なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第166話 長谷川真昼、蛇石から英霊ボールを回収する

 蛇石落石事件を解決し、稲葉一鉄さんも斎藤利三さん引き抜き問題を一旦引っ込め、これにて一件落着!

 って言いたかったけど、安土城の要石にする目玉だった蛇石を落としちゃった問題が、とんでもなく重い空気を工事現場に作っていた。

 

「おい、洒落にならねえぞ」

「怪力……もとい真昼様がいたから人死でなかったが、一歩間違えれば大惨事じゃねえか」

「蛇石チームの責任者、切腹もんだろこれ」

 

 人夫たちも顔を青ざめ、事件現場に来る信長様を見つめていく。

 当然ながら怒ってるね。せっかく俺が祭りを開催したのに、工事中止になりかねない事故起こしやがって、って顔してる。

 上半身裸で金属バット持ってるのが、鬼が来た感マシマシだよ。

 そのうち角が生えそう。

 

「フフフ、この緊張感たまりまへんなあ」

 

 近衛前久様? なんで嬉しそうなのかな?

 

「も、申し訳ございませぬ!」

 

 やって来た信長様に、蛇石チームの責任者の津田七兵衛さんが青ざめた顔で地面に額を擦りつけて震えていく。

 

 彼の父親は信長様の実弟の信勝。

 信勝は信長様に逆らって処断されたけど、彼は尾張の名家・津田家に養子に出されるだけで済んだ人だ。

 そんな血筋でのこの失態。

 これはもう、津田七兵衛は切腹だなって空気が漂ってる。

 

「この伝統ある名石を落としてしまうとは……! 我が腹を切ってお詫びしまする!」

 

 七兵衛さんの悲痛な声を、信長様は窪みに収まった巨石を冷ややかな目で見下ろしながら、呆れたように鼻で笑った。

 

「どうでもいい。貴様の腹なんぞ見たくもないわ。めでたい祭りを汚すな」

 

 まさかの信長様の発言に、工事現場がどよめく。

 

「なんや、つまらん」

 

 前久様? 露骨にがっかりしないで。

 

「……はっ。すみませぬ! では今すぐ蛇石を引き揚げ、作業を続けまする!」

 

「いや、それもよい」

 

「は?」

 

「伝統だか迷信だか知らんが、ただの石っころ一つにこれ以上の時間をかけるのは効率が悪い」

 

 えっ?

 

 信長様の言葉に、七兵衛さんだけでなく、私たちも息を呑む。

 

「細かく砕いて運べば、石垣の裏込めにちょうどいいだろ。……真昼、勝三(長可)を使って砕け!」

 

 信長様が、私と血の臭いを感じて駆けつけてきた勝三君に命じてくる。

 

「えっと、砕いちゃうの⁉ この蛇石って安土城の目玉って聞いたけど⁉」

 

「おう。一般の民にも見料徴収して稼ごうと思ってたが、また綱が切れる方がうぜえわ」

 

「金儲け考えてたんかい」

 

 これ絶対、センイチの入知恵だろ。

 私がセンイチに目を向けると、センイチとモリミチがサッと半兵衛君の後ろに隠れる。

 モリミチ、あんたもか。

 

「それに工期を遅らせるわけにいかん! 全部石垣用にせよ!」

 

「ヒャッハー! 待ってましたァ! 石の悲鳴を聞かせてやるでござるゥゥ!」

 

「しょうがないなぁ。じゃあ行くよ、勝三! せーの!」

 

 ――ガゴォォォォォォンッ!

 

 私と勝三のダブルフルスイングが、見事に蛇石にクリーンヒット。

 

 凄まじい破壊音と共に、伝統ある名石は無惨にも粉々に粉砕され、ただの手頃な石材へと姿を変えたのだった。

 

「真昼はんは、やっぱり女の子ちゃいはりますわ」

 

 前久様? 聞こえてるからね?

 

「あの蛇石、霊石という噂だったのに」

「た、祟られるんじゃ?」

 

 ヤバい。これいつもの信長様のノリだけど、人夫たちが怯えてるよ。

 どうすんの、信長様?

 

 そう思ってると、又右衛門さんの怒声が響き渡る。

 

「バカヤロー! いつまで休んでるんだ! とっとと身体を動かしやがれ! 祟りだぁ? んなもんあるなら最初の犠牲者は現場監督の俺だ! てめえらが死ぬなら祟りじゃねえ! 俺の金属バットで、だ!」

 

 又右衛門さんの檄に、人夫たちが祟り忘れて一生懸命働き出す。

 うん、祟りも又右衛門さんの金属バットで退散しそう。

 

「Oh……日ノ本ノ伝統トハ、カクモ脆キモノナノデスネ。勉強二ナリマス……」

 

 フロイスさんも十字を切りながら、日ノ本は伝統軽視とインプットしている。

 一応あとで言っておくか、これは信長様たちがおかしいって。

 

 さあて、じゃあ私も作業続けますか。

 そう思ってると、元蛇石だった一箇所がクリムゾンレッドの光に包まれていく。

 

「え? 何⁉」

 

 ぽかんとする私の目の前に、光が収まって一つの白球が姿を現したのだ。

 

『あざっす。助かったっす。イシイって言うんだ。よろしくね~』

 

 ……なんか、脱力系の口調だな。

 

『イ、イシイ⁉ お前、なんで蛇石の中に!』

 

