なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第165話 長谷川真昼、美濃衆の争いを仲裁する

 安土山新本拠地建設プロジェクト。

 この天下泰平イベントの空気を一変させる、稲葉一鉄さんブチギレ問題を解決するべく、私は一鉄さんの前へと立った。

 

「まあまあ一鉄さん、落ち着いて。この件は利治君も秀吉さんも、頭を悩めているんですから」

 

「ですが真昼殿。利治様も秀吉様も、儂が仲裁してくれと頼むと酒を奢ってくれるのみで、何もしてくれませぬ」

 

 そりゃあねえ。酔い潰すまで、一鉄さんの怒鳴り声は収まらないって話で、利治君、最近げっそりしてきてるし。

 一鉄さんの娘さんが利治君のお母さんていう、つまり祖父と孫って関係なんだけど、道三の息子でもある利治君のほうが家格が上。

 しかも利治君は信忠君の副官的立場だから、身分も上。

 それでも孫なのは変わらないし、利治君も苦しい立場なんだよね。

 秀吉さんの正体も帰蝶様。一鉄さんも知ってるっぽいけど、その点はおくびにも出さない。

 まあ、信長様の元奥さんだし、利治君と違って遠慮なく言ってるわけじゃないし、秀吉さんもいなすの上手いから酒代ぐらいのダメージないみたいだけど。

 

 何はともあれ、説得ミッション開始!

 

「光秀さんは、利三さんを破格の条件で雇ったそうですよ? なら、怒鳴るだけじゃなく、条件返しすればいいんじゃないんですか?」

 

 私が提案すると、一鉄さんは「ふむっ」と腕を組んで考え、光秀さんの前に立った。

 

「ならば儂は利三に所領の半分をくれてやる! それで文句あるまい。十兵衛、貴殿は如何に?」

 

「私はマネーゲームをするつもりはありません。利三の意思に任せます」

 

「十兵衛! 貴様は昔っからずっと、涼しい顔しかしないのがムカつくんじゃ! 男ならもっと魂からの言葉を吐かんかい!」

 

 あらら、駄目か。

 もう、光秀さんも大人な対応なのはカッコいいと思うけど、一鉄さんみたいなタイプって感情ないとわかってくれないのに。

 こうなったら奥の手。私のお小遣いでお酒買ってきて、一鉄さんの口に無理矢理注ぎ込んでやるか。

 なんて事を考えていたら……。

 

 バキィィィッ! ドゴゴゴゴゴ!

 

 私たちの頭上、安土山の急斜面で作業していた蛇石チームの責任者・津田七兵衛さんの部隊から、凄まじい破断音と地鳴りが響いた。

 

「あっ! 綱が切れたぞぉぉぉ!」

「逃げろ! 蛇石が落ちるぅぅぅ!」

 

 人夫たちの悲鳴に見上げると、安土城の目玉となるはずだった100トン級の石が、千切れた綱を引きずりながら猛スピードで斜面を転がり落ちてきたのだ!

 

 は? これ、ヤバくね?

 直下の軌道上に、怒りで周りが見えていない稲葉一鉄さんに私に光秀さんいるんだけど?

 

「てめえら! ボサッとしてねえでなんとかしやがれ!」

 

 誰よりも早く反応したのは岡部又右衛門さんだ。

 さらに大声で怒鳴ってくる。

 

「落ちてくる蛇石の左斜め45度、重心の真下を叩け! それで軌道が逸れる!」

 

「それ人の仕事じゃなくね!」

 

 いや、蛇石の落ちる場所をずらせば人死でないってわかるよ?

 でも100トンの石を人間がずらせるか!

 けれどやるしかない。私の金属バットのフルスイングでやってやる!

 

 気合を入れる私の前に、2つの白球が現れた。

 スタジアムチームにいたセンイチとモリミチだ。

 

『アホンダラ! チームの垣根を越えろ! 全員でカバーに入れぇぇぇ!』

 

 センイチが燃えるような闘志の波動を放ち、周囲の空気を震わせる。

 

『鉄壁の守備シフトじゃ! 予測地点へ走れ!』

 

 モリミチが精密な計算に基づいた青い光の残像を描き、指示を飛ばす。

 

 2つの英霊ボールの波動を受け取った私、光秀さん、一鉄さん、竹中兄弟に近習トリオが鉄壁の闘志の加護を受け、又右衛門さんの指示通りのポイントへフルスイングする。

 

「「よいしょ! とりゃああああ!」」

 

 ガギィィィンッ! ドスッ!

