で最高のパフォーマンスを発揮しています。同じ美濃衆として受け入れなさい」

 

「兄上、言い過ぎです。稲葉殿は我ら美濃の名家。敬わなくてはなりません。……ですが選手の適性を見抜けず、力を腐らせていた元監督の責任です。逃げられて当然かと」

 

 ん?

 

「稲葉殿。光秀殿は京の治安、丹波攻略と大仕事をしているのです。ならば人材協力するのも、同じ美濃衆としての役割。ここは受け入れることで、稲葉殿の格が上がると認識しなさい」

 

「信長様にも直接怒鳴り散らしてくるのは、同じ美濃衆として迷惑しています。信長様は稲葉殿を信頼していますが、さすがに『しつこい!』と内心怒ってます。我らが稲葉殿に振り回されているのも認識してくだされ」

 

 ちょっとちょっと、半兵衛君と重矩君、ガチギレしてんじゃん!

 これ仲裁じゃない、トドメ刺しに来ただけだ!

 

 光秀さんを擁護する竹中兄弟に、一鉄さんの怒りゲージが見る見る貯まっていく。

 もうちょっとで血管切れて成仏しそうなんだけど?

 

 まあ、竹中兄弟の気持ちもわかるけどさあ。

 安土建築のお祝いムードの場で、美濃衆問題持ち込まれて。

 

「キサマらあああ! 言わせておけばアアアアア! 美濃衆出世頭だからと調子に乗りおって! 家柄の前に年上で敬わんか! 我ら同じ美濃衆だからこそ、義理が必要だろうが!」

 

 しょうがないなあ、ここは私が間に入るか。

 半兵衛君も重矩君も、美濃衆とかの括り苦手っぽいし。

 元々斎藤道三側の竹中家と明智家、一度義龍側になった稲葉家という軋轢、普段は誰も何も言わないけどこういう時に表面化しちゃうんだよね。

 半兵衛君本人も自覚してるから、美濃人間関係問題は利治君に任せっきりで、今までしゃしゃり出てなかったんだけど。

 

 全く、みんな平安楽土の意味を知らなすぎでしょ。

 

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