 センイチが驚愕の声を上げる中、モリミチも呆れたように明滅して解説してくれる。

 

『スワローズ、メジャー、ライオンズで活躍した球界屈指の変人よ。奴の言動に振り回された者は多い。多すぎる。特にイーグルスの者は。ヒライシとミキが可哀想じゃ』

 

 ポロポロと涙を流すモリミチ。

 よく知らんけど……やっぱり癖の強いボールなのね。

 

『しかしイシイよ。何で蛇石に混ざっとったんや?』

 

 センイチの問いに、英霊ボール『イシイ』はあっけらかんと答える。

 

『現役の頃、最多勝取りたいと白蛇様に祈ったことがあるからかな? アハハ、イシイのイシも兼ねてるのかも』

 

「……ダジャレ⁉ 国宝の石の中に引きこもってた理由が、ダジャレなの⁉」

 

 私がツッコミを入れると、イシイは『まあまあ』と光を揺らした。

 

『それよりさ、今の事故。僕は中にいたから、よく分かったよ。ロープ、自然に切れたんじゃないね』

 

 現場の空気が、ピタリと止まる。

 

『わざと切られてる。しかも一か所じゃない。荷重がかかった瞬間に切れるよう、何本か細工されてたんだ』

 

「ほう……誰を狙ったかわかるか?」

 

 信長様の声にイシイは淡い光を揺らし、ゆっくりと光秀さんの方を示した。

 

『君だね、十兵衛君にずっと照準合わせてたよ。近くにいる人を巻き添え上等にして』

 

「私を……?」

 

「ロープを切ったのはどなたですか?」

 

 半兵衛君が、扇子をパチンと閉じて鋭い視線で問いかける。

 

『人夫の数人が京の方へ逃げてったよ。足取りは慣れてる感じだった』

 

「七兵衛殿、配下の点呼を」

 

「は、ははあ!」

 

 半兵衛君の指示に、七兵衛さんは慌てて駆けていく。

 

「十兵衛。心当たりはあるか?」

 

 信長様の問いに光秀さんは少し沈黙し、それから深刻な表情で口を開いた。

 

「はっ。……実は最近、京で若い女性たちが次々と姿を消す事件が多発しております。私は見回り強化と、女性の夜間外出禁止令を出しました。加えて、堺から入る南蛮船の積荷検査も厳しくするよう命じております」

 

「南蛮船?」

 

 私が眉をひそめると、光秀さんは頷いた。

 

「京から堺へ流れる不審な人の動きがあるとの噂がございました。まだ証拠はありませんが、南蛮商人と結びついた人売りの疑いもあります」

 

「人身売買⁉ なにそれ!」

 

 女の子たちが訳の分からない連中に攫われて売られるなんて、そんなの戦国時代だからって許されていいわけがない!

 

 フロイスさんも不安げな顔で口を挟んでくる。

 

「南蛮ノ商人ノ中ニモ、神ノ教エニ背ク悪徳ノ者ハオリマス……。若キ娘タチガ海ヲ渡ッテ売ラレテイルトイウ噂、私モ耳ニシテオリマス。許シガタイ悪魔ノ所業デス……」

 

「こりゃおもろいことになりましたなあ。蛇石からイシイですか。フフフ」

 

 前久様? 笑いのツボに入ったのかも知んないけど、今はそれどころじゃないからね?

 

「……点呼で確認したところ、5名、おりませぬ。いずれも現地雇いの人夫でございました」

 

 七兵衛さんの報告に、場に緊張が走る。

 

「由々しき事態ですね。兄上、一度全人夫を確認すべきでしょう」

 

「ああ。頼む、重矩。僕も一緒にやろう」

 

「これは総監督の私の責任。久太郎、鶴千代、熊千代。我らも確認作業を」

 

 竹中兄弟や長秀さんたちが冷静に現場対応していく中、信長様は私の怒りを受け止めるように、フッと口角を上げた。

 

「よし、十兵衛。イシイと真昼とセンイチを伴い、即刻解決せよ。京の闇を、全て暴き出せ」

 

「はっ! 承知いたしました。京の秩序、必ずや取り戻してご覧に入れます」

 

 光秀さんが深く平伏した。

 

『え? 僕も? 普通に降伏して英霊ボール大戦離脱して眠りたいんだけど? メンドイし』

 

 この英霊ボール、緊張感もやる気も闘争心もないのかよ。

 でも信長様の言う通り、イシイは今回の件に必要不可欠なはず。

 

「犯人見てるんだから、協力して?」

 

『お嬢ちゃんに言われたら、断れないなあ』

 

 なんだ、チョロいな。

 

『相変わらずの男よ。漢らしくせんか! 事件は会議室で起きてるんじゃない! 現場で起きてるんじゃぞ!』

 

『熱血嫌~い』

 

『アホンダラ! 我ら英霊ボール、勝負してなんぼやろ!』

 

「センイチ、これ以上話をややこしくしないで、まずは光秀さんの件を解決するよ!」

 

 私の説得に、センイチは『フンッ!』と拗ねて私の懐に入っていく。

 全く、センイチはセンイチで喧嘩っ早いんだから。

 

 こうして私は安土山の建設現場から急遽、京の都へと向かうことになった。

 

 でも、このイシイって英霊ボール、ノリが軽すぎるけど頼りになるのかな?

 

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