なんで私⁉ 野球知識皆無のJKが戦国時代で野球を広め、信長の恋女房になってしまう件~   作:ハムえっぐ

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第167話 長谷川真昼、五右衛門と夜の京に挑む

 京の二条御所の一室に入ると、京の治安維持を担う京都代官・明智光秀さんと部下の斎藤利三さん、それと相変わらず目の下に濃いクマを作っている京都所司代の村井貞勝さんが集まっていた。

 

「おっちゃん、また厄介な仕事が増えたな」

 

 もう一人、京のクソガキ衆の頭目・五右衛門もいて発言してくる。

 

 彼は以前、三条河原で私に説教されて以来、村井さんの下で京の裏社会の情報収集役として働いているのだ。

 

「若い女の子が狙われてるんでしょ? なら私が歩き回って、敵を引きつけて一網打尽ってのは?」

 

 私が提案すると、光秀さんが冷静に諭してきた。

 

「真昼殿、力任せでは解決しません。敵は巧妙に証拠を隠滅し、闇に潜んでいます。緻密な捜査と情報収集が必要です」

 

「まずは行方不明になった女性たちの共通点から洗い出しましょう。名簿と目撃情報の整理を急がねばなりませんね」

 

 利三さんが山積みになった書類の束を素早く整理し始める。

 すると貞勝さんが深いため息をついてきた。

 

「現状、分かっているのは、たおやかな乙女が狙われてるということ。五右衛門の夜目すら欺くことから、かなり組織的な犯行かと思われます」

 

「だから、ほら。ここにたおやかな乙女がいるよ?」

 

 私は自分を指さすけど、センイチもイシイも混ざって『う~ん』と唸っていく。

 

「ちょっと、無視しないで? あっ、そっか。私を危険な役目にしたくないんだね。信長様や半兵衛君とえらい違いだよ」

 

 私がみんなの優しさにホロリとしていると、五右衛門が呆れたように呟いてくる。

 

「姉ちゃん、たおやかな乙女って、どこにおるんや?」

 

 ……五右衛門? 命が惜しくないのかね?

 あっ、貞勝さんの後ろに隠れやがった。 

 

「ともかく各町の問丸、町年寄、寺社、奉公口からの届けを洗い直しました。行方不明になった若い娘は、すでに80人を優に超えています」

 

「80人……」

 

 利三さんの調査報告に、私は五右衛門をしばくのも忘れて息を呑んだ。

 80人って、クラス二つ分できるじゃん。

 

「厄介なのは、最初から80人が同じ事件として扱われていなかったことです」

 

 貞勝さんは帳面の頁をめくる。

 

「ある者は奉公替え。ある者は駆け落ち。ある者は家出。ある者は親類の元へ移ったとされていました。戦乱の世です。若い娘一人が姿を消しても、事情があるのだろうと処理されてしまう」

 

「……だから、発覚が遅れたんだ」

 

「はい。ですが帳面を重ねると、奇妙な一致が見えました」

 

 貞勝さんが京の市街地図に朱線を引いた。

 

「失踪直前、娘たちの最後の足取りが、四条から五条にかけての一帯にある木戸筋へ偏っております」

 

「木戸……」

 

 光秀さんが地図の一点をトントンと叩く。

 

「京の町は夜四つには各町の木戸が閉ざされます。木戸番が開けねば通れない。80人もの人間を夜間に外へ連れ出すなど、物理的に不可能です」

 

 斎藤利三さんが悔しげに頷いた。

 

「光秀様、これは単なる人攫いではありません。安土での蛇石落下による光秀様への暗殺未遂……あれを実行した者どもが、この失踪事件と繋がっているとすれば事件はまだまだ起こるでしょう」

 

「しかし、木戸を強行突破した形跡はない」

 

 光秀さんの身体に力が入る。

 

「ならば可能性は二つ。木戸番に門を開けさせる顔を持つ者の犯行か、あるいは木戸を通らずとも抜けられる、我々の知らない抜け道が存在するかだ」

 

「抜け道なら、ワイの出番やな」

 

 五右衛門が笑いながら自分の胸を叩いていく。

 

 すると英霊ボール『イシイ』がふわりと浮かび上がった。

 

『野球でもさ、相手チームのサインを見破る時って、派手なミスより、きれいすぎる動きを見るんだよね。ちゃんとしたチームほど、ちょっとした癖がある。逆に癖がないのは作り物かも。アハハ』

 

「……記録が消えている場所ではなく、記録が綺麗すぎる場所を探せ、ということか」

 

『そうそう。十兵衛君、分かってるねえ』

 

 利三さんが即座に帳面を抱える。

 

「では、通行記録を全て洗い直します」

 