 

 私たちの渾身の衝撃で蛇石はわずかに軌道を変え、建設中の柱や人夫たちの群れを避け、誰もいない斜面の途中の窪みへとドシン! と重い音を立てて収まったのだった。

 

 でも——

 

「うおっ!」

 

 蛇石の欠片、それでも10数キロありそうな塊が一鉄さんに落ちてくるのをみんな蛇石本体に夢中で気づいてなかった。

 

「稲葉様ッ!」

 

 誰かが凄まじい脚力で地面を蹴り、弾丸のような速度で飛び出した。

 その人が一鉄さんを思い切り突き飛ばした直後、ゴトンと、蛇石の欠片が落ちたのだった。

 

「……ゲホッ、ゲホッ。無事ですか、稲葉様」

 

 突き飛ばした人が、一鉄さんを庇うように起き上がる。

 一鉄さんは地面に尻餅をついたまま、呆然としていた。

 

「利三……」

 

 おお! 一鉄さんと光秀さんの争いの原因その人じゃん! 

 一鉄さんは自分を命がけで救ったのが、利三だったことに気づき、言葉を失っている。

 

 利三さんは立ち上がると、一鉄さんの前で深く土下座をした。

 

「稲葉様……。貴方様に育てていただいたご恩、決して忘れてはおりませぬ」

 

 利三さんの声は震えていたが、眼差しに覚悟が宿ってる。

 

「ですが……今のそれがしが全力を尽くすは、光秀様の下にしかありませぬ。どうか光秀様の下で働くことをお許しくだされ!」

 

 光秀さんもまた、利三さんの横に歩み寄り肩にそっと手を置いて頭を下げた。

 

「稲葉殿。利三は私が責任を持って、天下の舞台で輝かせてみせます。どうか、お頼み申す。利三をくだされ」

 

 そんな2人を一鉄さんはじっと見つめ、「ちっ」と舌打ちした。

 分かりやすいかも。ここは私が言葉にしてあげなくっちゃ。

 

「一鉄さん、私、思うんです」

 

「……」

 

「利三さんは一鉄さんから貰った恩を捨てたんじゃない。一鉄さんが育てたから、光秀さんのところでも輝けるんだって」

 

 働き場所って難しいよね。どんなに上司に必要とされても、その職場が担当する職務が肌に合わないってのもあるし、人間関係とか含めると理想の環境ってそうそうないと思うよ。

 

「私のお父さんも子供の頃、主戦場じゃない後方任務の時はやる気でなくって、モチベ保つの苦労したって言ってましたし」

 

 すると一鉄さんは立ち上がり、泥をパンパンと払い落とす。

 

「儂の仕事より、十兵衛のところの仕事が魅力的ということか……」

 

「はい。京の守護、丹波攻略。それがしは今、光秀様の下でやりがいを感じているのです」

 

 利三さんの回答に、一鉄さんは大きく息を吸い込んだ。

 

「……フン。勝手にしろ! 今日は勘弁してやる!」

 

 そう言って、一鉄さんは顔を真っ赤にしながらそっぽを向き、ズンズンと大股で立ち去っていった。

 残された利三さんと光秀さんは、顔を見合わせて深く安堵の息を吐く。

 

「ふう。さすが私。上手くいったね」

 

 これは臨時報酬ものでしょ?

 光秀さんに、半兵衛君、重矩君から何か奢って貰わなければ!

 

「ね、ね! 半兵衛君たち! このお礼欲しいなあ。饅頭10年分でいいよ!」

 

 朗らかに言う私に、真面目に礼を言おうとしてくる光秀さんを制し、半兵衛君が口を開く。

 

「礼なら稲葉殿がしてくるでしょう。とびっきりの極上の品が届くと思いますよ?」

 

 重矩君も口を開く。

 

「光秀殿のところにも届くでしょう。稲葉殿は頑固ですが、義理人情を大事にする御仁ですから」

 

「皆様、かたじけない」

 

 頭を下げる光秀さんだけど、竹中兄弟はそれをも遮る。

 

「我々への礼は職務で返すように」

「ええ、これで稲葉殿の怒声が少なくなれば、我らはありがたい。ただそれだけです」

 

 なんかカッコつけてるけど、半兵衛君も重矩君も毒吐きまくっただけのような?

 まあいいや。それよりも一鉄さんからのお礼の品楽しみだ~。

 

 ***

 

 後日、私は困惑した。

 

「フゴッ! フゴッ! フゴッ!」

 

 なんと生きたイノシシが送られてきたのだ。

 

「こっちは酒樽。私、飲めないんだけど?」

 

 ちなみに光秀さんのところも同じだったそうな。

 

 しょうがないから、酒樽はセンイチとモリミチにプレゼントしたよ。

 蛇石騒動のMVPだしね。

 イノシシのほう? それは、まあ、うん。内緒だ。

 

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