「はいは~い!」

 

 私は勢いよく手を挙げた。

 

「やっぱり私がたおやかな乙女として夜道を歩き回って、敵を引きつけて一網打尽するほうが早くないですか?」

 

 せっかく考えた私の自己犠牲バント精神作戦、無視されるの癪だからね。

 ここはアピールしなくっちゃ。

 でも部屋の空気が止まってセンイチもイシイも、貞勝さんも利三さんも五右衛門も、全員が微妙な顔をしてくる。

 

「……真昼殿」

 

 光秀さんが非常に言いにくそうに口を開く。

 

「真昼殿が歩いたら、敵が勘づいて姿をくらます恐れがあります」

 

「それってどういう意味⁉」

 

 ***

 

 結局、私は黒装束に身を包んで夜の京の屋根の上に立つ役目になっていた。

 一緒にいるのは京の裏道を知り尽くすクソガキ衆の頭目・五右衛門。

 さらに赤い闘志を放つセンイチと、淡く飄々とした光を放つイシイが側で浮遊している。

 

「なんで私がくノ一! 私だってたおやかな乙女なのに!」

 

 私の頬はパンパンに膨らんでるよ。

 

「囮捜査で捉えられて、真犯人が『グヘヘヘ』ってしてくるのを制圧するの夢だったのに!」

 

「姉ちゃん。それ拐かされる儚いヒロインの見る夢やないで、大体、歴戦の用心棒のオーラがダダ漏れや」

 

「そんなオーラ出てないもん。……まあ、子供の頃からクラスメイトの用心棒、よくやってたけどさ」

 

「姉ちゃん……クソガキ衆のワイらより修羅の世界にいたんやな」

 

 五右衛門が呆れたように言いながら、屋根から屋根へ軽々と跳んでいく。

 

 私たちは木戸番の死角となる塀や屋根を伝い、失踪者たちの足取りが集中している木戸筋を確認していた。

 

「この辺りや。木戸は夜になれば閉まる。けど、番小屋に顔見知りがおれば、話は別や」

 

「つまり、犯人は木戸を突破してない。木戸の中へ呼び込んだ?」

 

「それなら目撃者も少ない。娘が自分から歩いて行ったなら、誰も攫われたとは思わんわな」

 

 五右衛門の言葉に私は唇を噛んだ。

 力ずくじゃなく騙して歩かせた方が、ずっと嫌な気分になるよ。

 

「ともかく、第1容疑者をマークするで」

 

 私たちは、広大な敷地を持つ豪邸が見下ろせる屋根の上まで跳んでいく。

 ここは京の経済を牛耳る大物にして、信長様上洛の際にも深く関わった町衆・立入宗継さんの屋敷だ。

 

「80人も拐かして外部にバレない屋敷って、ここぐらいだね」

 

「せやな。大商人やし、人身売買ルートを持っててもおかしくあらへん。村井のおっちゃんらじゃ、証拠がなきゃ踏み込めん。なら、ワイらのような裏の人間の出番や」

 

「こら、五右衛門。私は裏稼業の人間じゃないぞ?」

 

 私はバットを構えつつ周囲を警戒する。

 

 でも屋敷を覗き見ても、怪しい牢人を囲っている様子も、拉致された女性が隠されている気配もない。

 

「……ハズレやな。ここじゃあらへん。空気が淀んでへんわ」

 

「いやいや五右衛門。せっかく来たんだし、全部くまなく探そうよ。それにシロだと思ったけどクロでしたもよくある展開じゃん」

 

 私はそう言うや、宗継さんが歩いてるのを見つけて音もなく飛び降りていく。

 背後で五右衛門が「忍びの意味あらへん。騒動になったら村井のおっちゃんたちの胃が死ぬで」って慌ててるけど、存外肝が小さいな。

 

「ひっ! く、曲者!」

 

 突然のJK忍者の出現に驚く宗継さん。

 あっ、覆面取って挨拶せねば。

 

「こんばんは、立入さん! ちょっとお話いいですか?」 

 

「……おや。これは真昼様ではありませぬか」

 

「良かった、大声出されたら峰打ちして拉致するか、って考えてたから」

 

「ハハハ……え? 拉致?」

 

「ちょっと姉ちゃん、お口にチャックや。立入様、ワイは村井貞勝様のところで働いている五右衛門いいます。京で多発してる行方不明事件で、内密にお聞きしたいことがあるんや」

 

 おお、五右衛門。刑事っぽい。

 こいつも成長したなあ。最初に出会った頃は泥棒だったのに。

 立入さんは呆れつつも、私たちを部屋へ招き入れてくれたのだった。

 さすが大物商人、話がわかる。

 

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